黒い歯車 下
土星宙域
第2防衛ライン守備艦隊
「やはり質量こそ正義と言っても過言ではないのではないかな?この質量の攻撃を受けて目標が耐えられるとは思えないからな。」
第7航宙艦隊旗艦エンタープライズの作戦指令室にて第7艦隊司令官ライアン・モスバーグ中将は航海艦橋からとある物体を眺めながらそう言った
彼の視線の先にあるのは金属小惑星に硬化剤を加えて極限まで硬度と質量を増した小惑星流用型重質量弾であった。小惑星にはブースターが1基に加えて無人の駆逐艦が4隻接続されている。
「これを大型クリスタルに激突させることで大型クリスタルを粉砕する。それで正しいな?技術士官。」
「プロメテウスによる高信頼度演算によれば直撃した場合には99%の確率で目標をコアごと破砕できる見込みです。これは、ホルス基地沖会戦ならびに第1防衛ラインでの戦闘記録を反映したものです。」
「目標の高威力の粒子加速砲の対策はどうする?」
「この弾体には戦艦級のシールドを3つ搭載しています、初撃は十分防げる筈です、この弾体は光速の50%程度まで加速させますから一撃を防げれば問題はないはずです。」
「アステロイドベルトまで辿り着かれれば我々は窮地に陥る、なんとしてでもここで防がねば。」
モスバーグ中将は宇宙に目を向けた、まだ見えないが確実にこちらへそれは近づいていた。
()
アストラル号 船外
「ゆっくりとな、ぶつけるんじゃないぞ?よし、そのまま。ドッキング確認。司令部、エネルギーバイパスの接続確認を。」
「エネルギーバイパスを通じてのエネルギー供給を確認、現在高エネルギー光子投射砲の完成度は75%です。」
「あとは射撃管制装置とそれの接続、砲の安定機構のドッキングだけだな、手早くやるぞ。」
ドストエフスキー大佐はヘリオスの組み立て作業を行う部隊の指揮をとっていた。ヴァルキリーによる組み立て作業は順調に進んでおりアストラル号下部に巨大な砲身とその関連機材が設置されつつあった。
「予定より30分早いな、いいペースだ。ベルナール少尉、周辺宙域の様子はどうだ?」
「は、はい!現在のところは異常はありません、接近する小惑星や塵、不明機も見当たりません。」
「よし、そのまま警戒を続けろ。」
筋がいいとはいえ新米も新米なクロエらには非常時のサポートも込みで宙域警戒に回している、ここで接敵することはまずないが出航してからは必要となる手順である、今のうちに経験を積ませておこうという意図がドストエフスキーにはあった。
その時通信機からエバンズが話しかけてきた
「大佐、砲身固定アンカーの3番が緩いです。確認していただきたい。」
「承知した、今確認する。」
ドストエフスキーは3番アンカーに近づく、確かに完全には固定されていなかった、アンカーを固定したのちその場を離れた。
「エバンズ、お前は今どこにいるんだ?」
ドストエフスキーは気になった、エバンズ機の反応はあるがいるべきところに機体が見当たらない。
「ヘリオスの中ですよ、機体を直接ヘリオスに接続しています。最悪の場合、砲身さえ固定されていれば射撃管制はこっちでもできます、まぁ…かなり私の腕にかかることになるのであくまで予備案ですが。」
「そうならんように準備は念入りにしなくてはな、まぁ、この準備も無駄になるのが1番なのだが…」
時間的にはそろそろエンケラドゥス艦隊が目標と接敵する頃であった。
()
アストラル号某所
「えぇ。少し厄介な人が出てきてしまいましたね…、ケイ・エバンズ。私達の聖なる務めの妨げとなるかもしれません、あの異端者もやるべきことは分かっているでしょうが所詮は異端者、安心するには懸念が多い。この船の人間があのメギドの火を手にすれば必ずや滅亡へと向かうでしょう。我々が止めてあげなくてはなりません。あとは分かりますね?アブラハム。」
「我が聖女の意のままに、我らタルスが必ずや。」
「期待していますよ忠実な信徒よ、あのメギドの火を消してしまいなさい。」
()
土星宙域
「先遣偵察艦クリーブランドが目標を補足!我が艦隊より4億キロの空間点、目標の速度変わらず。到達まで3時間40分!」
「来たな、全艦へ通達。戦闘用意!」
各艦艇が所定の位置へと移動する。
「重質量弾、発射!」
重質量弾体のメインブースターが起動し、イオンを噴き出しながら加速していく。少しして駆逐艦のエンジンも起動し弾体は目標速度まで近づいていく。
「重質量弾体、目標への直撃コースに入りました。衝突まで3680秒。」
「我々の勝ちだ。」
()
アストラル号船外
「よし、これで最後のパーツだな。司令部へ、こちらドストエフスキー、全工程を完了した、残りはそっちで頼むぞ。」
ドストエフスキーらは最後のパーツを接続しヘリオスを完成させた、予定より40分早い完成であった。
「はいはい〜、ドストエフスキー大佐ありがとね〜、あとはこっちで進めるから大佐達はなんかあった時のために待機しておいてね、よろしく〜。」
エルサはそう言いながら助手達と発射手順に入る
「エネルギーバイパス良し、光子収束機構も問題なし、システムエラーは起きてない?」
「問題ありません!」
「うんうん、素直で結構。エバンズ君、生きてる?」
「え?これって死ぬかもしれないほど危険なんです?」
「大丈夫だよ〜、エネルギー漏れさえしてなければね。生きてるっぽいから話続けるよ。そっちのシステムにエラーはない?」
「えぇ、何も問題ありません。このままシステム監視に努めます。」
「よろしく〜。さてさて、艦長様。こっちは準備できたよ?あとは、艦長様のお仕事かな。」
ドレイヤー艦長は通信機を取る
「アストラル号より静かの海へ、電力供給の開始を要請する。」
「こちら静かの海、了解。マイクロウェーブ送電を開始します。」
アストラル号のオペレーターが確認する
「確認しました、必要電力量到達まで1時間です。」
「これを撃つ時はもう我々に後がない、ミスがないように周到に確認しろ。」
()
地球、某所。
「行くぞ、我々の務めを果たす。」
山奥に隠されていた格納庫が口を開き、純白の機体が5機、その翼を広げて空へ飛び立った。
()
東京、霞ヶ関 国連軍極東空間防衛軍司令部内
司令部内ではアラートが鳴り響いており、オペレーターが忙しなく確認を取っていた。
「日本アルプスより所属不明機が離陸!現在、大気圏外へ向けて上昇中!」
結城は状況確認のために司令部へやってきた
「どういう状況か報告しなさい!」
「現在、所属不明のヴァルキリーが5機、日本アルプスの山中から離陸、大気圏外へ向けて上昇中です。現在、第1小隊と第13小隊がスクランブルしました。」
「必要とあらば武器の使用も許可するわ、とはいえ可能な限り目標の強制着陸に務めることよ、ただし身の危険が生じた場合は容赦なく撃墜しなさい。」
結城は内心恐れていた、この不明機がもしかしたらアストラル号をねらっているのではないかと
(でも、誰がそんなことを…、どんなメリットがあって?)
()
土星宙域
「重質量弾体、目標に着弾まで300秒、前進艦隊所定の位置への配置完了、攻撃用意よし!」
モスバーグ中将はその時を待った、目標は一向にして何かしてくる気配がない。
(クリスタルには一定の知能があるというのが研究報告だが、何故この速さで近づく物体を迎撃しようとしない?ましてや回避も取らないなど…)
モスバーグの考えのアンサーとも呼べるような行動を取り始めた
「目標の形状変化!縦に長い!」
クリスタルはガラス棒かと思うほどの細長い形状へその姿を変える
「重質量弾体、着弾まで5、4、3、弾着、今!」
凄まじい大きさの粉塵雲が発生し、クリスタルの姿を隠す
「畳みかけろ!攻撃可能艦艇は全艦砲撃!」
前衛艦隊が一斉に砲撃を開始する、後衛艦隊も前進し主砲の射程に捉え次第砲撃を開始する。無数の粒子加速砲のビームが粉塵雲の中に吸い込まれていく。
「本艦の大剣を振るうとしよう。荷電粒子砲発射用意!」
本来惑星基地やホルス基地といった大型宇宙ステーションにしか配備できないような代物である荷電粒子砲だが、超大国の権威を見せつける大型戦艦エンタープライズには荷電粒子砲が1門装備されている。
「荷電粒子砲発射シークエンスへ!エネルギー充填10、20、30…」
「目標への射線確保!」
「エネルギー充填完了次第発射せよ!」
その時粉塵雲から紫の光が放たれる、しかしそれはビームではなく壁のように艦隊を呑み込んだ
「前衛艦隊の8割との通信途絶!?」
「なに!?」
粉塵雲からクリスタルが姿を現す、半分ほどの長さになっているがコアまで届いていない、粒子加速砲が放たれ、残る前衛艦隊が消え去った。
「荷電粒子砲の発射まではどれくらいだ!?」
「発射準備完了まであと15秒!」
「よし、射線確保!」
その時クリスタルが急加速を始めた
「目標急加速!照準追いつきません!」
「Shit!!」
クリスタルは凄まじい速度で艦隊を抜いていった。モスバーグは素早く命じる
「後衛艦隊攻撃せよ!」
「無理です!目標が速すぎます!攻撃間に合いません!目標の速度は光速の13%!」
「Shit!アステロイド基地へ通達せよ、阻止作戦失敗!こちらに追撃する能力無しと!」
()
月軌道
「こ、これは?」
クロエの機体のレーダーには地球から上がってくる5機のヴァルキリーとそれを追いかける10機のヴァルキリーが映っていた。
「おいクロエ、迎撃するか?」
(迎撃…これは敵なの?でも近づいてくる予定の機体はないし…)
その時前方の5機を追いかけていた10機の反応が消えた。
「き、消えた?落とされたの?」
不気味な5機はこちらへ近づいてくる
「こちらはアストラル号守備隊、接近中の5機へ、所属と目的を明らかにせよ!繰り返す、こちらアストラル号守備隊…」
相手は反応しない、ひたすらこちらに向かってくる。
相手は5機、こちらはルイとレーナを含めた3機、数の面では不利であるし相手の実力が分からない以上は…
「退こう!アストラル号に連絡して増援を!相手に敵対の意思ありと認めます!牽制射撃しつつ距離を維持!」
「おいクロエ、逃げるのかよ?アストラル号に近づかれたらまずいだろ?」
「このまま戦ってもすぐやられる、相手は10機のヴァルキリーを瞬殺したかもしれない相手だよ、手に負えない。後退しつつ牽制して時間稼ぎをしよう。」
「クロエちゃんの言う通りだよ、フォンテーヌも部隊長の言うことをちゃんと聞く!そうと決まればやるよ!」
3機は40ミリ砲を撃ちながら後退を開始した、5機は躱しなながらも迫ってくる。
()
アストラル号 中央戦闘航法司令室
「地球からの通達より、接近中の所属不明機を敵と認定する、アストラル号守備隊は順次出撃しヘリオス並びに本艦の防衛にあたれ!」
レティシア中将は戦闘要員に戦闘配備命令を下していた、地球側より5機の所属不明機にスクランブル発進した10機が撃ち落とされたと報告が上がったのだ、今は哨戒中だった3機と会敵している。
「船外展開中のヴァルキリー隊はベルナール分隊の救出と援護にあたれ、出撃可能機は即座に発艦せよ!」
「レティシア中将、ヘリオスの直掩に5機を回せ、何が起こるか分からん、それ以外は貴官の指揮に任せる。」
「承知しました艦長、ローズ大尉、4機の部下を付けるヘリオスの直掩にあたれ。」
レティシアはダイアナに4機のヴァルキリーを付けてヘリオス、ひいてはケイの直掩に回した
その直後である、司令室にいても分かる揺れが発生した。
「なんだ!何が起こった!被害状況知らせ!」
オペレーター達が角データをチェックする
「空気漏れ確認できず!内殻への被害なし!」
「外殻に微小な損害を確認!底部です!」
「本艦とヘリオスの接続が途絶えました!」
「え!?ちょっ!エバンズ君!エバンズ君!?聞こえてる!?ねぇ!」
エルサは急いでケイと連絡を取ろうと試みる。
「直掩に確認させろ!急げ!ヘリオス本体の損害確認も同時に行え!」
レティシアは指示を飛ばす、ヘリオスが使用不能になったとしたら我々の手札が失われたこととなる。
「救助部隊を編成しろ!ケイ・エバンズの救出を急げ!」
ドライヤーは今にも裏返りそうな声で命じた、その顔には不安と恐怖がないまぜになった心情が映し出されていた。
その時彼の声が響いた
「こちらケイ・エバンズ!射撃管制装置使用不能!外部の状況把握は困難、司令部、情報の提供を!」
ドライヤーは安心して倒れそうだった、隣にいた宮越が支える。エルサはマイクを通して状況を伝えた
「こっちも把握に努めてるわ、射撃管制装置の使用不能は本当ね?なら、貴方が直接照準して撃つしかないわ、他に問題がなければだけれど。」
「なるほど、承知しました。こちらの方で直接照準射撃の準備を進めます。損害箇所の把握と原因の把握に全力を挙げてください。」
その時凶報が届く
「土星宙域に展開していた第2防衛ライン守備艦隊より連絡!阻止作戦失敗、当方に追撃の能力なし。とのことです!」
レティシアは目の前のスクリーンを殴り割りたい気分だった
「まだこちらに来るまで時間はある!状況把握に努めよ!」
やがて被害報告が上がってくる
「こちらローズ大尉、ヘリオスとアストラル号のドッキングモジュールが爆破されています!ヘリオスが漂流!」
爆破という報告にレティシアは顔が青くなる
「ダイアナ!爆破だと?正気か!何故そう言い切れる!」
ダイアナから映像が送られてきた、本来船とヘリオスを繋げているドッキングモジュールには明らかに爆破されたと思われる痕跡があった、それに続けてヘリオス本体でも爆発が起こる。
「よもや…、ヘリオス本体の被害状況は!」
エルサがその問いに答える
「ヘリオス本体には1発分の電力は充填済み、そのバッテリーは破壊されてない。破壊されたのは射撃管制装置とドッキングモジュール、再発射のための再電力供給装置ぐらいね。でも、これで船からの正確な照準はできない、エバンズ君に任せるプランでいくしかないわよ。」
レティシアは唇を噛む、致し方ない。
「エバンズ大尉、聞こえるか?」
「はい、中将。なんでしょう?」
「知っての通りこちらからヘリオスの発射はできなくなった、お前が直接照準射撃をする必要がある、土星宙域の艦隊は敗退した、いよいよ後がない頼んだぞ。」
「承知しました、チャンスはしかも一度きりですね?当ててみせます。」
「やるしかないぞ、期待している。」
その会話をドライヤーは感慨深く聞いていた
(ますますアーノルドに似ていくな、結城、お前の息子は我々の切り札になるだろう、いや、既に切り札か…)
()
アストラル号より20万キロの宙域
「囲まれた!ルイ!レーナ!離れずに密集するよ!一点突破で包囲を破る!」
クロエの指示のもと3機はアストラル号への直線コースを取り一点突破で包囲を打ち破る
「なんなんだよコイツら!べらぼうに強いじゃねぇか!」
なんとか包囲を抜けたとはいえ相手は1機も落伍しておらずまたこちらを狩ろうとしてくる
「推進ユニット全開にして!こうなったら逃げるしかない!援軍もすぐに来るはず、だから!」
3機は翼型推進ユニットを全開にして相手を引き離そうとする、が。
「なんで距離が離れないんだよ!こっちは一応最新鋭機だぞ!?」
相手は離れる気配がない、相手の機体はクロエ達が知らない機体であるため性能予想ができないが少なくとも速度性能はテンペストと同レベルであることは明白だった
「生きてるみたいだな新米!いや、もう期待の若手というべきか?」
通信機から待ちに待った声がした
「ドストエフスキー大佐!」
加えて女の人の声も
「あらあら?私もいるわよ?」
「夕陽大佐!」
ドストエフスキー、夕陽の両大佐は部下を10機ずつ連れた合計22機で援護にやってきた
「こっから先は通すな!全機攻撃開始!」
各小隊が散開して半包囲状態を作り十字砲火を浴びせる
「貴方達、まだ戦える?」
「はい、まだ弾も推進剤も残っています、戦えます!」
「よしきた、お前達は俺たちの小隊に加われ、やるぞ。アストラル号に近づけさせてなるものか!」
黒みがかったテンペストと純白の謎の機体との間で戦闘が開始された。
()
5分後 アステロイドベルト第3防衛ライン
「こちら…アステロイド…基地、目標の阻止作戦失敗、現有兵力並びに…装備では、追撃は不可能…対処、されたし。」
アステロイドベルト基地陥落の報せは瞬く間にアストラル号へと届いた
「早すぎる!アステロイドベルト基地までをこのわずかな時間で移動し、展開中の主力を叩き潰したというのか!!冗談にも程がある!」
レティシアは台を思いっきり叩いた、数百年ぶりに会敵する大型種がこれほど人智を超えていてはこの先の移民船の未来すら怪しく見える。
その頃、アストラル号より10万キロの宙域にて
「クロエ!そっちに行ったぞ!追い込め!」
「了!喰らえ!」
40ミリの弾筋が相手を捉えられない
「レーナちゃん!」
レーナが近接格闘戦を仕掛けた、大型のランスを装備しているレーナの方が格闘戦では間合いを有効に使えた、相手の痛いところを狙い的確に攻撃している
相手もたまらず少し後退した隙を夕陽が畳みかける。しかし敵は一向に数を減らさない。しかしこちらは既にクロエら5人を除いて全滅していた。
「こいつら、おかしい強さだ。ヴァルチャーと同等か?それにあの機体、一体何なんだ?どこの機体なんだ…」
その一抹の迷いを振り払いドストエフスキーは正面の敵の排除に集中した。
()
(直接照準システムはよし、エネルギーも十分だ、あとはどうやって砲身を相手に向けるかだけど…)
ケイは考えていた、どうやって砲身を向けて発射するかを。その考えはすぐに解決した。
(よし、このヴァルキリーのスラスターで微調整しよう、タイミングを合わせればいいだけのはず)
「ミーミル!目標の詳細な針路予想を出してくれ、それに合わせる。」
「承知しましたマスター、プロメテウスとの合同演算による最新の針路予想を提供します。」
提供された情報をもとに細かな調整を行う。そしておそらくは完璧なポジションに砲身を置き、発射態勢に入る
「バッテリーより投射砲へエネルギー供給開始、高エネルギー光子の生成を確認、収束開始。収束率予定値へと上昇中、安全装置解除、ターゲットスコープオープン、砲身との同期100%。」
ケイが発射態勢に入ったとき、不明機が1機、ドストエフスキーらの戦闘を掻い潜りアストラル号へと向かう、出撃していた第1師団の機体500機がそれを迎え撃つ
放たれた弾丸はまるで壁のように襲いかかるが弾の壁に対して敵は怯む様子なく突っ込んでくる、多少の被弾をしつつも強引に突破してくる、瞬く間に15機が落とされ突破される
「な!追いかけろ!」
第3旅団のハン・ヒョジュ大佐が部下達を率いて抜けた1機を追いかける。
そのころクロエ達は
「ルイ!レーナ!合わせて!撃て!」
2人の十字砲火を躱そうとした敵にクロエは推進ユニットを噴かせて急接近し近接長剣で串刺しにした
「夕陽!」
「ボロコフ!」
2人は撹乱した敵が一瞬判断に迷ったその隙に息のあった攻撃を仕掛けて蜂の巣にした。
「若手もやるじゃないか、残る2機もこのまま削るぞ。問題は抜かれた1機だが…」
弾がドストエフスキーの機体の横を通過する
即座に機体を翻して続く攻撃を躱す
「そう簡単にはいかなそうだな」
「あっちにはダイアナもいるわ、目の前の敵に集中しましょう。」
5機と2機の戦闘が再び始まった
()
(発射準備完了、あとはこの引き金を引けばいいだけだ)
エバンズはコックピットの中でヘリオスと同期させた操縦桿を握っていた、来るその時を待って。
その時こちらへ近づく機影をデータリンクで拾った
(500機をたった1機で突破してくるか…、並みの腕前じゃない、でもダイアナなら)
その機体の針路を塞ぐ形でダイアナと4機のヴァルキリーが立ちはだかる
「残念だけどここから先は通すわけにはいかないの、大人しく落ちてもらうわ!」
会敵した様子をレーダーで眺めていると、遂に目標が射線に向かってきた。
「エバンズ大尉、目標が射線に入るわ、詳細な情報を共有する、何度も言うがチャンスは一度きり、外したら地球は滅亡。でも貴方にならできると信じている、頼むわ。」
レティシア中将からの言葉と共に詳細なデータがリアルタイムで共有される。
「発射シークエンス開始、エネルギー充填100%、射線よし、誤差修正。目標射線に乗った、ミーミルとの合同演算による全計算終了」
その時衝撃と共にヘリオス本体の高性能照準システムがダウンする。
(チャンスを逃せばもう照準は追いつかない…撃つか)
「ヴァルキリーの照準システムを起動、ミーミル!演算結果を再表示、よしここだ…発射!」
赤い一筋の光が伸びる、その速さは実に光速であり。僅か11分で火星近くに差し当たっていた目標を貫いた。
「光学映像出ます!」
そこには綺麗に真ん中を撃ち抜かれ、内部爆発を繰り返すクリスタルの姿があった。
「目標、内部で対消滅反応の発生を確認、内部崩壊を引き起こしています!目標の発光反応の消失を確認、目標の完全破壊を認めます!」
司令部内では安堵の声が漏れる、下手をすれば地球と一歩早い永遠のさよならをするところであったが間一髪で切り抜けた。
「レティシア副司令!これを。」
オペレーターがレティシアを呼び、レティシアは画面を覗く
「これは?」
「目標に対して発射する寸前、不明機の攻撃が1発、ヘリオスに直撃し照準システムが一時停止していました、エバンズ大尉はヴァルキリー本体の照準システムとミーミルの演算結果を急遽起動し、それのみで目標に直撃させています…」
「化け物だな、それとも豪運と言うべきか、いずれにせよ目標は撃破され地球は救われた、彼への勲章は私が考えておこう。」
()
「無念だ、人類にメギドの火をまたも握らせてしまうとは、己の職務を果たせずひたすら悔やまれる、ここは神に殉じよう。」
アブラハムがエバンズのいるヘリオス後部のモジュールへ攻撃を仕掛けようとした時
「なりませんよアブラハム、神は一度の失敗で命を奪うほど狭心ではありません、一度撤退し、私に合流しなさい。勝手に死ぬことは許されませんよ。」
「承知しました聖女、神の寛大な御心に感謝を」
アブラハムは機体を翻して撤退する、ダイアナは追撃を試みたが相手のヴァルキリーの速度性能はこちらと変わらず追撃を諦めざるを得なかった。
「嫌な敵ね…」
クロエらは驚いていた、敵が突如肉薄したかと思えば至近で自爆した、その破片をモロに浴びたがヴァルキリーの頑強な胸部装甲がクロエを守った。もう1機は大佐2人が斬り捨てた
「狂ってやがる、それとも敵は無人機だったのか?」
ルイが疑問を呈した
「いや、あの機動は無人機にできるものとは違う、あれは人が乗っている動きだ、だから判断の遅れも出ていた」
「人が乗っていて自爆…」
「一度船に戻るぞ」
5機は船へ引き返していった。
()
アストラル号某所
「あらあら、思うようには事が進まないのが世の常ですわね、これもまた神の思し召し、ここは一度手を引きましょう。それにしても、ケイ・エバンズ。まさかあの状態で撃つとは少し興味が湧いてしまいました、ふふ。」
()
アストラル号中央戦闘航法司令室
艦長、レティシア、オペレーターの3人が戦闘時に撮影された敵機のマーキングの画像を見ていた。
「これは?」
「0…いや、歯車か?」
「おそらくは、黒い歯車かと。」
「どういう意味があるんだ…」
思っていたより長くなりましたし、もう少し後半の戦闘を描きたかったですがしばらくは忙しいのでそのうち短編の番外編で描こうかなと思っていたり、ともかく今回もお読みいただきありがとうございました。また次の話で




