母と子
2機のヴァルキリーが漆黒の宇宙で幾度となく衝突する、互いに近接武装の両刃剣を携え相手の隙を作り出そうと斬りかかる。
結城の機体が速度を乗せてこちらに突っ込んでくる、剣を振り下ろしてその機動を逸らす、しかしスラスターで無理やり機体を捩じ込んできた。
「くっ……」
(やっぱり母さん相手に近接格闘戦は分が悪いな。)
剣を弾き返して後ろに退きながら速射砲を撃つ
母さんの機体はもちろん弾を躱しながら肉薄してくる。
「こらこらケイ?撃ってばかりでも私には勝てないわよ?」
その勢いのまま斬りかかってきた、右手の剣でその剣を防ぐ、しかし運動エネルギーにすぐれる母さんの一撃は危うく頭部センサーマストに被弾判定が出るところだった。
腕部のアクチュエータをフルで稼働させて押し上げる
そのまま推進ユニットを噴かせて母さんの機体を弾き飛ばす
「あうっ、やるじゃないケイ。少し強引なところは私そっくりね。」
そう言いながら母さんはすぐに機体を立て直して突っ込んでくる、剣を構えてそれを迎える。
タイミングを合わせて剣を振るうとその切先は虚空を切り裂いた。
(マジか!?)
母さんはすんでのところで急制動からのスラスターと推進ユニットで一気に後ろに回り込んできた
「いただき!」
そのまま剣先が振り下ろされる
機体の肩部の関節を逆方向に回して剣を背後に回して防御する。
ガン!
コックピット内に腕部を通して剣で叩かれた音が響く
そのまま左手の速射砲を背後に向かって撃つ
「本当に乱暴なんだから!誰がそんなこと教えたのよ!?」
「これに関してはブブリクさんに昔教えてもらったよ!」
そのまま機体を縦に回して剣を振るおうとする
ガギギ!という音とともに右腕の手首の動きが鈍くなる。
(やっぱり持たなかったか!)
先ほど剣を防いだ時の一撃が手首に過度な負荷を与えてしまったようだ
「隙あり!」
剣が横から振られた、右手にホールドしたままの剣で防ぐためスラスターで姿勢を制御すると同時に機体の慣性制御を解除する。
剣が叩かれ、その勢いで機体が吹き飛ばされる。
「うぐぐぐぐ!!」
凄まじい負荷が身体にかかる、補助スーツがあっても気が遠くなる。急いで慣性制御を起動して体勢を整える。
速射砲を左腰にホールドして左手に剣を持ち替える。
母さんはこちらを様子見している、右手の保持装置とその他電子回路は生きている、右腰にホールドしておいた方の速射砲を右手に装備する。
(やっぱり母は強し、でもこの世界の果てへ向かう息子を毎日心配しなくていいように、この決闘。勝たせてもらう!)
推進ユニットを噴かせて再び距離を詰める、2機のヴァルキリーが推進ユニットのイオンの光を軌跡に残しながら再び激突する。
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その頃ドストエフスキーと夕陽、テレジアの3人はヴァルチャー隊の残る1機のヴァルキリーと睨み合っていた、少し気を抜いた隙に第2旅団第3大隊長のジェーン少佐が撃墜判定を受け脱落してしまい、4機から3機になっていた。
「おい夕陽、コイツも相当苦しい相手だぞ…。ヴァルチャー隊とてこんな化け物がいるのか?」
「相手は国連軍のトップ5にずっといる部隊ですよ?1人くらいいても不思議じゃないでしょう?私もヴァルチャー隊に練度が劣るとは考えていませんが、少なくとも目の前のあの人相手と結城先輩相手では劣ると言わざるを得ませんね。」
「弱音吐いてる場合ですか夕陽大佐!とにかく倒さないとどうにもなりません、無視したらアストラル号を狙われてお終いなんですから。」
3機は隊列を組んで突入し弾幕を張る、相手はひらりひらりと木の葉が舞うように容易く弾幕を掻い潜ってくる。
「あの機動については俺も学ばないとな!」
3機はそれぞれ主攻と援護に分かれて攻撃を開始する。ドストエフスキー大佐は必死に喰らいつく。
あと一歩のところまで追い込めるようになってきた、そう感じていたその時である。
「ドストエフスキー大佐、夕陽大佐、相変わらずの腕前、お見事です。」
2人はハッとする、この声について2人は知っているのだ
「驚いたわ、貴女だったのねダイアナ。」
「はい、お久しぶりです。夕陽隊長。ダイアナ・ローズ大尉、今演習に参加させていただいています。」
「まさかヴァルチャー中隊にいるなんて思わなかったわ、20代にしては凄まじい操縦技術だったものね。」
「ふふふ、お褒めに預かれて光栄です。でも、ケイと結城さんの勝負に水を差されたくはないんですよね、なので私がお相手します。」
ダイアナは加速する、右手には近接戦闘用の剣がある。
ドストエフスキー、夕陽、テレジアは射撃しながら後退する、ダイアナはそれを弾筋に沿って回避し、左手の速射砲で撃ち返してきた。
3人はダイアナ1人に翻弄されてしまう。
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アストラル号艦内
「凄まじいな…」
レティシア中将は中央戦闘航法司令室のメインスクリーンを眺めながらそう言葉を漏らした、レティシアのみならず戦闘司令室のオペレーターも全員が2人のエバンズの戦いから目を離せない。
ふとレティシアが視線を向けると艦長用のテラスにドレイヤーが座っている、その視線は他の人同様2人に注がれているようにも見えるし、ただ1人に注がれているようにも見えた。
「結城……」
艦長がボソッとこぼしたその言葉を隣で待機していた宮越は聞き逃さなかった、今この瞬間、彼の視線はただ1人の女性に注がれているのだ。
第1ブリーフィングルーム
クロエ、ルイ、レーナの3人も2人のエバンズの戦いに魅入っていた、あまりに常識外れな戦い方、大胆かつ冷静な一撃、その全てが新鮮だった
「凄いね…」
レーナがふと漏らしたその言葉、実際にはその言葉では足りないであろうが他に形容する言葉が出てこない。
ルイも戦闘の様子に釘付けになっている、この戦いの行方はどうなるのだろう。
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2人のエバンズの戦いは激しさを増していた
「…う…ふぅ…流石私の息子ね。」
通信機越しの母さんの声も少しずつ余裕がなくなっていっている、頭の中では長期戦にすれば勝てると分かっているが、同時に長期戦にしては母さんの身体が持たないことも分かっている、だからこそ今ここで仕掛ける。
左手に剣があることを使い、母さんの機体の剣を持つ手の手元を狙う、破壊判定が出れば形勢はこちらに一気に有利になる。
「そうはさせないわよ?」
返す刃で反撃されてしまう、剣を防ぎつつ間合いを保つ
「そろそろ母としての意地を見せてあげないとね。」
母さんは少し距離を取り刺突の構えをとった、母さんの1番得意とする技、推進ユニットで加速し非常に重くなった一撃を叩き込む、それが外れたとしても即座に斬りつけに移行して相手に時間を与えずに仕留める。
(そういえば父さんが言ってたな、母さんの弱点)
それはまだ自分が9歳ほどの頃、父さんに母さんについて聞いてみたことがあった
「ねぇねぇパパ、パパはママに勝てるの?」
「ん?そうだね〜、ちょっと大変だけど勝てるかなぁ。お前もママと戦ってみたくなったのか?」
「うん!でもね、前にママがシミュレーターで遊んでくれた時はね、始まって40秒で負けちゃったんだ…」
「ふふふふ、ママも容赦ないな。どんな技でやられたんだい?」
「剣で斬られちゃったんだ、ママがビューン!ってこっちに来たからそれを躱したらね、そのまんま斬られちゃった。」
「ママも容赦ないな…、それはママの1番得意な技なんだよ、なら一つママの弱いところを教えてあげよう。実は…」
突っ込んでくる母さんの剣を躱すのではなく剣で逸らす、そのまま反撃に母さんが移ろうとしたときこちらの剣がコックピットを斬った
「…やられちゃった。私の癖、お父さんから聞いたの?」
「うん、父さんが言ってたんだ。母さんは刺突から斬撃に切り替える時、一度剣を完全に引ききってから最初の斬撃を出すって。ほんの僅かな隙だけれど距離が近かったらそれで十分。」
「だから私が剣を引いた時に姿勢制御スラスターを使って強引に姿勢を変えて斬ったと。はぁ〜、あの人にも同じ手でやられちゃったのに私も学ばないわねぇ。」
「ふふ、でも貴方が強くなっていて安心したわ。これなら貴方を見送ってあげられそう。」
「母さん、久しぶりに直接顔を見せてよ。」
「私も楽しみにしてたの、でもその前に演習を終わらせないとね?」
ふとレーダーを見るとドストエフスキー大佐らが全滅していた。
「"あの子"が貴方を待ってるわよ?もしかしたら私より手強いかもね?先にアストラル号に行ってるわ。頑張ってね。」
その時レーダーに反応があった
それと同時に機体を横にスライドさせる。先程いた位置を弾が通過していく。
藍色のヴァルキリーを捉える。
ドストエフスキー大佐らとの戦闘である程度被弾判定を受けているようだ、互いに万全というわけではないが、機体を反転させ彼女の元へ行く。
互いに速射砲を撃ち合う、そして互いに弾を躱す。それを繰り返し距離を詰めていく。
そのまま近接戦闘へ移り変わる。
(腕を上げたな…、易々と勝たせてはくれなさそうだ)
こちらの自信のある一撃は彼女に防がれる、代わりに彼女の致命的な一撃は機体を掠めていく。このままでは追い込まれたのちに仕留められてしまう。
何より彼女の射撃はこちらのコースをうまく遮ってくる、こちらを意のままに誘導することができるのだ。
(残念ながら、同じことは僕もできるのさ)
お互いが嫌な手を潰し合う、しかし膠着はしない。わずかな隙を見つけては互いに攻め込む、彼女の弾が1発胸部より少し下に着弾する、危ない1発だった。
代わりにこちらの弾も彼女の機体の左足に命中する。
互いに一歩も譲らず撃ち合い、斬り合う
(このままでは決着がつかない、長期戦に持ち込んでも彼女の弾数や推進ユニットの残量が分からない以上リスクが高い、少し荒技にはなるけれどこちらの弾も少ない以上仕掛けるか)
距離を取ったと同時に左手の剣を投げる。
彼女がそれを弾いたと同時に彼女の目の前に詰め寄り、射撃する。
「チェックメイトだダイアナ。」
コックピットに被弾多数で撃破判定が出た
「あらあら、もう少し貴方と張り合えると思っていたのだけれど、私もまだまだね。」
「君の機体はそこそこ被弾してるじゃないか。君の全力は出せなかったんだろ?ドストエフスキー大佐に感謝だな。」
「私もアストラル号に乗るの、よろしくね?ケイ。」
(!?)
「詳しい話は2人きりのときに、ね?」
耳元の通信モジュールから彼女の吐息を感じたかと思った。
()
「現時刻を持って演習を終了する、各員身体の休息に努めよ。整備班は機体のチェックを行え。後半戦の機体を優先して対処せよ、以上。」
レティシア中将はそう告げるとマイクを切った。ふと、艦長席のあるテラスに視線をやる、ドレイヤー艦長は服を整えてどこかへ移動していった。
クロエ達は格納庫へ向かっていた、とにかく帰ってきたエバンズを見たかったのだ。
クロエ達がエバンズの機体が収められている格納庫に到着するとその光景に驚いた。
「きゃあ〜!!イケメンになったとは聞いてたけどたった2年でこんなに変わるのねぇ!もう今からでも俳優になれそうじゃない!それもそうか〜、私とアーノルドの自慢の息子だものね!」
エバンズさんにとっても綺麗な女の人が抱きついてエバンズさんを撫で撫でしている…
「ク、クロエ…、あの女の人誰なのかな?彼女さん…ではなさそうだよね。」
ふと隣に立っていたドストエフスキー大佐が説明する
「君達は知らないのか?結城・エバンズ少将。国連軍極東方面空間防衛総隊副司令官であり、350年前にアーノルド・エバンズ大佐と共同でイシュタルを撃破した勝利の女神だぞ、義務教育レベルだと思っていたがな。」
3人の目が飛び出る、教科書の写真でしか見たことがなかったし聞いたことがなかった英雄。それがまさか目の前でエバンズさんを締め殺す勢いでハグをして頬をスリスリしている女性だとは。
「その、ドストエフスキー大佐殿、ほ、本当にあの人が結城さんなのですか?その、学んだ時の画像とは違うような…」
クロエはドストエフスキー大佐に確認する、彼女達が知っている結城・エバンズはヴァルキリーに乗り込む前の覚悟を決めた冷酷な目をして、戦う女性というあまりに強すぎるインパクトを与えていたのだが、目の前の女性はただの息子が大好きな若奥様にしか見えない。
「ほぼ全世界の教本に載る写真だぞ?普段の無自覚男たらしな姿を載せられるか?断言してもいいぞ、結城少将と少しでも一緒の部隊にいた男は絶対あの人に惚れる。」
「失礼ですがそんなにですか?」
ルイが失礼にも程がある質問をした
「フォンテーヌ少尉、強がりはよせあの美人があれほどでないにせよフレンドリーに話しかけてくるんだそれもそこそこの頻度でな、お前に機会はないかもしれんが、もしその場にお前がいたらお前も惚れるかファンクラブ入りだろうな。」
(ファンクラブ?いくら美人な人とはいえ軍人にどうしてもそんなものが…)
とクロエは思った。
「いや、俺はもう…」
ルイの視線がふと自分に向いたようにクロエは感じた。
()
その頃俺は
「か、母さん…く、苦しい、し、死ぬ…」
母さんの豊かな胸の膨らみのせいで息が苦しい
「大丈夫、お父さんの息子なのよ?これくらいじゃ死なないわ、遺伝子に刻まれてるはずだもの!」
「はぁ〜、再会したのに別れるのはやっぱり悲しいわ、シュリフェンダーを脅して私もこの船に乗ろうかしら…」
結城がとんでもないことをのたまいだしたその時声がした
「この船に乗ってしまっては君の体調を維持できる装置はもうないんだぞ?結城。」
ハッ!と抱きつくのを一瞬止めて結城は後ろを見る、艦長であるドレイヤーがそこにいた。
「あら!ドレイヤーじゃない、ほんと久しぶりね!」
結城は再会を喜ぶように声をかけた、ふと腕の力が緩みその隙にケイは脱出に成功した。
「そうだな、私は艦艇勤務だから基本は宇宙、しかも太陽系の外縁部にいたからな。すっかり船の男になったよ。」
「ダンディーになったわね、味があっていいじゃない。私ももう少し成熟した大人のお姉さん感が欲しかったわ。」
「今のままでも十分大人なお姉さんの雰囲気があるよ、特にケイ大尉を抱きしめていたときはな。」
「何百年待たされた子供だと思ってるの?もう溺愛よ溺愛、それにこんなに立派でハンサムに育って私はもう…あれ?」
先まで撫で撫でしていた頭がないことに気づき周りを見る。ヴァルキリーの上で座っている息子を見つけて結城はしょんぼりする。
「もう、ケイ。ちょっと撫で撫でしすぎたのは反省するけれど、貴方が反抗期の時は気を使って撫でもしなかったし部屋には入らなかったじゃない。最後なんだから満足するまで可愛がらせてよ〜。」
(そんなこと言われたら断れないではないか、でもせめて抱きつく力だけは加減して欲しい。)
「せめて力加g…」
その時背後から声がした
「うふふ、だめねケイ。お母さんを悲しませるなんて…」
振り向くと濃い栗色の艶のある長髪を高めのポニーテールで纏めた、スタイル抜群の美女がいた
「ダイアナ……」
ダイアナはクスクスと猫のように笑いながら僕の手を取る
「行くわよ?」
こうして連れ戻されたのであった。
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その様子を見ていたクロエ達はさらに驚く、大人なお姉さんの雰囲気を放つ美女がエバンズさんの手を取りながら結城さんに引き渡したではないか。クロエ達の中に疑問符が浮かぶ。
「彼女については知らない人の方が多いだろう、あの子はダイアナ・ローズ大尉。年齢は27歳。あ、君達と同い年か。彼女は優れた空間騎兵だよ、ケイ・エバンズと並んで飛べるくらいにはな、ただ俺より夕陽大佐の方がよく知ってる、気になるなら聞けばいい。」
「そんなことよりお前達、ここで見てるだけでいいのか?」
ドストエフスキー大佐の言葉にクロエはハッとしてエバンズさんの元へ向かう、そのすぐ後をレーナが追いかけ、さらにその後ろを少し離れてルイが追いかける。
「はぁ、はぁ、エバンズさん。」
2人のエバンズさんがクロエの方向を見る、クロエは急いで付け加える
「あ、えぇっと、ケイ・エバンズ大尉にお話しが…」
結城はケイとクロエを交互に見た後ニッコリ笑顔になりケイを捌きだす
「あらあら、あらあらあらあら、ケイ、貴方も手が早いのね、彼女さん?ねぇねぇ、彼女さん?いいじゃないのぉ、おっとりとしてて優しそうで美人さんで〜。」
突然の褒め言葉にクロエは驚きフリーズする
「ねぇねぇ貴女、名前はなんていうのかしら?え〜っと、クロエ…ベルナール、フランスの方かしら?すると、クロエちゃんね!」
レーナに背中に肘打ちを喰らってクロエはハッとする
「は、はい!クロエ・ベルナール少尉です。ケイ・エバンズ大尉とは少し面識がある程度です!その、特別な関係では…」
それを聞くと結城は残念そうにする
「あら、そうなのね。残念」
ケイが姿勢を変えて話す
「話しってなんだい、クロエさん。」
クロエがビクッとしてから答える
「その、戦闘機動について色々アドバイスをいただきたく思いまして。その、よろしければなんですが…」
「構わないよ、都合が合う時間を見つけよう。後ろの2人もかな?」
その言葉にレーナは
「は、はい!私もよろしければ。クロエ少尉と日程は合うように調整します!」
ルイは断った
「ふふ、2人とも頑張ってね〜、もしケイの彼女さんに立候補するなら頑張ってちょうだい、でも競争は激しいわよ?」
結城は横をみると微笑みを浮かべるダイアナが立っていた
その時
「う、ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!」
結城が咳をして苦しみだした
「!母さん?母さん!」
急いで母さんを横にさせて服をまさぐって注射器を探す。
「私が押さえるわケイ」
ダイアナが母さんの身体を押さえる
「私も手伝おう」
艦長が母さんの気道を確保する
「見つけた」
注射器を見つけてキャップを取り、刺す
少しして呼吸が落ち着き母さんは話せるようになった
「ありがとうケイ、ダイアナちゃん、ドレイヤー。私の身体もそろそろ限界かもね、でももう心残しはないわ。」
ドレイヤーが語りかける
「寂しいことを言うものではないぞ結城、シュリフェンダーとブブリクが過労死して葬式を挙げるまではお前は生きておく約束だったろ。」
「うふふ、そうね。そうだったわ、貴方達を見送る約束だったものね。まぁ、貴方はちょっと難しいけれど。そうね、まだ死ぬには私ぴちぴちだものね。老化抑制剤の効果が切れるまで生きないと。」
「そんな悲しそうな目をしないでケイ、私、貴方と最後に勝負できて嬉しかった、貴方を安心して送り出せるわ。アーノルドもきっと喜んでいるわ。」
母さんと再びギュッと抱き合った
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「それじゃあ元気でね、簡単に死んではダメよ?ちゃんと身体を鍛えることを忘れないで、でも病気になったらちゃんと休むのよ。うん、いい顔ね。愛してるわ。」
「あ、これを渡してなかったわ。私だと思って大切にしてね。」
母さんから日本の湯呑みが渡された
「うん、大切にするよ。」
母さんはシャトルに乗り込んでいく
「私の霜凪を大切に使ってね〜、壊しちゃったらそれでも構わないわよ〜、バイバ〜イ!」
母さんの乗ったシャトルは離床しアストラル号から飛び去った。
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格納庫に向かうと霜凪がハンガーに格納されていた、母さんがニッコニコ笑顔でドレイヤー艦長に頼み込んだのち、ヤン中佐の尻を蹴り上げて承諾させたらしい。
「細かいところは貴方向けにカスタムされてるわ、着座調整と反応速度の調整は今の貴方に合わせて、明日には予備パーツがたっぷり届くわ、テンペストとも共通パーツがあるから急ぎの修理も大丈夫ね、設計図も持ち込んだ。ふふ、結構用意するのは大変だったのよ?私のことを褒めてくれてもいいのに。」
「そうだな、ありがとうダイアナ。でだ、話は変わるが君がこの船に?」
「ふふふ、そうよ。シュリフェンダーさんに結城さんと一緒に要求を伝えに行ったときについでにね。貴方がこの船に乗るなんて私知らなかったのよ?だから驚いちゃった。」
「僕もこの船に呼ばれて少し驚いていたからね、すっかり忘れていたよ。」
「まだ私は貴方に忘れられてしまうのね…」
「む?」
「なんでもないわ、それより…」
グッと彼女の綺麗な顔が近づく、彼女の真紅の瞳がいたずらっぽく輝いている
「これからよろしくお願いするわ、ケイ?」
()
数日後
「艦長、現在乗船率は60%、その他企業の移転、経済基盤の確立を含めて1週間程度で出港が可能になる見通しです。」
「シュリフェンダーから聞かされたが、艦内に例の組織が?」
「まだ確証はございませんが、シュリフェンダー弁務次官が調査したところ乗船者情報に齟齬があったとのことです。現在、確認を進めていますが、艦内に既に侵入された場合は…」
「この船は巨大だすべてに完全に監視の目を向けることは難しい、E地区の警備ロボットの数を増強しろ、防犯カメラも増設だ、各配管の監視体制も強化しろ、奴らに自由な行動を許すな。他にこのことについて知っている人間は?」
「レティシア中将とミッチナー保安長官、ケイ・エバンズ大尉です。」
「エバンズが?何故だ?」
「おそらくはシュリフェンダー弁務次官の手引きかと…」
「シュリフェンダーめ、ケイを面倒ごとに巻き込む気か?なんでも構わん、ケイが動き出す前に解決しろ、万が一彼が動きだしたら…お前ができる限りで守れ。命令だ。必要な権限はそれとなく私に提出しろ、条件付きにはなるが認める。頼んだぞ。」
「承知いたしました。」
その頃エバンズは家の部屋で紙を眺めていた
(シュリフェンダーさんが紙で渡してきた以上何かあるとは思っていたけれど、まさかこれほどのこととは…)
2日ほど前にこの紙を軽く火で炙ったところ文字が浮かび上がった、そこにはこう書かれていた
[ファナティクスが紛れ込んでいるかもしれない、特にお前や空間騎兵の皆が狙われるかもしれない。奴らは文字通り狂信者、ドレイヤー達が動くはずだが用心しろ]
(クリスタルを崇拝する連中か…、地球にクリスタルが到達した頃に誕生したらしいがその危機が去ってから350年、組織を保ったのか…)
今後もしクリスタルとの戦闘が起きたりクリスタルについて何か進展があった場合、彼らが動く可能性は大いにある。その懸念を胸にエバンズは外を眺めた。
最後までお読みいただきありがとうございます、思えばここ2巻は後書きで挨拶をしていなかったと思い出し、ここで挨拶させていただきました。タイトルにある000に関しては次の話で出す予定です、勘のいい人なら分かっているかもしれませんが…。それでは次の話まで気長にお待ちください。
130ミリ長射程電磁加速砲・・ヴァルキリー部隊の狙撃隊に配備される大口径の長射程兵器、大きさゆえに機動性は損なわれるがその射程と威力はヴァルキリーの携行兵器で最大でありクリスタルの硬い結晶構造体を一撃で粉砕もしくは貫通する、RHA換算で3000ミリの貫徹力を誇る。
近接防御兵装01ロングソード・・ヴァルキリーの脚部に格納される両刃剣、近接兵装として使い勝手がよく広く使用されている、使いこなせばこれ単体でクリスタルの中型種までは撃破が可能、現在のヴァルキリーの戦闘教本のうちこのロングソードの部分は結城・エバンズが監修している。




