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第24話

「君は…シルバーハート家で起きた事件について調べてるんだね?…………………あそこのお嬢様のためかな。最近遊びに来てなかったし、彼女については色々と心配しているところがある」


 トーマスの母、グレイス・シルバーハートは、当主の妻であり右腕として明晰な頭脳と膨大な知識を持ち合わせている。その知識は国政において有識者として重宝されるほどだ。それゆえ、トーマスの目的を見透かすのも簡単だった。トーマスがゆっくりと頷くのを見て、グレイスは遠い目をして語り始めた。




「そう。………私ね、ミー、……ミスティーク・シルバーハートとは大の親友だったんだ」



 *

 

 ミスティーク・シルバーハートは、淡い金髪に目を惹く赤い目をもった、それはそれは美しい、陶器人形のような少女だったという。貴族出身の彼女は、すでに軍部のトップに登り詰めていたヘリオス・シルバーハートに見初められ、姓を変えるまでに長くはかからなかった。

 グレイスが彼女と出会ったのはそれより少し前の、学生時代。繊細で物静かな高嶺の花だった彼女が、大図書館の片隅で、彼女の細い腕が折れてしまいそうなほどの分厚い本を読んでいるのを見てしまったのだ。


「ね、ねぇ…君、何、読んでるの?」

「…あっ、えっと……!」


 人形のような精巧な表情が焦りで崩れるのが見えた。彼女は自分の趣味を隠していたのだ。彼女は本当は知識を学び、新たな物を創造することを欲していた。

 勿論およそ20年前の当時だって、貴族の女性が専門的な書物を紐解くことは奇異に見られるものだった。天文学者の娘であり、幼少期から学問に親しんできたグレイスも、周囲からの疎外感を常に感じていた。

 そのため、ミスティークとの出会いは特別なものだった。2人はすぐに親友になり、ともに研究に勤しむようになっていった。


しかし。


「…ミスティ。…目の下に、隈が…出来ていないか」

「そうかしら?」


 ミスティークの夫となったヘリオスは、異常なほど彼女の美貌に過剰に執着していた。対して、寝る間を惜しんで密やかに学びを続ける彼女の肌は荒れ、隈が深くなり、ヘアセットはおざなりになっていった。それをヘリオスは見逃さなかった。すぐに彼が彼女の趣味を暴き、糾弾したのは言うまでもない。

 グレイスは何度もミスティークからそういった愚痴を聞いていた。それでも彼女は娘、アトリーチェが生まれてからも、夫の目を盗み研究を続けていた。


 そして事件は起こる。


 ある日、突如として邸宅に爆発音が鳴り響いた。それは離れの地下室からだった。

 


 彼女の遺体は、真っ赤に焼け爛れていたという。



 *



「…多分録音出来ていますわ。わたくしもまだ聞いていません」


 そう言ってヴィエラは手のひらの魔道具をコトリと置いた。その手元に4人の視線が注がれる。彼女は慣れた手つきでそれを操作していった。


「トーマス様のお力添えで録音機能を追加できました。感謝しますわ」


彼女がダイヤルを操作すれば、ノイズが聞こえ始めた。四人は固唾を飲み込む。中でもオスカーは落ち着きなく足を小刻みに鳴らす。



ガ、ガガ、ザザーー……



『ア…リ、…成績表が届…たんだね』


 ノイズ混じりに聞こえたのは低い男性の掠れ声。ヘリオス・シルバーハートだ。


『お父さま』

『見せてみろ……ほう、…79位か』


 それを聞いてオスカーは息を呑んだ。…ありえない。だってアトリはあんなに…


『見たか、アトリ。…君に、勉強の才能はない』

『………はい』

『だから…もう二度と……そんな無駄なことをするな。……いいな?』

『は……


 ガツン!!


 アトリーチェの声は大きな破壊音でかき消された。机上の通信機はオスカーの拳の下で灰色の煙を上げていた。それを残りの四人は止めもせず黙って見つめる。オスカーはゆっくりと四人の方へ向き直った。


「………俺は、絶対にアトリを………このままにさせない」






 栗色のくせ毛の青年が、光る絵の中でこちらを向いている。その目には同情が滲んでいた。


「…あ、アトリーチェ・シルバーハート様に目をつけられたんですか?」

「………実は、ぼ、僕もなんです」

「ある時社交界で、…読み終えてなかった本を持っていった時。突然彼女がこっちに近づいてきて、僕の本を奪うや否や暖炉に投げ込んだんです。」

「……こんな所で読書なんて見苦しいって。……おかしいと、思いませんか?」

「だから、…僕、怒りのあまりつい怒鳴ってしまって。」

「それから彼女に事あるごとに危害を加えられて…」


 そこまで話を進めると、画面に三種の帯が浮かんだ。


『ひどい』

『同じだね』◀︎

『辛かったね』


 ()がボタンを押せば、また画面が変化する。


「…お、同じ…確かに、そうですね…。」

「それじゃあ、僕ら、同志ですね。へへ…」


 そう言って、栗毛の青年は照れ臭そうに笑った。



 ()はずっと知っていた。




 アトリーチェ・シルバーハートは、悪役なのだ。


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