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開戦

アストラル号出航より1週間

「綺麗だな…」


この広い宇宙に出てしまえばあらゆる鎖から解き放たれたような気分になる、星々の輝きは常に未来を照らしてくれているようにも変わらぬ景色で迷わせようとしているようにも見える。


「やけに辛気臭いなケイ、どうした?ホームシックならぬアースシックか?」


エーベルヴァインさんが揶揄ってくる


「綺麗なものに見惚れるのは当たり前ですよ、最も、昔から見慣れたものではありますがね。」


「まぁ、こうしてゆっくり見るのも中々ないことだからな。確かに綺麗だ。」


2人して展望デッキから外を眺めていると…


「あ、いました。エバンズ大尉!」


声がした方を振り向くとクロエさんが立っていた。


「その、ご迷惑でなければ操縦訓練に付き合っていただけないでしょうか?エバンズ大尉の飛び方をもう少し見てみたくて…」


「構わないよ、行こう。」


ふと、何か忘れているような気がして振り向くとエーベルヴァインさんがクロエさんに釘付けになっていた


(小動物系の人当たりのいい美人で、胸が大きくて、薄い白金髪のボブヘアー、これもタイプか)


「アントラセン中佐、ベルナール中尉は僕と同い年ですよ。」


エーベルヴァインさんはすっと元通りに戻った


「ゴホン、あぁ、お初にお目にかかるな。アントラセン・エーベルヴァインだ。」


クロエさんは慌てて敬礼した


「クロエさん、アントラセン中佐も僕らと同じ特殊戦術戦闘隊の所属だよ。というか部隊長だね。」


「まぁ、そういうところだ。ベルナール中尉、君の腕については私も興味を持っている、頑張ってくれ。」


クロエさんはいきなりのことで困惑していたが背筋を伸ばして敬礼した。


()

アストラル号護衛艦隊18番収容ドッグ

アストラル号と合流したリシュリューの艦橋でルーネ中将とリシュリュー艦長が話していた


「思っていたより人が残りましたね、まさか7割が残るとは…嬉しいのやら不安なのやら。」


「彼らが望んだ道だ、地球が恋しくなっても戻ることは叶わない、今は信じよう。」


「そういえば司令のポジションはどこになったのですか?」


「私は中将だが敗戦の将だ、護衛艦隊司令官は城島中将に譲ったよ、私はただの分艦隊司令にしてもらった、1番立場の弱い中将さ、私には丁度いい。」


「我々はルーネ中将についていきますよ、どこまでも。」


「それは嬉しいな、艦長。」

()

アストラル号艦内移動用3次元エレベーター内

「なんだかやけに人が集まっているね、物凄い人だ。」


ふとある所を見るととてつもない人数の人が集まっていた。


「エバンズさんは知らないんですか?今日、ステラリスの出航記念ライブがあるんですよ。」


「ステラリス…あぁ!なるほど、それであんなに人がね。…?この船に巨大なスタジアムはまだ完成してなかった気がするけれど。」


「艦内格納型の大型天体観測ドームの中で行うらしいですよ。艦長が許可を出したとか。」


「ドレイヤーさんがねぇ…、あの人も実はファンなのかな。どうせなら1回見てみたいな。」


「エバンズさんは3人のうち誰か知ってるんですか?」


「そうだな、天宮さんって人は日本人だから知ってる、あとの2人は確か…フランス人と韓国人というのは覚えているんだけれども。」


「ま、まぁ…興味がないとそんなものですよね。とはいえ、ステラリスは世界で1番売れたアイドルなのでもう少し知っていてもいいとは思いますけれど…」


()

アストラル号空間騎兵更衣室

服と下着を脱ぎ補助スーツを着る。その上にパイロットスーツとヘルメットを身につけて部屋から出る。


同じく着替えを終えて女子更衣室からクロエさんが出てきた


「行こうか。」


2人で格納庫に向かった。


()

アストラル号中央航法戦闘司令室

「ミーミル、ステラリスによる影響はどうか?」


「現時点でコンサートの観客動員は10万人、一目見ようと集まる人は30万人を超えています、ステラリスに関する商品の売り上げによる経済効果は1500億ステラと見積もられます。」


「化け物だな…」


「そういえばレティシア中将も今日はライブに行く!と言って休暇を取得されていますね。」


「レティシアが?アイドルなぞ興味が無さそうな奴だと思っていたが…」


司令室の中はそんな感じの雑談でほのぼのとしていた


()

「システムチェック、オールグリーン。脳波接続感度良好。反重力システム起動。」


格納庫ではテンペスト2機が発進準備をしていた。


「機体浮上を確認、ガントリーロック接続。クロエさん、先にカタパルトへ。」


「了解、ベルナール、移動を開始します。」


クロエさんのテンペストがカタパルトへ向かう通路へ出る、それに続いて自分の機体も通路へ出す


「中央航法戦闘司令室よりベルナール、エバンズ機へ、ベルナール機は第1カタパルトへ、エバンズ機は第2カタパルトより出撃せよ。」


機体がカタパルトトンネルへ入りカタパルトへ接続される


「ガントリーロックの解除を確認、背部推進ユニットのカタパルトへの接続確認、射出用意よし。」


通信機からクロエさんの声がした

「352ベルナール機、発進します!」


直後

「エバンズ機、発進許可を出します。グッドラック」


「了解、000エバンズ、発進!」


カタパルトから射出されたのちクロエさんの後を追いかけて目標宙域へ飛んだ


()

「みんな〜!来てくれてありがとう!この新たな船出を祝して!一曲いっちゃお〜!」


クレールの一声と共に曲が流れ、ファンの人々が盛り上がる、その声は音圧だけで半透明のドームを叩き割りそうな程であった。


「ぎゃ〜!!クレール!流石よ、流石私の妹よ!」


そうレティシア中将もといレティシア・マーナルは叫んでいた、レティシア中将の旧名はレティシア・アスティエ。訳あってマーナルと姓を変えたものの、2人は少し歳の離れた姉妹であり今残された唯一の肉親同士なのである。


ステラリス3人の歌が響き、熱狂がホールを包んでいた。


()

訓練宙域

「あの、エバンズさん。1つ聞きたいことが。000の機体番号の意味は何でしょう?」


「あぁ…これは父さんから引き継いだものだよ、父さんが率いる部隊の戦死者0、敗北0、落とせなかった女性は0というのが由来っていうのは聞いたけど、母さん曰く顔と性格が良いだけの無口なあの人が私以外を口説くわけがないとかなんとか、そもそも母さんがアタックして結ばれたから正直な所最後の0の意味は正直僕にも分からないな。」


「な、なるほど…」

クロエは思っていたのとだいぶ違う回答に戸惑った


「さて、それではクロエさん。これから演習を始めよう、まずは僕の動きについてくることから、あと今から君のことをクロエと呼び捨てにするから気にしないで。それじゃあ、いくよ。」


一気に出力を上げて加速する、慣性制御の修正限界を軽く超える加速度が身体にかかっていく


それを見たクロエも推進ユニットを噴かせて追いかける、身体が潰されそうな感覚がし、意識がだんだん薄れていく


(エバンズさんから目を離さない、操縦桿を握って、ラダーに足をかけて、追い縋る!)


「いいぞ、その調子だ、でもまだ躊躇いがある。それでは機体の性能の全てを引き出すことはできない、機体に耳を傾けろ、機体は身体の延長だ、君は自分の身体をそうやって無理やり動かすのか?」


急制動からの急旋回を行いクロエの様子を伺う


クロエは薄れる意識を保ちながら補助スーツの性能に助けられつつ僅かに遅れながらも追い縋る


(身体の一部、身体の一部、機体は身体なんだ、そう、無理やりじゃなくて自然と)


縦横無尽に飛び回る、ぴったり付いてくるクロエを振り回す、クロエの限界を知るために


(追いつく、絶対に!)


「機体に振り回されるなクロエ、身体を機体に慣れさせろ、90°ターン!」

()

太陽系外縁部

外宇宙観測・太陽系防衛宇宙ステーション《アレス》


「警戒衛星が太陽系へ侵攻する多数のブリップを補足、観測衛星3号からの光学映像、出ます。」


ホルス基地と同様に外宇宙観測と太陽系内の防衛を担う10番目の宇宙ステーションであるアレスでは緊張が高まっていた


「これは…」

「覚悟はしていたがまさかその時が来たとはな…」


基地司令官レオニダス・アンドニウ少将、副司令官アレクサンドロス・パパドルフ大佐は映像を見て絶望を噛み締めていた


「全友軍へ通達せよ、クリスタルの大規模な太陽系内侵攻を確認した。と」


レーダーの表記では通常型16000、大型120を擁する大規模な部隊もしくは群れであった。


「総員へ通達、空間防御体制、駐留艦隊は直ちに発進、遊撃戦並びに基地の護衛に務めてもらう。」


約400年ぶりのクリスタルの大規模な群れなのだが、これでもなお400年前の戦争で確認された数の100分の1である。


「司令官!クリスタル付近に太陽系を離脱するコースに入った第5次移民船がいます!」


「なに!?作戦変更だ、ヴァルキリー隊、駐留艦隊は直ちに移民船へ向け進発、防衛作戦に参加せよ。副司令官!本基地を航行形態とする、準備を急がせろ。」


()

アストラル号中央航法戦闘司令室

「とんだ歓迎式典だな」


アレス基地よりの情報共有を受けた司令室内は驚きと困惑、恐怖に満ちていた。


「現時刻をもって全民間活動の一切を停止、コード999を発令。全防衛部隊は総力を挙げて防衛にあたれ、2時間後に本艦は緊急回避を実行、最大戦速で本宙域を離脱する。全ヴァルキリー隊、護衛艦隊の奮戦に期待する。」


「直ちにレティシア中将を含む休暇中の隊員を呼び戻せ、艦内全域に非常事態宣言を発令する。」

()

演習宙域

「……馬鹿な。戻ろうクロエさん、アストラル号の防衛に就かなくては。」


「こ、こんな数…大丈夫なんですか?」


「大丈夫とは言えない、でもなんとかなるさ、これくらい振り払えなきゃ、この深い闇の世界では生きていけないからね。」


推進ユニットを噴かせてアストラル号へ向かう、激しい機動をするために遠くまで来ていたため合流には時間がかかりそうだった。


()

「上げられる機体からとっとと上がるんだ!急げ!」


ヴァルキリーの格納庫では空間騎兵と整備士が行き交い、準備が完了した機体が次々とハンガーを出ていく。


「4000機フル出撃か?」


「当たり前でしょ?相手は16000越えよ?全力出撃でもしないと防ぎきれない、こっちの空間騎兵は8割がペーペーなの忘れた?」


ドストエフスキーと夕陽の2人はテンペストのコックピットで出撃準備をしていた


「それにしてもテュポンといいこの群れといい、クリスタルも攻勢を仕掛けてきたってことなのかね。」


「何であろうと、奴らを殲滅する以外に道はないわ。777花京院、準備完了、カタパルトへ移動します。」


「それもそうだな、666ドストエフスキー、準備完了、カタパルトへ。」


2機はカタパルト搬入通路を移動してカタパルトへ移動する


「司令室よりドストエフスキー機へ、貴機は18番カタパルトへ。花京院機へ、貴機は19番カタパルトより出撃せよ。」


各機体がカタパルト内に進出し、背部推進ユニットがカタパルトと接続される。


「システムオールグリーン、666ドストエフスキー、出撃する!」

「システムオールグリーン、777花京院、出る!」


2機はカタパルトより宇宙に放たれた、機体はそこで別れ、各々の部隊を束ねるために動き出した。


()

アストラル号天体観測ドーム

「みんな、慌てず急がず、係員さんの誘導に従って避難してください!慌てないでね!」


突如発令された緊急事態宣言によってライブを中止したステラリスは観客の動揺を抑えるためにステージの上でマイクを手に取り声をかけていた


「クレール!世奈!ビョル!そろそろ退避しよう、あとは係員に任せるんだ。」


ヒョジュンが3人の元に駆け寄る、彼としては彼女達を早く避難させたかった。


「ダメですヒョジュンさん、もし混乱が起きてしまえば収拾がつかなくなります、ここに私達がいる間は観客の不安を少しでも和らげられる。」


「君達が残ろうと残るまいと不安は制御できない、それより君達が残っていれば立ち去れない人達も出てくる、早く退避するんだ。」


その時、何人かの人が列で倒れ、列の中央で混乱が発生する。


「みんな落ち着いて!倒れた人をみんなで助けてあげて!スペースを取れる人は空間を確保してドミノ倒しにならないように!私たちもここにいる、みんな慌てる必要はないよ!」


クレールの言葉で混乱はすぐに収まり、倒れた人が助け出される。この非常事態においても彼女達が与える影響は決して無視できるものではなかった。


「なら、私も残る。ただし、すぐに避難できるよう準備はしておいてくれ。」


()

アストラル号中央航法戦闘司令室

「クリスタル群、針路を本艦へ向けて接近中。接敵まで8時間。ヴァルキリー隊、全部隊の70%の出撃を確認、あと2時間で全部隊の出撃が完了する予定です。護衛艦隊は所定の位置にて待機中です。」


「何故こうも接敵までが早い?まるでもとから本艦を狙っていたかのような動きだ。クリスタル群の移動経路を再度計算しなおせ。」


あまりにも早いのだ、敵が観測されてから戦闘状態になるまでがあまりにも早すぎる、敵は常にこちらとの最短コースを選んで接近してくる、この船は太陽系離脱のために高速航行を行っていたため尚更近づくのが早いのであった。


「アドミラル、ご報告が。」


ミーミルがドレイヤーのデバイスに現れた


「面倒なことをしなくてもいい、話せ。」


メインパネルに戻りミーミルが話す

「クリスタルは我々との最短での接触を図ろうとしていることは明白となりました、その上で防御計画について提案いたします。」


「参謀本部が提出した作戦計画に沿って防御戦闘を行う、君なりに何か提案があるのかね?」


「作戦の大筋はこのままでいいと考えます、しかし投入戦力について、ケイ・エバンズの能力を最大限に活用する方針にするべきかと。」


「却下だ、1人の隊員に負担を強いることは許されない、その案は却下だ。」


「承知しました、しかし、彼1人が自己判断でその状況に突入した場合は?」


「その際はどうしようもあるまい、死んだらそこまでだ。」


ドレイヤーの額には脂汗が浮いていた、それこそがドレイヤーの最も恐れることであるためだ、ケイの性格を考えれば可能性は0とも言えない、もし彼がその決断を下したら、ドレイヤーは守ってやることができない、その不安が常にドレイヤーにはあった。


「承知しました、作戦の補助に回ります。」


()

アストラル号第1防衛ライン

「全機ラインフォーメーション、長距離砲撃をもって敵総数を減らす、しっかり狙えよ。」


第1師団、総数1000機が防御陣形を敷く、もうまもなく交戦することとなるため、緊張感が満ちていた。


「司令室より第1師団へ、目標阻止線内に侵入、攻撃を開始せよ。」


「聞いたな!?全機構え!撃ち方始め!」


技量が未熟な者が多いアストラル号守備隊はロングレンジ攻撃による敵総数の漸減と部隊の保持を基本戦術として採用した。


ここにアストラル号初の全力戦闘の火蓋が切って落とされた

ご覧いただきありがとうございました、こちらの都合で大変に申し訳ないのですが、しばらくの間は空間騎兵シリーズの投稿がまばらになると思います、その代わりに前々よりある程度作り溜めていた別シリーズが出るかもしれません、まだまだ空間騎兵シリーズも描きたい内容がありますので終わることはないのでご安心を、それでは次のお話しでまたお会いいたしましょう。

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