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第3話「アルテミス」

「火蜥蜴の息吹よ。九つ分かれて火炎の矢となれ。フレイムアロー!」


 空高くから、僕目がけて炎の矢が降り注いだ。キャスター(術士)の放った範囲魔術フレイムアローだ。

 キャスターは全クラス中最大の攻撃力と範囲攻撃を持つクラスだ。

 障害物がないところで撃たれると近接職では詰みすら見えるフレイムアローだが、僕は冷静に対処した。


「モード『アクア』さらに『ガイア』」


 短く呟くと左手首の宝玉が青く輝く。

 次の瞬間、手にした魔剣で炎の矢を弾き飛ばした。

 一つ。二つ。三つ……九つ。


「うそぉ!」


 全てを叩き落とすと、驚いた女性の声が上空から聴こえてきた。


 通常、魔法攻撃はパリィ出来ない。だがミスティック(魔剣使い)には魔法攻撃を近接パリィ出来るようになる技がある。手首の宝玉に水属性を付与すると使用できるモード『アクア』だ。

 このモードを使用中は魔法攻撃をパリィ出来るようになるパッシブスキル「水剣」が発動する。


(まあ、こんな特別天然記念物みたいなクラスのスキルなんて知るわけないよな)


 僕が使用しているクラス「ミスティック」は「魔剣」を武器に戦う魔剣使いだ。

 最新の運営調査によれば、使用率たった2%の超不人気職。一番人気のセイバーが21%だというから、最早絶滅危惧種だ。

「究極の器用貧乏キャラ」「操作がテクニカルすぎるのに割に合わない」「剣を使いたいならセイバーでいいし、魔法を使いたいならキャスターでいい」と巷では酷評に溢れている。

 だけど、「モード」の使い分けで、どんな状況にも対応出来るのが好きで僕は愛用していた。正確に言うと他のクラスを使ったことがないから、これしか使えないんだけど。


 彼女たちの内心を慮りながら僕は呟く。


「モード『ガイア』。重ねて『ガイア』」


 左右の手首の宝玉が黄土色に光る。

 これは移動速度を上げるモードだ。大地を蹴る両脚に力が漲る。モード『ガイア』は2つ重ねることでセイバーを超えるスピードを得ることができる。

 僕は高速で移動して上空の二人から距離を取ろうとした。だが、空を飛ぶ二人は難なくそれについてくる。


 そう、二人は空を飛んでいた。天馬ペガサスに乗って。

 ビーストマスター(幻獣使い)。

 それは特定の幻獣と一緒に戦えるクラスである。選んだ幻獣によって大きく戦略、戦術が変わるクラスであり、上空のビーストマスターが選んでいるのは一番人気のペガサスだった。

 そして、ペガサスに己とキャスターを乗せ、上空から爆撃を繰り返すバディのことをセイバー使いは苦虫を噛み殺したような顔でこう呼ぶ。


『ペガキャス』


 と。


 遠距離攻撃を持たないチームはなす術なく焼き尽くされる強力なバディ構成だ。

 きっと彼女たちは僕を見つけた時こう思ったに違いない。


『カモ』がいる。


 孤立した前衛クラスが一匹目の前に踊り出てきたのだ。追いかけない理由がない。

 僕は脱兎のように逃げ出した。プレイヤーの中には敵に背中を向けることを恥だと言う者もいるが、生憎僕はそんな信条を持ち合わせていない。

 鼠のようにジグザグに逃げる僕に、次々に魔法が襲いかかる。移動しながらではパリィは出来ないだろう。そう見ているみたいだがそれは正解だ。

 一度に同時発動できるモードは二つまで。

 なんでも出来るけどなにも出来ない。

 ミスティックが弱キャラと言われる由縁。

 だけど、僕がなんでも出来る必要はないのだ。

 だってこれは、バディ戦なんだから。


「ストライクアロー!」


 フィールドに、ナツちゃんのよく通る声が響き渡った。


《NATSU KILLED LOTUS》

《TEAM ARTEMIS +1 POINT》


 システムメッセージとともにペガサスが粒子となって四散する。

 ナツちゃんの放った一矢が、一撃でビーストマスターを仕留めたのだ。幻獣はマスターが死亡すると一緒に消滅する。


「がっ!」


 可哀想なのは先ほどから魔法を乱射していたキャスターだ。彼女は上空から落とされ大地に叩きつけられた。

 落下ダメージで一気にヒットポイントが減っただろう。すかさず、そこへ短剣を抜いたナツちゃんが迫る。


《NATSU KILLED MARIN》

《TEAM ELIMINATED BONUS》

《TEAM ARTEMIS +2 POINTS》


 あっという間に片付けるナツちゃん。キルポイントに加えて、チーム撃破ボーナスが加算される。


 これが僕たちの作戦だった。

 空を飛べるペガキャスは、状況が不利になるとすぐに逃走する。

 だから孤立している振りをして僕が囮になったのだ。


「アキ君、お疲れー」


 短剣を仕舞いながらナツちゃんが帰ってきた。

 そんな彼女に僕は話しかける。


「ねえ、ナツちゃん」


「なに?」


「不意打ちする時に、スキル名叫ぶのやめない?」


 キャスターと違って、アーチャーのスキルに詠唱は必要ない。


「えー、でもさ。叫んだ方がかっこいいし命中率上がるんだよ?」


 もちろんそんなシステムはこのゲームに実装されていないが、ナツちゃんが言うならそうなのだろう。彼女は感覚派だ。

 ノリは何よりも動きに左右する。


「そんなことよりアキ君。今何ポイント?」


「今ので8ポイントかな。いいペースだね。それにそろそろ……」


《NEW BOUNTY TARGET》

《TARGET:RIGHT / SCISSORS》

《REWARD:3 POINTS》


 待ち望んでいたシステムメッセージに、僕とナツちゃんはにこりと笑い合った。

用語集


フレイムアロー:キャスターの範囲攻撃スキル。9本の炎の矢を同時に発射する。発射された矢はオート誘導で対象に飛んでいく。一本一本の威力は高くないが、直撃すると0.5秒のスタンが発生するため、一発でも当たると残りの矢も連続して命中しやすい。魔法攻撃はパリィできないため、遮蔽物のない場所で撃たれると詰みがち。通称『前衛殺し』。


ミスティック:魔剣使い。使用率2%の絶滅危惧種。武器攻撃力+攻撃速度、魔法攻撃力、防御力、機動力を上昇させる「モード」というスキルを使用できる。一度に使用できるモードは2つまで。同じモードを重ねて、効果をさらに高めることもできる。


モード『アクア』:防御力を上昇させるスキル。追加効果として魔法攻撃をパリィできるようになるパッシブスキル「水剣」が発動する。使用すると手首の宝玉が青く光る。


モード『ガイア』:機動力を上昇させるスキル。一度の使用でセイバー同等となるが、重ねることで最速のクラス、ストライカーと同等まで機動力が上昇する。

使用すると手首の宝玉が黄土色に光る。


ビーストマスター:幻獣使い。ゲーム開始時に選択した幻獣と戦うことができるクラス。選択できる幻獣は4種類で、どれを選ぶかで戦い方が大きく変わる。


ペガキャス:ペガサス型のビーストマスターとキャスターのペアの通称。上空からの爆撃は、遠距離攻撃を持たないクラスにとっては地獄でしかない。


アーチャー:弓士。弓による遠距離攻撃に加えて短剣での近接攻撃も可能。生存力が非常に高く、使用率はセイバーに続いて2位の人気クラス。


ストライクアロー:アーチャーの代表的攻撃スキル。高い攻撃力と長い射程を誇るが、オート誘導はなく、近接攻撃によるパリィも可能なため、直撃させるには高いAIMが要求される。

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