DIVA第30章〜第31章
第30章【本当の歌姫】
「さくらちゃん?」よつばが驚いてさくらを見る。さくらは、気にせず、歌を歌う。どこかしら安心したような顔で。「………!」レインがさくらに気がつく。「どうして……。」レインは、一言それだけ言った。DIVAたちは、固まってしまう。特に、スパイスは。シロツメは頭が真っ白だった。目には見えているのにな、頭で何が起こってるか、まったくわからない。
さくらは、声を大事に大事に手の中に収めると、よつばがやっていたように、胸の中に押し込める。さくらはおだやかに微笑む。そして、光がさくらを包み込み、まぶしいほどに輝く。
さくらが何をしているのか、わからない。ただ、呆然と見ることしかできない。何を思い、何を感じているのか、まったくわからない。さくらはいつも何をしていたんだろう。どこかでなにかを見失った。
さくらの体を包む光は薄れ、彼女の姿が見える。……でも、さくらの体は今までのさくらじゃなかった。大きな大人の姿になっていた。まるで、DIVAのように。さくらは、今までで1番幸せそうに見えた。さくらは、なんどもなんども歌を口ずさむ。本当に、幸せそうだ。今、この世界で1番安らかな時。さくらは、すべてを手にいいれたような気持ちだった。さくらは、もう自由。体をふわりと宙に浮かばせて、自由に好きなところへ行ける。どうしてだろう。こんな気持ちは初めてだ。やっと満たされた気がする。幸せだ。これ以上の幸せはない。さくらは高く高舞い上がる。これなら、空にも手が届きそう。なんて素敵なんだろう。夢の中にいるみたいだ。もう、誰も私を見つけることができない。それでもいいから、この感覚をずっと感じていたい。さくらは、目を閉ざす。
「さくら」彼女の名をつぶやく聞き慣れた声。ずっと、聞けなかった声。その声はコウジの声だった。「お前は……誰だ……?僕の娘は……お前じゃない……。誰だ……。誰…………。」コウジは、寂しそうにさくらを見る。「あなた……っ。」さくなは、コウジにしがみつく。さくらは、放心状態になった。さくなとコウジ。2人は、きっと、今本当にさくらをきらいになった。さくらは2人を見つめた後、ものすごい勢いで部屋を飛び出す。「待てっ!!さくらっ!!」コウジはさくらを止めようと彼女に触れるが、さくらが早すぎて捕まえられない。「さくらっっ!!」さくなの呼ぶ声も闇に溶けていく。「あぁ……。さくら……。」さくなは、しゃがみこむ。「コウジさん……。なぜ、ここに?」シロツメが、コウジを見る。「あぁ。シロツメさん。僕、サキさんって人に言われて来たんです。あなたもそうなのか…」コウジは生気のない顔で話す。「さくらは、もう、戻ってこない。もっと早くあなたに聞いていればよかった。」コウジはうつむいてどこか遠くを見るように言う。「もう、やめてしまおうか。なにもかも。」コウジは、窓の外を見る。
「コウジくん」
シロツメがコウジを強く呼ぶ。「なにを考えている。そんなことしたって、逃げたって、何もできないよ。君は奥さんを残していく気か。いつもいつもそうしてきていたのに。君が望んでやってきたことじゃないのはわかるけど、それは駄目だ。君はあんなに仕事ができるのに。あんなに人と話せるのに。どうして1番大事なものに目を向けられないんだ。1番大事にして、1番見ておかなきゃならないものを。コウジくん。やめろ。」シロツメは、コウジを真剣に見つめる。「……っ!!もうむりだ……もうできない……」コウジはしゃがみこむ。「これ以上、僕に何ができるんだ……。もういやだ……。どうしたって何も変わらない……。できることはやったんだ……もう、解放してください…。」コウジは涙を流して、肩を震わせる。「さくらちゃんのパパ。」よつばがコウジの背中トントンと叩く。「……え」コウジは、曖昧な意識で話す。「ぼく、さくらちゃんと話したいです。さくらちゃんはぼくの友達だから……。」よつばはそういう。「………え。友達?さくら……の…?」コウジは、よつばを見るなり、涙が溢れ出る。顔が……もはや顔が全く見れない。せっかくのさくらの友達なのに。「あの子を……そう思ってくれるの?」コウジは、無理やりに笑って聞く。「うん。」よつばは、真剣に答えた。「あぁ……。」コウジは、思わずよつばを抱きしめる。よつばは、びっくりしたけれど、悪い気はしなかった。さくなも口を抑えて立ち上がれもしないほど泣いていた。ただ、友達だからと言われただけなのに。でも、さくらにはそんなことを言ってくれた人は今まで誰1人としていなかった。さくなとコウジは、自分のことのように嬉しくて、涙が止まらないんだ。「よつばくん……。ありがとう。君がいてくれて、幸せだ。おねがい……助けて。僕たちには、もうどうしようもできないんだ。」コウジは、よつばに申し訳なさそうに言う。「うん!!さくらちゃんを、おうちにかえそう。パパとママに、会わせたいの。」よつばはとびっきりの笑顔で言う。「うん……」コウジはそれだけ言うと、腕で涙を拭いて、立ち上がる。「僕は大人だからね。ずっと泣いていられないんだ。」コウジは微笑む。「そうなの?パパはいっぱい泣いてるよ」よつばはシロツメのことを言う。「……そっか。頑張ってる証だね。」コウジは微笑む。笑ってないと、やっていられない。
よつばたちは、とりあえず廊下を歩いていた。レイニーズも一応同じように協力している。「さくらちゃんは、どこにいるの?」よつばが首をかしげる。「しらねーよ。あんなやつ。」アオキは、怒って言う。「………ハナの声、全部さくらちゃんが持ってるってことよね。どうしてかしら……。どうしてあんなことしたんだろう。」ゆりは、深刻に悩む。「さくらちゃん、ママの声……返してもらわないと……。」よつばは、寂しそうに言う。だって、ハナの声がなければ家に帰れないし、さくらを帰せない。「はぁ……こんなことになるなら、おうちに早くみんなで帰りたかったなぁ。だって……。早くいえに帰ってれば、さくらちゃんはここにいたはずなの。」よつばは、悲しそうに言う。「………どうでもいいだろ、あんなやつ。」アオキは鋭く言う。「……。そんな……。」よつばは、悲しそうにアオキを見る。「お前のかーちゃんの声、盗んだんだぞ?あんなやつ、サイテーだろ。もう二度と顔も見たくない。」アオキはめずらしくよつばに怖い顔を向ける。「えぇ……。」よつばは、悲しい顔をする。「……。」アオキは、目をよつばから背けた。よつばも、反射的に目を逸らした。「……ごめんね、アオキくん。」よつばが、そう言う。「……なんで。」アオキがそう返す。「え…」「なんでお前なの。謝るのはアイツだろ。」アオキは、イライラしているものの少し優しめに言う。「……。そっか」よつばは、そうやってちょっと微笑む。
「レイン、どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」スパイスがレインを問い詰める。「……。」レインは口を開かない。よつばが持っていた、レインの日記が落ちていて、DIVAたちがそれを読んでしまったのだ。夫がいたなんて……聞いてないわよ……」スパイスは続けて言った。「そうよ、レイン。あたしたちにも……話してよ……」キャリーナもそう言う。「もっと早く言ってくれていれば、よかったのに……。」オリーブは、寂しそうに言う。「……………ごめんなさい。」レインは小声でそうつぶやく。「……はやくあの子を見つけましょう。それからよ、」とスパイスは言う。「やっぱり、あの子は歌が好きなんだ。」スパイスはそうつぶやく。「歌が好き?どうして?」キャリーナが聞く。「なんとなく……。ふふっ。さぁ、早く行きましょう。」「そうね。急ぎましょう。」キャリーナは、オリーブの手を引き、スパイスの後を追いかける。
「……ハナ。」レインは、眠るハナに声をかける。「あなたは……どうして私なんかと一緒にいようとするの。」レインは1人佇む。
しばらく、ハナを見つめて、「……ココロ。」レインはココロの手を引いて、歩き出す。
さくらは、1人暗闇に落ちていく。「ここはどこ?」もちろん、誰も答えない。『さくらちゃん……』誰かの声がする。綺麗な、女の人の声。「……だれ。」さくらは辺りを見渡す。『さくらちゃん。その声を、返して。』声はそう言い放つ。「……ハナ。」さくらは、その声が誰かわかった気がする。『私の声を……。返して……。』ハナだ。さくらは、確信した。「………。いや。返さない。」さくらはそう言い放つ。『そんなことさせない。あなたは家に帰るべき。こんなことはやめて、今すぐに声を返しなさい。』「いやだっ……っいやだっ………っ!もう、いやっ………。」『なら、こうするしかない』さくらは体が勝手に動き出し、自分では止めることができない。「いやだっ!!やめてっ!!はなして!!」まるで、中から誰かに操られているようだった。声は何も言わない。さくらがどんなに喚こうと体は止まらない。
「!?」よつばが見える。さくらは必死に力を入れて抵抗しようとする………。だけど、体が言うことを聞かない。『よつばっ……!!』さくらは寝そべるような形で着地した。変な力の入れ方をしてしまったのだろう。「さくらちゃん!!」よつばが、さくらに近づこうとする。でも、あの黒いツタが出てきた。「触るな。」さくらは、ゆっくりと立ち上がる。そして、ツタがさくらを支えるかのように立ち上がらせる。さくらは、ゆっくりと顔をあげてよつばを見る。よつは後ずさる。「私が怖いの?」さくらは無感情な顔でよつばを見つめる、もう、なにもあなたに期待できない。よつばは、怖くて言葉がでない。「もう、私は自由なの。止めないで。あなたのことなんて、もうどうでもいい。どうせみんな私を嫌いになるのよ。あんただってぜったいにそうなるからっっ!!!!」
さくらがそう叫ぶと、ツタが一気に溢れ出す。「あっ!」よつばの目の前にツタが現れる。尖ったツタ……。
「よつばっ!!!!」
シロツメがよつばに飛び込んで覆い被さる。シロツメが体を起こすと、よつばは泣き出した。「よつば、ハナとみつばをもって家に帰ろう。家族みんな揃ったんだ。それ以上に何がある?!?!」シロツメはよつばに叫ぶ。「ダメっっ!!さくらちゃんのパパと約束したの!!さくらちゃんを……」起きあがろうとするよつばをシロツメが力づくで引きとめる。
「やめろっ!!パパに言うことを聞けっ!!あの子はもう人じゃない!!『バケモノ』だっっ!!」
シロツメはそう叫ぶ。
「ちがうっ!」
よつばも叫ぶ。「さくらちゃんはバケモノじゃないよ!パパのバカ!!」よつばはシロツメの胸ぐらを力いっぱい掴んで叫ぶ。「はなして!!」よつばがこんなになるのは、初めてだった。「……もういやだ……。お前もママもみつばも失うのは……。」
シロツメはよつばの頬に涙を垂らした。
よつばはハッとして動きを止める。「パパ……。」よつばは、シロツメに釣られて涙が溢れ出る。「行かないで。」シロツメはよつばを抱きしめる。
「……パパ。でも、ぼく、さくらちゃんに話したいの……ちゃんと。」よつばは、シロツメをまっすぐ見つめる。「……そっかぁ。」シロツメはそう笑って、よつばを離す。「パパ。みつばをおねがい。」よつばは、シロツメに微笑む。「……うん。」シロツメはどこかよつばの成長を感じた。でも、嬉しいのだけれど、寂しくもあった。
よつばは、アオキとゆりを呼ぶ。「アオキくんーん!!ゆりさーん!!」一生懸命辺りを走って2人を探す。「……。よつばぁ…」アオキの涙声がする。「アオキくん。」アオキは、ゆりと手を繋いでやってきた。「ねぇ。よつばくん。ここは危ないよ。……もう、帰った方がいいんじゃないかな?」ゆりはいいいづらそうに言う。「だめっっ!!さくらちゃんもいっしょに帰るの……!!……ゆりさん。おねがい…。」よつばはゆりを見つめる。ゆりは、ずっと逃げてきた。なにか…。人の役に立ちたかった。『ゆり。やれよ。』ふと、マリアの声が聞こえた気がした。マリアはゆりの全てを知っている。ゆりは、もう、弱い自分とは別れたかった。リンやバラみ。アオハ……彼らの思いから逃げてしまっている気がする。……でも、
「うん。」
ゆりは、うなずいた。よつばはびっくりした顔をしたけれど、その後に笑って、「よかった……。うれしいな。」よつばは、にっこりと微笑む。「………ともだちだから。」ゆりは、この言葉を何年ぶりに放っただろう。「うんっ!!」よつばは嬉しそうに微笑む。辺りはツタだらけで危ない。しかも、この黒いツタはとんがっている。なんとか、無事にここを抜けないと……。よつばたちは用心して歩き出す。目的地とかはないけれど、とりあえず歩くしかない。
「ジョンっ!!大丈夫?!」クルコがジョンに呼びかける。「………だ、大丈夫…。」ジョンは、足に大怪我を負っていた。「しっかりして!!」クルコは泣きじゃくりながら叫ぶ。コスモも、真っ青になってジョンを見ている。「あのさ……。2人とも、私、ずっと言ってなかったことがあるの……。」コスモは口を開く。「……は?こんなときに?」クルコは、コスモを睨む。「こんなときだからこそ言うの。」コスモは……深呼吸して話しだす。「私……。家出したって言ったよね。でも、あなたちと違って、悪い家庭環境でもなければ、捨てられたわけでもないの。普通の……普通の家族だった。だけど、ある日お父さんがいなくなって、お母さんは新しい人と結婚したの。私は……。その人が嫌で。好きになれなくて。家を飛び出した。」コスモは、思い返す。コスモがやっと中学生になった頃だ。新しい父親とは、いまだに馴染めていない。母親とも口を聞かずに家に帰ったら、ご飯もリビングで食べず、自分の部屋で引きこもってばかりいた。コスモの母親は、こっそりと部屋の前にご飯を置き、娘が食べるのを待った。コスモは一応、用意されたものは食べていた。でも、ただ家にはご飯を食べに帰ってきているだけのようだった。コスモがやっと中学生になった頃だ。新しい父親とは、いまだに馴染めていない。母親とも口を聞かずに家に帰ったら、ご飯もリビングで食べず、自分の部屋で引きこもってばかりいた。コスモの母親は、こっそりと部屋の前にご飯を置き、娘が食べるのを待った。コスモは一応、用意されたものは食べていた。でも、ただ家にはご飯を食べに帰ってきているだけのようだった。
ある日、コスモと母親は口論になる。「最低の親よ!!」コスモは机をバンッと叩いて叫ぶ。「これ以上私たちの文句を言うなら出ていって!!」母親も机を叩いて叫ぶ。「いいよ!!出てってやるよっ!!」コスモはすぐに家を飛び出した。
この日は大雨が降っていた。コスモは体を濡らしながら走る。涙も出ていたと思うが、雨なのか涙なのか、よくわからなかった。そして、遠くからターコイズ色の髪をした女の人が……。
「それで私はここに来たの。」コスモは、そっけなく言う。「今では後悔してる。新しいお父さんは、悪い人じゃなかったし、前のお父さんが悪い人だったのかもって。」コスモは泣き出した。「…だからっ、お母さんに酷いこと言っちゃった……。」コスモは顔を覆い、泣き出す。「コスモ、お前……必ず会いに行こう。お前の母親に。」ジョンは微笑んだ。ジョンの空っぽな表情から、優しい顔が見られるなんて……コスモはその言葉を聞いてさらに涙が出てくる。「ジョンがそう言うなら、あたしも。」クルコもコスモに微笑む。「……っ。」コスモは、嬉しくて何も言えなかった。母親は今どこにいるのだろうか。今も変わらず、あの家にいるのだろうか。愛する人と一緒に。
『さくらちゃん、やめましょう。』声は呼びかける。さくらは、その声を無視して進む。自分がどこへ向かっているのかもわからないのに。
第30章終わり
第31章【さくら】
さくらは、暗闇の中を飛び回る。『………。言うことを聞いて。』声が語りかける。「うるさいっ!!」さくらは目も耳も塞ぐ。『無駄よ。あなたは私の声を取り込んでるの。消せるはずないわ。』声はそう話す。「あんたなんか、だいっっっきらい!!」さくらは叫ぶ。『それでもいいわ。だから、早く返して。あなたが全てを奪ったのよ。私の声を。私の人生を。あと、もう少しで戻ってくるはずだったのに。あなたが奪った。』声がさくらを責める。「やめて……っ。」さくらは、しゃがみ込む。「もうやめて……。」黒いツタがさくらを包み込む。『あなたは美しい花を咲かせていたのに。』声は、残念そうに言う。「……。花なんて嫌い。」さくらがそうつぶやくと、ツタはさらにさくらを強く縛る。まるで、自分で自分を縛っているかのよう。『きらいにならないで。どうしてよ。本当は好きなはずなのに。どうして?』声が問いかけてくる。「………。」さくらは黙り込む。ツタが痛いくらいに彼女を縛る。『私の声……。あなたは、DIVAの声を欲しがった。というとは、あなたは歌いたいの?』声は問いかける。「………。歌…?」さくらは目を開ける。ツタも、それと同時に引っ込んでいく。黒い場所に、鏡のように自分の姿が見える。さくらは、自分じゃないように見えて気持ちが悪かった。「……どうして…。歌なんて……。」さくらは涙を流す。『歌いたいんでしょう。聞かせて。あなたの声』声はさくらにそう話す。「………。」さくらは、もう声が出ない。声が、出せない。まるで金縛りにでもあったみたいに。自分の醜い姿が見える。見たくないのに、見てしまう。嫌いなのに。大嫌いなのに。さくらは、動きをとめ、鏡のように映る自分にもたれかかる。拳を突き立て、涙を流す。「……もういや……」さくらはそれだけ言って、無気力に落ちていく。私にはこれしかない。すべてを諦めて、なにもかもを失うことしか。さくらはもう、涙すら出なくなってきた。もうこれ以上何も変わらないから。全てが終わってくれるのを待つしかない。さくらは水面に写るように見える自分を眺めて落ちていくことしかできなかった。落ちていこう。だれにもみられないところまで。さくらは、いつも、いつもこんな感覚で生きていた。落ちるところまで落ちてやろう。そう思って。どうせ誰も、見てくれやしないんだから。興味もないんだから。私を悪にしたいなら、それでいい。いつだって、悪でしかない。家族の中でも私は不愉快な存在。私がいるから、私のせいで、みんなが傷つく。ならば、いっそ。誰にも会わない方がいいのだろう。このまま一生、孤独に生きよう。
私は今ハナの声を手に入れた
だから、どこへでも好きなところへいける。好きなことができる。人目を気にして嘘をつかなくていい。それだけでじゅうぶんだから。
「さくらちゃん」よつばの声だ。さくらは振り返る。「さくらちゃん!!」よつばはやっと見えたさくらに手を伸ばすが、黒いツタがさくらに近づかせないようにするかのように道を塞ぐ。「まってー!!」よつばはさくらに手を伸ばすけど、届かない。「歌は思いを届ける」スパイスが背後から呟く。それを聞いたDIVAたち(キャリーナとオリーブ)は、適当な歌を口づさんで見た。でも、さくらには意味がない。「ねー!!お願いよ!!声を返してっ!!」スパイスが叫ぶ。「なにがそんなに気に入らないの?!あなたはいったいなにがしたいの?!」スパイスが必死に叫ぶ。さくらは何も答えない。「さくら……教えてくれよ……。」コウジが呟く。……すると、ツタがコウジとさくなの足元に伸びる。
「なにか言いなさいよっっ!!」
我慢の限界を迎えたさくなが叫ぶ。「……っ!!」さくらは、いろんなことを思い返していた。『どうしてあなたはママを傷つけるの?』さくなの涙声が聞こえる。『お前は僕の子じゃない』コウジの声もする。『アンタなんかに誰が構うのよ。こんな地味でつまらないやつ。」ミルクの嘲笑う声もする。『お前は人を傷つけることしかできない』アオキの冷たい声も聞こえる。『あの子はバケモノだ。』シロツメのそんな声もした。こんなに、たくさんの人が、私を嫌っている。私には、もうどこにもいく場所がないんだ。さくらは、すべて投げ出してしまいたかった。今の自分になら、それができる。
「いたいっ!!」
突然、よつばの痛がる声がした。「…!!」さくらはその声を聞いて、驚いて振り向く。よつばの頬に、傷がついていた。
さくらはそれを見て、もうダメだと思った。だって、もう、耐えられない。さくらは自分を本気で憎んだ。さくらは、過呼吸になって、体を丸める。それでも、黒いツタは増えていくだけ
「やめてっ!!とまれっ!!」
さくらは絶叫する。けれども、何も変わらない。さくらはもう、その場から離れることしかできなかった。さくらは急いでまたどこかへ飛び出す。もう苦しい。悲しい。ついに、よつばを傷つけてしまった。それが、1番悲しかった。だって、よつばは自分にとって特別な存在だったから。今まで出会ったことのない人だった。きっと、それはよつばもおんなじだ。『あなたが落ち着かないと、ずっとみんなは傷つくだけよ。』また声がする。
よつばは、ほっぺたを抑えて、嘆く。でも、よつばが抑えたあとには、痛みがない。よつばはおかしいと思って、もう一度触る。でも、やっぱり、痛みがない。よつばはハッとして、あの黒いツタを触る。すると、黒いツタはみるみるうちに緑に戻り、花が何個も咲いていた。よつばはこの様子にうっとりした。「うわーおなんだそれ。」アオキは驚いて言う。「こうすればあの黒いのなくなるよ!」ゆりは嬉しそうに言う。「………。へ、へぇ。これまで信じられないようなものをいっぱい見てきたけど……。これはもっと信じらんないわ。」スパイスがぽつりと言う。「でも、素敵ねっ!いいなぁ。あたしもやりたいなぁ。」キャリーナはうっとりして言う。「キャリーナさんは枯らすでしょっ!!」オリーブがツッコむ「なんでよ〜!!あたしは枯らさないわよぉ〜!!」「だって、毎回お花を育ててますけど、最後まで育て上げられたことありますぅ?」キャリーナにオリーブは物申す。「まあまあ。これでみんな動きやすくなるわ。はやく、ハナを起こしましょっ。」スパイスは駆け足で歩み出す。「そうねぇ……。やっとハナに会えるんだものねぇ…。」キャリーナはほっとして言う。「うん……っ!」オリーブも、安心したように言う。
「ジョン様っ!!」クルコはやっとジョンに手が届いた。邪魔をしていた黒いツタがなくなったのだ。「いててっ……」ジョンは、足を抑える。「じゃ、じゃあ私はレイニーズに怪我人の処置をお願いしてくる。まだ何人かいるはずだし……みんな軽傷くらいならいいんだけど……コスモは不安そうに言う。「だいじょうぶよ。あたしたち……そう。協力すれば全員治るわよ。」クルコはそう言う。「じゃあ、あたしはジョンの手当てをする。あんたはみんなをここに呼んできて。」クルコはコスモに指示を出す。「わかった……。無理しないで。」コスモはそう言う。「あんたこそ。」クルコはそう言って笑った。コスモは、その言葉を聞いて安心した。
よつばたちは、まっすぐに走り出す。さくらを探すために。だって、さくらがいないと帰れない。特に、よつばはそう思う。
どうして、こんなことになっちゃったんだろう、コウジは頭の中で強くそう思う。何が間違いだったんだろう。ここまでいっぱい我慢をしてお金を稼いで、こんなにさくらに尽くしてきたはずなのに。さくらのため、これはすべて彼女のためだけにやっていたこと。それがすべて無駄になった。それは、さくらのせいではなき。でも、コウジはさくらを許せなかった。ここまで心配させておいて、人様に迷惑をかけるなんて。そんな子に育てた覚えはない。もっと……。普通の暮らしが。普通の毎日が送りたかっただけなのに。さくらには何も求めていない。どうでもいいというわけではなくて、親として、世間からどう見られるかとか、人にどれほど好かれるかとか、そんなことはどうでもよかった。さくなやコウジ、はたまたシロツメやハナも、大人たちには幼い頃から良い人間になれだとか賢く生きろだとか、どこでも1番でいろなど言われてきた。我慢してでも人々が望む人間でありなさい。みんなと同じように生きなさい。誰にも迷惑をかけずに笑いなさい。あなたがいなくても世界は回るし、何か不都合なことも起こらない。あなたなんていてもいなくても同じ。だから、人から求められる人間でいなさい。親からも先生からも世間から、なんなら自分の無意識の中でもその言葉は唱えられる。学校、職場、社会。たしかに……その通りだと思う。でも、そんなことを言う必要はない。求められる自分を演じ続けてもう元に戻らないくらいボロボロに壊れてしまう人もいるし、誰からも必要とされてないことを知ってしまい、世界から離れていく人もいる。これは悲しいことだ。すべて諦めて命を断つ人もいる。これが1番世界から離れる良い方法1番苦しくて早いやり方。でも、一度それをすれば戻ってこられない。コウジはなんどもなんども考えた。命を断てば楽になれる。すべてから解放される。もう……さくらやさくなの事で悩まなくて、済む。……。でも、シロツメは妻も息子もいなくても、一生懸命仕事をして、一生懸命生きている。辛いことも悲しいこともあるだろう。彼だって、同じようなものなんだから。だけど、コウジと違う点は頑張ってること。これがとてつもない、大きな違い。コウジはみんなが望むものを手抜きでも作れるし演じられる。それでみんな、満足してくれるんだ。だから、コウジは仕事がつまらないし、やりがいも感じられない。そりゃ、仕事なんてみんなつまらないだろう。でも、シロツメはいつも体をほぼ動かしていないのに汗だくになるくらいに緊張していつもキーボードを叩く。何度も何度もミスをする。コウジも、何度も指摘したことがある。でも、シロツメは何度も何度も何度も何度も戻ってくる。どんなに間違えても、どんなに怒鳴られても……。実は、コウジは裏でシロツメが泣いたり怒ったりしているのを見ていた。見たかったのではなくて、目や耳に入ってきてしまう。なぜなら、コウジは家に帰りたくなくて、職場に残ることが多いからだ。家だと、さくなと2人きりでまた口論になる。でも、職場は楽だ。正直、どうでもいい連中ばかり。友達でもないし、他人だから。気を遣わなくて済む。たぶん、目立ってないだけでこう思ってる人は多いはず。コウジは飲み会などもすべて断っている。コウジは人気者だから色んな人に誘われるし、さいとう社長にも誘われるが、全部断って、1人のオフィスを堪能する。1人って楽だ。ぼ〜として天井を眺める。子どもの頃、どんな夢があったっけ。みたいなことをコウジはこの空っぽな時間で考える。この時間は人生で大切な時間だとは思う。でも、みんなこの時間が怖いんだ。自分と向き合う虚無の時間。コウジは、この時間が大好きなのに。できることなら、一生これで良いとも思う。……すると、隣のオフィスにシロツメがやってくる。あ〜…。今日の機嫌はどんな感じだろう。コウジは、いつもシロツメを観察していた。馬鹿にしたり、興味本位のみでそれをしているわけじゃない。シロツメは実に感情的で見ていて刺激を得られる。彼を見ていると、まるで映画か何かを見ているような気分になる。「……っ。」でも、今日のシロツメは静かだ。いつもなら、愚痴を大きな声で言ったり、タオルに顔を伏せて叫んだり、大泣きしたり、イライラして叩いたら、部屋のものを壊して焦っていたり。シロツメはいつもいつも違う。まるで毎日違う人が来ているかのよう。ほんとにたまに機嫌のいい時もあるけど、それは大抵酔ってる時。シロツメは、カクテルなど甘いお酒が好きらしい。ビールや日本酒などはあまり飲まない。味がついているのが好きらしい。でも、基本的には飲みたくはない人なので、飲むのはほんとにたまに。シロツメは酔うと、鼻歌を歌ったり、窓の外などを見て街中の人や車や建物などのひとりごとをいう。シロツメは一滴ぐらい飲むとすぐ酔ってしまうので、お酒には弱い。シロツメはお酒を飲むととても幼く見える。彼の本質はこれなのかもしれない。と、コウジは勝手に考察する。でも、機嫌がいい時は眠っていることがほとんどで、お酒を飲むと彼はすぐに寝る。コウジは一度シロツメと一緒に飲みに行ったことがあるが、お店の人と2人がかりで起こしたことがある。コウジはお酒にとても強いのでめったに酔わない。さくなも、どっちかというとそうだ。………。でも、今日のシロツメは酔っているようにも思えない。だけど、なぜ静かなのだろう。コウジは、耳に意識を集中させる。
そうか。彼は声を殺して泣いているんだ。コウジは、なんとなく分かった。コウジは、なぜか立ち上がる。あれ、めんどくさいのになぁ。動きたくないのになぁ。そんなことを思いながら、隣の部屋へ移動する。「シロツメさん。」コウジは、ついに彼に声をかけてしまった。シロツメは……ゆっくりと顔をあげる。「コウジさん……。」シロツメは涙が溢れ出ていた。「……大丈夫ですか」コウジは、聞いた。「……はい。」シロツメは、とりあえずそう言った。「……。早く帰らないとな」コウジは、また天井を見つめる。シロツメの隣の椅子に座って。「家族のために」コウジはそう言う。シロツメは、特に何も返さない。「………。今日は天気がいいなあ。」コウジはなぜか声に出してしまう。気まずいわけでもない、返答が欲しいわけでもない、けど。なんだか、話してないと自分を保てない気がした。
コウジは、そんなことを思い返していた。さくなを……抱きしめながら。きっと。シロツメの血のつながったあの子なら、さくらを取り戻せる。コウジは、優しくよつばの背中を見つめる。さくらのともだち。なんていい響きだ。初めてのともだちがこんなにもいい子だなんて。あの子は幸せだなぁ。こんなことをしても、友達だといってうなずいてくれる子。こんなにもやさしい子が、まだ世界にはいたのか。コウジは、どこか安心していた。コウジも、こんな感覚は初めてだったから。こんなにも心踊るのは初めてだから。さくらの将来に…。家族の未来に。はじめて、明るいものが見えてきた。生まれて初めてだ。こんなの。よつばくん。おねがい。あの子を見つけてあげて。覚えてあげて。さくら。おねがいだから、もどってきて。お前にひどいことをしてきた。そして、言ってきた。コウジの機嫌の悪い時、さくらに冷たくしていたこともあった。たとえば、「パパ、明日はお休みでしょう?久しぶりに……」「うるっさいな。ちょっと忙しいんだよ。」と、コウジはイライラして返す。「あぁ……そう。わかった。」そう言い残してさくらは部屋に戻る。コウジは、その返答を聞いて胸が締め付けられた。今、自分は何を言った?どうして、あんな言い方したんだろう……と、コウジは後悔した。でも、だけど、パパはお前が好きだ。大好きだ。何よりも大切だ。だから、おねがい。もう一度パパと呼んで、話しかけてくれないか。今度は、ちゃんと返すから……。帰ってくるから、どこへでも行くから、お前のためなら、僕は……。仕事を投げ出してでも会いに行くから、だから……おねがいだから、もう一度………。その顔をよく見せてくれ……すぐ近くで見ていたい、お前のことを……。さくら、さくら……。「さくら、さくら、」コウジは、さくなを抱きしめながら、さくらの名を呼ぶ。やっと分かったんだ。やっと知れたんだ。父親という存在の大切さ。始めてわかったのかもしれない。……遅すぎた。でも、まだ取り戻せる。さくらはまだこの場所にいるから。
よつばは、さくらに呼びかける。「さくらちゃん。どこにいるの?さびしいよ。会いたいよ。」さくらの出した黒いツタを緑にしながらよつばは呼ぶ。本来であれば、さくらにだって綺麗な花を咲かせることができたはずなのに。よつばは、そう思っていた。さくらはよつばにとって、放っておけない人だった。さくらは、いつも強がってるけど、ほんとはいっぱい何かを溜め込んでる。よつばは、なんとなくそれを知っていた。でも、さくらは本当は優しい人だ。ちゃんと話せる人だ。さくらは、頭がいい。だからこそ、よつばはさくらに惹かれる。自分とは違う存在に。よつばにとっても、さくらは特別な人だった。今まで見たこともない、出会ったこともない人。会えてよかった。ただ、それだけは言える。よつばは諦めない。さくらに会うまでは、帰らない。色んなことがあったけど、色んなことを大切にしていきたい。だって、それには意味があるはずだから。よつばは、さくらを探す。でも、何も聞こえない。よつばは、しょんぼりした。もう、さくらは戻ってこないのかもしれない。そしたら、もう……。これ以上は考えたくない。そんなわけないから、よつばは、さくらの名前を叫ぶ。『ごめんなさい』よつばが声が聞こえて振り向くと、そこには初めて出会った頃のさくらがいた。「さくらちゃん!」よつばは、さくらに呼びかける。『よつば。おねがい。行かないで。』さくらはよつば力強く掴む。「へっ?行かないよ!さくらちゃん!」よつばは戸惑って言う。『あなたも私を嫌いになるんでしょう?みんなと同じで。私を嫌いになって、口も聞いてくれなくなって、私を冷たく見るんでしょう……。』さくらはしゃがみこむ。「さくらちゃ…」「お前、わかってんじゃん。なんで嫌われてるか、知ってる?」アオキはよつばの言葉を塞ぎ、やっとこの時がきたとニヤリとする。『私は目ざわりなんでしょう。話していると不快なんでしょう。だから、みんな私がいるといやなんだよ。消えてしまえばいいと思ってるんでしょ。』さくらは顔を俯いて隠す。「ねぇ。俺が聞いてんのはそんなんじゃないよ。なんでそうなってるかだよ。答えを教えてやろうか?お前のその態度がやなんだよ。誰とも口聞かないで、そうやってひとりになろうとする。それがやなんだよ。」アオキは、さくらを睨む。『えっ、』さくらは驚いた顔でアオキを見る。「いいよな。お前は。本当に幸せそう。どうしてそんなにも気づかないでいられるのか。うらやましいよ、お前が。」アオキは、イラついて言う。「さくらちゃんっ!!ママの声を返してっ!!」よつばがアオキを押しのけて、前に出る。さくらの顔を、ちゃんと見たいからだ。『……やっぱり、あなたもそうなんだ。私を冷たく突き放すんだ。さようなら。よつば。」さくらは、暗闇へ消えていく。「さくらちゃんっ!!待って!!」よつばはさくらに捕まって落ちていく。さくらの姿は、大人の姿に変わっていた。さくらは、よつばよりも、アオキよりも、ゆりよりも大きい。「うわああああ!!」よつばは驚いて叫ぶ。だって、いきなり今、下に落ちているのだから。よつばは、必死にさくらに掴まる。でも、どこに掴まってのかさえ、わからない。おそらく、服だとは思う。でも、暗くて何も見えない。「さくらちゃんっ!!聞いて。ぼくはさくらちゃんがだいすきなの。さくらちゃんは、どうしてこんなことをするの?」よつばが話しかける。「……わからない」さくらはぽつりとそれだけ言う。「おねがい。さくらちゃん、さくらちゃんのパパにやくそくしたの。ねぇ。おねがい。」よつばは必死にさくらに言葉をかけるけども、さくらに届いているのか、わからない。「私は……。」さくらは、涙を流して落ちていく。その涙は、よつばの顔にも当たる。よつばは、さくらにしがみついて、必死に彼女を探す。さくらは、突然止まった。中に浮いたまま、ただ止まっていた。すると、さくらはよつばの背中を押す。「あれっ。」よつばが振り返ると、そこには何もなかった。さくらも。よつばは涙が溢れてくる。やっと……。2人で会えたのに。さくらはどうして逃げ続けるのだろう。よつばは、苦しかった。もう、さくらを諦めようともおもった。だけど、どうしてもそれだけはできない。さくらを見捨てることができない。あなたに伝えたいことがいっぱいあるから。あなたには、見せたいものがいっぱいあるから、もっと、もっと……。あなたといたいなぁ。
「さくらっ……。」コウジがさくなと共にさくらを探す。自分たちにできることは、ただそれだけだから。さくらに会いたい。会って、色々話したい。もう一度やりなおしたい。許してほしい。今までの行いを、今までの自分を。だれか、たすけてくれ。コウジは、ずっとそう思っている。頭が痛い。意識も朦朧とする。でも、あの子に会いたいから、ただそれだけだけど、体を起こす。いつも、寝て起きて会社へ行って、と同じような毎日ばかりを繰り返している。もう……、からっぽなんだ。なにもかも。さくらがいなければ満たされない。あの子のためだけにその毎日を過ごしてきた。でも、あの子がいないならすべて無駄だ。コウジはどうしてもさくらに会いたい。会って、話がしたい。しっかりと、あの子を見て、聞いて、感じて。抱きしめてやりたい。しばらく触れることもしなかった。さくらは成長するにつれ、とてもおとなしくなったから、そういうのは必要ないと思ってた。でも、今はそれでもあの子に触れていたい。もう一度、この手に。
「よつばくん……。ねぇ、知ってた?……あの子、歌が好きなのよ……」スパイス…DIVAたちはぜぇぜぇ息を切らしながら話す。「歌ってあげたら……届くかな。」キャリーナは言う「歌……?そんなこと、あるの……?」オリーブは呆れて言う。「………。ハナはきっと、今意識を持ってる。全ての声がそろったから。だから、あなたの声に引き寄せられるんじゃないかしら……。あなたはハナの子だから。」レインは、よつばを見る。今までとはちがって、やさしい目で。「………。うた…」よつばは、胸に手を当てる。「さくらちゃん……。」よつばは、深呼吸する。
「………さくらちゃん。おねがい、聞いて。」
「…ママ、ぼくの声を聞いて。」
よつばは、呼吸を整え、歌いだす。
第31章終わり
歌。それは、一つの言葉。目で見ても、耳で聞いても、それは楽しくて明るくて、華やかで。歌うだけで違う世界へ行くことができる、魔法の手段。私はこの瞬間が1番幸せだ。自分を解放することができる一瞬。上手でも、そうでなくても、みんなが主役になれるのが歌うこと。歌……。あなたはいま、何をしたいですか。歌でなくでも全然いいから、よく考えてください。1人の時間は、とても怖い。みんな1人でいることを避けようとする。自分との対話を避けようとする。だけど、これだけは聞いて。自分と話すことは1番大事なこと。自分から逃げてはいけないよ。自分を押し殺して誰かを優先するのは間違いだ。あなたはステキ。自分の心の歌を聞いてみて。あなただけの答えがあるはず。DIVAはあなたを見つけ出すお話しでもある。おねがいだから、あなたの歌を消さないで。なかったことにしないで。たとえ誰かがその歌を簡単に壊しても、不協和音になってしまっても、消してはだめ。あなたの歌はいずれ誰かに届く。さりげない一言でも、あなたらしく生きる背中を見ているだけでも。誰かはあなたを必ず見ている。だから、その歌はその誰かのためだけに作ろう。必ずいるから。私はあなたの歌が聞きたい。どうか、聞かせてほしい。
では、DIVAの物語を始めましょう。まだ、取り残されている人がいるみたいだから。その人のために物語を始めよう。誰もが笑えるように。あなたも、私も……。あなたの声は必ず聞いてもらえるよ。私の声をここまで聞いてくれたあなたなら、きっとできるよ。
さぁ、歌おう。あなたのために。




