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水色のベルと緑色のベル  作者: 朱井笑美


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 冬を迎え、いよいよ聖女候補達が神殿の表に出て、神官達に交じり民の治療を始める日が来た。


 神殿のホールは聖女候補達が治療をしてくれるという事で普段より人が多い。

 しかも聖女候補の護衛で聖騎士様まで普段より多く出ているのだ。治療と関係ない人までいてホールは人で溢れかえっていた。


 神殿の治療は午前と午後に分かれており、集まった人に向けて大神官様が女神様に祈りを捧げ、全員で礼拝するところから始まる。

 大神官様の有難いお言葉を聞いた後に、治療や悩み相談の場が設けられるが、聖女候補は治療のみに参加する。


 前半組と後半組の三人ずつに分かれて二時間ずつ表に出る。

 たったの二時間だが、ずっと治癒魔法や回復魔法をかけ続けるのだ。魔力を決して無駄にできない。

 だから症状に合わせて魔力の量をコントロールしながら、なるべく大勢の人の回復ができるように魔法を調整する。 


 技術と集中力が必要で初日は一時間も持てば十分だと言われていた。経験と回数、その場の雰囲気に慣れること、重症者がいなければ一週間程で二、三時間くらいは余裕になると言われた。

 聖女候補達はそれを目指して治療に挑む。


 時には冷やかしのような人や、聖女候補を口説こうとする不届き者も出る。そういう輩は聖騎士様が追い払ってくれるので安心して治療に専念できる。

 ビアンカ様はアイリーン様と伯爵令嬢の一人と共に、午後の担当だ。午前中は防御壁の補修と強化の練習を重ね、午後に向けしっかりと昼食を食べているところだった。


 慌ただしく人が駆け抜けて行く。

 その様子を伺っていると誰かが倒れて運ばれて行ったようだ。

 三人が互いに顔を見合わせている横で、マリベルがお茶を注いでいると、疲れ切って青い顔をしたソフィーナ様が侍女のアンナさんに支えられ食堂に入ってきた。


 アイリーン様の侍女のデイジーさんが、直ぐにソフィーナ様に席を用意するとソフィーナ様が崩れるように椅子におかけになった。

 いつも淑女然とされているソフィーナ様の珍しいお姿だ。

 しかしソフィーナ様は、もう取り繕えないくらい疲弊してらっしゃるようだった。


 マリベルはソフィーナ様にもお茶を勧める。

 元々食事と一緒に飲むように用意したので、少しぬる目で消化を助ける薬草茶だ。

 ソフィーナ様はお茶をゴクゴクと飲まれ、やっと一息吐かれた。そして「伯爵令嬢は何とか一時間は持ったけど、倒れて運ばれて行ったわ。ココット様も倒れてはいないけど貧血を起こして医務室に行かれたわ」と淡々と仰った。


 それから無言で遠い所を見ているので、マリベルはお茶を注ぎ足す。

 ソフィーナ様はまたカップに口を付けながら「ごめんなさいね。お見苦しいところをお見せして。でも皆様も覚悟なさって。アンナさん!食べて体力をつけなければ。昼食を持って来て!」とキリッと仰った。

 その後も無言で食事を口に運んでらっしゃる。

 多分、味なんて分かってなさそうだった。ただ体力のためだけに召し上がっておられるようで、他の候補者達を震え上がらせた。


 午後の部も午前と同じように始まる。

 治療希望者はバランス良く順番の列に配置されるが、皆、聖女候補に治療されたいのだ。どんどん聖女候補の列だけが長くなる。

 そりゃ聖女になるかもしれない方に治癒してもらいたいよね。

 聖女になってしまったら、もう至近距離でお会いする事すら叶わなくなるお方だから。


 マリベルはビアンカ様の後ろで冷静に周囲を観察する。

 ビアンカ様もアイリーン様も伯爵令嬢も20分程で額に汗を流し始め、一生懸命、回復魔法をかけている。

 一人一人接するから大変だ。症状が違ったとしても、まとめて回復魔法をかけられないものだろうか?とマリベルは考える。

 

 すると伯爵令嬢が小さな傷に大きな治癒魔法をかけている。

「もったいない!」と思ったが、伯爵令嬢だけではない。

 アイリーン様も、何度も同じような事をされている。

 ふとビアンカ様を見ると、ビアンカ様も大きな魔法を使いそうになっていて、マリベルは瞬時に「その怪我はこっちの呪文ですよ」と耳打ちする。

 ビアンカ様はハッとして魔法をかけ直す。


 間もなく1時間半が経つ。

 もうアイリーン様と伯爵令嬢は顔が青い。

 マリベルはそっと三人に魔力も回復できる回復魔法をかけると、三人が一瞬、目を見開く。

 ここで驚きの顔を見せないのは、さすが高位貴族令嬢だ。

 あとでビアンカ様には小言を言われるかもしれないが、侍女としては主人を倒れさせるわけにはいかない。


 一応、聖女候補が倒れる前に様子を見て退散するようにと侍女は指導を受けている。適切な判断だったと言っておこう。

 その夜、ビアンカ様は大人しくマリベルにされるがままお風呂に入り、昨日より意識を失うのは早かったが何も言ってこなかった。 他の候補者達もだ。


 あれから前半後半が入れ替わったり、メンバー変更もあったが、マリベルが回復魔法をかけたのは、聖女候補が倒れる寸前の時だけで片手で足りる回数だ。

 聖女候補達は何も言ってこなかったし一週間を過ぎる頃には、言われた通り、全員二時間は持つようになった。


 このままあと二ヶ月間、二ヶ月後には新聖女が誕生する。

 紆余曲折あったが全員頑張った。誰がなっても残り8年間、聖女としてこなせるだろう。

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