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水色のベルと緑色のベル  作者: 朱井笑美


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 秋が来て聖女候補達の魔法も随分上達を見せ始め、人に施せられるような水準まで、もうひと押しだった。

 回復魔法の練習のため、神殿の聖騎士達には練習台になってもらうことになっていた。

 これから冬まで毎日、敷地内の聖騎士団本部まで出張して治癒や回復魔法の腕を磨く。


 聖騎士団本部には、さすが本部とあって独身騎士達が多数いるが、伯爵家の候補者達もそれどころではないくらい魔法の習熟に追われお疲れ気味だ。

 彼女達の侍女も流石に主人が必死なのに恋愛にうつつを抜かすわけにはいかないのだろう。今は主人のサポートをしっかりやっている。


 聖騎士団では日々の鍛錬で擦り傷や打ち身などの怪我人は毎日出るし、地方神殿の派遣から戻って来た聖騎士の中には病や怪我が理由で戻ってきた者もいる。

 普段は神殿の医務室で神官が治療を行うが、冬を迎えるまで聖女候補達の仕事になった。


 冬になったら本番だ。神殿の表のホールに出て一般人の治療を行うのだ。

 冬場は風邪が流行ったり体調を崩す人が増える。聖女候補の最後の修練は一般解放されている神殿のホールで様々な人と触れ合いながら魔法を磨く。

 民の状況を直接学び治癒や回復魔法をかけることで、民からの信仰心を聖女として肌で感じながら魔法を体得していくのである。


 マリベルは毎日、聖騎士団から疲弊して帰ってくるビアンカ様をアロマのお風呂で迎え、マッサージをして癒す。

「はぁー。マリベルが侍女で良かったわ。疲れが取れるぅ」

「では今日の障壁のヒビの修復のおさらいをしましょうか」

「前言撤回!もうダメ、今日はもう寝るわ。サヨナラ」まだ足のマッサージの途中で今日もビアンカ様は意識を失われた。

 最近、毎日こんな感じなのである。もともと労働など無縁の貴族令嬢だ。

そしてこの時期は聖騎士達も冬を前に忙しいので怪我も多い。


 実は聖騎士様は浄化も回復魔法もある程度使える。

そこが普通の騎士様と違うところでもある。

なぜなら彼らは女神様への信仰心を強く持ち、毎日の鍛錬以外に礼拝の時間も設けられている。しかし彼らの仕事はあくまで守りを主体とした戦闘要員だ。

 なので回復魔法は後回しにして良しとされ、余程じゃないと使わない。それは浄化魔法も同様。


 害獣被害や盗賊被害、治安維持などは国の騎士団のお仕事だ。

聖騎士は主に神殿内警備と神殿に関わる方の護衛がお仕事だ。

 しかし町ならともかく村には何かがあっても騎士達が駆け付けるのに時間がかかる。

 騎士の詰所より神殿の方が近い場合もあり、どうしても人々が神殿に助けを求めることもある。

 神殿はそういった人々を無下に扱うこともできず聖騎士が出て行くことも多いのだ。冬の前は害獣被害が特に増える。

 そして神官様の移動を狙った不届き者の出現は商人の移動が減る初冬が多い。

毎日、聖騎士達も出たり入ったりの入れ替わりが激しい。


 マリベルはビアンカ様にしっかり毛布とお布団を掛け、自分も女性神官と共同のお風呂に向かう。

 髪と体を洗い湯船に浸かり自分の手足をマッサージしていると、ある女性に声を掛けられる。

「マリベルさん、ここ治癒してもらえない?」数少ない女性聖騎士の方だ。

 彼女の胸部の掛け布の下に数カ所の切り傷と脇腹には打撲の痕があった。

マリベルは直ぐに患部に治癒魔法をかける。

あっという間に傷も打撲痕も綺麗に消える。

「あぁーありがとう!マリベルさん。もう魔力がスッカラカンだったのよ。あなたを待っていて良かったわ。効き目も抜群ね」

女性の騎士様は大勢の前で胸などの患部を出すのを遠慮され、ご自身で治癒されることも多いと聞く。


 マリベルは「クマとでも戦ったのですか?」と聞いた。「よく分かったわねぇ」と彼女は興味深そうにマリベルを見て言う。


 マリベルの家にはクマの等身大の剥製がオモチャとして置いてあった。マリベルもとてもお世話になったクマさんだ。傷の場所と爪で怪我の見当がつく。

「冬眠前の妊娠中のクマでねぇ殺さないようにしてたら、しくじっちゃった」と舌をペロッと出しておどけて見せる。

さすが女神様に認められた慈悲深い騎士様だ。

 明日も休みではないという彼女に魔力も回復する完全回復魔法をかけてあげた。


 マリベルにこうして回復や治癒の魔法を影で依頼してくる人は割と多い。

 医務室に控えている神官以外は民の為に魔法を施すので、通りすがりの神官様に治癒を依頼するのはご法度なのだ。

 医務室の時間外に怪我や疲労を抱えたまま翌日を迎えるのは辛いだろう。

 そうやってマリベルを頼ってくる人達を放っておくことはできなかった。それにマリベルは、ただの侍女だから頼られても何も問題はない。

むしろ女神様の使徒に頼られるのだ。こんなに有難いことはないはずだ。

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