山攻2 BC486 5月
アーシア 策にはまって、気分はズンドコいやどん底。
滅多にないダウナー状態です。
逆にデマラトスさんはアッパー状態。
ついにカルタゴ バルカ家も登場です。ハンニバルの4代前くらいかな?ハミルカルという人が当主です。
=BC486 5月2日 サムニウム族集落、三合目付近 デマラトス=
「第1歩兵隊突入!」
炭焼き小屋の直前で立ち止まった歩兵の盾は櫛の歯のような2列に別れた。
その隙間を縫って第1歩兵隊が前に出る。
すばやく炭焼き小屋に消えていくと、中から次々と悲鳴が上がった。
「偶数隊 2歩前に!盾を組みなおせ!
相変わらず集落からの投槍の攻撃は続いていた。
一瞬にして盾は壁に戻る。
藁の盾には引き続き、槍が突き立っていく。
炭焼き小屋自体は20戸はなかっただろうが、その全てを制圧するのに10分もかからなかった。
「敵、排除完了確認。全体進軍お願いします!」
炭焼き小屋からセレウコスの大声が響く。
その声に従い盾の壁は炭焼き小屋を避けて集落に近づく。
盾の通り過ぎた直後に第1歩兵隊は小屋を脱出、後方にダッシュして盾を拾っていた。
盾を拾った兵は再び俺の周辺に集合を始める。
「負傷5、死者無し、全員が戦闘継続可能です。」
「よくやった。セレウコス。」
セレウコスが第1歩兵隊の状態を報告してきた。
この状態で部隊の状況を、もう報告できるとは、セレウコス、予想以上に腕を上げているようだ。
集落が近づくにつれて降ってくる槍の数が減少してきた。
「軍団長、敵の数が減っているようです。」
「山頂の方に後退しているんだろう。地形を利用して掻き回すつもりだな。」
サムニウム族はおそらく防具らしい防具もなしに山々を走り、機動的にこちらを攻めるつもりだろう。
それに対抗するための山地全周包囲なのだが、山の地形で崖や丘などがあれば、包囲の継ぎ目ができてしまう。
彼らはここの地形を知り尽くしているはずだから、そのような場所で待ち伏せもできるはずだ。
「集落まで押し込んだら作戦を包囲から突破に変えるぞ。ハスターリが前衛、兵は薄くなるが、プリンチペとトリアーリで包囲は維持してくれ。」
最初は十人隊毎に隙間を空けながらの包囲警戒になるだろうが、前線が押し上がっていくにつれ、包囲線は短くなり楽になるはずだ。八合目まで押し上げる頃には再度盾の壁が組めるだろう。
「包囲の指揮はセレウコスに任せる。突破部隊は俺が指揮する。マルクス、補佐に入れ!」
突破用の部隊は魚の鱗のような陣形に変形させて一直線に頂上を目指す。
後方は後からくる包囲部隊に任せて、前進オンリーで突っ込んでいく。
五号目に進むあたりで敵が前方に終結を始め抵抗が激しくなった。
その数200近く、推定される残りほぼ全軍だ。
おそらくこの先に避難民がいるのだろう。
避難民を逃がす時間を作ろうと必死の形相だ。
ここまで碌に攻撃もせず、ただ進むだけのローマ軍に恐怖を感じたらしい。
先頭部隊の盾はもう針鼠そっくりに槍が突き立っている。
新たに突き刺そうにも前に突き刺さった槍が邪魔をして突き刺すことができないほどだ。
重量も楽に30kgはあるだろう。すでに一人ではなく二人、三人がかりで盾を持っているところも見える。
残る戦法は・・・包囲部隊の一部を全力で突破して脱出だろうが、既に敵主力がここに吸い寄せられてしまった以上、無理だ。
「マルクス!敵に降伏勧告。降伏すれば奴隷にして命だけは助けるが、降伏しないなら一人残らず全滅させる。」
マルクスが俺の命令に従って大声で敵に降伏勧告を行う。・・・ラテン語だ・・・敵は理解できたのか?
幸いその疑問は直ぐに敵の怒声と猛烈な槍や石の雨にかき消された。
ちゃんと通じたらしい。
「第19、20歩兵部隊、我に続け!」
後方の2個歩兵部隊を率いて一気に敵主力との距離を詰める。
「歩兵密集陣形は組むな。盾を前方に構えて突撃せよ!」
「混戦に持ち込んだら抜剣!盾はそこに捨ててよし!」
通常は戦士は高い位置の方が有利になるのだが、今回は彼らは背後に避難民を抱えている。
真っ向からぶつかった。
そうなると、やはり防具の有無の差は大きい。
こちらも被害が出ているが敵の被害の方が多い。
ローマ軍には次々と援軍が来る。
最初に着いたのは先頭を進んでいた第13歩兵隊だ。
ようやく重い盾を捨てられてほっといた様子で切り込んでいく。
混戦のまま七号目まで押し込む。
死体を見ると敵3味方1くらいの割合のようだ。
混戦状態を解かせないのを、どこまで維持できるかが勝負の分かれ目になりそうだ。
敵の死体に老人が混ざり始めた。
どうやら避難民に追いついたらしい。
もうちょっとで八合目というところで敵は逃げ出した。
包囲部隊が逃げてきた敵を山頂へ押し上げる。
そこで再度の降伏勧告を行った。
敵はそれを受け入れた。
我々は500人程の奴隷を手に入れた。
「デマラトス様?なぜ彼らを全滅させなかったんですか?」
マルクスが疑問そうに尋ねてきた。
「すでに一度降伏勧告をしています。全滅させた方が・・・」
「彼らが自暴自棄になるのを防ぎたかったのが最大の理由だな。」
もし彼らが自暴自棄なって火を使えば自分たちも焼け死ぬが、我々にも被害が出る。
ある程度の理性は残しておいてもらわないといけない。
それが理由の早めの降伏勧告と、再度の勧告だったのだが・・・うまくいってよかった。
藁の盾は万能ではない。うまく使わないと火の車になってしまう。
「あとは、これからあとサムニウム族を攻略するのに情報を彼らから搾り取るという意味もある。」
既に奴隷なのである。思う存分サムニウム族の情報を喋ってもらう。
「ローマに手を出した報いは安くはないということを、サムニウム族全体に思い知らせてやろう。」
端正な顔に悪魔の笑みが浮かんだ。
=BC486 4月26日 コリントス アリキポス商会 アーシア=
目の前には不機嫌そうな顔をした師匠と困惑顔のレイチェル、心配顔のパンドラと三者三様の表情で返事を待っている人たちがいた。
「あれ、でも師匠?悪いことと最悪なことじゃないんですね?」
ボクの言葉に師匠は頷く。
「いいことではないのはわかるが、口に出したくもないことだからさ。聞けばわかる。」
「じゃあ悪いことからで」
その言葉を聞いた師匠は重い口を開いた。
「カルタゴが動いた。」
・・・カルタゴ?マルタ島で押し込めて、ないのか。今ダイヤ隊は南イタリアだ。
「ここまで素早く動くとは思ってなかった。いまシチリア島攻略部隊と同時にイベリア半島攻略部隊を準備している。」
シチリア島だけでなくイベリア半島も?
師匠は背景から説明してくれた。
もともとカルタゴはシチリアを狙っていたが、シラクサの僭主ゲロンが商会の援助もあって西に進出を始めた。それに対抗してカルタゴは西方諸都市に援助をしていたのだが、一時的にでもそれが途切れた。
その結果カルタゴはより大規模な援助として軍勢を送ることになった。
カルタゴの国内には国内投資派と海外進出派がいるのだが、国内投資派(マゴ家・ハンノ家)はこのところエジプトの興隆による農産品の競合で立場が弱く、海外進出派に押されている。
この筆頭がバルカ家でペルシアからの援助もあったらしい。
さらに、まずいことにイベリア半島にある大規模な金山(メドゥリオ山)のことがカルタゴに伝わったらしい。
金貨という概念がデルフォイのアポロン金貨で確立されたことで、この金に通商上の価値が生まれた。
おかげでカルタゴは完全にイベリア半島経営に乗り気になっている。
・・・まずい、確かに悪い話だ。
イタリアとカルタゴ、ペルシア、入り乱れて地中海の覇権争いだ。
ギリシアはかろうじてまとまっているだけ、アテナイとスパルタ以外の国にも積極的に参加させないと手が回らない。
「手始めにコリントスとテーベに協力してもらいましょうか?」
「コリントスとテーベは協力の代わりにアーシアに市民権取得を要求している。」
・・・それって
「これを受けると、殆どのポリスがお前を市民にしたがって名乗り出てくるぞ。」
・・・よくわからないが?
「簡単に言えば、ポリス間での揉め事があった時にお前にまず調停役が回ってくるということだ。」
うぇーめんどくさそう。
「市民である以上、その都市に不利益なことはできない。多分一人損になるな。」
「すみません。別の方法を考えましょう。」
「俺もそう思う。」
とはいえ、すぐにはいい方法は思いつかない。
「ともあれ、最低の話の方を聞かせてもらえますか?」
ここまで悪い話を聞いた後だとまだ聞きやすい気がする。
「あぁ、うん、そうだな・・・話はそのものは簡単で、ピレウス港の近くの林から若い貴婦人の右腕が見つかった。」
殺人事件?
「その腕の付け根の傷から獣に喰い殺されたらしいことはわかった。」
事故?
「その薬指にキモン家の印章をはめてなければ何事もなかったんだが・・・」
キモン家の貴婦人ってエルピニケ!
「落ち着け。いま彼女の指にあるのはアルクメオン家の印章だろう。」
ボクの様子にたしなめるように師匠が声をかけてきた。
そうだ。確かに。結婚の後は彼女はアルクメオン家に変えていた。
「で、だ、キモン家で調査したが該当しそうな貴婦人がいないそうだ。」
「それって?」
「考え方は二つ、キモン家ではない貴婦人がキモン家の印章をつけていたところを獣に襲われた。」
・・・すごくぎこちないが・・・
「もう一つがキモン家の貴婦人が殺された後入れ替っている。」
そっちの可能性の方が高いな。
「その場合、腕から推測される年齢からすると第1容疑者はエルピニケになるんだ。」
・・・
「もちろんそこまで考えて、キモン家とアルクメオン家を裂こうとした誰かの離間の計ということも考えられる・・・が結婚直前に入れ替わっていた可能性もなくはない」
・・・
「外観ぐらいは変えられるだろう魔女が相手だ。いったろう、最低な話だって・・・」
そういえば昔、レイチェルも体形補正してたな・・・デイアネイラなら可能だろう・・・
「確かに最低の話ですね。」
もしそうなら婚姻の喜びのさなかのエルピニケは殺されて、いやでもそうでないなら貞淑な妻を疑い彼女を苦しめるはめに・・・どっちが正解なのかわからないと態度の決めようもないが、正解が解りようがない。
「それでもお前さんに話したのは、今のヘレネスのリーダーはお前だ。寝室で暗殺されてもらうわけにはいかないんだよ。」
師匠のいつになく真剣な顔が胸にいたい。
「本当に最低の話ですね。」
力なくボクは呟いた。




