模擬戦闘
移民船に乗った翌日10:00
クロエは第1ブリーフィングルームにいた、他の空間騎兵の人達も席についている、第一ブリーフィングルームはブリーフィングルームというより大きな講堂のようだった、目の前には情報表示ホログラムが立ち上がっている。
制服を身につけた女の人が入ってきた
「諸君よく集まってくれた、私はアストラル号防衛部隊副司令官、レティシアだ。諸君達にはこれから模擬戦闘を行ってもらう。目的は明日、地球標準時間10月10日10:00から行われる第103邀撃大隊とヴァルチャー中隊、第3防宙連隊との模擬戦闘へ向けた慣らしだ、まだ2個旅団規模しか諸君らは集まっていないが模擬戦闘は実施する、ありがたく思え、諸君らの相手はケイ・エバンズ大尉と各大隊の歴戦の人間だ、自らの限界を知り、アストラル号の未来のために精進せよ、以上!」
ザッ!っと全員が立ち上がり敬礼する。
クロエはふぅ…っと息を吐いた、模擬戦闘は初めてではないし、1人で戦えという訳でもない、とはいえ緊張してしまう。
「よっ!クロエ、緊張してんのか?」
びっくりして振り返るとルイ・フォンテーヌ少尉がいた、ルイとはフランスにいた時に同じ部隊だったからよく見知っている。
「ひゃ!…び、びっくりした、ルイ?いきなり、女の子の肩を叩くのは良くないです。驚いてしまうじゃないですか。」
「ハハハ悪い悪い、深刻な顔つきだったからな、元気出せって、クロエの実力見せてやればいいだけじゃんか。」
「でも、相手はエバンズ大尉だよ?私じゃ、相手にならないよ…」
「戦う前から負けを認めてどうするんだよ?こっちの方が数が多いんだ、上手く囲んでしまえば簡単に勝てるって、部隊編成はよく一緒に訓練してた部隊と合わせられるらしいしイケるって。」
「うぅ…そうは言ってもなぁ。でもどうしようとやらなきゃいけないしやるなら勝つしかないよね。」
「ハハハ、そうそうその意気だって、もし何だったら俺が追い込んで撃破まで持ってってやるぜ!」
(ルイは自信いっぱいだな…確かに怖がってばっかりだと何にもできないし、頑張ろう。)
「彼の言う通りだ、相手が単独もしくは少数ならば数の有利を用いて敵の対処能力を超える攻撃を仕掛けるんだ、そうすれば多少の練度の差なんて簡単に追い越せる。」
「エ、エバンズ大尉!?」
(うぅ、どうしよう…聞かれちゃってたよぉ、面と向かうと余計勝てる気がしないよぉ。)
「おい、アンタ。アンタがケイ・エバンズだな?俺は、ルイ・フォンテーヌ。アンタが何とか知らないが、同い年なのに先輩風吹かせてると痛い目に遭うぜ?」
(!?ルイ?何言ってるの?!貴方、頭のネジでも外れたんじゃないの!?エバンズ大尉の前でそんなこと…、あぁどうにでもなっちゃえ。)
「そうだな、同い年なんだ手を合わせてみなくては何も分からないだろうね、楽しみにしているよフォンテーヌさん、ベルナール少尉も頑張ってね。」
去ってゆくエバンズ大尉の背中をクロエは追っていた、安堵と不安、そして少しばかりの憧れが胸の中に渦巻いていた。
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15分後、女子更衣室。
身につけているものを全て脱いでから補助スーツを装着する、身体のラインがくっきり見えるこのスーツは戦闘時に起こりうる高負荷を軽減し、生命維持の他にも機体の細かなコントロールを補助する役割もある。通常はこの上に宇宙服を装着し、その他装具を取り付ける。
「あれ?クロエちゃん?」
振り向くと見知った顔がいた
「レーナちゃん?」
元ドイツ航空宇宙軍の空間騎兵であるレーナ・フィッシャーがそこにいた、クロエにとっては親しみの深い友人である。
「クロエちゃんも乗ってたんだ?ふふ、それじゃあこれからは同じ所属になるかもね、クロエちゃんも今出撃するの?」
「うん。エバンズ大尉との模擬戦に。」
「じゃあ私も一緒だ!ふふ、一緒にギャフンと言わせようね。」
「そ、そうだね!エレメントを崩さないように上手く立ち回ればいけるよね…」
「うんうん!基本に忠実、それが1番だよ!」
エバンズ大尉だって、とっても強いだろうけれど1人だし、しっかり協力すればやっぱりいけるかもしれない。
「ほらほら!クロエちゃん、早く上も着て、スタイル自慢は私が不貞腐れちゃうぞ?」
クロエは慌てて装備を身につけて、宇宙服とヘルメットを着用し、装具の再確認をして移動した。さっきとは変わって闘志と希望に満ちながら。
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15分後、アストラル船外。訓練宙域
(すごい、大隊規模の部隊が揃ってる…)
「第1ヴァルキリー旅団第3大隊全機、所定の防衛ラインにて待機、陣形をVシェイプへ、誘い込んで包囲するぞ!」
臨時大隊長から指示が来る、でも自分たちのもとに来る前にはまだ第1大隊も第2大隊も展開しているから本当に来るんだろうか?その前にエバンズさんがやられちゃうんじゃ…
データリンクされたレーダー画面を見る、どの大隊も陣形を整えて待っている、本来の大隊長を始め、経験豊富な隊員はこの演習から抜かれているが数の面ではそれほど影響はない。
エバンズさんから全部隊に通信が来た
「皆さんの勝利条件は明白です、僕を撃ち落とすこと。作戦想定時間は1時間、終了時の被害等を検証します。それでは皆さん、全力で来てください。演習開始!」
(うん、いくらエバンズさんでも一個大隊あたり50機、4個大隊で200機を1人で相手なんてできないよね。ルイもレーナちゃんもいるし普通に戦えばいいはず!)
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10分後
第3大隊の通信機からは信じられない報告ばかりが聞こえてくる。
「司令室より第3大隊へ、第2大隊の壊滅を確認、エバンズ機接近中、15秒後に長距離射撃の射程内。」
(う、嘘…始まって10分だよ?もう100機が全滅?)
「第3大隊長より狙撃部隊、撃ち方始め!!」
Vシェイプの両翼中央部に位置取っていた130ミリ電磁加速砲を装備している狙撃部隊が一斉に砲撃を始める。
エバンズさんの機体はレーダー上で凄い動きをしている、ヘルメットに映し出される情報では縦横無尽に飛び回り弾を躱すエバンズさんのマーカーが映されている。
「狙撃隊!落ち着け!むやみやたらに撃っても当たらんぞ!機械補正はあくまで補正、調整は人がやるんだ!」
長距離攻撃を躱しきり一気に距離が詰まってくる
「速射砲部隊全隊、射撃用意!」
大隊長の指示でクロエは急いで照準を合わせる。
「撃ち方始め!!」
クロエは発射スイッチを押した、40ミリ速射電磁加速砲がうなりを上げる。
エバンズさんの機体が急上昇していく、機械補正が追いつかない。弾が虚空に飛んでいく。
上がったと思ったら一転、こちらに超高速で近づいてきた
(そ、そんな!同じ機体なのに!も、もうこんな近くに!)
ただの直進ですら速くて追いつかないのに急に右に左に上に下に斜めに動かれると機械補正なんて役に立たないし寧ろ照準が重くて邪魔になってしまう。
(いっそのこと…切ってしまえ。)
機械補正をオフにして狙いをつけようとすると…
(しょ、照準が定まらない!?)
全く別の虚空を向いてしまったり、行きすぎてしまったりととにかくわちゃわちゃしてしまう。慌てて機械補正をオンにする。
大隊も被害を受け始めており、左翼の部隊がどんどん数を減らしている。
左翼の部隊の陣形が乱れたことをきっかけに乱戦状態になる、これでは右翼からの攻撃ができない。
「右翼部隊!大隊長機周辺に展開!サークルフォーメーションだ、防御を固める!」
「りょ、了解!」
大隊長機の周りに残る28機が環状に配置された。陣形が組み直された頃には左翼部隊はあっという間に食べ尽くされてしまった。
「狼狽えるな!エバンズ機に対して統制射撃!各員よく狙え!弾幕を張っても当てる気がないなら意味がないぞ!用意!撃て!」
大隊長の指示通りに撃ちまくる、しかしエバンズさんは友軍機に当てさせようと色々な方向に飛んでいく。既に何機か同士討ちで撃墜判定を受けている。
(は、速い、速すぎる!あんな機動、機内の慣性制御じゃ相殺しきれてない筈なのに!)
「バカな!やられた!?」
大隊長がやられてしまった、次席指揮官が命令する。
「残存部隊!小隊を組んで散開!エバンズ機を撹乱する!」
その直後次席指揮官もやられてしまった。
「レーナ!クロエ!小隊を組むぞ!これ以上好き勝手されてたまるか!」
「そうするしかなさそう!クロエ!フォンテーヌを援護しながらエバンズを追い込むよ!」
(もうやるしかない!)
「分かった!レーナは右翼を、私は左翼を!」
ルイが加速していく。
「いくぞ!覚悟しやがれ!」
自分達以外で残っていた3機が撃墜判定を受けてしまった。
ルイが速射砲を撃ちながらエバンズさんを追いかけていく
「ルイ!落ち着いて!飛び出しすぎ!まったく、クロエ!彼を援護するよ!残弾は?」
表記を見る、残り300発。3000発入りの予備弾倉があと一つ残っている。
「リロードが必要!30秒!」
レーナが加速してエバンズさんに攻撃を仕掛けている、弾倉を分離し、左脚部の予備弾倉を掴み交換する。
「復帰します!」
推進ユニットを吹かせて追いかける、ルイがすごい機動で追い縋っている。
(ルイ、すごい。私も負けてられない!)
本来ヴァルキリーのコックピット内はGを相殺、軽減する慣性制御システムが入っているが今この時、その許容限界を超えた機動をしている。重い身体を動かして必死に狙いをつけて撃つが、まるで当たらない。
「ちくしょう!逃げてばかりで!卑怯な!正々堂々戦え!」
ルイが叫んでいる、声からしてかなり辛そうだ。
その時、エバンズさんの機体が消えた。ついコンマ数秒前まで目の前にいたのに…
「やられた!?」
レーナちゃんの機体が撃墜判定になる。周りを探す、すると。
機体の明かりが消えて制御が止められた。バイザーには被撃墜。と表示された。記録を見返す、さっきの瞬間エバンズさんは消えたのではなく一気に逆進していたのだ。夢中で追いかけていた私達の下を一気に抜けていきそのまま背後へ回り…
ルイはというとまだ落とされてはいなかった。
「くそ!どこにいる!出てこい!ケイ・エバンズ!」
するとルイの背後からテンペストが出てきた。
「舐めやがって!落としてやる!」
発射スイッチを押し、ルイは撃ちまくった。そして、
「た、弾切れ!?くそ、リロードを!」
その刹那、機体頭部のセンサーマスト、機体胸部のコックピットに集中被弾、撃墜判定となった。
その後エバンズさんは残る第4大隊とも戦闘したが、こちらも7分ほどで決着がついた。
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「一個旅団を相手にして24分で200機を殲滅、自機の被害は右脚部に2発、胸部装甲板に1発、左腹部装甲板に2発のみ、戦闘行動に支障は想定されず。か。とんだ化け物だな…」
アストラルの中央戦闘航法司令室でレティシア中将は舌を巻いていた。
「一応彼にも少しはハンデを課したのですがね…しかし、この演習で色々分かったことがあります。」
「ドストエフスキー大佐、君の評価を言ってくれ。」
「は、まずは良い点を一つ。それは臨時編成の大隊にしてはよく統率が取れていた点です、嬉しい誤算といえるでしょう。本来主となる大隊長クラスをあえて抜いての戦闘でしたが、判断はともかく命令に忠実に、比較的素早く動いていたのは評価に値します。」
「残りの悪い点は?」
「は、一つは圧倒的な個人練度の不足です。喪失した機体の部分の穴を素早く埋めるのは当然のことですが、彼らはそれが遅かった。ケイ・エバンズとタイマンで勝てとは言いませんが、それ以前のことができていません。」
「また、個人個人の射撃も酷いものがあります。機械補正である程度掠ってはいますが、寧ろ機械補正に頼りすぎているように思えます、機械による自動射撃は弱点が多い。」
「また、残弾管理が甘いですね。特に速射砲を持つ部隊が顕著です。両腕に速射砲を持っていながら、一度に両方弾切れになりリロードが間に合っていない機体も見受けられました。」
「残りは書面でお渡しいたしますが、端的にまとめるなら予想よりマシ、といったところでしょう。まったく、何故こんな新兵ばかりを方舟に乗せるのやら…」
レティシア中将は肩を落として言った。
「それは私も知りたいとこだ、ただ幸いに。護衛には戦艦も巡洋艦もそれぞれ20隻ほど連れていける、ヴァルキリー隊の練度が上がるまでは護衛艦隊と君のような精鋭、アストラル号自身の武装に頼るしかない。」
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「………」「………」「チッ!エバンズめ!舐めやがって…」
着替えたクロエ、レーナ、ルイは食事を摂っていたが空気は重い。特にルイが怒りっぱなしである。
「その…ルイも結構食いついてたし、頑張ってたよ。」
クロエはかける言葉が見つからず思いついた言葉を言った
「クロエ…ありがとうな。でもよ…アイツ、遊んでたんだ、俺をからかってた。」
それはクロエもおそらくレーナも気づいていた。その気になれば30秒でケリをつけられただろうにエバンズさんは彼女達と約2分も戦っていた。
「その…私たちに期待してるんじゃないかな?だからその…様子見って感じで…」
「だからって、あんな終わり方ないだろ…俺の弾が切れるまですぐ目の前を飛んで、弾切れになった瞬間的確に狙ってきやがった…畜生め!」
「ルイ、子供じゃないんだから反省するところは反省したら?クロエちゃんみたいに割り切ることも必要だよ?」
レーナちゃんの言葉にルイが怒りそうだったので、頭をポンポンしてあげる。ルイはこうすると怒りの溜飲を飲んでくれる。
「ルイ?甘いものでも飲んで気分転換しよ?明日が本番みたいなものなんだからゆっくり体を休めないと。」
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その日の夜、明日に備えて空間騎兵全員に待機が命じられたのでクロエはふかふかのベッドと机、洗面台のみの簡素ながらもちょうどいい広さの出撃待機室で体を休めていた。
(ここのベッドふっかふか…気持ちいぃ〜。)
ベッドに身体を沈めながらスヤスヤ眠りにつこうとしていた、その時端末に通知がきたので確認すると簡潔にではあるが今日の模擬戦を行った個人個人への評価とアドバイスが来ていた。
クロエは恐る恐る自分の評価を確認した
(C…、思ってたよりも高いかも?え、上位5%に入ってる…)
端末にレーナちゃんから連絡がきた
[クロエちゃん!私、C評定で上位5%だった!これって凄いよね!]
クロエは画像を添えて返信した。
[私も!アドバイスを見て明日はもっと頑張らないとね]
クロエはアドバイスを読み込んだ。少しでも今日より強くなるために。
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地球標準時10月9日20:00時
丁度その頃。東京の国連軍基地では1人の女性が準備をしていた。その艶やかな黒の長髪をたなびかせ、整備中の機体を眺めている。
「身体の方は大丈夫なのか?結城」
シュリフェンダーはその女性に話しかける。
「ふふ、最近は元気よ。貴方の方こそ身体は大丈夫なの?国連の弁務次官様はいろいろなところを飛び回らないといけないんでしょ?」
「まぁな、それに加えて君の息子の見送りもな。」
「その件はありがとう、あの子も貴方と最後に会えたのはよかったんじゃないかしら?貴方も泣いちゃったりしてね。」
「うるっとはしたかもな、それより強がりはよせ、その身体で今の彼と本気でやり合ったら身体が持たない。」
「大丈夫、大丈夫。お医者さんも1回だけなら耐えられるって言ってたし。それになにより、私の願いなんだもの。」
「………」
シュリフェンダーは黙りこんだ、彼にも彼女の気持ちはよくわかる、だがそれと同じほど彼は彼女に無理をして欲しくなかった。
「心配してくれてありがとうシュリフェンダー、でも、あの子と手を合わせることは私にとっても、アーノルドにとっても、人生で残った唯一の願いなの。分かって。」
結城の柔らかな指がシュリフェンダーの肩に触れる
「分かった…悔いのないようにな。2年ぶりになるのか、君と彼が会うのは。君の顔を嫌というほど見せてやってくれ。」
「言われなくても〜、それじゃ、私はそろそろ行くから。」
整備士がこちらに走ってきた
「エバンズ少将、霜凪の整備と点検が終了いたしました、発進準備は完了です。」
「ありがとう、いきなりで迷惑をかけてしまったわね、帰ってきたらお礼に皆さんにお酒でも送るわね。」
「は!ありがとうございます!無事のご帰還を!」
シュリフェンダーはヴァルキリーへ向かう彼女の背中を見送っていた、彼女が機体に乗り込むのを見届けると、その場を去った。
コックピットに入り機器を起動しチェックを行う。
「111エバンズ、機体正常、オールグリーン。発進許可を。」
「HQよりエバンズ機、発進を許可します。お身体にお気をつけて、息子さんとのお別れは悔いのないようにしてください。」
一機の純白の白雪改三型、霜凪が朝の東京から飛び立った
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地球標準時10月10日05:00時、アストラル船内
起床したクロエは補助スーツに着替え、その上から服を着て食堂へ向かった、空間騎兵の人達が次々と来ては食事を摂っていく。出された朝食をクロエは平らげた。
食後のクロエは更衣室で上の服を着替え、装備を身につけたのち宇宙服を着た。
08:00時、大隊長から注意点や大まかな作戦を聞かされたのち各空間騎兵達は自分の機体へと移動を開始した。
「クロエちゃん!」
レーナちゃんがやってくる
「クロエちゃん、体調とかは何も問題ない?緊張もしてない?…。うん、大丈夫そうだね、今日もよろしくね!」
「うん、レーナちゃん。今日もよろしくね。」
2人はそのまま第一旅団のヴァルキリー格納庫へ向かう、広大な格納庫では移動のためにレールが敷かれておりその上を移動する椅子に座って目的の場所まで移動する。
2人のヴァルキリーが見えてきた、椅子から通路へ降り機体まで向かう。全高19メートル、全幅10メートルのグレーの機体がそこに佇んでいた。
「それじゃあまた後でね。」
レーナと別れたクロエは機体へ向かう、各機が収められている個別バンカーは無重力となっているためクロエは床を蹴り、ふわふわと飛んでコックピットに入る。
「ベルナール少尉、機体の調整はこれでよろしいでしょうか。」
整備班の人に聞かれたのでそれぞれ確認する
「はい、バッチリです!ありがとうございます。」
「分かりました、戦闘後に再調整したいところがあれば申し出てください、こちらで調整しておきます。」
ハッチを閉めるとヘルメットバイザーを通して周辺の状況が確認できる、コックピット内にもスクリーンが設置されていてバイザーで表示しきれない情報を示している。
時刻を確認する。09:00時、演習開始は10:00時であるもののそれまでに各部隊が展開しておく必要があるため続々と射出口へ機体が移動していく。
「第1旅団第3大隊全機は指定の順番で射出口へ」
少し待っているとクロエの機体が移動を始めた、機体が射出口へ向かう通路を移動していく。
「クロエ・ベルナール機、第25番射出口への移動完了、第3から第2隔壁解放します。」
「こちらベルナール少尉、反重力システム正常。その他計器に異常なし。」
「ベルナール機の浮上を確認、背部ガントリーロックとカタパルトとの接続確認、第1隔壁解放。ベルナール機射出準備完了。射出します。」
機体が加速していく、コックピット内は慣性制御によりこの程度の加速ではGを感じない。
射出されたのちクロエは指定宙域へ向かう、第3大隊の各機がラインフォーメーションを作っていた。クロエもそこに合流する。現在時刻09:33。演習開始までは大隊長テレジア少佐による最終確認が行われた。
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現在時刻10:00時
「アストラル号中央戦闘航法司令室より参加中の全機へ、これより演習を開始する、決められた攻撃などない、敵に合わせて本艦を防衛する、それのみだ。諸君らの奮闘を期待する。」
レティシア中将の演説が終わりクロエは警戒する、レーダーを睨み、光学機器にも気を配る。
相手は第103邀撃大隊、第3防宙連隊、そしてヴァルチャー中隊。数の上ではこちらの方が2倍ほどになる。
しかしながらその練度は差があるで収まるかどうかというレベルである、相手は国連軍直轄部隊ということもあり精鋭揃い、比較的練度が劣るとされる第3防宙連隊も同規模の部隊とやり合えばその勝率は90%を超える。トドメのヴァルチャー中隊、特に精鋭を集めて作られた特務部隊で常に激しい競争が繰り広げられる地球側の最高戦力。一個旅団を11分で殲滅したという逸話もある。
現在各部隊はアストラル号と月面間の10万キロのうちアストラル号側より1万キロ、幅5000キロのうちに全部隊が展開している。
その時である、レーダーに多数の輝点が出現した、その数から見て第3防宙連隊と103大隊であることは明白だった。
(そ、そんな、私達一個大隊で連隊と大隊を相手に…)
「全機攻撃用意!陣形を維持しつつ後退!増援到着まで時間を稼ぐ!狙撃部隊は敵両翼を牽制、我々の左右に回り込ませるな!」
敵が狙撃部隊の射程に入ると狙撃部隊が長距離攻撃を開始する。こちらはゆっくり後退していく、相手は速度を上げて攻撃してくる都合上長距離攻撃の実施が困難であり現状はこちらから一方的に撃てる。
敵は局所的な数の有利を活かしスピアヘッドフォーメーションへ移行し、こちらを突き破る構えを取った。
「速射砲部隊を二分する、敵の突入に合わせて左右に散開、並走し左右から火力を叩き込む!」
敵が速度を上げて突っ込んできた、全機でタイミングを合わせて左右に散り並走しながら撃ち合う。この時点で3機の散開が遅れて撃墜判定を受けた。
(当たれ当たれ当たれ!!)
クロエは狙いをつけて撃ちまくった、狙いを急ぐが決して慌てず。
しかし練度の差はいかんともし難く、こちらが相手を2機撃ち落としてもこちらは4機撃ち落とされる。瞬く間に数が減っていく。もう残りは14機あまり、さらには敵を挟んで左右で分断されている。
(このままじゃ、抜かれる!)
「攻撃開始!第3大隊より攻撃主軸を交代する!第3大隊は後退、再編し敵陣形に対して一撃離脱をもって撹乱せよ!」
報告を聞いた第1旅団旅団長、ドストエフスキー大佐率いる第1大隊と第2大隊が救援に駆けつけた。さらにその後方から1個大隊が向かってきていた。
ドストエフスキー大佐らはスピアヘッド陣形の先端に火力を集中し攻撃の勢いを削ごうとしている。
「クロエちゃん!まだ残ってる?」
レーナちゃんから通信が入った
「うん、レーナちゃんも残っててよかった。ルイは?」
「俺は簡単にやられねぇよ」
奇跡的にクロエ、レーナ、ルイの3人はまだ残っていた。残る12機の大隊残存機は一度集結する。
「これより我々は味方部隊の火力支援にあたる、3機1組を作り一撃離脱に徹し敵部隊の頭数を減らす。弾薬交換と補給を速やかに行え、完了次第各隊隊列を組み突入する。」
クロエ、レーナ、ルイで臨時部隊を組み補給とリロードを済ませる。
「各隊突入!被弾するなよ!」
背部推進ユニットを噴かせて加速し敵部隊へ襲いかかる。
「レーナ!ルイ!敵中心の防御部隊に攻撃を集めよう!」
敵はスピアヘッド陣形の内側にも部隊を置いており来襲するドストエフスキー大佐の部隊に対して射撃を行っているため陣形を維持し続けている。今は第2大隊が敵前面に展開して牽制しているためこの陣形を早く崩さなくてはならない。
「再攻撃するよ!隊列を組み直して!撃ち込めるだけ撃ちこもう!」
反転して再度攻撃をしかける、敵はこちらに対しても射撃をしてきた、テレジア少佐やその他の隊も様々な方向から襲撃をかけ敵の射撃を分散させている。
そこにドストエフスキー大佐率いる5機が直上から襲撃して敵の防御陣形を食い破る。
「第3大隊各機再集結!敵の陣形変更の隙を突くぞ!」
この間に2機撃ち落とされたため、残る10機が集結する。
敵の数は当初150ほどいた戦力が今は90機ほどまで減っている、こちらも残りは60機ほどだがこちらにはまだ増援が残っている、しかしヴァルチャー中隊の行方が分からない以上他の部隊もその場を離れられない。
敵はスピアヘッド陣形からサークルフォーメーションへ移行し防御を固めようとしている、射撃や操縦の練度差がある以上防御を固められるとこちらは苦しい。
(防御を固められると苦しい、だから!)
残る部隊が突撃を開始する、敵の陣形はまだ綻びがある、そこにありったけの火力を投入する。
「2人とも!撃って撃って撃ちまくろう!」
60機による集中砲火を受けた一部の陣形に穴が開く、そこにドストエフスキー大佐は部隊を流れ込ませる。
「ここから先は乱戦だ!局所的に数的有利を作れ!端から食うぞ!」
ドストエフスキー大佐は瞬く間に5機を撃ち落とした、クロエ達もそれに続く。お互いの数がみるみる減っていく、そして…
(撃墜!残る敵は…いない?)
残存機を確認するとクロエ達を含み7機、ドストエフスキー大佐、テレジア少佐、第1大隊大隊長スコット少佐、第2大隊大隊長チェン少佐、そしてクロエ達3人、最後の最後に練度の差と数の不利を巻き返したのだ。
「新米3人、いい腕だこの戦いで残ったことは素直に誇りに思うといい。問題はヴァルチャー中隊だが…」
その時、第2旅団第1大隊が壊滅したとの報告が上がった、救援に向かった第2旅団の全大隊も苦戦している、共有されたレーダー情報には15機のヴァルキリーが第2旅団を食い散らかす様子が映っていた。
「相変わらずのバケモノ部隊だ、しかしエバンズですら一度に200機は無理だ、いくら中隊とはいえ援護に向かった第4大隊と我々も加われば勝てない相手ではないはずだ。」
警戒のため待機していた第4大隊も援護に向かっており数的には256対15、それも同時であれば可能性はある…はずだった。
(そ、そんなあっという間に100機が…第2旅団が全滅しちゃう!)
「全機早く行くぞ!このままでは何にもならん!」
6機は補給を済ませてすぐに向かった。
「は、速い!?弾が当たらな…」
「後ろに回り込まれた!?離脱しm…」
「引いて陣形を立て直せ!攻撃中止!中止!」
第2旅団と第1旅団第4大隊はその戦力を大幅に減らしていた、現在118機、対する相手は13機。このままでは削られる。
ドストエフスキー大佐らもあっという間に合流し、ヴァルチャー中隊と睨み合う。お互い距離を取りつつ様子を伺っている。
「おい夕陽!このままだと好きなタイミングで襲われて終わるぞ、第2旅団旅団長はお前だ、決めろ。」
ドストエフスキー大佐は第2旅団旅団長の夕陽大佐を急かす
「急かさないでくださいボロコフ!分かっています、こちらから仕掛けなくては。周りを削りましょう、ダブルラインフォーメーションで右翼に一撃離脱、大隊長以下練度の高いものは敵の反撃からの防衛に専念し、残りは一撃離脱で数を減らしましょう。」
「悪くない!俺らの手間が増えるがな!決まったならとっとといくぞ!」
「全機ダブルラインフォーメーション!一撃離脱を持って敵の数を減らします!全機突撃しつつ陣形を編成!突撃!」
機体が一斉に推進ユニットを噴かして加速する、隊列はやや歪なものの許容範囲内、運良く敵の右翼部隊を5機落とした、しかしながら敵の反撃は恐ろしく早かった。
「くそ!もうこんなに食われちまった!夕陽!その白いヤツをなんとかしろ!いくらヴァルチャー中隊とはいえ、そんな機体がいるとは聞いてないぞ!」
1機の白い機体が瞬く間に10機を撃墜する、大隊長クラスが追いかけてもあっという間に振り切られる。
さらには残るヴァルチャー中隊の機体も合間を縫ってこちらを撃破してくる。しかし、ヴァルチャー中隊の機体と各大隊長クラスはほぼ互角であった。1機の白いヴァルキリーを除いて。
こちらの数が50を切ったころ、ヴァルチャー中隊の3機が撃墜判定を受けた。
「好き勝手やられてたまるかよ!」
「こちら1機撃墜!」
「ベルナール機、敵を1機撃破!」
ドストエフスキーも夕陽も舌を巻いた、新米3人が思っていたより使えるしいい動きをしている、少なくとも3機を撃ち落としたのはあまりに大きい。
「敵は残り5、火力で押し潰せ!撃て!」
速射砲の弾幕と狙撃部隊の射撃が敵に殺到する、敵はそれをヒラヒラと躱しこちらを撃ち落としてくる
ルイの機体がうち1機に狙われている
「くそ!離れろ!離れろ!振り切れねぇ!」
「ルイ!今助ける!」
クロエは推進ユニットを噴かせて追いかける、別の1機がルイの機体の脚部を攻撃し、ルイの脚部が使用不能判定を受ける、一緒に飛んでいたレーナの機体も攻撃を受け推進ユニットの出力が20%まで制限される。
追っての機体をなんとか追い返したものの2人の機体は損傷によりこれ以上の戦闘は難しかった
「新米ども!ここまでよくやった!素直に褒めてやる、旅団長権限で諸君らは戦闘不能と判断し、撤退を命ずる!」
その命令を聞いたクロエは承諾し、2人の機体をキャッチして母艦へ向かう。
「了解!ベルナール機、フィッシャー機、フォンテーヌ機、戦線より離脱します!」
撤退中の部隊は敵によく狙われる、大隊長らが守ってくれているうちに離脱する、2機を引いているため速度が出ない。
「くそ、あともう少しでもう1機も撃ち落とせたのによ…」
「まぁまぁ、私たちよくやったじゃん!大戦果だよ大戦果、あとは大隊長を信じるしかないね…。わざわざ引かせてごめんねクロエちゃん。」
「ううん、大丈夫、私の機体も左脚部に被弾して替えの弾がなくなってたから。でも機体は正常だし速度は出ないけど安定してる、2人はそのまま大人しくしててね。」
共有されたレーダーだと8対3で乱戦の様相を呈していた、消える輝点はいずれも味方のものばかり。
その時3機のレーダーに高速で接近する輝点が映る
「だ、誰なの?!」
「この速度、彼しかいないでしょクロエ!」
「ちっ、今まで何してやがったんだよ…」
3機に通信が入る
「3人はそのままの進路を、ご苦労様でした。」
凄まじい速さのテンペストが少し先を通過していった、クロエ達は去ってゆくその輝点を見ながらアストラル号へと帰還していった。
()
「くそ!べらぼうな強さしてやがる!落とされないだけで精一杯だ!夕陽!エレメントを組み直すぞ!」
「分かってます!ヴァルチャー隊の護衛を仕留めますよ!」
夕陽とドストエフスキーの2人は息の合った攻撃でヴァルキリーを1機撃ち落とした。
その間にこちらは4機まで減らされている。
「あの白いヴァルキリーが異常だ、あんなべらぼうな強さなんてのは…」
「結城先輩よ、あの動きは間違いないわ。」
「いよいよ勝てるか怪しくなってきたな、ヴァルチャー中隊だけならギリ互角にできるんだがな。」
「まずどうするか考えてくださいお二人の大佐、そろそろ限界ですよ。」
テレジア少佐が2人を急かす
突如結城の機体が加速してアストラル号へと向かった、4人はアストラル号の防衛が演習の項目である以上、追いかけざるを得なくなった。しかし、ヴァルチャー中隊最後の1機に妨害される。
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(もう向かってきた、やっぱりセンサー類はあっちの方が上か…息子ができる最後の親孝行、全力でやらせてもらおう。)
「戦闘前の挨拶よ、ケイ。私の身体は至って元気、あとは分かるわね?ありがとう、ケイ。」
互いに近接武装を装備し距離を詰める、純白の霜凪と漆黒のテンペストが、母と子が、広い宇宙のごく一部の空間で激突する。
テンペスト・・次世代統合ヴァルキリー計画に基づいて開発されたBAEとラッキードマーチンの共同開発による最新鋭機、格段に進歩したセンサーフュージョンとそれをサポートする脳波デバイス、補助AIを搭載し、各武装の展開速度から電子機器に至るまでが最新モデルにされている。明星のダウングレードモデルであるフューリーの発展型、現在は各部隊に配備が進んでいる。
白雪改三型、霜凪・・大光重工が製作した白雪の最新改良型、センサーフュージョンの高度化、電子機器のアップグレード、新たな姿勢制御スラスターの増設を始めとする高機動化が行われ国連軍の一部部隊に配備されている。
40ミリ速射電磁加速砲・・ヴァルキリーの標準装備、弾体を高速で連射することが可能で発射速度は自由に変えられる。発射される弾体は演習弾、榴弾、成形炸薬弾、超高硬度徹甲弾。徹甲弾はRHA換算1000ミリの貫徹力を誇る。




