第三部 第ニ章『魔法なき世界』
灰色世界を救ってから、三日
アークたちは次の世界へ向かっていた
転移船の窓から見えるのは、無数の世界
その一つが、青白く輝いている
オルディスが告げる
「世界番号二一七」
「通称――《機械世界》」
ゼルが腕を組む
「機械?」
「魔法が存在しません」
ノアが首を傾げる
「魔法が……ない?」
イリスが頷く
「正確には存在した痕跡すらない」
アークは黙ってその世界を見つめていた
なぜか胸の奥がざわつく
機械の世界
転移門を抜けた瞬間
巨大な建物が目に入った
鉄
ガラス
無数の道路
空を飛ぶ機械
地上を走る巨大な車
都市全体が機械によって動いている
ゼルが呆然とする
「……魔族の国より発展してねぇか?」
ノアは目を輝かせる
「すごい」
イリスは周囲を観測する
「魔力反応ゼロ」
アークが驚く
「本当に魔法がないな」
だが、その都市には異変が起きていた
街中の機械が、次々と停止していく
照明が消える
車が止まる
飛行機が落下する
そして――
都市中央の巨大塔が赤く点滅した
《世界維持システム――異常》
《世界崩壊まで――七十二時間》
世界を支える機械
一行は中央塔へ向かった
そこには巨大な機械があった
惑星そのものと接続された、巨大な演算装置
オルディスが説明する
「この世界では文明そのものが世界の生命維持装置になっています」
「人々の活動によってエネルギーを生みそれで世界を維持している」
ゼルが顔をしかめる
「じゃあ機械が止まったら?」
「世界も止まります」
その瞬間
警報が鳴った
《侵食率――三十七パーセント》
イリスが振り向く
「外部から干渉されています」
ノアが目を閉じる
「……黒い」
アークが問う
「何が?」
「この世界の未来」
正体
巨大モニターに、一人の少女が映し出された
長い黒髪
機械の義手
青い瞳
少女は静かに言った
「この世界に救済はいらない」
アークが前へ出る
「君は誰だ?」
「私はミラ」
「世界維持システムの管理者」
ミラは冷たく続ける
「この世界には自由意思など必要ない」
ノアが眉をひそめる
「また……?」
ミラは首を横に振る
「前の世界とは違う」
「私は人々の意思を奪っていない」
「人々自身が世界を維持するために自分を犠牲にしている」
アークは驚く
「自分から?」
「そう」
「この世界では誰かが犠牲にならなければ世界は維持できない」
ミラの選択
ミラ自身も機械と接続されていた
彼女が世界維持システムを動かすたび身体の一部が機械へ置き換えられていく
右腕
左脚
背中
最後には心臓まで
ノアが悲しそうに見る
「……痛くないの?」
ミラは答える
「痛い」
「でも私が我慢すれば他の人が生きられる」
ゼルが怒鳴る
「それを犠牲って言うんだ!」
ミラは静かに答えた
「だから何?」
「私は自分で選んでいる」
イリスが黙る
その言葉には、かつての自分と同じものがあった。
アークのクリエイト
アークは世界維持システムへ近づく
「俺のクリエイトなら……」
手を伸ばす
だが――
何も起こらない
「……?」
もう一度
何度試しても、創造できない
イリスが驚く
「クリエイトが拒絶されています」
アークは機械を見つめる
「世界のルールが違うからか」
オルディスが頷く
「この世界には魔力という概念そのものが存在しません」
アークは拳を握る
自分の能力が通じない
初めての経験だった
それでも
ミラが言う
「あなたの力ではこの世界は救えない」
アークは黙っている
ノアが隣に立つ
「アーク」
「うん」
「クリエイトって……魔法なの?」
アークは答えられなかった
その時
イリスが突然、アークを見る
「違う」
「魔法ではない」
全員が振り向く
イリスの瞳が黄金色に変わっていた
「クリエイトは世界の法則に従っているのではない」
「世界の法則そのものを――」
一瞬、言葉を失う
「新しく定義している」
世界の法則を書き換える
アークは再び機械へ手を伸ばす
今度は「魔法」を作ろうとしない
火も
水も
魔力も
作らない
ただ一つ
この世界に
「壊れたものを修復する」という可能性を追加する
アークの手から白い光が広がった
機械が震える
《未知の法則を検出》
《世界法則を書き換え中》
ミラが目を見開く
「そんな……」
巨大な機械の歯車が動き出す
しかし、それだけではない
世界中の機械が変わっていく
人間が犠牲にならなくても、世界を維持できる新しい仕組みへ
クリエイトの正体
アーク自身も驚いていた
「俺は……」
イリスが静かに答える
「あなたは物を作っているんじゃない」
「可能性を作っている」
ノアが笑う
「だから、なんでも作れるんだ」
アークは自分の手を見る
かつて鑑定の儀で「低級」とされた能力
それが今――
一つの世界の法則を変えていた
ミラの涙
世界維持システムが完全に停止する
だが世界は消えない
ミラの身体から機械との接続が外れる。
彼女はその場に倒れ込む
ノアが抱き止める
「大丈夫?」
ミラは自分の手を見る
何年ぶりかに自由に動く手
「……私」
「もう 犠牲にならなくていいの?」
アークが頷く
「もういい」
ミラの目から涙が流れる
「……ありがとう」
しかし
世界の救済判定が始まる
《世界番号二一七》
《救済条件――達成》
《存続を承認》
全員が安堵する
だがイリスだけは空を見ていた
「……おかしい」
アークが聞く
「何が?」
イリスの瞳に、見たことのない映像が映る
無数の世界
その中心に――
黒い巨大な亀裂
そして、その亀裂の向こう側からこちらを見つめる巨大な目
イリスが呟く
「クロノスじゃない」
「議会でもない」
「もっと……外側」
ノアの顔から笑顔が消える
「なに、それ?」
イリスは答えられない
ただ一つだけ
未来が見えた
一万八千の世界を救う旅そのものが、何者かによって利用されている未来
その瞬間、宇宙のどこかで声が響いた
「そうだ」
「もっと救え」
「もっと世界を繋げろ」
「その時――」
巨大な瞳が笑う
「私も この世界へ入れる」
イリスが振り返る。
「……私たちは 罠の中にいる」
そして次の瞬間
宇宙地図に表示されていた一万八千の世界すべてに――
同じ黒い亀裂が発生した




