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第7話「クロスワード」

 公園の片隅でぐずぐずと泣いている子供がいた。

 少し離れたところで、同年代の子供たちが鬼ごっこをしていたが、誰も駆け寄る様子はない。

 いや、1人いた。

 その子は公園に来たばかりのようだった。キョロキョロと辺りを見回したあと、泣いている子の前に立った。


「ねえ、なんで泣いてるの?」


「ひっぐ、だって……誰も遊んで、くれなくて」


「なかまはずれ?」


 あけすけなその言葉に、泣いていた子供は恨みがましそうな目で頷いた。


「じゃあさ、いっしょに、遊んでよ」


 手が、差し出される。

 驚いた顔をしたあと、恐る恐るその手は取られた。


 ※※※


 気がつくと、タブレットからアラーム音が鳴っていた。眠気まなこに手を伸ばして音を止める。違う、スヌーズじゃない。悪戦苦闘しながらもアラームを完全に切ると、僕はベッドから起き上がった。


 昨日の対戦の後、挨拶もそこそこに、僕とナツちゃんはリンケージパレスを後にした。

 保護者同伴でない場合、18歳未満が遊べるのは18時までというのがパレスの規定ルールだった。学校帰りで制服の僕らにとってそれは避けることができないタイムリミットだ。

 帰りのバスの中で、ナツちゃんは何も話さなかった。

 一度だけ、


「勝手に決めてごめん」


 という呟きが聞こえてきたが、僕は何も言わなかった。小さい頃からずっと一緒の幼馴染だ。こういう時に言葉が必要なほど、僕とナツちゃんの関係は浅くはない。


 パジャマから着替えるとがらがらと窓を開ける。僕の部屋は2階にある。そこから通りを見下ろすと、ちょうど玄関の門を出ようとしているナツちゃんが見えた。ジャージにTシャツ姿。日課のランニングに出るのだろう。

 ナツちゃんも僕に気づいたようで手を振ってきた。僕が手を振り返すと、にっこりとした笑顔でそのまま走り出した。


「毎日すごいよなぁ」


 中学校では陸上部だったナツちゃんは、小学校の頃から朝のランニングを続けている。僕が知る限り、雨の日と中一の時にインフルエンザで寝込んだ時以外は欠かしたことはないはずだ。

 ちなみに僕がそれに付き合っていたのは最初の一年だけで、すぐについていけなくなった。

 僕がいるとナツちゃんが自分のペースで走れないからと今は遠慮してる。

 うん。別に走るのが嫌いだからではないよ。


 身支度を整えた僕が時計を見ると時刻は6時30分だった。朝食まで30分といったところだ。いつもならこの時間はクロスワードパズルを楽しんでいるんだけど、今日は他にしたいことがあった。

 僕は机に座るとノートを広げた。


 考えるのはもちろん、あのチンピラについてだ。約束についてはもうしょうがない。勝利条件については開始までに明文化する必要があるが、ナツちゃんが決めたことを僕がくつがえすつもりはない。

 ただ、気になっているのは、僕達が情報戦で圧倒的に不利な立場にいることだった。

 チンピラは僕達のクラス、ビルド、戦い方や癖、あの一戦だけでもたくさんの情報を得たはずだ。一方僕たちは、チンピラのことを何も知らない。これでは作戦も立てようがない。

 だが、全く情報がないわけでもなかった


 シュトゥルムヴィンドのブリッツ。

 チンピラはそう名乗った。

 チーム名とプレイヤーネームからでもいくつかの推測はできる。クロスワードパズルと一緒だ。横の単語が分かれば、縦の単語を推測することはそんなに難しいことではない。

 もちろん100%の確証はないけど。


 シュトゥルムヴィンド(暴風)

 ブリッツ(稲妻)


 ノートに書く。

 どちらもドイツ語だ。

 さらにチンピラについて書く。


 性格 粗野 自信家

 戦闘 正面から叩き潰す


「ふむ」


 バディズソウルは前衛系、後衛系、特殊系の3つのアーキタイプがある。ちなみに僕が使うミスティックは特殊系で、ナツちゃんのアーチャーは後衛系だ。


 そして、チンピラのチーム名と言動を考えると、彼はどう考えても前衛系だろう


 ◎ストライカー

 ◯セイバー

 ●ランサー


 ノートにサラサラと候補を書く。

 本命はやっぱりストライカーかな。格闘戦を得意とする最速のクラスで、反面操作が難しい。あの自信に溢れた言動とブリッツというプレイヤーネームはストライカーにぴったりだった。

 次点でセイバー、大穴でランサーがあがる。

 ランサーというのは重戦士クラスであるナイトで、あえて重鎧を装備せず両手槍で戦うビルドだ。セイバー並の機動力と前衛クラスの中では一番リーチに優れるため、ナイト使いの6割はこのビルドを選択している。

 足が遅いビルドはいろいろきついしね。


 ここまではいい。自信があった。

 問題は彼のバディだ。

 チンピラは「先月こっちに引っ越してきた」と言った。今は五月だから不自然なことではない。

 ただ新環境で相方がすぐに見つかる可能性はそんなに高くないし、もし固定の相方がいるのだとしたら、昨日の第5バトロイに参加してたのはアルテミスではなく、シュトゥルムヴィンドだっただろう。十中八九彼に固定のバディはいないはずだ。

 だがいくらチンピラが自信家でも、即席のバディで勝負を挑んでくるとは思えなかった。

 リンケージパレスには、その日のバディを探す待機スペース、通称「捨て猫広場」があるが、あくまで臨時バディであり、連携を組めるところまでいけるチームは稀だ。

 そしてバディズソウルは、バディ同士の連携が大きく勝敗を左右する。


 そこまで考えたところで、階下から母親の呼ぶ声が聞こえてきた。朝食が出来たようだ。僕はノートを閉じて、階段をゆっくり降りた。





用語集


ナイト:騎士。全クラス中最大の防御力を誇る。だが機動性の低さを嫌ってあえて重鎧を装備せず、軽装で槍のリーチと破壊力を最大限に活かすランサー(槍使い)というビルドが最近の主流になっている。



よかったら、シュトゥルムヴィンドのチーム構成を予想してもらえたら幸いです



第二部始まりました。

ストック3話分くらいで毎日更新してるので

モチベーションを保つために、ブクマ、感想、評価を頂けますと筆が進むかと思います。

よろしくお願いします。

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