DIVA第20章〜第21章
第20章【おうちにかえろう】
よつばは、目を覚ます。そして、体を起こして、周りを見渡す。さくらと、アオキはまだ眠っていた。よつばは、モヤモヤした……。家に帰る……?でも、シロツメはまだ怒っているかもしれない。もう、自分のことなんて、どうでもよくなったのかもしれない。よつばはまだ少し暗い朝の空を見上げた。ゆりの部屋の窓は小さい。だから、少し見えづらい。よつばは、目を凝らして外を見る。よつばは早起きなので、朝には強い。それに、この朝の時間帯が好きであった。よつばはゆりを起こす。「ゆりさん。学校は?」よつばはゆりの体を揺さぶる。「んぅ……?あさ……か…」ゆりは魂が抜けたかのようにまた寝転ぶ。「ゆりさん!だめだよっ!!」よつばはゆりを一生懸命に起こす。「あぁ…?」ゆりはまた声を上げる。「起きて!」よつばは、諦めない。「ん〜!!」ゆりは大きく伸びをして起き上がった。「ねむ……だる……」ゆりはボソボソと何かを言っているが、よつばは心を鬼にした。「じゃっ。更衣室に行ってくるからぁ。まだ寝てていーよ。」ゆりが廊下へ出ようとすると……「ゆりさん、あのね。今日はさくらちゃんたちとぼくんちへ帰るかもしれないの。だから、ゆっくりしてね。」よつばはゆりのパジャマの服の袖を引っ張った。「うい〜。」ゆりは寝ぼけた空返事で答えた。「うん…」よつばは、真剣に悩んでいた。シロツメが、元気になれる方法を……。『このままだと死んじゃうかもしれない』みたいな、アオキが言っていた言葉をよつばは思い出して、震え上がった。シロツメは、寂しくて死んでしまうかも……?ハナもみつばも……よつばさえもいなくなったら……彼は……よつばはすごく不安になった。ほんとに死んじゃったらどうしよう。シロツメが大好きだから、そんなことはさせられない。よつばは、さくらとアオキが起きるのを静かに待つ。自分の寝ていた布団で座って、窓の外を見たり、二人の寝顔を見たりして暇を持て余した。でも、急がないとシロツメが……。よつばは内心焦ってもいた。しばらくすると、制服姿のゆりが来た。「じゃあ、私は行ってくるからね。帰るなら帰るでいいからね。しかし、よくバレずに学校に入り込めるよなぁ……。わりと警備ゆるいのかなぁ……?てことは、サボってもいいんじゃ……」ゆりが少し冗談を言うと「ダメッ!」と、よつばは血相を変えて止める。「わかってますよ〜出ればい〜んでしょ〜?でれば〜。」ゆりはそう言い残して廊下へでた。朝の廊下は寒い…。ゆりは寒がりながら階段を降りよう……とした。「ゆりちゃん」この声は……ゆりは振り返る。アオハ。ゆりは体が熱くなるのを感じた……。「ゆりちゃん……。最近大丈夫?なんだか、元気がなさそうだなぁって。」アオハは本当に心配してくれているようだ……でも…ゆりはマリアとして彼にキスした時のことを思い出す。あのことが……彼を見るたびに頭から離れなくなるので、アオハとは距離をおいていた。あれ以来、マリアが目覚める頻度は減っていた。さすがのマリアも、少しやりすぎたと反省しているのかもしれない……。おかげで、ゆりは安定した睡眠が出来てはいるが、アオハとのことについて、モヤモヤ……ザワザワ……ドキドキ……?が止まらない。ゆりは、アオハとなるべく目を合わせないようにして、早めに逃げられるよう準備する。「大丈夫……普通だから。」ゆりは無愛想にアオハに告げる。「ほんと?」アオハはゆりの顔を覗き込む。ゆりは……アオハの顔を見ないように顔をそらす。彼の顔が……近い。ゆりは、出てくる汗を必死にこらえる。「ゆりちゃん、なんか緊張してる?大丈夫だよ、俺はいつでもゆりちゃんの話し、聞いてあげるからさ……」アオハはゆりに微笑む。ゆりは今まで経験したことのない危機的状況に陥った。アオハと目が合わせられない。合わせたら……どうにかなってしまいそうで。「も、もう、私行くから……今日は少し、低気圧が……」ゆりはそう言って逃げようとする。「でも今日、晴れてるよ」えっと思ってゆりは窓の外を見た。……晴れてる。晴れてる?!さっきまで曇ってたのに……??ゆりは汗だくになりながらなんとか言い訳を考える。「あ、暑いんだっ!太陽がっ!!それで少し〜……ほら、私、暑さに弱いんだぁ〜……涼しいとこ、行かなきゃ〜」ゆりは運動もなにもしていないのに、何故かフラフラする。階段から落ちてしまいそうだった。
「危ないっ!」
アオハが、ゆりの手を掴んだ……。「?!」ゆりはもう、おかしくなりそうだった。アオハに対してこんなしどろもどろになったことはない…。ましては、こんなにも緊張したことはないっ!ゆりは握られた手を見て、固まる。もう、声が出せない。「大丈夫…?教室まで送ろっか?今日のゆりちゃん、ちょっとヘンだよ……?」アオハはゆりをものすごく心配する。「……。いやっ。いい。一人で行く。」ゆりは小さな声でそう呟く。「……あ、……そう……ならいいけど……気をつけてね。」アオハはゆっくりゆりの手を離す。「……ありがとう。」ゆりは急いで階段を駆け下りた。アオハは、そんなゆりの背中を不安になりながら見つめる。
よつばは、アオキとさくらを見ていたら、うとうとしてきて、眠ってしまいそうだった。
よつばは眠い目をなんとか開いて、2人を見つめる。はやくしないと、シロツメがなにをするか、わからない……。よつばは不安定になりながら、2人を見つめる。まだ、起きない。早く帰らないと……。よつばは膝を抱えてうずくまる。すると、さくらがゆっくり起き上がった。「…よつば。おはよ。」さくらは眠そうによつばを見る。「おはよう!早く、帰らないとパパが死んじゃう!」よつばはさくらに叫ぶ。「……クローバー…」さくらは小さくつぶやいた。「…えぇ?」よつばは、よくわからなくて、不思議な顔をした。「うんう。なんでもない。大丈夫よ。あんたのパパは死なないから。」さくらはよつばをだきしめる。よつばは、少しびっくりしたけど、さくらは冷たそうだな、と思っていたけれど、とてもあたたかった。「だいすきだよ。さくらちゃん。」そういってよつばはさくらを抱きしめ返す。だいすき……?さくらは久しぶりのその言葉に少し涙が出る。でも、よつばにそんな姿は見せられない。だって彼を守れるのは、自分だけだから……。「ありがとう。よつば。」そう言ってさくらは体を離す。これ以上よつばとハグをしていたら、涙があふれて、止まらなくなっってしまいそうだったから。「うん。」よつばは微笑んだ。さくらはアオキに視線を移す。「早くあのバカを起こさないと。」さくらのアオキを見る目は冷めたような目だった。さくらが付けた頬の傷は、もう治っている。さくらは、また自分の手元を見た。特に、異常はなかった。…でも。やっぱり、自分は本当に無価値だなと思った。だって、存在するだけで迷惑だから。迷惑をかけて、人を傷つけることしかできない、いらない存在なんだな、と。だから、コウジやさくなの前から消えて正解だったのだ。いっそのことこのまま消えてしまいたい。痛い思いもしないで、優しい光に包まれて、誰にもおぼえられないまま。見られないまま。消えていきたい。何も気にしないでいなくなりたい。
さくらは、アオキを起こそうと、気持ちよく眠っているヤツに近づく。「おきろー」さくらはアオキの体を強く揺らす。「んあぁ……なんだよぉ…。あと5分…」アオキはさくらがいない方向に寝返る。「よつばのために起きて。」さくらがそういうと、アオキはすんなりと起き上がった。「え?」アオキは寝ぼけた顔でさくらとよつばを見る。「帰るの。よつばん家に」さくらはアオキにやさしめに言った。……少し、悪かったな、とも思っているから……。「おん。じゃあ、行こうか。」アオキは布団から立ち上がった。よつばもそれに続いてついていく。「布団、片付けた方がいいよ。ゆりさんにお世話になってるんだから……」そんな2人を、さくらは止める。「えー?いいだろ。そこまでしなくても…それに先生にバレたらどうすんの?それにそうせまた戻ってくんだし……」アオキが何かをぐちぐち言ってるが、「片付けるっ!」よつばはさくらのところに戻った。さくらは、アオキを見つめる。どうすんの。と、問いかけるみたいに。「はいはい、やればいいんでしょう?やれば」アオキは嫌味ったらしく布団を畳む。よつばも、頑張って畳んだが、布団はぐちゃぐちゃだ。「よつば……貸して。」さくらがよつばのぐちゃぐちゃな布団を綺麗に畳み直す。「おまえ、布団畳んだことないの?」アオキがよつばに問いかける。「うんう。あるよ!パパと、畳んだ!」よつばは元気に答える。「そう…いい?布団っつーのはなぁ……こう畳むんだよ。」アオキは布団をよつばの前でゆっくり畳む。「……わかった?」アオキはよつばに問いかける。「うん…。わかった!」よつばは、たぶん、なんにもわかってない。「よしっそれじゃあ、これを返しに行こう。誰にもバレないように……」アオキは静かにドアを開く。「誰もいないなぁ……?よしっ。」アオキがなぜか先頭に立っている。静かに音を殺しながら子供たちは慎重に歩く。ここまでは順調だった。
「それでさ〜。お前、リンちゃんとはど〜なの〜?」
誰かの声……。この声に、アオキはいち早く反応した!「アオハ!?」アオキはよつばとさくらを、死角に押し込んだ。「ちょっと!押さないでよ!」さくらはイライラして、アオキに言う。「いや、そ、そのぉ…すまんねぇ……ハハッ…」アオキはなんだかいつもより余裕がない様に見える。「あの人、アオキくんに」よつばが何か言おうとした口をアオキが抑える…。アオキは冷や汗をかいていた……。「なんもないよ……。リンは、俺になんて、興味ないもんな。」背が小さめで片方の前髪が隠れている男の子がアオハと話している。「でもゆう。リンちゃん、よくお前のこと話してるよ。」アオハが爽やかに答える。「それって、くだらないことだろ?ありきたりで、なんの変哲のない…」ゆうは呆れて言う。「ど〜かな〜?あんなに話してるってことは、少しでも君に気があるんじゃないの?」アオハが言った。でも、だんだん声が遠ざかっていって……それ以上は聞こえなかった。
「よしっこれでいけるな。」無事に布団を返したよつばたちは、急いで中学校から出る。そして、月ノ宮の駅に向かう。
コンコンっと、シロツメの家のドアがノックされた……シロツメは、力無くドアを開いた。
「スパイスさん……」
尋ねてきたのはスパイスだった。スパイスはぐしゃぐしゃされた……紙を取り出した。「これをよつばくんに渡して。」スパイスは捨てられたパンフレットをシロツメに渡した。「こ…これは…?」シロツメは戸惑う。「これは、私が運営している声楽のレッスンのパンフレット。ぐしゃぐしゃなのは、気にしないで。これを、よつばくんから…ピンクの髪の…女の子…」スパイスは言葉を詰まらせる。「さくらちゃん」シロツメはあまり出したくないその名を口にした。「そう!その子!お願いよ。よつばくんからそれを彼女に渡してもらえないかしら?」スパイスはシロツメにお願いした。「……わ、わかり…ました…。」シロツメは、たじろぐ。でも、逃げてはならない。「ありがとう……。あと、あなた、顔色悪いわよ?今日はもう、休んだら?まぁ……いけど。」スパイスはシロツメの顔を覗き込む。「あ、あははっ…!……すみません…。」シロツメは、焦って答える。「なによ。謝ることなんてないじゃない。あなたは、なにも悪くない。」スパイスのその言葉に、シロツメは少しだけ、心が楽になった。スパイスはシロツメに頭をさげて、ドアを閉めた。そこから見えた夕焼けが、とても眩しかった。……これからどうしよう。シロツメはとても不安になった。よつばも、みつばも、ハナも。みんな自分の元から離れていく…。シロツメは、自分のことがますます嫌いになっていった。自分なんて…シロツメはひどく落ち込んで、ベットに寝っ転がる。もう、生きる希望がない。その時、玄関のドアが勝手に開いた。……おそらく。鍵を閉め忘れたんだ。このまま誰かに刺し殺されてしまうのかもしれない。もはや、それがいいかもしれない。シロツメはベットからゆっくりと体を起こす。
「ごめんなさい。パパ」
……そこには、よつばがいた。
「よつばっ……!」
シロツメは膝から崩れ落ちた。そして、よつばに近寄り、彼を抱きしめた。シロツメは、泣いていた。よつばも、次第に大声で泣き始める。生まれたての赤ちゃんみたいに……。「ごめんな……。パパのせいで……」シロツメはこれでもかと強くよつばを抱きしめる。もう離さない。どこにもいかないよ、よつば。シロツメは、よつばをつよく強く抱きしめる。理由はない。ただ、大好きだから。ただ、それだけ。よつばのことがだいすきなんだから、抱きしめられずにはいられない。よつばもシロツメの胸に顔を埋める。もう、服が涙でびしょびしょだ。シロツメはそんなよつばに構わず、抱きしめる。あなたを愛してるから。「もう……二度とあんなことは、言わないから……お願い……パパから逃げないで…」シロツメはぽつりと呟いた。「パパ……。ごめんね。死なないで」よつばはシロツメの服を強く掴む。「死なないよ……お前がいるから、死ねないよ……」シロツメは、当たり前のことを口にしたけど、涙が溢れてくる。よつば……よつば……今は、頭の中がそれで満たされていた。目の前のことをちゃんと見ないと。まだ、よつばはここにいる。ちゃんと、戻ってきてくれたではないか。「大好きだよ、」シロツメはそう呟く。「パパ、大好き!」よつばは、ちぎれてしまいそうなくらいシロツメの服をつよく強く掴んだ。「ありがとう。戻ってきてくれたんだね。」シロツメは、それが何よりもうれしかった。そして、涙をふいてさくらたちを見る。「ごめんね……。恥ずかしいところを見られちゃったね。」シロツメは、申し訳なさそうに言う。「……うんう。」さくらは声を出して首を横に振る。アオキは無言で首を横に振った。「……ありがとう。今日は、もう寝ようか。」シロツメは、ふとコウジの顔が横切った。シロツメは、もう一度さくらを見る。……この際だ。ちゃんと話を聞いてみよう。「さくらちゃん。なんで君はおうちに帰らないの?」シロツメはさくらのためにしゃがんで聞いた。「……!」さくらはシロツメのその言葉を聞いて、とても不安になった……。「な、なんでですか…。」さくらは、たじろぐ。「君のお父さんが心配してるんだ……君がいなくなって、すごく悩んでるよ…。」シロツメはさくらに訴えかけるように言った。「……ねぇ。なにか言ってよ。」シロツメは、さくらにそう尋ねるが、さくらの返答は返ってこない。「ねぇ。なんで帰らないの?答えてよ……キミは、どうして帰らないんだ……?せっかく家族がいるのに……どうして……?」シロツメは、黙りこくるさくらの両肩を持って揺さぶり始めた。シロツメも、もうおかしくなっているのだ。「なんで……?答えて……帰りなさい……。帰りなさい!!」シロツメは、強めにさくらを揺らす。
「帰らない!」
さくらはシロツメを睨みつける。「……!」シロツメは、さくらのあまりの気迫に押され、手を離した。「……。ごめんね。……すこし、強く言いすぎちゃったかもしれない……。でも、キミのお父さんが心配してるのは、本当なんだよ……。僕は、彼の気持ちがわかる。彼のことを思うと……夜も眠れないくらい。君さえいれば、彼の心は晴れるのに」シロツメは、残念そうにさくらを見る。「パパとママは、なんにも変わってない。あたしがいなくなっても、喧嘩ばかりしてるだろうし。あの二人は、あたしに興味ないんだ。あたしのこと、なんにも知らないんだよ……なんにも変わってない」さくらは、うつむく。シロツメは、そんなさくらを哀れに思う。愛されているのに……それに気づかないだなんて。「……。変わってる」シロツメは、さくらを見つめる。「あのね……。キミのお父さん、僕の会社に転職してきたんだよ。彼に前の会社のことを聞いたら、相当なエリート会社に勤めていたみたいだね。……でも、そこから僕が働いてるような中小企業の会社に転職してくるなんて、すごい覚悟だったと思うよ…家が近いから、ここに転職してきたんだって。」シロツメは、さくらに問いかけるように話す。「え……転職?ど、どうして……。パパは、単身赴任でしょ……どうして……」さくらは、本当に不思議なようだ。そんなさくらにシロツメはこう答える。
「キミのためだよ」
シロツメは、さくらに微笑んだ。「……?わたしのため……?」さくらは、本当に納得できていない…。「パパが……あたしのために……うそ…」さくらは呼吸が荒くなる。「だ、……大丈夫?」シロツメは、そんなさくらが心配だ。「そんな……うそ……」さくらは、シロツメたちから遠ざかる。「え?ど、どうしたの?」シロツメは慌ててさくらを追いかける。「あたしのせいで……パパは…」さくらは、絶望した。コウジの生き方を自分のせいで変えてしまった、彼の自由を奪ってしまった……。さくらは、どんどん呼吸が荒くなる。「お、落ち着いて……さくらちゃん……」シロツメは、そんなさくらをなだめようとする……でも、さくらに彼の声は響かない。すると、さくらの周りに、黒い……ツタの様なものが、家の壁から生えてきた……「……なにこれ?!」シロツメは少し後ずさる……。でも、この子をなんとかしないと……と、シロツメはよつばを呼んだ。「よつば、そーだ!これを渡して!」シロツメは、スパイスからもらった例の捨てられたパンフレットをよつばに手渡した。「え……?なぁに?これ……」よつばは、渡されたパンフレットをまじまじと見る。「これ、渡してほしいって言われたんだ。お前から。お前なら、あの子と話せる……と、僕は思う。」シロツメは、よつばの肩を優しく持った。「うん…わかった。」よつばは、嫌な予感がしながらもそのパンフレットをさくらに見せる。「さくらちゃん。これ!」よつばは、パンフレットをさくらに見せた。「……?!な、な、な、なんでそれを……?」さくらは後ずさる。ひどく、このパンフレットに怯えているようだ。「お願い!これもらって!」よつばは、とりあえずシロツメに言われたとおりにする。「……いいよ……いらない……」さくらがそう言うと、黒いツタが増えてきた。家の壁や、床、家具にまで黒いツタに覆われていく……まるで、さくらの心情を表しているみたいだ。「それ、あんたが持ってなよ、あたし、いらないからっ……」さくらは、よつばから距離を取る。様子が…おかしい。よつばは、黒いツタの音に耳を澄ます。あたりを見渡せば、部屋中が黒いツタに包まれていた。もしかしたら、自分たちもこれに覆われてしまうのではないだろうか……?
「さくらちゃん。怖いの?これが。」よつばは、さくらに問いかける。パンフレットをさくらに見せびらかして言う。「大丈夫だよ。ただの紙だよ。」よつばは、パンフレットを自分も見ながら言う。「おうたのレッスン。」よつばがそう言うと、黒いツタは更に増えた。「………。もう……」さくらは、泣きそうになっていた。シロツメは、アオキを守るように覆いかぶさる。「どうしたの?……泣かないで…。」よつばは、さくらを抱きしめた。さくらは、その途端、肩を震わせて、大声で泣いた。「さくらちゃん。悲しいの?」よつばは、無邪気にそう聞く。さくらは、泣いてるだけで何も答えない。「……。ごめんね。さくらちゃん……」よつばは、さくらを優しく抱きしめる。シロツメは、そんなよつばを見て、驚いた。よつばに……こんな対応が出来たなんて……。シロツメはよつばの成長を少し、感じた。「パパと……ママは……あたしのことなんて、好きじゃない」さくらはボロボロ泣きながらそう言う。「ちがうよ。だいすきだよ。」よつばは、優しく言う。「あたしなんて、いらないんだっ!!いない方がいいんだっ!!だれも、あたしのことなんて、興味ないし、好きじゃない……。いない方がいい……ずっと、ずっと、そうだから……!みんなあたしを嫌いになるの……。冷たい目でわたしをみるの……。私を突き放して、一人にするの……それが、……それが……」さくらは、言葉をつまらせる。よつばは、そんなさくらの背中を優しくなでた。「ぼく、きらいじゃない!だいすきだよっ。」よつばは、さくらに釣られて泣きそうになるけど、抑えて抑えて答えた。よつばは、誰かが泣いてると、釣られて泣いてしまう。夜、眠れない時、シロツメが泣いているのが聞こえたら、よつばも涙を流してしまう。シロツメは、ずっと最近泣いている。よつばは、それがとても辛かった。聞きたくない……。でも、それが今のシロツメだから。認めてあげないと……。シロツメが大好きだから。よつばは、さくらに話しかける。「ゲームしようよ!きゅうこのゲーム!」よつばは、えらく切り替えが早い。「きゅうこ……?」さくらは、腫れた目でよつばを見る。「お、お前、ゲーム持ってんの……?」アオキは戸惑ってよつばに駆け寄る。気づいたら、あの怖い黒いツタはきれいサッパリなくなっていた。「じゃあ、用意してあげるよ。まってて。」シロツメは、ゲーム機を用意した。「うげー……またしんだー……」アオキは自分に呆れて言う。「あんたは、直感で動きすぎ。よつばの方ができてる。」さくらは冷静に返す。「はー?だって、こことか不可能じゃん」アオキは少しイラついて返す。「え?簡単じゃん。なに言ってるの。こうすりゃいいんでしょ。」さくらは、普段ゲームなんてしないのに、なぜか楽々と出来た。なのに、ゲームばっかりしているアオキは下手くそだった。「アオキくん、きゅうこのゲームヘタなのー?」よつばは無邪気に聞く。「そ〜だよ。なんか悪いか。」アオキはふてくされて言う。「みんな、そろそろ寝ようか。」シロツメが、子どもたちに声をかける「は〜い。」と、子どもたちが返事し、片付けを始める。シロツメはちょっぴりほっとしていた。よつばの知らない一面を知れたこと……、よつばに友達ができた……かもしれないこと。さくらの気持ちが聞けたこと……。すこしだけ、シロツメはすっきりした気分でいた。
「じゃあ、おやすみね。」と、シロツメは部屋の電気を消す。もう、こんな遅くまで遊んでたなんて。もう、夜の11時半。あともう少しで12時だ。
〜第20章終わり〜
第21章【転校生さん……!コンニチハ!】
「お前、アオハのこと、好きなんだろ。」そう言われてゆりは目の前を見ると、そこには……マリアがいた。
「?!」ゆりは、びっくりして後ずさる……。「あ、あんた……ふ、ふ、ふざけんじゃないわよ……。そ、そ、そ、そんなわけ……」ゆりは、自身の体が熱くなっていくのを感じてはいたが、どうしても、認めることはできない。「アオハくんは……ただの、友達だし。」ゆりは、ぶつぶつ呟く。「……。あっそう。じゃ、いいけどなっ。でも、お前。リンとは話しておけ。じゃあな……」マリアがそう言って遠のいてった時……。ゆりは叫ぶ「なんでそんなこと……話せないよ……っ!!」ゆりはマリアに訴えかける。マリアは待ってましたと言わんばかりに振り返る「あのさぁ。オレが、なんでアオハにキスしたか、しってるか?」マリアはゆりに問いかける。「はっ……?そ、そんなん知らないよ!!」ゆりは、少しイライラしてきた。まぁ、マリアと話しているとイライラするのは間違いないだろう。「なんなのよ!ふざけないで!」ゆりは、マリアに怒鳴る。「ちょっとでもお前に制裁を喰らわせたくって。」マリアはすました顔で答えた。「…は?」「ゆり。おまえはいつも嫌なことから逃げて、オレに押し付けたよな。だから、お前の嫌がることをしてやろうと思って。そしたら、おまえ、自分からもどってきたよな?オレはおまえを意識を操ることなんて、できない。おまえ、ほんとはうれしかったんじゃないの」マリアはゆりを睨む。「はっ……?ふ、ふざけないでよっ……そんなわけっ……!」ゆりは取り乱して必死に叫ぶ。「だからさぁ。リンとだなんて、かんたんに話せるんじゃねぇの。アイツ、最近なんか、おかしいんだよ。おまえもわかるだろ?オレは頭にきたからなんもしねぇからな。手伝いくらいはしてやるからさ。そろそろめざめろよ。ゆり。」マリアはゆりに問う。
『ゆりちゃん……あなたは私のひかりだよ。大好き。』
幼かったあの頃の、リンの声がする。
『ゆりちゃん、その髪型、ステキ。私もマネしていーい?』
幼くあかるいバラみの声もした。
『ゆりちゃん……。まだ、いかないで。』
幼いアオハが泣きべそをかいた声。
「みんなおまえをよんでるよ。これでも気づかないのか。バカ。」マリアは呆れて言う。「……よんでるから、なに?私のことなんて、今はどうでもいいんだよ。むかしのことでしょ、そんなの。いい?人間なんて、自分のことしか考えてないからっ……。」ゆりはマリアにそっぽ向く。「そーだな。とくにおまえは。」マリアは強めに言う。「なんだと!?お前……」ゆりはマリアの胸ぐらを掴む。やってみろよ。殴るでもなんでも。できねぇくせに。」ゆりは息が荒くなり、マリアの服をものすごい力で握る。ゆりの顔は、とんでもない剣幕だった。「オレはおまえのおかげで、否定されるのも、痛い思いするのにも慣れてるよ。お前がぜんぶオレに押し付けてきたから。おまえはいつもいつもいつもいつも逃げて逃げて逃げて逃げて!逃げて!逃げて!!」マリアもゆりと一緒になって声を荒げる。ゆりは、そんな感情的なマリアを見たことがないので、少したじろいだ。「……っ」ゆりの目からは、涙が溢れる。「わたし、どうしたらいいの?……もう、やだ……」ゆりは崩れ落ちる。「バーカ。」マリアは無表情でそう言った。「もう、時間だ。おまえにはなんの期待もしてない。失望したよ、ゆり」
「まって!マリア!!」
ゆりは必死に叫ぶ。
「いかないで!」
ゆりはおどろいて辺りを見渡す。夢……のようだが、ゆりとマリアはこの夢を通じてよく対話する。でも、今回の夢は中々濃いものであった。ゆりは、ため息をついた。「最悪」ゆりはベットから起き上がった。
ゆりは教室に着いて、ゆっくりしていた。ゆりは、趣味があまりないので、ぼ〜と壁を見つめていることしか、できなかった。小学生の頃はねりけしをつくってみたり、ペンを人形に見立てて、1人でお人形ごっこをしたりと、色々遊んでいたけれど、今は特にそういうものには惹かれない。もう、大人になってしまったのだろう。だから、この時間が暇で暇で仕方がない。「今日転校生来るんだって〜」と、クラスメートの男子が叫ぶ。「え?どんな人?」アオハが聞く。「知らん。」叫んだ男子が言う。「なんだよ、それ。」アオハはそいつをひじでつつく。すると、ゆりのクラスの担任のやまぐちがやってきた。「皆さま、せきについてくださいっ!今日は転校生が……なんと!3人もいますっ!!」やまぐちは汗をかきながら話す。「シュガーく〜ん??」やまぐちはシュガーを呼ぶ。やまぐちはとても気にしいなので、誰かにちゃんと聞かないと、不安で仕方ないのだ。なので、シュガーは、毎回やまぐちに呼ばれている。それは彼が生徒会であり、学校1の優等生だから。シュガーの欠点を探そうにも口にはできない……強いて言うなら、完璧すぎること。それが欠点。「どうしました?」シュガーはやまぐちに駆け寄る。「転校生って、自己紹介をすればいいの??それとも、他に何かあるかしら??」やまぐちは不安そうに聞く。「自己紹介だけでいいと思いますよ。」シュガーはそう答えた。「…わかったわ。ありがとう!」やまぐちはほっとして言う。シュガーの言いなりだ。「それでは、失礼します。」シュガーは頭を下げて、席に戻った。「じゃあ、来てもらいましょうか……。どうぞ〜!」やまぐちは廊下に向かって言った。このクラス中のみんながその転校生に注目している……じつは、ゆりも少し緊張していた。
入ってきた転校生は……
!?
その場のみんなが彼らに釘付けになる。
「あの子たちがそれなの?!」「クセがつよそうだなぁ。特に、ツインテールのやつ。」
みんなが思い思いに口を出す。
「うっさーい!!アンタたち、おだまりなさーい!!」クルコが偉そうに叫ぶ。「!?……そ、そうね!あなたたち、自己紹介をお願い!」やまぐち先生がそう言う。「じこしょうかい?」クルコが首をかしげる。「とりあえず、名前言っときゃいいよ。」コスモがクルコに囁く。「あ?なまえ?それなら言えるわ!あたしはクルコ!」クルコは大声で名前を叫ぶ。「俺はジョンっ。」「………わたしはコスモ。」コスモはクラスのみんなから目を避けて無愛想に言った。「あら!ありがとう!それじゃあ席に……あれっ。シュガーく〜ん?!」やまぐちはまたシュガーを呼ぶ。「はっ、はいっ!なんでしょう!?」シュガーは吹っ飛んできた。「あ、あのね……あの子たちの席がないの……だから、あなたと何人かでとってきてほしいの。」やまぐちは申し訳なさそうに言う。「じゃっ俺いきまーす。」アオハは率先して手を上げながら立った。「アオハくん。ありがとう…」シュガーはアオハに微笑む。「そーだっ!ゆりちゃん、一緒にいこーよ。小学校のころは積極的にこういうことしてたのにな〜。」アオハはゆりに微笑む。「え……。」ゆりはお前余計なこと言ってくれたなと思った。周りの視線がゆりに向くのを感じた。そうだ。昔は人の役に立つことをなにも考えずにできていた。でも、今は、善いことをしても、報われないから、そんなこと、簡単にはできない……ゆりはもうこれ行くしかねぇじゃねぇかこのやろうと思った。「う、うん…!」ゆりはアオハを見ようと視線をずらす……ジョンがと目が合った。ジョンはゆりを冷たい目で見ていた。本当に、目の奥が真っ暗で希望がないみたい……にも見えた。ゆりは、すぐに目を逸らして、アオハたちに近寄る。できるだけ、目立ちたくないのに…ゆりはしぶしぶアオハたちに着いていく。ただ、あのジョンの目がとても怖かった。自己紹介の時といい、彼には陽気なイメージがあったのに……もしかすると、ゆりを嫌っているのかもしれない。まぁ、こんな人間を愛してくれるのは、家族以外にいないだろう。
ゆりたちは下の階まで降りていく。「ねぇ、ゆりちゃん。明後日の文化祭来なよ。」アオハは無邪気に言う。「は?…なんで。」ゆりは少しイラッとした。本当にコイツは無神経だなぁ「だって、ゆりちゃんいないんだもん。毎年探しても居なくって、俺寂しいんだよぉ。」アオハはわざとらしく言う。「え、アオハくんにはいっぱい人がいるじゃん。それに女の子も寄ってくるし、私と違って、みんなに好かれてるじゃん。」ゆりは寂しそうに言う。「え?ゆりちゃんも、みんなに好かれてなかった?俺はゆりちゃんのこと、好きだけどなぁ。」アオハが言う。「それは昔の話でしょ。今は違う。」ゆりは強めに言う。「え?そ、そんな怒んないでよ……。俺は、ただ思ってることを言っただけだよ?だって、ゆりちゃんは……本当に……」
「うるさいんだってば!!」
ゆりはいきなり大声を出す。授業中だったので、辺りがシーンと静まり返った。「お、落ち着いて!2人とも……」シュガーがアオハとゆりの間に入る。ゆりは、それでも落ち着かないみたいだ。ゆりはアオハたちより先に歩き出した。「ほんと、君は人の気持ちを考えないよねぇ。」シュガーは冷静に言う。「はっ?そ、そーなの?」どうやらアオハは、本気で理解していないみたいだ。「そうだよ。君は彼女の気持ちを考えてない。彼女はきっと、1人でいる方が好きなんだ。でも、君は無理やり彼女を輪のなかに入れようとしてるよね?それは、ダメだよ。彼女と一緒にいたいなら、そこを理解してあげなきゃ。」シュガーはゆりのことをよく知らないけど、控えめな人なのかな、とは思っている。「……俺、そんなこと、したかなぁ……。」アオハは頭をかく。「ふふっ……。君たちはちゃんと話し合えば分かり合えるはずだよ。彼女は、ちゃんと、話を聞いてくれるだろうから……。」シュガーは、切なく微笑む。「そう思う?」アオハは首をひねる。「うん。君がうまくやりさえすれば……今の感じを見ると、先は長そうだけど。」シュガーは微笑む。
とりあえず、転校生たちの席は揃った。授業も終わり、夜の時間がやってくる……。ゆりは、自身の部屋のドアを強めに閉めた。よつばたちは、いない。よかった。今日はあまりよくない言葉を吐いてしまいそうだったし、1人で助かった。ゆりは大きめのため息をつきながら、ベッドにダイブする。『おまえ、アオハのこと、好きなんだろ』マリアの言葉が、ゆりの頭の中でぐるぐるする。ちがう!あんなやつ、好きじゃない……。ゆりが涙目になると、部屋がノックされた。なんなんだよ!きいいいい!!ゆりはイライラしながら扉を乱暴に開ける。
「こんにちは」
「!?」ゆりは…とても驚いた……来訪者は……ジョンだっ…。
「えええ?!あ、あなたは……。」ゆりは驚きすぎてしりもちをつく。「おっと、すみません。驚きましたよね?」ジョンはそんなゆりを見下ろす。ゆりは、ゆっくりと立ち上がる…。「あ、あの、ど、ど、ど、どうしました?」ゆりはどもりまくる。「実は……。一人一人に聞いているんですが……。あなたが最後でっ。」ジョンはゆりを意味深に見つめる。あの時の……冷たい目で。「あなたに聞きたいこと……それは、この学校に、子どもがいることを知っていますか?」ジョンは不気味に目を細めて笑う。ゆりは、心当たりしかない。「え……?知りません。見たこともありません。」ゆりは不安になって色んなところを見る。ジョンの目を見ないようにするために。「へぇ。そうですか。おっ。その本は、なんですか…?」ジョンはゆりの部屋に落ちている本を指差す。
「いやあああああ!!」
ゆりは、急いでその本を隠す。「ティンクル・ティンクル。」ジョンはすました顔でそう言う。「はあああ!!かんべんしてくれえええ!!」ゆりは、崩れ落ちた。恥ずかしくって、死にそう。ジョンはそんなゆりにこう言った。「なにも、そんなに落ちこまないで、好きなものは人それぞれ。だから大丈夫」ジョンは微笑む。でも、ジョンの笑顔にはあたたかさがない。目の奥が………死んでいる…?「まぁ。いきなり押しかけてすみません。また後日、お話にうかがいますね〜」そう言ってジョンは消えてった……。ゆりは泣きそうになりながら、ティンクル・ティンクルを握りしめる。この絵本は、リンと……そして、バラみと……よく読んだ本。ゆりは、この本を持ってきていたのだ。お守りとして……。この絵本には、悪い思い出がない。むしろ、いい思いしかしてない。だから、今も持ってるだけで安心するのだ。よつばたちに見られていた方が恥ずかしくない……!!ゆりは頭を抱えた。終わったぁ……。と思った。今日は早く寝ようと、寝る準備を始める。ゆりは、不安な気持ちが止まらなかった……。このまま、私はどうなっていくんだろう。ゆりは、うつむく。
……深夜1人夜道を歩く少女は呼ばれて振り向く。
「あなたにお願いしたいことがあるんだ。」
〜第21章終わり〜




