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DIVA  作者: メロン味
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DIVA第12章〜第13章

第12章【月ノ宮】

寒い早朝、コウジが眠っていると、玄関のドアが開く音がした。コウジは瞬時にその音に反応する。コウジはリビングへ降りていき玄関を開ける。「……ごめんなさい。」さくなはコウジに謝る。「……僕も……ごめんね……。」コウジはさくなの手を握る。さくなも、強く握り返す。「私が悪いの……。それは、本当だから。あの子を十分に見てあげれてなかったし……」さくなは泣きながらそう話す。「いいんだよ。僕なんて、なんにもしてあげれてないし……。君にあんなこと言う権利なかった…。」コウジはさくなを抱きしめる。「君は頑張ったよ……。本当にごめんね。」コウジのその言葉を聞いて、さくなはやっと心が落ち着いた。「あなたに出会えて良かった…。さくらにも……。」さくなはコウジを抱きしめ返す。「僕もだよ。君とさくらがいてくれてよかった。」コウジはそう言うと、体を離し、さくなの手を握った。「……。さくらのことはちゃんと考えよう。まだ、警察にも言ってないんだよね?」コウジはさくなに聞く。「……うん。」さくなはうなずく。「よしっ。まずはそこからだ。」コウジは受話器を持つ。





シロツメが休日なのでよつばといつもより長めに寝ていると、いきなりケータイが鳴り出した。「うわああああ!!びっくりしたぁ……」シロツメは慌てて滑りそうになりながらケータイを握る。「あっ!もしもしっ!」寝起きで声が少し裏返ってしまった。「もしもし……スパイスです。あなたの息子さんと話したいことがあるの。また、彼だけ家に呼んでもいいでしょうか。」スパイスの声のトーンは、いつもより冷ためだった……あまりいい話ではないのかもしれない……。「あ、は、は、はいっ。もちろんですっ!」シロツメがそう言うと、「良かったわ。待ってます。」そうスパイスが言い終わると、電話が切れた。「……。よし。よつば〜!起きて〜!」シロツメはよつばの体を揺さぶる。「ん〜〜?なあに〜〜〜?」よつばは目をギュッと瞑る。「起きて!スパイスさんが呼んでるよ、」シロツメはよつばを無理やり立たせる。「ほらっ。もしかしたらママやお兄ちゃんの話ができるかもしれないんだから。」シロツメはよつばに服を着させる。「うん〜〜……」よつばは寝ぼけて着替える。




「行ってきまーす!」よつばは学校に行くときはいつもシロツメが抱っこして下に降ろす必要があるくらいには起きない。今日はだいぶ楽な方だ。よつばはみんなより学校が遠いので、もっと早起きしなければならない。



よつばがスパイスの家に着くと、そこには……



「さくらちゃん?!アオキくん!?」


よつばはひと目見たとたん叫びだした……なんと、さくらとアオキはスパイスの家にいたのだ。「こんにちは。よつばくん。また会ったわね……ねぇ、あなた、この子達を説得してよ。家に帰りなさいって。」スパイスはよつばに二人を説得するように促す。「パパが言ったの?!二人のこと!!」よつばはシロツメが約束を破ったのではないのかと心配になった。「いいえ。そんなことしないわ。だって、あなたのお父さんは偉く常識的だもの。少し話すのが苦手そうだけど、それを除けば理想の男性……かもね〜。一途だと思うし、尽くしてくれそ〜。少なくとも私の旦那『様』よりは好印象っ。」スパイスはいやみったらしく言う。「そういえば、グロウがいないでしょう?あの子、めずらしく友達と遊びに出かけたのよ。いつも休みの日は家にいるのにね……」スパイスはニヤつく。きっと嬉しいんだろう。でも、彼の考えていることを理解しているからこその笑みかもしれない。「まあっ!そんなことは置いといて、ほら。あなたが言うのよ。」スパイスはよつばをさくら達の前に置く。よつばはひどく怯えていた。「そうそう、よつばちゃん。この子達に言ってやってよ。もう帰りなさいって」スパイスはよつばの背丈に合わせてしゃがむ。「そっ……そんなぁ……」よつばは顔を真っ青にした。「……。」さくらも、アオキも目を合わせてくれない……怒ってる………?よつばは頭を抱えた。「………。なんでお家に帰らないの?」よつばは二人の前に立ち、首を傾げる。これは威圧的な態度を取ろうとやってことでもなく、本当に純粋に気になったのだ。「……帰るよっ。ちゃーんとっ。」アオキは席を立ってよつばにニヤッとした。その笑顔は絶対に嘘の笑顔だ。返答が軽すぎる。「ほんと〜?」よつばは顔をしかめる。信じられない……。『この』アオキが、本当のことを言うようには見えない……。さくらは顔を伏せたままだ。「そうだ。ねぇ……よつばくん。あなたのお母さん……ハナのいた、DIVAのメンバー……この私の友だちがあなたに会いたがっているの。ねぇ、会いに行ってあげてくれない?ぜひあなたのお父さんとも話したいそうだけど……お父さんは来れそうなの……?まぁ、あなただけでもいいと思うけど。子供のほうが嬉しいのよ、こういうのって。そこの子達も連れてってあげたら?なんなら泊まっちゃえばいいんじゃない?」スパイスはまるですべてお見通しだったかのように話す。彼女の感は鋭い。スパイスのイメージにぴったりだ。「見て。《月ノ宮》ここは有名な温泉街なのよ。私もよく行くの。そうそう。ここに私の友だちがいるの。このメモを持っていきなさい。夢見の駅から1.2時間でつくと思うわ。このメモに書かれてる列車にそのまま乗っていけば、乗換なしで行けるわよ。」スパイスはよつばにメモを持たせた。よつばか一番電車に慣れているはずだからだ。なんせ、あんな遠い田舎から来ているのだから、簡単に行くことができるだろうというスパイスの推測だった。よつば

はメモをじっくり読んで、うなずいた。「うん!ぼく、行ってくる!!はっ!でも、パパに言わなきゃっ……。」よつばは青ざめる。「いいわよ。言っとくわ。」スパイスは微笑む。「ほんと?言わないと、パパ心配で死んじゃうよ!!」よつばは冷や汗をかく。「あら、そんなに気にしいなの?大丈夫よ。そんな事にはさせないから。」スパイスはふふっと笑う。




よつば達はスパイスに見送られ歩き出した。よつばの手は、まだ震えている。少し不安なんだ。本当にシロツメに教えてくれるのか……と。シロツメは心配症だからよつばが帰って来なかったら取り乱してしまうだろう。『パパが一人になる。』これは異常事態だ。せめて、よつばがそばにいてあげないといけない。シロツメはとても脆く、弱い。彼を一人ぼっちにしてしまったら、何が起こるだろう。よつばは考えたくもなかった。パパが一人になると……。パパは寂しくて悲しくなる。ママもみつばもよつばもいない。一人でいることになる。一人……一人ぼっちに。誰とも話したがらなくなるだろう。家にひきこもって一人で孤独に一生を過ごすんだろう。よつばはそんなシロツメを思い浮かべてすごく不安になった。なんなら、泣いてしまいそうだ。「パパ……」よつばはつぶやく。「よつばちゃん?ホームシック?お家に帰ったら??」アオキはニヤついて言うけど……よつばの顔を見て、何かを察した。……そう。『泣いてる』「えっ……えぇ……?ガチのやつ??よつばっ。俺を見ろ」アオキはよつばの顎をもって、クイッとした。


ちょっと意味がわからない。おそらく、彼自身も混乱してこのような行動に出たのだろう。



「うわっ!」


よつばはアオキから慌てて離れた。ちょっと照れてる……?


「ときめき」



よつばはなんか、そうつぶやいた。「俺にときめいた?すっげー。さすが俺だなっ。さくらん♪」アオキはさくらの肩を叩く。「なんであたし。」さくらはアオキを睨む。「あんら〜?悔しくないのかしらっ!『あたしのよつばを奪うなんて……許せないっ!』」アオキはめをぱちくりさせてさくらのマネ(?)をする。そして、ぎゃははは!とムカつく笑い声を放つ。「別にそんなこと思ってないから。」さくらは不機嫌に答える。「すねてんの〜?お前今日ずっとそんな態度だよな〜?や〜だ〜女の子ってめんどくさ〜い♪」アオキはまた目をぱちくりさせてかわいこぶる。さくらはアオキをもっと怖い顔で睨む「もういい。勝手にしてれば」さくらはそっぽを向く。「見て!駅だよ!」よつばが指を指す。「おっ。行こうぜ。よつばっ。さ〜くらちゃ〜ん!!行くわよぉ〜」アオキはさくらをわざと大声で呼ぶ。「わかってるつーの」さくらはアオキを睨みつける。三人は、電車に乗り込む……。


「月ノ宮って前に行ったことあんかもしんねーんだよな〜。」アオキが話し出す。「そーなの!どんなとこ!」よつばがアオキに期待を膨らませる。「そ〜だな〜……なんか雪積もってた。そ〜そ〜家族で旅行で行ったんだ。その、月ノ宮っつーのに。」アオキは頭の後ろに腕を組む。「きれーだった!」よつばはアオキの話に興味しんしんだ!「あー?おん。キレイだったぜ……」アオキはよつばにカッコつけて微笑む「うわああー!《カッコいいー!!》」よつばは顔を手で覆う。よつばのその言葉を聞いて、アオキはなんだか恥ずかしくなった。「へ、へー。そー……。」アオキは照れているのだ。そんな、本気で、カッコいいなんて?言われたことなかったから……。アオキがそんなふうに照れられたのはミルク以来。アオキは自分を本気で思ってくれる人に弱いのだ。「あら。あんた、いつもより弱気ね。」さくらはニヤッとする。「はっ?!んなわけねーし!俺は……」アオキは窓の外を見てごまかす。「なによ。もしかして、照れてるの?」さくらはアオキに問い詰める。「てれてっ!?ちがう!!ちがう!!そんなわけねーじゃん!!あはっ……。俺って、罪な男だよな〜……あ〜……」アオキはさくらから目をそらして言う。でも、余裕はなさそうだ。アオキは汗だくで、顔も赤かった。「アオキくん、なんか熱いよ〜アオキくんが汗かいてるから?なんか、《くさい》よ〜」よつばは何食わぬ顔で言った。


「くさっ……?!」 バタンッ


アオキはショックで気絶した。「あははは!!」さくらは涙を流して笑う。よつばはさくらが楽しそうに笑っているところを見たことがないので、少し動揺した。「あ〜!本当にコイツバカ!!あはははっ!!」さくらは面白くって面白くって、電車の中で爆笑した。「おい。お前……」気絶したアオキが蘇った。「あ、……あんたって、本当にバカだわ!!面白い……っ。ふふっ」さくらはアオキの顔を見るなり笑いを抑えられない。「お前、そんな馬鹿笑いできるやつだったんだな。てっきり怒ることしかできないのかと、」アオキはさくらを睨む。「うふふふっ。くさっふふふふ……」さくらは顔を伏せる。「てか、俺、そんな臭ってんの………?」アオキは不安そうによつばに聞く。



「うん」

よつばは真顔でうなずく。「うそだ〜……」アオキは自分の腕をためしに嗅ぐ。「っ?!おえぇ〜!……まじかよぉ〜…」アオキは大人しくなった。「あ〜おもしろい。」さくらは笑いが収まったのか顔を上げた。「さくらちゃん……おもしろかったの?」よつばは首を傾げる。「うん!」さくらは満面の笑みで答える。「!」よつばはとても嬉しくなった。こんなに笑える人だったんだ、さくらちゃんは。まさか、こんな事で笑うなんて……。さくらはいつもの無機質な笑顔ではなく、優しい笑顔をしていた。自然で、本当に楽しそうな。さくら自身もこんなに笑ったのはいつぐらいだろう、というくらい笑った。さくらは家でテレビを見ていても学校での行事でも楽しいとは思えなかった。でも、こんな些細なことで笑えるなんて、いつぶりだろう。もう何年も笑ってないかのように思えてくる。本当に世界がモノクロだった。さくらにはそう見えていた。


ゴォォォォ……

「あれっ」よつばは窓の外を見る。……まっくらだ。「トンネルよ」さくらはよつばに呟く。「トンネル……!通ったことないんだ〜!!」よつばは楽しそうに見つめる。「……」アオキは耳をふさいでいる。「どーしたの」さくらはアオキに問う。「……。トンネルやなんだよ。耳、ヘンになるからっ。」アオキは目をぎゅっと瞑る。「うあああ〜〜!!うるせ〜〜!!」そう。トンネルはうるさい。声をはらないとなんにも聞こえない。「あんた。こーゆーの苦手なんだ。」さくらは興味深そうにアオキを見る。「あ?お前はやじゃねーのかよ。」アオキはさくらを睨む。「うん。好きじゃないけど、この景色は好き。窓ガラスに自分が写って、周りの人も見えて、見えなかったものが目の前にあるような気持ちになるの。自分を見つめ直してる……みたいな?」さくらは窓ガラスの自分を見つめる。ピンクの髪で、青い瞳をした少女。さくらは無心で彼女を見る。暗い世界に、自分が写って見える。まるで、そこに閉じ込められてるみたいだ。この感覚は神秘的でどこか不気味でもある。もう、ここから出られないんじゃないかと思うくらい、不可思議な感覚だ。電車はそんな気持ちにさせてくれる。特に、一人で遠出する時はもっとこの感覚を強く感じるのだろう。まるで、自分ではないみたい……。さくらは窓ガラスから目をそらす。



ヒュオッ


と音がすると、いきなり明るくなった。今までの暗い世界が一気に明るく染まる。もう、あたりは夕方だった。そして、周りには雪が積もっていて、まるで異世界に迷い込んだかのような気持ちになった。「うわぁ……キレイ……」さくらは小声でつぶやく。「雪だ〜!!」よつばは雪に大興奮だ。「えっ〜冬でもないのに雪……?」アオキは首を傾げた。「ていうか、あたし達、ここに来てどこへ行くの?」さくらは窓ガラスを見ながら言う。「しらね。適当にどっか探そうぜ〜」アオキは適当に言う。「『適当』だったからスパイスにバレたんじゃない」さくらはアオキを睨む。「まぁ〜ね〜」アオキは適当に流す。「はぁっ……。ていうか、あなたのお母さんって、DIVAの『ハナ』って聞こえたんだけど……本当にそうなの……?」さくらは半信半疑で聞いた。「うん!ママはハナだよ!」よつばはにっこにこで答える。「へぇ〜……行方不明のでしょ……。ニュースで見た。」さくらはよつばから目をそらして言う。「そう、ママいないの。」よつばはちょっと寂しそうに言うけど、『ママがいない』に慣れているのであまりよくわかってもいない。「ほら、降りよ。」さくらはよつばの手を引く。「うん!」よつばはさくらについていく。アオキもニヤつきながら二人に続いた。



「あら〜!もしかしてアンタたちが例の子……?」


紫の髪をした大柄な女の人がよつば達にかけよってきた。「こんにちは!スパイスさんから話は聞いてます!」と、オレンジ髪の小柄な女の人もいた。「……?」よつば達は少し困惑してしまっていた。「あっ。いきなりでびっくりしたわよね。アタシは『キャリーナ』。」キャリーナはもう一人の小柄な女の人に目配せする。「あっ!はいっ!私は『オリーブ』です!!」オリーブはよつば達に握手した。「今日は家に泊まってらっしゃいな。ほら、こっちよ。」キャリーナはよつば達を案内する。「ここがアタシの家!!ちなみに、オリーブちゃんと一緒に住んでんの!」キャリーナは自信満々に話す。「すっげー!!豪邸じゃん!」アオキは目を輝かせる。「でしょでしょ〜♡めっちゃお金かかったの〜〜このために貯金しといて、良かったわ〜♪」キャリーナはアオキにうなずく。「へぇ〜そうなんっすね〜。いいなぁ〜俺もこんな家に住みてぇ〜な〜」アオキはこの家のトリコだ……。「さくらちゃん!ホテルみたいだねっ!!きれいなお部屋だよね〜!ホテル!」よつばはハナがいた頃に行ったホテルを思い出していた。すごくキレイな部屋でお姫様が住んでいそうな場所だった。そこで、シロツメと二人で大理石でできたお風呂に入ったことを思い出した。よつばはシロツメに色んなことを話した。旅行先であったこと、このホテルが好きってこと、このお風呂が気持ちいいってこと。シロツメは前のめりになり、よつばの話をニッコリ笑って聞いていた。まるで、見惚れているみたいに。「そろそろ上がろうか。」シロツメはよつばにそう微笑んだ……ところまでは覚えているが、その後は覚えていない。でも、その時間がよつばにとって好きな時間であったことは間違いない……。パパは大丈夫かな。





シロツメはよつばが帰ってこないとソワソワしていた。もしかして、誘拐?また行方不明??シロツメはいまにも爆発してしまいそうだった。


すると、彼のケータイに電話がかかってきた。「はいっ!もしもし……」シロツメは緊張して答える。「私です。スパイスです。」スパイス……さん……シロツメは心から安心した……彼女からなら、まだ、安心だ。「あっ、いつも息子がお世話になってます……」シロツメは自信なさげにいう。「いつもって……まだ出会って1ヶ月も経ってないわよ?」スパイスはそう言った。「あ……あはは……そうですよねぇ〜ははっ……」シロツメは、もうダメだ。「ところで、よつばくん、また違うDIVAに会いに行って、おそらく泊まりになると思うわ。今帰ってくるとなると、だいぶ遅くなるし。『お友達』もいるからね。」スパイスは少し意味深にいう。「友だ……」シロツメはまっさきにさくらちゃんが頭に浮かぶ……「……なにか思い当たるの…?」スパイスは感が鋭い……声のトーンが変わった。「いっいえ?!別に……そんなわけ……」シロツメはしどろもどろになる。「まぁ、いいわ。ひとまず安心してちょうだい。あなたの息子さんは無事だから。あなたは……ちょっと休んでなさい。色々と疲れたでしょう。ハナのことや、子供のこと。あなたはよく頑張ってるから。私達も……色々と不安だけど、きっと大丈夫よ。……切るわね。」スパイスがそう言うと、電話は切れた。シロツメは大きなため息をついた。ソファに一人座り込み……コウジの電話番号を見つめる………家族に会えない辛さは同じ……わかってる。わかってるはずなのに……、きっと、コウジがさくらに会えば、彼はとても喜ぶだろう。……でも、さくらはどうだろうか。さくらはコウジ達に会いたくないから逃げ出したんだ。………ということは、さくらは彼らに会いたくない……。もし連れ戻してしまえば彼女はせっかく逃げ出したのにまた縛られる日々を送ることになる。シロツメは親というものを知らない。自分が親となっても何が正解なんて、わからない。さくらのその勇気を無駄にはしたくなかった。だって、結局人間は一人で生きていかなければならない。家族でいられるのもそう長くはないからだ。だとしたら、今のうちから一人で生きるすべを学んでいけば後々苦労することが無くなるかもしれない……。早いうちから学ぶほど効果は強いはず。でも、シロツメはこれ以上考えられなかった。今日は、適当にご飯を済ませて眠りにつこう。そう決心した。






       第12章終わり





第13章【ゆりとマリア】



「……?」ゆりは、目を覚ます……。「今何時だ……?」ゆりは時計を見る。「あっ……?朝の……5時……?あぁあ〜…もう、今日も寝不足だぁぁ〜……」ゆりは布団から出る……と、赤いドレスを身にまとっている。「ちっ。『あの女』のせいだ。」ゆりは鏡に映る自分を睨む。ポニーテールに髪を結んだまま寝ているので、髪もボサボサだ……。ゆりは髪ゴムを外し、いつもの三つ編みに整え、制服に着替えた。こうすると、遅刻の確率が少しでも下がる。「今日は……あと2時間は寝れるカナ……」ゆりはヘトヘトでベッドに戻る。ゆりが言う『あの女』とは、『マリア』の事だ。マリアはゆりのもう一つの人格のようなもので、主に夜中に活動している。そのせいで、ゆりはいっつも寝不足なのだ。マリアは温泉街を歩き回ったりするので近所で噂になっている。なんせ、あんな派手な格好で町中を歩いていたら、確実に目立つ。でも、ゆりだとはバレていないのが唯一の安心だ。……だが、こんな生活は長くは持たない……。一刻も早くマリアをなんとかしなければ。ゆりは少しマリアであった時の自分の記憶を思い出すことができる。それは、マリアも同様にゆりの記憶を少し思い出せる。でも、双方、鮮明には思い出せない。ゆりは、マリアが正直嫌いである。ゆりはいつもマリアに振り回されてばかりだ……。ゆりは今日も置き手紙を確認する………もちろん。自分宛て。正確に言えばマリア宛ての手紙だ。自分自身と会話ができるはずがないので、マリアとは紙で会話を試みている。『今日は外に出ないで。』とゆりの字。ゆりの字は実は綺麗。『まぁ、いいよ。今日は。』と、マリアの字、マリアの字は汚い。たまに何が書いてあるかわからない事もある。今回はまだマシな方だ。本当にこれが自分で書いたものなのかと頭を抱える。同じ身体でこんなにも違うのか……。ゆりはいつもついつい考え込んでしまう。



そして、直近の置き手紙……『昨日はありがとう。今日も寝てくれる……?』とゆり。『今日オレ、用事があんの。だからムリ』とマリア。ゆりは大きなため息をついた。「何が用事があるだよコノヤロー……」ゆりは抑えきれない怒りをなんとか鎮め、目をつむる。もう寝よう……と思った瞬間



「ゆりちゃ〜ん?起きてる〜?」


今度はあの女かよ!とゆりは心の中でイライラした。「うん〜リン『さん』〜っ……」ゆりは急いでその声の主のためにドアの鍵を開けた。「今日……早いね。何時に出たの?」ゆりはヘトヘトで彼女に聞く。リンはゆり達と違って学校で寝泊まりしない人なのだ。「ん〜……今日は寝れなくて、どうせなら早く着いちゃおっかな〜って。ゆりちゃん早起きだし話せるかな〜って……。」リンは微笑む。ちげぇよ。早起きしてるんじゃなくて寝れてねぇんだよ。と、ゆりはイライラした。寝不足だからか、敏感に反応してしまう……。「で、なに。」ゆりはリンに強めに言う。「あっ…あのね…。……別に、何でもないんだけど……」なんでもないってなんだよ。ふざけんな。こっちはもう体中痛いんだよ。早く寝かせてくれ。用がないなら来ないでくれ。ゆりはうとうとしながら話を聞く。「……。うん。なんでもない。」リンは意味深に笑う。は?なんでもないわけないだろ。その感じ……。ゆりは戸惑った。「えっ……じゃあ、なんで来たの……?」ゆりはリンの顔を覗き込む。「いいの。気にしないで。こめん、勝手に部屋に押し入って。」リンはドアを閉めて足早に去っていった。はぁ〜寝れる〜とゆりがドアを閉めようとすると「ゆ〜りちゃんっ」『アオハ』がそのドアを抑えた。


いやいやよりにもよってお前かよ!

ゆりはアオハにビンタしたくなったが、必死に抑えた……。「なんだよ……」ゆりは目をこする。「い〜やっ。最近変だなぁ〜って思って。」アオハはニコッとする。うわぁ…爽やかすぎてムカつく……。ゆりは腕を組んだ。「なにが。」ゆりはアオハを睨む。「いや……あのさっ。ゆりちゃん、授業中寝てばっかだよね?前よりひどくなってるよ……。ちょっと今日は休んでみたらどうかなって……。」アオハは困って笑う。「……そうね。最近……私、変なんだ……。今日は休んじゃおっかな。」ゆりは、ふとアオハを見る。アオハはこんなゆりを優しく見つめてくる。「な、なに。気持ち悪い」ゆりはアオハから離れる。「えっ?!いっ……いやぁ……そ、そうか〜…」アオハもゆりから距離を取った。「まあ、まだ時間あるし、ゆりちゃんが決めたら?」アオハはまたニコッと笑う。すると、一瞬ゆりに異変が起こる。「そうだな。『オレ』が決めるよ。」ゆり(?)はアオハはじぃっと見つめる。「ん……?うん。それがいいよ。」アオハは部屋を出た。「!」ゆりはアオハが出た途端、意識が戻った。「ああああぁぁぁ〜!!最悪っ!!」ゆりは頭を抱えた。そう……マリアが出てきていたのだ。夜しか出てこないはずのマリアが今出てくるなんて……?昼間に出てきたら、どうしよう!ゆりは枕に顔を埋める。穴があったら入りたい。どうか私を無かったことにしてください。もう消えたい!ゆりはひたすら被害妄想に明け暮れた。「今日は……休も……疲れたよ……」ゆりは震える手をケータイへ伸ばす。「!届かねぇー……っ!」スマホはベッドと少し距離があって届かない!!「いだだだだだ!!」ゆりは腰を抑える。体をベッドへ伸ばしすぎた……ので、普通に立って取った。「え〜っと……学校のメールに送らなきゃなんだっけ……」ゆりは一生懸命ケータイは触る。「お〜っ!よしっ。できたぞ。あとは寝るのみ……」ゆりはベッドにぶっ倒れた。「もうねれそ〜」ゆりは目をつむり、夢の中へと入って行った……。



が。奴は目覚めた。

「………。よぉ〜し。ちゃ〜んす……」ふらつく体をマリアは起こす。「おしっ。行くかぁ」マリアは歩き出した。マリアは外へこっそりと先生達にもバレず、うまくすり抜けた。この女はずる賢い。マリアはするりと校門を抜け、とりあえず町中を歩いてみた。この時間はあまり人はいない……月ノ宮はよく雪が降るので、今日は寒い。マリアも例外ではなかった……「さっ……さむっ………」マリアは体を腕で覆った。……でも、まだ足りない………。当たり前だ。マリアは腕も足も多く肌が出ている。こんな格好でこんな気温に外に出るなんて馬鹿だ。マリアは、鼻水を垂らしながら歩く。寒い……寒い……頭の中はそれでいっぱいだった。ひとまず、マリアは財布を握りしめて、温泉街へと歩みだす。寒い…寒い…!なぜこんなに寒い?!マリアはまったく自分のせいにはしなかった。



温泉街に着くと、ほんのりと温かい。人もそれなりに居た。いつものマリアが見ている夜の温泉街も賑やかだったが、これはこれでいい。マリアは賑やかな場所が好きだ。色んな人の他愛のない話を聞くのが好きだ。マリアはすれ違う人達の顔を無心で見つめる。この月ノ宮には老人が多めだが、たまに家族で来ている人も見る。観光客っぽい人、地元の人、様々な「人」がいる。ここにいると、自分も人々の輪に入れている気分だ。マリアは今日はどこに入ろうかと悩んでいた。


「ちょっと、おじょうさん。それ、風邪ひくよ」

マリアは呼ばれて振り返る。「え……?オレ……?」マリアは動揺している。「……?当たり前でしょ、こんな寒いのにそんな服を着て。来なさい。おごってあげるから。ただし、ちゃんと返すのよ。」と、《キャリーナ》は言う。「あいっ!『おばさん』っ!」マリアは無邪気に笑う。まるで、野原をかける少年みたいに。「あぁ?『おばさん』だと?!ゴラァ」キャリーナはマリアを睨んだ。「まぁまぁ……キャリーナさん……まだまだ現役ですから……」オリーブが、それをなだめる。「……そうねっ。次そんな口を聞いたら許さないよー!」キャリーナはマリアに忠告する。「ういー」マリアは適当に返事する。「んっ?」マリアは気になるものがあった。キャリーナのあとに続いて歩く……子供の姿。「あの……おばはん。このガキどもは?」マリアは不思議そうに尋ねる。「だーかーらっ!!………それはおいておいて、この子達は泊めさせてあげたのっ。今日はもう帰るわ。最後に温泉にでも入れてあげようかと……ん?電話…?」キャリーナはケータイを取り出し、電話に出た。「もしもし…?あっ、スパイス??……うん、……うん……。あぁ………へぇ、………うん。…わかった。二人は泊めておくのね。うん。うん〜!じゃあまたね〜」キャリーナはケータイをしまう。「よつばくん、もう帰った方がいいって。帰り方、分かる?」キャリーナは優しくよつばに聞く。「……?そ~なの?うん。わかった。」よつばは歩き出した。「また遊びに来てね〜!」キャリーナはよつばに手を振る。「それで……あんた達はまだ帰らなくっていいらしいわよ。……なんでかしらね?……まぁいいわ!こんなところで立ち話もなんだし、もう入りましょっ!」キャリーナはマリア達を銭湯に入れる。マリアが入ったその場所は、入ったことのない銭湯だった。「いらっしゃい!」そこにいたのは……『ユキコ』?!「あれ……?ユキコさん……なんでここに……?」さくらは首を傾げる。「?まぁ、気にせぇへんで。」ユキコは笑って言う。「気にしすぎ。そんなんだから、避けられちゃうんじゃない?」アオキはさくらに言う。「……?へぇ……?うん……」さくらは納得いかないが、とりあえず飲み込んだ。「あっ!そういや、よつばくんがいないから、アンタ一人になっちゃうわね……。一人で入れんの?」キャリーナはアオキに聞く。「?全然いいっすよ。一人でもう入れます。何歳だとお思いで……?☆」アオキはカッコつけて言う。「あらぁ〜偉いわねぇ。うちの子はまだ一人で入れないのよぉ〜そのくせに一緒に入るのには嫌がるんだから、ほんと、疲れちゃうわ〜。じゃあ、大丈夫ね。終わったらここで待ってるのよ。この銭湯からはぜっっったいに出ちゃだめだかんね!!」キャリーナはアオキに言う。「もちろんですともぉ!」アオキはそう言って風呂場に走る「走ると転ぶよー!あるきんさい!」キャリーナはアオキに叫ぶ「あーい」アオキから空返事が返ってきた。「まったく……男の子ってああなんだから……さぁ、入りましょっ」キャリーナはマリア達を風呂場に押し込んだ。




「はぁ〜いいわね〜……」キャリーナは露天風呂に浸かって遠くの夢見町を眺めながら言った。「ほんと〜ずっとこうしていたいな〜」オリーブもとろんととろけてしまいそうだ……。「……。」さくらは熱くて、(出たいなぁ……)と思っていたが、口には出せなかった。ふとした瞬間にゆりは戻ってくる。「!」ゆりは周りを見渡し、記憶をなんとか遡らす。あぁ、そうか。マリアが外に出たせいでこんなことに……ゆりはうんざりした。でも、温泉はやっぱり気持ちいい……。ゆりもみんなと同じようにゆったりとお湯に浸かる。





一方、アオキは夢見町の景色がよく見える位置でお湯につかっていた。アオキはあまり人の近くによりたくないので、はしっこを選んだらこうなってしまった……。あそこには家族がいるのだろうか。心配されてるのだろうか、そもそも自分に興味があるのだろうか。アオキはそんなことを考えていた。「はぁ……」アオキは深いため息をついた。もう、いっそのこと家族全員が自分がいた記憶だけ失ってくれればいいのに。とおもった。帰りたくない……会いたくない……でも、ここはアオハの通う中学がある……アオキは不安になった。





アオキは風呂から出ると、キャリーナ達がそこにはいた。「あんた、ゆりってんの?いいねぇ。素敵な名前。」キャリーナはゆりに微笑む「あっ……あはは……名前だけが取り柄なもんで……あははっ……。」ゆりは照れてる……?のか自分でもわからないが、とりあえず笑っておいた。「あんた、『ここの中学校』の子でしょ。」アオキはキャリーナのその言葉にビビッた。「あっ、はい……そうです…。今日は少し体調が悪くて……」ゆりがそう言うと、キャリーナは顔をしかめる「体調悪いのに、あんな格好してんの……?」ゆりは急いで弁解した。「あっ!!そ、それは……なんか……上に着るものとか忘れちゃって……ほんとにそれくらい追い詰められてたんです……っ!!」ゆりは冷や汗をかいて話した。「……?ふ〜ん……ただ、そんな格好して外を歩き回ったら危ないからね。良くない人もいるのよ。」キャリーナは優しくゆりに言う。「はい……すみません……」ゆりは、なぜ私が謝らなきゃならないんだ!謝るのは『アイツ』だろ!と思った が、言葉には出せなかった。



「ねぇ〜ゆりさん。ちょっと聞いて聞いて〜」



アオキはゆりを他人からは聞きづらいところに引きずり込む。「なぁ、俺達のことそのチューガクに泊めてよ。もう泊まるばしょがねぇんだ。あるにはあるけど、時間の問題。いいでしょ〜?ネッ!!」アオキはゆりを目をパチパチさせて見つめる。「え〜??なにそれ、……家出してるの!」ゆりは割と大きめの声でいう。「言わないでっ!……。秘密なんだ……みんなには……ひ・み・つ★」アオキはまた媚びを売るようにゆりを見つめる。「おねが〜いおねが〜いおねが〜いおねが〜い」アオキはゆりにまとわりつく……。「……なんか、よく、わからないけど……。……あっ。そーだ。じゃあ、私の頼みを聞いてくれないかなぁ」ゆりはニヤッとする。「えっ?なにっ?!俺をぶつのっ?!ヤメテッ!」アオキは叫ぶ「ちがうよ!そんなことしないって!とりあえず……なんとか学校の私の部屋まで送ったら説明するから。」ゆりは嬉しそうに話す。「じゃあ、そろそろ帰りましょっ。」キャリーナがアオキ達を連れて行こうとすると……。「待ってくださいっ!その子達、実は私の……いとこなんですっ!」ゆりは苦笑いする。「えっ…?ちょっとまっ!」アオキはさくらの口をふさぐ。アオキはさくらに目配せして伝える。「……。」さくらはとりあえず、それにしたがうしかない。アオキはゆっくりとさくらの口から手を離す。「だから……私が家族に送り返しますっ!」ゆりは汗をだらだら流しながら話す。もう怖すぎて、頭がパンクしそうだ。「あ〜っ!よかったぁ〜。じゃあ、送り届けてあげてっ!すごい奇跡ねっ!また会いましょうね〜!楽しかったわ♪」キャリーナはさくらとアオキの頭を撫でる……。二人はキャリーナの温かい手に…なんとも言えない感覚になった。こんな気持ちは何年ぶりだろう?しばらく味わってなかったな……。「じゃっまたっ!!」キャリーナはゆり達に手を振る。「うん〜!またぁ〜!」ゆり達もキャリーナ達に返す。




「……キャリーナさん…本当にいとこなの……?あの子達……似てるようには見えないんだけど……」オリーブが恐る恐る聞く。「ん〜?似てない親戚なんて、山ほどいるわよ。私の親戚にも、山ほどいるのよ〜だって私以外みんな小柄なんですものっ!!あたしだけよ!こんなでかいのっ!」キャリーナは必死に叫ぶ。「そっ、そうですか……(また変なスイッチ入れちゃった……)」オリーブは引き気味に言う。







「あなた達にお願いしたいってことはね……」ゆりはわざわざ絵に描いて話してくれるようだ。(でもゆりには芸術センスがない)「そう!この『マリア』っていう存在を寝かせてほしいの!マリアっていうのは、私の中にある……私……だけど、私……じゃない……なんか、……そのぉ」「第二人格?」アオキが堂々と言う。「あっ……!まぁ、そんな感じ……。とにかくそれを外に出さないで眠らせてっ!!何があっても外には出すなってこと!わかった?!あなた達はアイツが寝るまで寝ちゃだめだからね!」ゆりは強めに言う。「は〜い」さくらとアオキはとりあえず返事をした……。「頼むから、まじで。今日は寝かせてくれよ〜……」ゆりは布団に入り、目を閉じた。




さくらとアオキは、部屋を暗くしてゆりの様子を観察し始めた……。






        第13章終わり

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