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第12話「黒牛」

 「第5バトルロイヤルにエントリー!」


『了解しました。エントリーを承認。開始スタートまで残り8分。ヘルメットを装着してお待ちください』


 背中合わせに座った後ろの席で、ナツちゃんがエントリーを申請する声が聴こえてきた。アナウンスに合わせてヘルメットを被る。自動調整機能が頭を締め付ける感覚が心地よい。


「ナツちゃん作戦通り、序盤はポイント優先でいくからね」


「うん。ブリッツとの勝負は後半10分切ってから。それまでは交戦を避ける」


「開幕はすぐに索敵ね。向こうに索敵はないからその有利を最大限活かそう」


「了解」


 ブリッツ達が他のチームにやられる可能性は低いと思うが、横槍が入りやすい序盤でぶつかるのは不確定要素が多すぎた。勝負を仕掛けるのは、賞金首が指定される終盤からだ。


「後半ぶつかってからの作戦は……」


「待って、アキ君」


 作戦のおさらいを話そうとした僕をナツちゃんが遮る。


「これ、まずいかも。アキ君。参加プレイヤー人数、確認してみて」


「うん?」


 意図は読めなかったが言われるがままに参加プレイヤーの人数を確認する。

 エントリーは16チーム。

 参加プレイヤー人数は……31人。


 自分の顔が大きく歪むのが分かった。

 言うまでもなくバディズソウルは1チーム2人で参加するゲームだ。原則は。

 つまり何事にも例外はあるということだ。


 ソロエントリー。


 1人での参加は実は禁止されていない。それどころか、ソロエントリーはHPが1.5倍になるというボーナスさえあった。

 これはバディを見つけられない人でも気軽にゲームに参加できるようにという、敷居を下げるための運営の配慮だ。

 しかしこれは、どちらかというとニュービー向けの選択肢だ。ベテランになるほど、そんなことをする人はほとんどいない。

 ソロプレイヤーは1人で2ポイント扱いとなるし、撃破されるとチーム撃破ボーナスも加算されるから合計3ポイントだ。孤立しているプレイヤー1キルで3ポイントが入るわけだから、狙われない訳がない。

 「バディ同士の連携」という最大の武器を失ったプレイヤーは驚くほど簡単に撃破される。HP1.5倍なんてボーナスが容易に吹き飛ぶ程に。

 だが、もう一度言おう。

 何事にも、例外はあるのだ。


「ナツちゃん。いったん作戦リセット。出たとこ勝負でいくよ。」


 僕は震えていた。

 この週末の第5バトルロイヤルにソロで参加するプレイヤーなんて、僕は1人しか知らない。

 この震えは恐れだろうか。それとも……。


 ※※※


「久しぶりに出たでゴザるなあ」


 周りに聞こえるような声で、十中八九聞かせているんだろうが、ゴザルが声をあげた。牛乳瓶のような眼鏡をくいっと上げる。


「何が出たの?」


 隣にいた中学生くらいの少年がゴザルに問う。


「おや、今日はヘンリー氏はエントリーしてないでゴザるか?」


「だって、アルテミスの真剣勝負を邪魔しちゃ悪いもの」


 ヘンリーと呼ばれた少年は少し悔しそうにそう答える。


「うーん。そういうことはアキ氏もナツ氏も気にしないと思うでゴザルがねぇ。とはいえ、今日に限って言えば、正解だったかもしれないでゴザル」


「どういうこと?」


「あれでゴザルよ」


 くいっと、顎でゴザルがメインスクリーンを指す。

 そこには1人のプレイヤーが映されていた。


「黒い……アーマーナイト?」


 そこに立つのは2mはあるであろう偉丈夫だ。黒い重鎧に身を包み、手には両手持ちの巨大なハルバード。頭にはフルフェイスのヘルメットを被り、そこからは二本の角が生えている。


「チームウィルトゥースのアテル。このエリアで最強のソロプレイヤーですゴザル」


「ソロでやっている人で1番強いってこと?」


「いいや。ウィルトゥースは、このエリア最強のチームという意味でゴザル。」


 ヘンリー少年は、ゴザル言葉の意味が理解できずに目を白黒させた。


「だって、ソロエントリーなんでしょ?」


「然り」


「バディもいないんでしょ?」


「然りでゴザル」


 それはバディズソウルの常識で考えて、あり得ないことであった。

 「連携こそが最強の武器」。それが、バディズソウルの基本コンセプトであり、変わらぬ真実のはずだった。

 実際ヘンリーも先週、シザースの集中攻撃であっという間に落とされている。


「何事にも例外はあるってことさ」


 そう後ろから声をかけて来たのは、そのシザースのライトであった。


「遅かったでゴザルな」


「ちょっと追試があってなぁ。にしてもこのタイミングで黒牛とはな?」


「黒牛?」


「あいつの渾名だ。ヘルメットに2本の角がついてるだろ?だからそう呼ばれてる」


「ねえ、黒牛がこのエリアで最強って……」


 恐る恐ると言った調子のヘンリーにライトは当たり前のような顔で言った。


「本当さ。俺たちシザースも、そして、アルテミスも。アイツと戦って勝ったことは一度もない。」


 ライトの言葉にヘンリー少年は、メインスクリーンで何が起きるかを、固唾を飲んで見守った。

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