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黒い歯車 上

「よもやこんなことになるとはな…宮越、集められる全ての情報をかき集めろ、今すぐ中央戦闘航法司令室へ向かう。」


アストラル号艦内は慌ただしくなっていた、一般人を含む非戦闘要員は緊急で自宅待機もしくは屋内待機を命じられ、道路は封鎖。急激な加速や転舵に備えて木々を含む全ての物体の固定が確認される。


ドレイヤー艦長は中央戦闘航法司令室の艦長席に座る

「目標の現在地と最新の予想進路を」


「目標の出現から現時刻で8時間経過、まもなく海王星の公転軌道上に展開していた外惑星防衛軍の第11、第12、第15航宙艦隊が迎撃行動を開始します。」


「光速の10%ともなれば2日ほどで地球に到達してしまう。時間的余裕は無い。現時点での予想進路は!」


「10分前のミーミルによる最新予測ではユーラシア大陸に着弾する可能性が最も高く、その場合地球が耐えきれず崩壊する可能性が62.7342%であるとのことです。」


「ミーミル!直接聞きたい、ユーラシアのどこに落ちる!」


スクリーンに美少女のアバターが表示される

「現段階では予想散布界が広く有効なデータは提示できません、それでもというならば確率が高い順に出すことはできますがいかがいたしましょう。」


「地球に落ちるというのは確実なのか?」


「確実ではありませんが再計算の結果、64%で地球に着弾します。海王星公転軌道に展開している艦隊の攻撃成果次第で再計算が必要となります。」


「君が今提案できる中で目標を迎撃する最善策は?」


「目標のデータが不足しているため確実なものは提供できません。しかし、ホルス基地並びに第9航宙艦隊から送られたデータを基にすると試製高エネルギー光子投射砲の使用を提言いたします。」


「ヘリオスをか?あれはまだ実験兵器の域を出ていないだろう、将来的に本艦に搭載することを想定しているがまだまだ実用化できる段階ではないはずだが?」


「その通りです。現在、試製高エネルギー光子投射砲、以後便宜上ヘリオスと呼称いたしますが、ヘリオスは莫大な電力消費と引き換えに高エネルギーの光子を投射、対象物内部で対消滅反応を引き起こしさらなるエネルギーを放出させ内部から崩壊させます。現在までに3回の試射が行われており良好な成績を出しています、使用するには十分だと考えます。」


「AIにしては非合理的な判断だな、そいつ1発を撃つのにどれほどの電力がかかると思っている?」


「本艦が最大発電を1ヶ月続ける必要があります。しかし、電力問題に関しては月面基地よりマイクロウェーブ照射による電力補充を受ければ解決できる見込みです。」


「あれはまだ本艦に積まれて間もない、万が一船に何かあったらどうする?その被害規模は?」


「被害予想は本艦の底部格納庫の全壊ならびに中央部艦船用ドックの使用不能、ヴァルキリー300機の喪失です。現在の計算では人的損害は発生しない見込みです。」


「確か開発者は…エルサ・シュリットラーだったな。」


「通信員!エルサ兵器開発責任官に連絡を入れろ!大至急だ!」


「私の脳みそより優秀なお前を今回は信じるぞミーミル、間違っていたらお前を消してやるからな。」


「承知しています、貴方が考えるよりはまともな作戦であるかと、しかしいずれにせよ不確定要素は多いです。万全を期すためにケイ・エバンズ大尉の作戦参加を提案します。」


「その決定は私が下す、お前は引き続き目標の計算にリソースを振り向けろ、艦内の管理はオペレーターへ一時委譲、それだけに集中せよ。新たに判明し次第即刻連絡せよ。」


「承知しましたアドミラル。」


ミーミルがスクリーンから消えたのち、ドレイヤーは悩んだ。何が起こるか分からないこの作戦にケイを投入するべきなのか…


()

海王星公転軌道、迎撃艦隊総旗艦ルイジアナ

「目標補足!報告と針路、速度ともに変わらず、こちらの網にかかります!」


「主力航宙艦隊3艦隊が集結したんだ、易々と通してなるものか。全艦へ通達、統制砲撃戦用意!」


旗艦ルイジアナを始め、戦艦60隻、重巡洋艦60隻、軽巡・駆逐艦90隻の大艦隊がクリスタルの予想針路上に展開する


「目標は速い、チャンスは少ないぞ。確実に仕留めるために最大加速の粒子砲を引きつけて撃ち込む、全艦との連携を密に。」


艦隊が配置につき、攻撃の用意を整えた

「目標、射程に入ります!」


「全艦指示あるまで砲撃は待機、一点への全艦同時砲撃をもって、目標に想定される結晶繊維構造を破砕する!」


艦隊の全艦が主砲を指向する

「目標キルポイントまで10,9,8,7…」


「全艦砲撃開始!」


ルイジアナの41センチ連装粒子加速砲4基8門を始めとする各艦の主砲が白銀の光を放つ。


その光はたった一点、目標の中心に集中して着弾する。


破砕されたクリスタルによる粉塵雲が発生する、速度を維持しているならもう雲を突破してくるはず…


「ふ、これだけの攻撃を受ければひとたまりもないか。」


艦隊司令官が少し浮いた腰をゆっくりと降ろしたとき、

鮮烈な閃光がカメラに映る、それと同時にCICの戦闘スクリーンが恐ろしい状況を映し出す。


「アイゼンヴォルフ轟沈!」

「ズヴェズダ被弾、全能力喪失!」

「ミネソタ通信途絶!」

「レヴィアタン船体断裂、轟沈!」

「トーマス・D・モーレス、消滅!?」


紫の閃光が艦隊を食い荒らしていく、戦艦は被弾するとシールドを貫かれて爆沈するか船体が真っ二つになる、重巡洋艦は船体の8割や7割が消し飛び悲惨な残骸しか残らない。軽巡や駆逐艦に至っては残骸すら残らず消滅する。


クリスタルは推定されるに全身に粒子加速砲を生成し、航行するエネルギーを全て攻撃へ回しているのだ


「撤退だ!全艦撤退せよ!戦域を離脱!」


ルイジアナはスラスターを最大噴射して急速に転舵する

他の艦隊も我先にと散り散りに逃げようとする。それを好機と言わんばかりにクリスタルは粒子加速砲による攻撃を激しくする。


「くそ!どういうことだ!たかだかあのサイズだぞ!どこにこれだけのエネルギーが!」


ひとしきり攻撃を終えたのかクリスタルは粉塵雲の中からゆっくりとその姿を現す。


その姿はいくつかの大きな突起ができており、その突起である粒子加速砲が最後の鏖殺と言わんばかりに攻撃を仕掛けた。


「おのれ…、エンケラドゥス並びにアステロイドに展開中の艦隊に通告せよ、あれはただのクリスタルではない、我々の経験を上回っていると。」


クリスタルはゆっくりゆっくり加速を始めた


「残存友軍艦艇は?」

艦隊司令官は被害の把握に努めることにした


「戦艦26、重巡18、軽巡9、駆逐艦42です。」


その報告に艦隊司令官はただ声にもならない声を漏らすことしかできなかった。

「反転し戦闘終結宙域へ、生存者の捜索と救助にあたる。」


生き残った人間達は己の無力さと言いようもない恐怖に身を震わせたのであった。


()

第9航宙艦隊旗艦リシュリュー

「…まさかこれほどとはな。」


間に合わなかったものの味方艦隊との合流を目指していた第9航宙艦隊は傍受した通信や全艦へ宛てられた連絡文からその惨状を把握していた。


「我々にできることはありません、司令官。今は地球が残ることを祈りながら帰還を目指すしかありません。」

そう言うシュナイダーも内心は気が気でなかった


「人類側にも秘密兵器の一つや二つはあることを信じようではないか。針路そのまま!可能な限り増速せよ!」


()

アストラル号先端兵器研究開発区画、責任官執務室

「はいはい〜、艦長様が望んでることには検討がついてるよ〜、でも一つ確認なんだけど本当にヘリウスを撃っちゃうの?」


銀髪をたなびかせた美女が艦長と連絡を取っている、やけに軽く余裕綽々な態度で


「言わせるな、ミーミルの演算だとそれでしか撃破を見込めないらしい、控えめに言ってお前に地球の命運がかかっている、必要なものは全て言え世界中からかき集める。」


「実はね〜、もうちょっとしたら4回目の試射をする予定だったんだよね、だから用意は比較的できてるって訳、でもバラしてるからヴァルキリーに宇宙空間で組み立ててもらわないといけないの。そこんところよろしく。」


「その程度何とも思わん、権限は与える、早くやるんだ。」


「それともう一つ、ケイは借りるわよ?彼の力が必要になるかもしれないから。断るわけないわよね?」


「…仕方あるまい、ただし死にに行かせるようなことはするな、分かっているな?」


「あんな素敵な男を死なせるほど私も馬鹿じゃないわ、それじゃあ言質とったから、取り掛かるわね。」


エルサはウキウキしながら部下に連絡を入れる

「さぁ、仕事の時間よ。いきなり人類の命運を背負うらしいわ。気合い入れなさい!」


()

同時刻。アストラル号◯◯◯◯◯◯。

「で?要件はそれだけか?」

船内に潜り込んでいた不法乗船者の1人、強面マッチョの男が通信機越しに物腰柔らかな話し方をする相手と会話していた。


「はい、皆さんへの最初の依頼はこれだけです。しっかり果たしていただけると幸いです。」


「へ!こんなの爆弾仕掛けて吹き飛ばすだけじゃねぇか、そのヘリオスとやらの設計図はあるんだろうな?」


「はい、貴方へ送信しました。完全なものではありませんが破壊箇所の特定とナビには十分でしょう。」


「対価はなんだ?ここじゃあ船の金なんてただのゴミ箱データなことくらい分かってるよな?建設資材と家具、食料、水だ。それともアンタの身体で払ってくれるかい?」


「ふふふ、残念ですが私の身体は貴方に捧げるためのものではありませんので。そこで快適に過ごせるものは全て送りましょう。それでいかがです?」


「ちっ、まぁ目先よりも将来だよな。分かったよ、報酬は先払いだ、分かっているな?」


「えぇ、承知しています。素晴らしい成果を期待していますわ。美しき破壊の女神の祝福があらんことを。」


()

アストラル号ヴァルキリー格納庫

ケイは霜凪に乗り込み出撃準備を開始した

「計器は全てよしシートも完璧、センサーフュージョンに遅れはなし、各種生命維持装置は正常稼働中」


アストラル号中央戦闘航法司令室

「18番ハンガー、エバンズ機出撃シーケンスへ移行します。」


オペレーター達による操作が開始される

「第18番ハンガーより第7射出口への移動開始、射出口の第3、第2隔壁解放、エバンズ機射出ルートに移動中。」


ケイは中央戦闘航法司令室へと連絡を入れる

「こちらエバンズ大尉、反重力システム作動、背部推進システム接続待機中、機内圧力正常、酸素濃度問題なし、慣性係数正常値、オールグリーン。」


司令室ではオペレーターが慌ただしく管制を行う

「エバンズ機の浮上を確認、反重力システムの正常稼働を確認、背部ガントリー、カタパルトとの接続確認!問題なし。」


レティシア中将が許可を出す

「出撃を許可する、任務の遂行と無事の帰還を!」


「000、エバンズ。出撃します。」

カタパルトにより機体が加速され、深淵の宇宙に機体を吐き出した。


それと同時刻

「111、ローズ。出撃するわ。」

「352、ベルナール。行きます!」

「353、フォンテーヌ。出撃する!」

「253、フィッシャー。出撃します!」

「666、ドストエフスキー。出るぞ!」


時を同じくして他の射出口よりダイアナ、クロエ、ルイ、レーナ、ドストエフスキーら選抜組が出撃していた。


黒い深淵の世界で危機という動力により錆びつき動かなくなっていた黒い歯車が不気味な音を立てて回り始めたのである。

航宙艦隊・・戦艦、重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦を含む大規模な宇宙艦隊、基本的には戦艦20隻、重巡洋艦20隻、その他補助艦艇が編成とされている。大国ではこの航宙艦隊を単独で保有している。単独では艦隊を保有できない小国や大国の余数艦は国連軍の旗印のもと統合運用されている。

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