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転生幼女は前世に極めた錬金術で、家族のQOLを爆上げします!  作者: 青空あかな


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第9話:魔動人形

 そうと決まったら、まずは素材探しだ。


「お父たま、売れなくて困っている商品ってある?」

「もちろん、腐るほどあるよ」


 そのセリフに戦慄しながらバックヤードへ。

 中央には少し大きめな丸机。

 壁には天井ほどの高さまでの棚が置かれている。

 中にはそれこそ多種多様な商品が雑多に詰め込まれていた。

 どれも埃が積もっているので、ずいぶん長い間動かしてもいないことがよくわかる。


「ニューリッチ様に押し付けられたはいいものの、一つも売れずに困っているのさ」

「こ、これが全部在庫……」

「まぁ、もっと詳しく言うと不良在庫だな、はっはっはっ」


 またしても豪快に笑う父。

 ニューリッチが消えたので元気になったのだ。

 私はそこまで商売に詳しくはないけど、こんなに不良在庫があるのはどうなんだろう。

 少なくとも繁盛しているとは言えないはずだ。


「お父たま。錬金術で新商品を造ろうと思うのだけど、いくつか貰ってもいい?」

「うぐっ……!」

「お父たま!」

 

 突然、父が苦しそうに胸を抑え、ガクッと膝をついた。

 顔は赤らみ呼吸も荒い。

 ど、どうしたの! ……まさか病気……?

 最悪の事態を考え、私の心臓が凍りつく。

 錬金術で回復ポーションを造る!?

 いや、ここにある素材では心許ない。

 今すぐ医術師を呼ばないと……!

 駆け出そうとしたその時、父が私の手を掴んだ。


「またルーの……」

「マタルーノ!? なに、お父たま!」


 も、もしかして、ゆ、遺言……?

 聞きたくない気持ちと聞かねばならないという気持ちの半々で、ある種の覚悟を持って言葉を待つ。

 父はゼイゼイしながら呟いた。


「またルーの錬金術が見られるなんて、お父たま気絶しちゃう」

「…………そう」


 さて、お客さんが来る前に素材を厳選しないとなぁ。

 棚の商品を一つずつ確認する。

 


<錆びた鉄ナイフ>:ランクE。純度が低い鉄でできた短剣。一瞬で錆びる。切れ味が悪すぎて逆に痛い。もはや鈍器の域。触るときは気を付けようね。


<ガラス割れのポータブル・ランタン>:ランクD。持ち運びに向いた軽いランタン。燃料は魔力。火魔法が苦手な人へのプレゼントに。ガラスが割れているので注意だよ。


<カビタオル>:ランクF。カビが生えたタオル。ゴワゴワした手触りの悪さからいつまでも売れずカビが生えてしまった。そのえた臭いにマニアな人気がある。



 ふむふむ、やはりどれもランクが低い。

 それどころか、劣化したり壊れたりして、従来よりさらに質が下がっているようだ。


「ル、ルーちゃ~ん、どうしてそんなにスン……としているの~?」

「いや、ほんと何でもないんで」

「さっきのはちょっとした冗談だったんだよ~」


 まとわりついてくる父を押しのけ厳選を続ける。

 錬金術を思い出したばかりで、まだ本調子ではない。

 できるだけ良い素材を選びたいところだ。

 ジャックの人形を思い出し、最終的な完成図を考えながら商品を探す。

 彼が持っていたのはタオル生地の人形だったな。

 たしかに、肌触りは素晴らしかった。

 となると、私の人形もタオル生地にしようかな。

 しかし、ここには<カビタオル>くらいしか見つからない。


「お父たま、タオルってこれ以外に余っている?」

「ルーが話しかけてくれたっ……! いや、この部屋にある物だけだな」


 うーむ……マジか。

 できれば普通のタオルを使いたかったところだけど……しょうがないね。

 今回はこいつを使おう。

 錬金術で合成すればカビも消え去るだろうし。

 あとは、割れたランタンも使ってみよう。

 魔力を込めたらほんのり光る人形にするのだ。

 では、さっそく……。


「お父たま、この机に錬成陣を描いてもいい?」

「いくらでも描いてくれ! ここなら誰にも怒られないからな! いっそのこと、ルーの錬成陣が描かれた机を売り物にしようかなぁ……きっと、1つ10万レンで売れちゃうぞ……デュフフフフ……」


 気味の悪い笑い声を上げる父の傍らで錬成陣を描く。

 記憶を取り戻してからというもの、日頃からチョークを持ち歩くことにしていた。

 さてさて、このタオルの粒子の配置は……ふむふむ、劣化しているから乱れているね。

 ランタンの方はどうだろう……良かった、魔力を吸収する粒子は生きているみたい。

 と、なれば粒子を混ぜ合わせるように描く必要がある……。

 チョークを走らせ、ガガッ! と錬成陣が完成した。


「よし、できたっ」

「ルーの錬成陣は何度見ても目が奪われるほど素晴らしいなぁ。宮殿に献上すればきっと、一枚100万レンで売れることは間違いな……」

「それっ、<アルケミー>!」


 父が錬成陣の中へ入る前に、急いで錬成を進める。

 素材がぱああっ! と光りタオルとランタンが粒子にまで分解され、また新しい形を造り出す。

 うん、この前の回復ポーションより手応えがいいね。

 この先、何度か錬金術を繰り返せば調子も取り戻せるはずだ。

 光が収まると、机の上には小ぶりな人形が3体転がっていた。


<錬金魔道具・魔動人形の女の子>:ランクB。タオル生地でできたかわいい女の子人形。帝都で流行りのドレスタイプ。ふわふわした手触りが触り心地抜群。わずかな魔力を込めると動き、暗がりでもほんのり光る。


 よし、上手く錬成できて良かった。

 ふむ……あの素材からはBランクが精一杯か。

 全盛期はどんな素材でもSランクにできたけど、この辺りはまだまだ精進が必要そうだ。

 父も喜んでくれるかな、と思って隣を見ると、またしても父は固まっていた。

 目が点になっており、嫌な予感がする。

 恐る恐る袖を引っ張った。


「で、できたよ、お父たま」

「……びゃあああああ! Bランク!?」


 そう叫ぶと卒倒してしまった。

 ずっとFとかEの低ランクしか見てこなかったので、刺激が強すぎたのかもしれない。

 とはいえやっぱり心配なので、すぐにお水を持ってきた。


「お、お父たま、大丈夫? ほら、お水飲んで」

「あ、ああ、すまないね、ルー。Bランクなんて何年ぶりに見たことか……」


 卒倒はしたけれど、お水を飲ませるとすぐに父は回復したようだ。

 もう大丈夫だとは思うけど……。


「ねぇ、今日はもうお店閉める?」

「いいや、閉めるわけないだろう! ルーの作ってくれた商品を絶対に売ってみせる!」


 父はすっくと立ち上がると、力強く拳を握りしめた。

 その目はメラメラと燃えている。


「じゃ、じゃあ、窓際のところに置いておこうか」


 お人形を持ってお店に戻る。

 相変わらず客はまったくおらず、ガラガラのガラガラなのが悲しくなる。

 願いを込めてお人形たちを窓際のスぺースに置いた。

 どうか売れますように!

 そして、魔力を込めると楽しそうに踊り出した。

 ドレスの装飾は本物の宝石みたく輝いている。

 おお、すごい。

 想像以上に美しいぞ、これは。

 父もデレデレしながら人形を見る。


「お父たまだったら1個5万レンは出しちゃうなぁ」

「さすがに高すぎると思うけど」

「いいや、それくらいの価値がある人形だ!」


 二人で踊る人形を眺めていたら、バンッ! と何者かがガラスに張り付いてきた。

 な、なんだ!?


「お母さーん! ここにかわいいお人形がある!」


 高そうな服を着た女の子だった。

 長い赤毛をお下げにし、くるんとした丸い目で興味津々に人形を見ている。

 少女の後ろからは母親と思われる淑女が歩いてきた。

 ビロードのワンピースにシルクのケープ。

 どこの晩餐会から帰ってきたのかと思ったぞ。


「どうしたの、そんなに駆けたら危ないでしょ」

「このお人形見て! 動いている! これほしい!」

「まぁ、珍しい。こんなの帝都にもないじゃない……売り物かしら? 失礼するわぁ~」

「「い、いらっしゃいませ」」


 淑女と少女が入ってくる。

 一目で貴族の親子だとわかった。

 改めて見ると、貧相なコモン商店にそぐわないほど高価な装いだ。


「あそこに置いてあるお人形は売り物かしら?」

「あ……えと……」


 大事なチャンスなのに、父はしどろもどろだ。

 しょうがないので小声で応援する。


「ほら、お父たま。しゃんとして」

「で、でも、今までこんなにお金持ちそうな人たちが来たことはなくて……」

「大丈夫、聞かれたことだけに答えればいいから」


 そう言うと、父はゴクリと唾を飲んで淑女に向き治った。

 決死の覚悟を決めた顔で告げる。


「う、売り物です」

「良かったわぁ。売り物じゃなかったらどうしようかと思っていたの。では、3体とも買うわ。いくらなの?」

「す、すみません、まだ決めていなくて……」

「あら、そうなの。だったら、1体5万レンではどうかしら?」


 婦人は何の躊躇もなく金貨を取り出す。

 ジャラジャラジャラとカウンターに置かれると、父の目はこれ以上ないほど小さな点になった。


「あ、あ……」

「足りなかったらもっと出しますけど」

「い、いえ! 大丈夫です! それでお願いします!」


 婦人に人形を渡すと、すかさず女の子が奪い取るように回収する。

 ルンルン気分の少女に手を引かれながら、淑女は嬉しそうに帰っていった。


「じゃあ、また来るわね」

「「あ、ありがとうございました~!」」


 彼らが出て行き、静けさの戻る店内。

 私と父は、目の前に積まれた金貨から目が離せなかった。

 占めて、コモン商店2か月分の売上。

 これはとんでもないことだ。

 しばらく棒立ちになっていた父がハッとしたように言う。


「店が終わったら、すぐワイズに教えてやろう!」


 浮足立つ気持ちでその日の商売を終え(あの親子以外の来客なし)、山の家に帰る。

 

「え、えええ~!?」


 金貨の山を見ると母も卒倒したけど、すぐに街へ買い出しに行った。

 AランクやBランクの食材で作られた料理たち。

 父も母も嬉しそうに口へ運ぶ。


「こんな豪華な食事なんて何年ぶりかしら。これもルーちゃんのおかげね」

「まったくだ。さしずめ、ルーは我が家の天使……いや救世主だな」


 その日の夕食は、いつまでも笑い声が絶えなかった。

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