第2話「新時代のVRゲーム」(挿絵あり)
2032年。そのゲームは突如として現れた。
バディズソウル。
初めはショッピングモールでのイベントだったという。
開発元の新興企業リンケージアーツは、全国で展開する大型ショッピングモールに公開テストプレイとして専用筐体を持ち込んだ。
脳波コントロールを用いた新感覚の操作方法。
大型スクリーンに映し出される美麗かつハイスピードなバトルは大好評で、全国のショッピングモールからは、是非うちでもと、依頼が殺到したという。
バディズソウルは全国のショッピングモールを巡回する形でテストが行われ、その人気はニュースになるほどだった。
そして最初のテストプレイから一年。
待望の専門店、リンケージパレスが札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡の6か所に同時オープンした。
専用筐体、専用回線に超大型モニターと、設備費は莫大な金額だったはずだが、プレイ料金はワンコインと良心的だった。
代わりにリンケージアーツは店舗に飲食店を始めとしたテナントを多く誘致した。
完成したリンケージパレスの中央には大型スクリーン、その周囲には二人一組で使用する16機の専用筐体が配置された。さらにそれらを囲むように、フードコート形式の飲食店が並んでいる。
大型スクリーンではバトルロイヤルの様子が、AIリポーターによってリアルタイムで実況され、観戦しながら食事や休憩が摂れるようになっている。
ゲームはあくまで集客。費用はテナント料で回収する。
このビジネスモデルは見事に当たった。
リンケージパレスには学生をはじめとしたメインプレイ層だけではなく、家族連れや社会人も立ち寄るようになる。
この5年間で店舗数は爆発的に増え、2037年現在、50店舗を超えている。
だが勿論、元のゲームが面白くなければ、ここまでのヒットは見込めなかっただろう。
バディズソウルには、人々を熱狂させるだけのポテンシャルがあったのだ。
※※※
「アキ君、もう着くよ」
幼馴染のその声で、僕、香月彬は、手元のタブレットから顔を上げた。
横から声をかけてきたのは、ナツちゃん、春日菜摘だ。
トレードマークのポニーテールを触りながら、前方を指差す。そこには次に停車するバス停名が表示されていた。
「ナツちゃん、本当に第5バトロイに参加するの?もう間に合わないと思うけど」
ボソボソとした声が出る。
バスの中とは言え自分でも控えめな声だと思う。
対照的にナツからハキハキとした返事が返ってきた。
「大丈夫だって。あたしの計算だとバス停を降りてダッシュすればギリギリ間に合うよ」
「その計算って、ナツちゃんの足の速さが基準だよね」
アキは憂鬱な声で答えた。
ナツはスポーツ万能で陸上部からスカウトが来るほどだ。対して自分はチビで運動は苦手。一番の趣味もクロスワードパズルという超インドア派。
家が隣同士の幼馴染でもなければ、ナツとは接点もなかっただろう。
(それでも何故か気は合うんだよなぁ)
長く伸ばした前髪の隙間からそっとナツの表情を見る。
その顔はいつも通り自信に満ち溢れていた。
ナツは昔から思いつきで行動する感覚派だ。今日はアキのクラスのホームルームが長引いた。これは今日のバトロイは無理だな、そう思っていたら、ナツが終了の合図とともにすごい勢いで教室に飛び込んできた。廊下でずっと待っていたらしい。
そのままバスに押し込まれて今に至る。
(言っても聞かないんだろうなあ)
アキは説得するのを諦めて、ダッシュのために愛用のタブレットを鞄にしまった。
1分後、アキはナツに手を引かれながら全速力を強いられていた。
息が上がる。呼吸が出来ない。
そんな状態でリンケージパレスに着くと、アキはナツに専用筐体に押し込まれる。
筐体の中には背中合わせで二つの椅子が置かれている。ぜいぜいと息を整えている間にナツがエントリー申請を進めていく。
「第5バトルロイヤルに乱入」
『了解しました。バトルロイヤル終了まで残り22分。申請を続けますか?』
「もちろん。それだけあれば充分まくれるもの」
「プレイ料金は乱入でも満額かかるけどね」
ぼそっと突っ込みを入れるが、無視される。
『乱入申請を承認。ヘルメットを着用ください』
システム音声に従ってヘルメットを被って目を瞑る。自動調節機能が働き、適切な大きさにヘルメットが伸縮した。
INTRUSION ENTRY ACCEPTED
TEAM:ARTEMIS
LEADER:NATSU
ARCHER / RANK:S
BUDDY:AKI
MYSTIC / RANK:S
DIVE OK?
3
2
1
GOOD LUCK!
その声とともに目を開けると、目の前には荒涼とした岩場が広がっていた。
用語集
第5バトルロイヤル:リンケージパレスでは、1日6回のバトルロイヤルが開催されている。17時から行われる第5バトルロイヤルは、レベルの高いプレイヤー、いわゆる「ガチ勢」が集まりやすい傾向にある。
乱入:ゲームオーバーなどによって参加チームが16チーム未満になっている場合、残り時間が15分以上であれば途中エントリーが可能。ただし、プレイ料金は通常エントリーと同額のため、この機能を利用するプレイヤーは少ない。




