第11話「前哨戦」
決戦の日。
僕たちがパレスに着くと、意外なことにブリッツは既に到着していた。
「よう、ナツ。俺のものになる覚悟はできたか?」
ナツちゃんが一瞬震えたのが分かった。でもこれはきっと挑発だ。冷静さを欠いて勝てる相手ではない。
僕はすぐにナツちゃんの前に出た。
「あの……大声でそんなこと言ってると出禁になりますよ?」
よかった。今日はちゃんと声が出た。
あん?とブリッツが上から睨みつけてくる。正直に言うと足がすくんだ。だけど今日僕らは喧嘩をしに来ているわけではない。ゲームをしに来ているんだ。ゲームの対戦なら、何も恐れることはない。
「てめっ」
「ブリッツ」
ブリッツの肩が後ろから掴まれた。いつの間にかそこには眼鏡の男性が立っていた。随分と大きい。180センチ近くあるであろうブリッツとそう変わらないだろう。だが、表情は正反対だった。随分と理知的な顔をしている。
「彼の言う通りだ。盤外戦術を否定するつもりはないが、試合前の礼儀は大切だ。」
「とも……いや、クーゲル。分かった。分かったよ」
そう言ってブリッツが両手をあげた。
この人がクーゲルなのか。僕は納得した。圧倒的先読み能力を持つファントム使い。ブリッツだけなら、やりようは色々あったが、あの人がいるとなると一筋縄ではいかなそうだ。
「じゃあ、挨拶はこれで。試合前にあんまり馴れ合うもんじゃねえしな」
そう言って背中を向けたブリッツを僕は呼び止めた。
「待ってください」
「ああっ?」
明らかに不機嫌な顔でブリッツが振り返る。その目の前に、僕は印刷した紙を突きつけた。
「今日の勝負の条件です。口約束で言った言わないになるのは嫌なので、これにサインをください」
「ふざっ」
けんな、と言おうとしたブリッツを抑えてクーゲルさんが紙を受け取った。中身にすっと目を通していく。
「ペンはあるかい?」
「あ、はい」
僕が胸ポケットに挿していたペンを渡すと、彼はサラサラとサインをした。
「おい、クーゲル」
「勝利条件が綺麗にまとめてあった。今日の第5バトルロイヤルでポイントをより多く取った方が勝ち。同点の場合はキル数で決着。それでも同点の場合は引き分けとして来週再試合。問題あるか?」
澱みなく僕のまとめた条件が彼の口から語られる。この人、かっこいい。
「……ねぇ」
不貞腐れたようにブリッツがそっぽを向く。
正直もっと揉めるかと思っていた。破られることを想定して紙もあと3枚は用意してたし。ほっと一息吐いた僕にクーゲルさんがサインを入れた用紙を返してくる。
「アキ君、でいいか?」
「あ、はい。」
「全力でいくから、そのつもりでいてくれ」
背筋がゾッとした。
眼鏡の向こう側の瞳には、青い炎が静かに燃えている気がした。エンジョイ勢の眼ではない。あれは、真剣勝負に挑む、競技者の眼だ。
「お手柔らかに、お願いします」
かろうじてそう返す。
これは一筋縄ではいかないどころではない。たぶんこの人は、ルールで認められている範囲なら、何をしてでも勝ちにくるだろう。
(楽に勝ちたかったんだけどな)
そういえばクーゲルさん。ブリッツが勝ったらバディをどうするんだろうか?一瞬そんな疑問が頭に浮かんだが、すぐに振り払う。
仮定でもそんなことは考えるべきではない。ナツちゃんとブリッツが組むなんて死んでも嫌だし、僕はまだ、ナツちゃんの隣にいたい。
そのためにも作戦のおさらいをしなきゃ。
そう思って顔を上げると、ナツちゃんと目が合った。
「大丈夫、勝てるよ。私たちなら」
自信に満ちた瞳。
ああ、そうだ。
此処こそが、僕の居場所なんだ。
初期プロットから大きく設定が変わったのがクーゲル君です。最初はブリッツのことを「兄貴ぃ」って呼ぶ弟分キャラでしたが、今のクーゲルの方が相棒っぽくて気に入ってます。




