DIVA【さぁ、歌おう】
声が響く。よつばは、なぜか知ってるメロディを口ずさむ。ハナが、よく歌ってた気がする。子守唄や、遊ぶ時、色んな時に聞いたことのある曲。これは、おそらくハナの作った歌。よつばは、なんだか楽しくなってきていた。歌うって、こんなに楽しいことなんだ。と。ハナがいつも歌っていたのはこういうことだったのか。シロツメはあまり歌わないけど、ハナの声を聞くのは好きみたいだ。よつばもよくハナの真似をして歌ったり踊ったりしていた。ハナやシロツメは嬉しそうにそれを見る。「よつばも、歌うのが好きなの?……私も大好きなの。いつか、一緒に歌えたら…。」ハナは、よつばにそんなことを言っていた気がする。ハナなら、気づいてくれる。よつばの声に。よつばは、まっすぐ前を見ながら、大きな声で歌う。みんなに聞こえるように。だれかに見つけてもらえるように。今日は、あなたのために歌う。いつだって、思えるわけではない。でも今日だけは、あなたに会いたくて、歌う。これであなたがきてくれるなら。大切なこの一瞬を歌に捧げよう。音楽に身を任せ、自然と声が出る。何も聞こえないけど、歌っていると聞こえてくる。音楽が。よつばは自然と声が出てくる。よつばは久しぶりに安心することができた。こんなに落ち着いた感覚は久しぶりだった。心地が良くて、気持ちがいい。よつばは、とてつもない感動を感じていた。歌うことは、こういうことなのかもしれないと思った。心地が良くて、落ち着けるもの。ハナもこんな風に感じていたのかもしれない。幸せだった。この一瞬が。心から。どうしてこんなに心が踊るんだろう。どうしてこんなに明るい気持ちになれるんだろう。よつばは、不思議に思った。
『よつばの声よ。あなたを呼んでるわ。』声がさくらにそう語りかける。「……もういいの。聞きたくないよ。」さくらは耳を塞ぐ。『聞いて。さくらちゃん。逃げないで。あなたを呼んでいるのよ。』声は、そう語りかける。「ちがう。私じゃなくて、あなたを呼んでるの。ハナ、私のことだなんて誰も呼んでない。あなたを呼んでる。」さくらはぽつりぽつりと涙を流す。「さくらちゃん」すぐ、うしろから声が聞こえる。でも、さくらは振り返らなかった。声を聞きたくない。さくらは塞ぎ込む。「……あなただ嫌い。」さくらはぽつりとつぶやく。
「ハナもあんたも大嫌い!!」
さくらはよつばに向かって叫ぶ。「でも……っ!!さくらちゃん。歌は好きでしょう……?」よつばは声を振り絞って言う。「なんで、なんで………歌なんて好きじゃないよ、それに、パパとママは私の歌なんて好きじゃない。」さくらはそう言う。「でも、ぼく、聞きたい!」よつばは強くそう言う。「あなただけでしょ。あなたがそう言っても、なにも変わらないよ、パパとママが……。」さくらは、言葉に詰まる。「できないよ……。こわいよ……」さくらは顔を覆う。「私はもう、なにもしたくないの。なにしても、できないから、もうなにもしたくない。あなたと話したくない。私を見ないで。どこか遠くへ行って二度とこないで。私はずっと1人でいい。怖い思いをするくらいなら、もういい。みんなのために頑張ってきたのに……パパとママのためにがんばってたのに……だれも私のこと見てくれてなかった。私は、みんなのことちゃんと見てるのに。」さくらは悲しそうに座り込む。
「さくらちゃん、ぼく、さくらちゃんのことだいすきなの、おねがいだからそんなこと言わないで!」よつばは涙声で話し出す。「ぼく、さくらちゃんといっしょに帰りたいの!!ママもいっしょに!!さくらちゃん、おねがい。ぼくといっしょにいて。」よつばは泣きながら、さくらを見つめる。さくらも泣いている。「……。よつば。ごめんね。私、ほんとうはこんなことしたくない、でも、なんだかやってみたくなったの。出来るきがしたから、でも、ほんとにできるだなんて思ってなかったの。もしかしたら、私は自由になれるかもしれないって思ったの。私はただ、自分を変えたくて、どうしても変えたかったの。」さくらはうまく話せていない。涙が止まらなくて、声が出ない。
「さくらちゃんは、ぼくのともだち。さくらちゃんはひとりぼっちじゃないよ、アオキくんとか、ゆりさんもいるよ。さくらちゃんはみんな好きだよっ!!おねがい……。いっしょにかえろうよ…」よつばはさくらの手を握ってそう言う。「……!ほんとうにパパとママは、私をまってるの……?」さくらは、よつばに聞く。「うん!!まってるよっっ!!だからっ、帰ってきて!!」よつばは一生懸命にそう叫ぶ。「………うん。……ハナに声を返す。」さくらはぽつりとそう言った。「え!?ほんと?!ママに声を返すの!?」よつばはありったけの笑顔で叫ぶ。「……うん。」さくらは不安そうに言う。でも、どこかすっきりしていた。「ハナ、もういいよ。」さくらはそう呟いた。『ありがとう』ハナの声が聞こえた。すると、さくらから、光が飛び出す。そして、さくらは元の小さな姿に戻っていた。「さくらちゃん!」よつばはさくらを抱きしめる。「………。」さくらは何も言わず、遠ざかっていくハナの声を見つめる。すこしもの惜しそうにその光を見つめている。
あの光は、やはりハナのところへ向かっている。さくらは少しがっかりしたけれども、どこか安心もしていた。ハナに謝ろう、さくらはそう思った。よつばの両親が許してくれるのかどうか、わからないけど……。
光がガラス張りの箱の中にすっと入って、ハナに触れる。ハナは、ゆっくりと目を開ける。ハナは、深く息を吸った。久々の感覚だった。ハナしばらく、呆然として天井を見上げていた。信じられない。自分がこの体で息をしていることが。こんな気持ちは始めてだった。生き返ったみたい……な。「ハナ。」聞き慣れた声がする。「レイン。」レインだ。ハナは、呆然とレインを見つめる。「あぁ…!ハナっ…嘘でしょっ?!」キャリーナは感動のあまり泣いている。「……ハナおはよっ。」スパイスも結局泣いている。「ハナ!」オリーブまでもそうだった。「……おはよう。みんな。」ハナは微笑む。「……ねぇ。ここからだしてくれる?」ハナは真上のガラスを触りながら言う。「ええ。出すわ。」泣いてないのはレインだけだった。レインは淡々と作業をする。
「あぁ。今日はいい天気ね。」ハナは、やっと外に出られて気持ちよさそうに言う。「あなたに傷でもつけられたらと思ったら、こうするしかなくて。」レインは冷たく言う。「そう。ありがとう。おかげでよく眠れたわ。」ハナは呆れて言う。「ハナ……?」シロツメは、震えた声で言う。「あなた」ハナは、シロツメに微笑む。「ハナ!」シロツメは、ハナにとびつく。「……ありがとう。あなた。私、あなたが頑張ってるの、なんとなくわかるの。あなた。今日はゆっくりしましょう?」ハナは、シロツメの髪を撫でる。「あぁ。」シロツメは、ハナを力強く抱きしめる。もう離さない。そう思うと、ハナから離れられない。シロツメははっとしてみつばをみる。「おまえもおいで。」そう言ってシロツメはみつばとハナを抱きしめた。みつばは、耐えられなくて、大声で泣いている。まだ、生まれたての子供みたいに。
「さくら。」コウジが、さくらとよつばに声をかける。さくらは、ビクビクしながらコウジとさくなを見る。「……ごめんな。さくら、お前のことよく見れてあげれてなかった……。ねぇ。おねがい。パパとママのところに戻ってきてくれないか。」コウジは泣きそうになって言う。「さくら……酷いこといっぱい言ってごめんね。でも、あなたがいないと、ママ、ダメなの。おねがいよ。だいじょうぶ。ぜったいにあなたを見捨てたりなんてしないから。」さくなは涙声でさくらに言う。「……ママ…パパ…」さくらは涙をこぼす。よつばの手をゆっくり離して、さくらは2人に近づく。「ママ、パパ、ごめんなさい。私、すごくつらかった。学校にいても、家にいても辛かったの」さくらは涙を流してそう言う。「でも、私、ちゃんと帰るよ、私、わかったの。色んなところに行って、色んな人に会ったの。やっとともだちができたの。それが、すごくうれしいの。」さくらは、微笑む。すると、コウジとさくなはさくらに抱きついた。「……?」さくらは、思わず涙を流す。「まま、ぱ……っ」声がうまく出ない。こんな気持ちは始めてだ。始めて、満たされた気がした。やっと、家族になれた気がする。まるで夢みたいな気持ちだ。こんなに心があったかいのはなぜだろう。さくなとコウジの手がこんなにあたたかく感じたのは、始めてだ。2人はこんなにあたたかかったんだ。しばらくこういう風に触れ合ったことが、さくらの家族にはなかった。ずっと冷たいまま家にいたから。さくらも、1人で部屋で過ごすことが多かったし、コウジもやっと家に帰ってきても、さくらと会話はほぼしない。コウジはすぐ眠りについてしまうから。さくなとさくらは、家にずっといっしょにいるけど、そこまで会話はしないし、とても理想的な家庭とはいえなかった。でも、今はとても幸せだった。この時間が長く続けばいいのに。さくらは、やっと安心できる居場所ができた。さくらは、ふとよつばを見る。よつばは、とても満足そうににさくらを見ていた。さくらも、それを見て笑い返した。
コウジとさくなは、しばらくするとさくらを離し、こう言った。「さくら、ほら、おいで。」コウジとさくなは手を伸ばす。さくらは、2人の手を掴んだ。さくらは振り返ってよつばを見る。「よつば。いっしょにきて。」さくらは、よつばに手を伸ばす。「うんっ!!」よつばはさくらにかけよって……さくらのほっぺたにキスをした。その瞬間、さくらの周りにたくさんの綺麗な花が咲いた。コウジとさくなは、その花を見て、お互い満足そうに見つめあう。そして、さくなとコウジもよつばとさくらみたいに、抱きしめあった。「あなた、いつもありがとう。」「いんや、君こそ。」コウジはさくなを強く抱きしめる。さくなも負けじとコウジを抱きしめた。
「あんたなにやってんの?!」
さくらは顔を真っ赤にして、よつばから離れる。「え?」よつばは、よくわかっていない。「いや、ふざけないで。」さくらはよつばを睨む。「……さくらちゃん。ありがとう。」よつばは、うれしそうに笑う。さくらは、ちょっとムキッとなったけど、まぁ、いいや。と。思った。「お〜?み〜ちゃった⭐︎」アオキがニヤニヤして言う。「えっ?!」さくらはアオキを見る。「すてきだね……ははっ。」ゆりは、ちょっと困った顔でそう言う。「ゆりちゃんも、俺とキスする?」アオハだ。ゆりとアオキはものすごく嫌な顔をした。「するか!!」ゆりはアオハをビンタあいた。「いったい!!サイテー!!ゆりちゃん!!」アオハはゆりに怒る。「うわぁ。ダッセー」アオキはバカ笑いする。と、アオハをどけて駆けつけてきた人物がいた。アオキの元にしゃがみこんで、両肩を掴む。「アオキッ!!」アオキのパパのユウキだ。ユウキは、ひどく取り乱している。いつものユウキなら、絶対にこんな顔はしない。「えっ」アオキは、とてもびっくりしていた。「アオキ……」ユウキは、いきなりアオキを抱きしめてきた。「えっ……」アオキは、思わず涙が溢れ出す。「知ってた?今回いちばん心配してたの、そいつなのよ。」と、アオキのママのアオコが言う。「えっ!?うそだっ?!あの父さんが?!」アオハは、ものすごくびっくりしている。「そうよ、かわいこちゃん。あの2人って、頑固なとこがそっくりよ。」アオコがニヤニヤして言う。「……そうだなぁ。」アオハは、安心してほほえむ。アオキが家を飛び出す原因は、いつも父親にあった。ユウキは、基本家ではなにも話さない。自分から話すことはめったになかった。特に、アオキには特別厳しかった。だけど、今回の家出は帰ってこない期間が長かった。いつもなら、1日か2日待てば帰ってくるのに、待てども待てども、アオキは帰ってこない。ユウキはめずらしく遅くまで帰ってこなかったり、大好きなサーカスの仕事を休んでまでアオキを探していた。「おかげで、あいつ、サーカス団に見捨てられたの。だから、仕事をまた探さなきゃなのよ。」アオコは平然と言う。「母さん…それ、もっと早く教えてよ……。」アオハは一気に気分が下がった。アオコはニタニタ笑っている。
「アオキくんが泣いてる!」よつばは、アオキの顔を覗き込む。「……うせーな、泣いて悪いか。」アオキは顔をそらす。『ゆり、やったな。』マリアの声だ。ゆりは、声がする方へ振り向く。マリアが、うっすら見える気がする。『お前は頑張ったよ。あのガキどもは、お前に感謝してるはずだ。』マリアはニヤリとする。「ええ、そうね。あんたも……その。ありがとう。」ゆりは、そう言って、マリアとグータッチする。『今日は寝かせてやるよ。じゃーな」そう言ってマリアはどこかへ行った。ゆりはその背中を見て笑う。「ゆりちゃん!!いっしょにかえろ!!」レイニーズと同じ服を着たリンだ。それにバラみもいる。「ゆりちゃん。ありがとう。私、今度は、2人ともっと……遊びたいな。」バラみは恥ずかしそうに微笑む。「うんっ……。そ、そうしよう…。」ゆりは、なんだか気まずかった。でも、なんだか、嫌ではなかった。
さくらは、スパイスのレッスンを受けることにした。コウジもさくなも賛成してくれた。さくらは、やっと、居場所を見つけられた。さくらは、これからのことが楽しみになってきた。学校は、前に比べて休むことも増えたが、よつばやアオキ、そして一応ミルクも。仲の良いともだちが増えたから、ちょっと楽しくなってきた。そして、不登校がちだったランも、学校へ通うようになり、よつばたちともたま〜に絡んでいるが、ランはみつばといることの方が多い。みつばも、よつばと同じ夢見町の学校に通うことになったのだ。ついでにココロもみつばたちと同じ学校に通っている。なんと。レインは学校へ行かせてなかったらしい。それはいけないと大勢に言われ、渋々手続きをした。そして、ゆりとリンとバラみもぎこちないながらも、もう一度、関係を1から始めている。カラオケに行ったり、カフェに行ったりとなんやかんやいっぱい遊んでいる。
そして、レイニーズもココロと同じでレインが保護者として学校へ送り出している。ほとんどのレイニーズは、ゆりたちと同じ月ノ宮の学校へ。ジョン、コスモ、クルコは今まで通りいっしょだが、前と違って普通に学校生活をエンジョイしている。ただ、周りからは変わり者扱いされているが、彼らはべつに痛くも痒くもなかった。今の方が、何千倍も幸せだから。
そして、今夜、さくらの歌声が響く。なぜならこれから、さくらのソロの発表会だから。スパイスは、さくらは1人の方がいいかもしれないとそう提案したのだ。
さくらは、深呼吸して、歌いだす。
〜おわり〜




