第10話「クーゲル」
《BLITZ KILLED LEGOLAS》
《TEAM ELIMINATED BONUS》
《TEAM STURMWIND +2 POINTS》
「歯ごたえがねぇなぁ」
アーチャーを四散させながら、佐久間克則こと、ブリッツである俺は呟いた。
この戦場にはアルテミスもシザースもいない。あの2チームがここ音瀬エリアのトップであることは一目見て分かった。だからこそ、あんな喧嘩の売り方もしたし、叩き潰しておくべきだと思ったのだ。こういうのは最初が肝心だ。決して舐められてはならない。
だが、敵に歯ごたえがない本当の理由はあの2チームがいないこととは別にあった。
俺は高速移動しながら次の獲物を探す。
見つけた。
ストライカーとランサーのチームだ。
ストライカーが足止めをして、そこをランサーが刺す。シンプルだがそれ故に厄介な組み合わせだ。特にストライカーの俺には天敵と言っても過言ではない。だが、今は恐れる必要はなかった。
俺の踏み込みに合わせて、二体の亡霊が横を通り抜けていく。相手ストライカーが身構えたがもう遅い。二体の亡霊が両足にしがみつきその機動力を削ぐ。
俺は動けないストライカーを飛び越えて、その後方にいるランサーに襲いかかった。
ランサーは突きの連打で接近を阻むが、俺はそのままスライディングでそれを潜り抜ける。
「なっ!」
ランサーが動揺の声を上げた。
「おせえよ。」
そのまま足払いをかけてランサーを転がしたところで、ストライカーから解除された黒い亡霊が2つランサーに取り憑いた。
今度は防御力低下のデバフ。
全くタイミングよすぎだぜ?
「おらぁ!」
ストライカーの攻撃スキル、ストライクナックルを上から叩き込むと、ランサーは紙屑のように消し飛んだ。
そのまま勢いを利用して前転する。亡霊を解除されて後ろに迫っていたストライカーの攻撃が直前まで俺がいたところを砕く。
さらにストライカーが追撃をかけてこようとするが、相棒が、後ろから殴りかかってそれを止めた。挟み撃ちを嫌がったストライカーは俺たちから距離を取ろうとする。
しかしその両足にすぐさま、相棒が黒い亡霊を放った。二重の機動力低下がストライカーに課される。
「おいおい、可哀想になってくるなぁ」
まったく誰が信じるだろうか?
次々に先読みして亡霊を飛ばし続けているアイツが、一週間前にこのゲームを始めたばかりのニュービーだなんて。
「ふむ、いけなかったか?」
生真面目な声が、相棒、「クーゲル」から返ってくる。俺は笑いながらストライカーに襲いかかる。
「違えよ。最高だって、言ったのさ」
俺はこのバトロイの、勝利を確信した。
一週間前、アルテミスに喧嘩を売った後、俺は若干焦っていた。あんなことを言ったが、あのチームが弱いとは思ってなかった。むしろ逆だ。強いと思ったから、ナツと組みたいと思った。アイツは俺がこのゲームで勝ち続けるために必要な、俺の勝利の女神だ。相方選びは適当では勝てないだろう。
とはいえ、既に実力がある奴はチームを組んでしまっている。だから、俺は俺と同じように県外から引っ越してきた奴を重点的に当たった。
ゲームが強くて、ノリが良くて、何より勝ちにこだわる奴をだ。
そんな奴が都合よく転がっているとは思わなかったが、俺が春に入学した大学はマンモス校だ。一人くらい、そんな奴がいたっておかしくない。
そうして見つけたのが、クーゲル、御堂智也だった。
智也はなんでこんな大学にいるのかと思うくらい頭が良かった。なんでも元々は将棋のプロを目指して、奨励会?というところに入っていたらしい。結局プロを諦めて進学することにした結果、この大学に入ったという。
最初はなんだこいつ負け犬かよ。そう思ったが、いくつかの対戦ゲームをやらせて見て考えが変わった。
智也は抜群の盤面把握能力と先読みの能力を持ち合わせていた。その日のうちにパレスに引きずり込むと、講義そっちのけでバディズソウルのセオリーを教え込んだ。
乾いた砂が水を吸うように智也はそれを憶えていく。挙句自分で考えて、アレンジまでしだす。クラスにファントムを選んだのも驚きだが、この難しいクラスを智也は完璧に使いこなしてみせた。なんつーセンスだ。将棋指しってのはみんなこうなのか?
根暗なボードゲームだとばかり思っていたが、認識が変わりそうだ。
《TIME UP!!》
《WINNER TEAM STURMWIND》
《CONGRATULATIONS!!》
俺たちの勝利をシステムメッセージが宣言する。
間に合った。これでナツを手に入れる準備はできた。
感慨にふける俺に智也が声をかけてきた。
「なあ、克則」
「ブリッツだ。パレスでは本名を呼ぶな」
「そ、そうか。すまない、克則」
俺は苦笑する。
「それで、どうした?」
「いやな。俺は将棋を辞めた時、もう真剣勝負はできないと思っていた。だが、そんなことはなかったんだな。ここには同じくらいの、熱がある」
俺は堪えきれずに笑い出した。
最高だ。全くこいつは最高の相棒だ。
「ど、どうした克則?俺はまた何か変なことを言ったか?」
「なんでもねえよ。おい、飯行こうぜ。今日は俺が奢ってやる」
俺は最高の気分で、智也と肩を組んでパレスを出た。
用語集
音瀬エリア
バディズソウルでは、近隣の3〜4店舗が通信で結ばれ、一つのエリアを構成している。
音瀬エリアは「音瀬駅前店」「音瀬西が丘店」「音瀬東浜店」の3店舗で構成されている。
なお、アキたちがホームとしているのは音瀬駅前店である。
クーゲル:ドイツ語で球の意味。御堂智也のプレイヤーネーム。
御堂智也はクーゲルシュライバーという単語からこのプレイヤーネームを決めたという。クーゲルシュライバー。日本語にすると、ボールペンである。




