第6話「暴風」
「こすい。こすいなぁ。このエリア、レベル低いんじゃねぇか?」
和気藹々としていた僕たちに冷たい言葉が浴びせられた。
やってきたのはチンピラみたいな男だ。いや、人を見た目で判断してはいけない。ましてや初対面で人をチンピラ呼ばわりするなど。
僕は彼をよく見た。
背は高い。レフトさんと同じくらいだろうか?
だが、がっしりとした体格のレフトさんと違ってひょろりとした印象を受ける。それでも派手な色のアロハシャツから覗く腕にはしっかりとした筋肉が感じられた。決してひ弱ではない。
金髪に染めた頭にはサングラスを乗せており、何より目つきが、とても悪かった。
やっぱりこの人。チンピラに見える。
「あんた、何者だ?」
レフトさんがチンピラの前に立つ。こういう時のレフトさんはとても頼りになる。確か柔道黒帯だって言ってた。
チンピラはレフトさんを恐れる様子もなく答えた。
「チームシュトゥルムヴィンドのブリッツ。先月こっちに引っ越して来た。よろしく頼む。と、言いたいが、あんたら本当にこのエリアのトッププレイヤーか?」
僕たちは顔を見合わせる。
正直、この時点で僕は油断していた。他人事だと思っていたと言ってもいい。荒事は僕の範疇じゃないし、面白い見せ物くらいに思っていた。
だから、一番抑えておかないといけない人物を忘れていた。
「それ、どういう意味ですか?」
ナツちゃんがチンピラ、いやブリッツの前に立っていた。僕は天を仰いだ。一生の不覚だ。
「あんたは?」
「アルテミスのナツです」
ひゅー。ブリッツが口笛を吹いた。
「驚いた。あのアーチャー使いがこんな可愛い美少女だとはね。いや、悪かった。あんたの気を損ねるつもりはなかったんだ。あんたの動きは素晴らしかったよ。一撃でビーストマスターを仕留めるAIM。セイバー二人に囲まれても慌てない度胸と距離感。本当感服したさ」
ニヤニヤと笑いながら、ブリッツ、いや、チンピラが舐め回すようにナツちゃんを見ている。スレンダーに見えて、ナツちゃんは意外と胸が大きい。その視線にいやらしさを感じて、僕はたまらず間に入った。
「なんだてめぇ」
視線を遮られたのが嫌だったのかチンピラが睨みつけてくる。怖い。だけど、後ろにはナツちゃんがいる。引くわけにはいかない。
「……ミスの……キ」
「あぁん?」
チンピラが大声を出す。肩がすくむ。
「大丈夫、アキ君」
ナツちゃんが手を握ってくれた。
それを見てチンピラが何かを察したかのように頷いた。
「てめぇか。あのしょうもないミスティックは!」
「しょうも……!」
ナツちゃんが絶句する。
「Sランクのミスティックがいるって聴いたから、興味持って来たんだけどな。なんだあの立ち回りは。味方を囮にするわ、隠れての不意打ち。キルは全部相方任せ。しかも最後は分からん殺しの相打ち狙い。お前本当に男か?」
チンピラの指摘はもっともだ。
姑息な作戦しかできないゴミ。
きっとそう思ったんだろう。
まあ、そういう考え方もあるだろう。僕も別にそれを否定しない。僕自身、これが王道の戦い方だとは欠片も思っていない。だがここには、その言葉を最大の侮辱だと感じる人物がいた。
「ふざけないで!」
ナツちゃんがキレた。
「アキ君は勝つために最善の作戦をいつも選んでます。それを外から見ておいてしょうもないだなんて」
「あれが最善?違うね。そいつは逃げてるだけさ。ナツ。あんたの腕はいい。それだけの腕があるアーチャーがバディなら、正面から全部撃破していけばいいんだ。オレならそうしてるね」
「……っ!」
レフトさんがナツちゃんを抑えたのが分かった。本気でキレるとナツちゃんは手が出る。
「言わんとすることは分かるが、言い過ぎじゃねえか?アキはこれでも強い。」
ライトさんがチンピラに言う。
これでもってなんだろう。
「あんた、シザースか。オレはあんたらにもムカついてるんだぜ。なんで最後、タイムアップ狙いで逃げた。あんたらなら正面からでも倒せただろう」
今度はシザースにも喧嘩を売り始めた。
すごいなこの人。
新天地で嫌われることを恐れないんだろうか?
とはいえ、これ以上揉めるのはまずい。
お店の人に見咎められたら最悪出禁もある。リンケージパレスはクリーンで安心できる空間を目指している。常連だろうがランクSだろうがそこに忖度はない。
僕がライトさんに、もうやめましょうと言いかけた瞬間。レフトさんを振り払ったナツちゃんが短く言った。
「勝負しましょう」
「あ?」
「来週の日曜日の第5バトロワで負けた方が相手に謝る。これで、どうですか?」
その言葉にチンピラがニヤリと笑った。
「いいねぇ。そういうのは好物だ。だが、報酬が足りねぇ。俺はあんたらに謝って欲しいわけじゃない。だからこうしよう。
ナツ。お前が勝ったら、ここにいる全員に俺は土下座して謝る。それでいい。だがもし、俺が勝ったら……」
嫌な予感がした。
「ナツは今後、俺のバディになれ」
冗談ではない。そんなことになったら……。
だが、僕が最悪の結末に震えている間に、ナツちゃんは了承してしまった。
「分かりました。それでいきましょう。」
騒然とする僕たち。
「はん。やっぱおまえのことは好きだぜ、ナツ。じゃあ来週」
そういうとチンピラはそのまま立ち去った。大きな爪痕を残して。
まるで台風だ。シュトゥルムヴィンド(暴風)の名前は伊達ではないということか。
僕は呆然としながら、途方に暮れるのであった。
第一部 シザース編 完
第一部完です。
ストック3話分くらいで毎日更新してるので
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