21話 縁日
「あ、お兄さーん!」
「こっちこっちー!」
「遅いですよ!」
「遅いってもな……まだ本番前だぞ……。いや、始まってはいるんだが」
「もう賑わっているみたいだからねぇ」
──お盆休み、及び思い出作りの旅行から数日後。夏休みも終盤に差し掛かった頃合い。
近所では縁日が開かれており、俺達は夕方頃にあの高台に集まっていた。
聞こえる祭り囃子に提灯の明かり。まだ少ないが浴衣を着た人や私服の人達が石畳を行き、りんご飴などを片手に歩く。夕刻なので人も次第に集まり始めており、それなりの賑わいは見えていた。
「始まっているのに本番前はないですよ。お兄さん!」
「そうそう! むしろ夕方ってのは本番真っ只中って事!」
「善は急げ。ですね」
との事。
何が善なのかは分からないが、楽しむ事を善とするなら合っている。
結奈さん達は浴衣も着込んでおり、草履も履いている。準備万端のようだ。
「と言うか、祭りはこの境内でやるのか。確かにここは神社を兼任しているし、おかしくはないんだけどな」
「へえ。そうだったんですか。覚えていない割には詳しいですね♪」
「……。そう言えばそうだな。やっぱり潜在的には覚えているのか。まあ別に記憶喪失とかじゃ無いから切っ掛け一つで思い出せるかも」
結奈さんに言われ、改めて思う。
見た事のある景色。それだけで記憶は蘇る。高台の事を意識し始めたからかな。それもあって関係する記憶を思い出しやすくなったのかもしれない。
「それなら本当に思い出すのもすぐかもね~」
「そうだな」
記憶喪失の人も、思い入れのあった場所に行けば色々思い出す事もあるらしい。
記憶喪失じゃない俺なら早い段階で思い出せそうだ。
「ま、取り敢えず祭りに行くか。屋台も立ち並んでいるし、楽しむだけ楽しむ方が良いしな」
「その通りですね。行きましょう。お兄さん!」
「ここちーのお兄ちゃんの奢りねー!」
「御馳走様です」
「ハハハ……まあ、一つ辺り200~300円。100個とかじゃなきゃ良いか」
当然、俺の奢り。
俺も財布が潤沢って訳じゃないんだけどな。結奈さん達もバイトくらいはしているだろうし持ち合わせはあると思うけど……まあいいか。大学生である俺の方が持っているのはそうだし。
そんなこんなで俺達は屋台巡りに向かった。
「らっしゃい。どれにする?」
「りんご飴四つ!」
「毎度」
先ず立ち寄ったのはりんご飴の屋台。結奈さんが注文し、俺が1000円払ってお釣りを貰う。
ちゃんと俺の分も頼んではくれるんだな。
「やっぱり祭りと言ったらりんご飴だよねぇ」
「頬っぺたが落ちる程美味しい! って訳じゃないんだけど、何となく食べたくなるよねぇ」
「祭り特有の雰囲気がそうさせているんだろうね」
「いいなぁ。美味しそう」
「ハハ……」
りんご飴を舐め、美味しそうに食べながら話す。
確かに祭りの商品って結構高いんだけど、何となく買いたくなるよな。それも心理学的に何かあるんだろうか。
「けど、りんご飴だけじゃないよね!」
「わたあめにチョコバナナに焼きとうもろこし!」
「焼きそばに焼き鳥にたこ焼き……」
「食べ物ばかりだな……」
祭りで定番の食べ物。見た目より量があるので全部は食べられないが、確かに食べたくなる。
「当然他の屋台もありますよ!」
「片っ端から寄って行こー!」
「おー」
「ま、楽しいなら良いか」
「そうだよねぇ~」
食欲旺盛な女の子達だが、当然の事ながら他の屋台にも目を付けていた。どうやら片っ端から寄って行くらしい。
その片っ端の全額は俺持ち。流石に足りるとは思うけど不安でもあるな。
何はともあれ、そんな祭り囃子の中へ赴いた。
「イエーイ! 釣れたー!」
「私も!」
「結構簡単ですね」
「よく出来るな……ああ、また落ちた……」
「お兄ちゃん下手~」
「ぐっ……」
ヨーヨー釣り。
「暴れないでぇ~!」
「わー!」
「くっ……元気な金魚だな……」
「頑張れ皆ー!」
「濡れた部分と乾いた部分の間が破れるので、ポイを全部入れたら掬いやすいですよ」
「「「「本当だ……!」」」」
金魚すくい。
「ここちーのお兄ちゃん! 頑張って!」
「当ててください!」
「銃口が震えるので脇を閉めればブレが少なくなりますよ……!」
「お兄ちゃんファイト!」
「気分は一流スナイパーだ……!」
「はい、ハズレ~」
「ぐはっ……!」
「お兄ちゃーん!」
射的。
「せ、繊細な作業はかなり……」
「……っ」
「震えるな……静まれ俺の右手……!」
「こういう時こそ冷静にだよ。みんな」
「が、頑張れー……」
型抜き。
「楽しいねぇ~」
「本当~」
「美味しい」
「これで屋台は一通り見たかもな」
お面を掛け、かき氷や食べ物を片手に笑いながら三人と俺と心音は歩く。
結構広いんだな。この高台。色々と見て回ったけど、高台自体はまだ余りがある。
すっかり日も暮れ、提灯の明かりもより強みを増したな。笛や太鼓の音も聞こえる。盆踊り……とはまた違うな。神輿担ぎか何かか、何かしらのイベントをやっているらしい。
「少し休憩しましょうか。お兄さん」
「確かにちょっとはしゃぎ過ぎちゃったもんねぇ」
「祭りの雰囲気のせいですかね。けど楽しいです」
ここは神社。人の少ない所もあるので一旦そこに行き、休憩する事にした。
確かに色々食べているし、結構歩いたし休むのは良いかもしれない。
「てか、わざわざ人気の無い所で休む必要があるのか?」
「何か良いじゃないですか。この雰囲気。遠音の聞こえる灰暗い境内。鳥居越しの光」
「落ち着くねぇ」
「……。ま、そうかもな」
鳥居を抜けて石段に座り、俺達四人と一人は遠目から祭りの様子を眺める。
確かにこの雰囲気は落ち着くな。悪くない。ついついボーッとしてしまいそうだ。
そんな時、結奈さんがかご巾着から袋を取り出した。
「そうだ。お兄さん。サエちん。きみこん、ここちー! 花火やらない?」
それは花火。花火と言っても大きなものではなく、かご巾着に収まる程度の小さなもの。
中に入っているのは線香花火や手持ち花火のような簡単な代物だった。
「へえ。良さそうだけど……境内でやるのは問題じゃないのか?」
「その辺は抜かり無しですよ! お兄さん! 花火の許可は住職にちゃんと取りましたから! サムズアップでOKくれました!」
「素早いな……」
「ウチも初耳……」
「結奈ちゃんってその辺の行動早いよね」
「流石ユナっち!」
花火の提案。そしてそれをするに当たっての許可は既に取っていたらしい。
それ程の行動の早さに結奈さん、紗枝さん、喜美子さんの三人は感嘆のため息を吐く。心音は素直に褒めていた。
「まあ、取り敢えず良いならやるか。火と水入りバケツは……」
「もちろん抜かり無く!」
「もはや驚異的だよ」
「ユナっち……ここちーのお兄ちゃんを待ってる時に10分くらい離れていたけど、許可とバケツの準備してたんだ……」
そう言い、ライターと水入りバケツを指差した。
目撃者? の紗枝さん曰く、待っている時間で準備をしていたらしい。なんと言うか、凄いとしか言えないな。
そんなこんなで準備は終えており、俺達は花火を開始した。
「そーれー! 新体操ー!」
「あ、火頂戴」
「良いよ」
紗枝さんがシャワータイプの手持ち花火を用いてリボンのようにクルクル回し、二刀流にした結奈さんは手持ち花火の火を貰って着火させる。
様々な色に変化する手持ち花火。薄暗い境内には鮮やかな色が掛かった。
「よし、尋常に……勝負!」
「良いよ。負けないから!」
「良いでしょう」
「乗った!」
そして手持ち花火が終わり、次いで手にしたのは線香花火。
線香花火は如何にして落ちぬように工夫するかの物。なので勝負という事になった。
「せっかくだし罰ゲームとか決めよう!」
「じゃあ負けたらお兄さんに告白で」
「良いよ」
「ちょっと待て! 何故そうなる! てか罰ゲームって……」
線香花火での勝負。それに負けた者は罰ゲームとして俺へ嘘告白するらしい。
いくらなんでも罰ゲーム扱いは酷くないか? 結奈さん達は笑って返した。
「誰であっても男性の方に告白するのは恥ずかしいですからね。だからこその罰ゲームですよ!」
「だからお兄ちゃんが負けた場合は、ウチらの誰かに告白して! 全員にでも良いよ!」
「どちらにもリスクはありますので、公平な罰ゲームかと」
「うーん……なんか俺への負担が大きいような……」
「気のせいです!」
「気のせい気のせい!」
「私達がお兄さんへ告白する。お兄さんが私達の誰かへ告白する。お兄さんの方が楽じゃないですか?」
「そうか? いや、俺の対象は三人で結奈さん達は俺だけだしやっぱ……」
「そんな事ありませんよ♪」
「…………」
何だか上手く言いくるめられたような気がする。
しかしまあ、俺が負けなければ良いだけの話。いや、そう考えるのは敗北フラグだ。つまり、逆説的に勝利フラグを建設すれば……勝利のフラグは何だ?
「「「「よーい……」」」」
「「「「スタート!」」」」
「……っし……!」
結奈さん達三人と心音が開始の合図を送り、線香花火のバトルが始まった。
小さな火種が徐々に広がり、パチパチと小さな破裂音を響かせる。
そこから更に激しく燃え上がり、まるで火花が踊っているかのように枝分かれした。
「「…………」」
「「…………」」
「…………」
変に集中してしまい、無言になる。何故かなる必要の無い心音まで無言で見ていた。
まあ、気持ちは分かる。境内には小さな破裂音のみが響き渡り、線香花火の先端に小さな火の塊が形成され始めた。
ここからが本番だな。
「「「……あ」」」
「え?」
──そしてその勝負は、思ったよりもあっさりと終わった。
結奈さん達の線香花火が同時に落ち、その一瞬後に俺の線香花火も落ちた。つまりその結果は、
「負けちゃった~」
「同時に負けるなんて……」
「今までのお兄さんの失敗から油断しちゃいました……」
「ハハハ……なんか勝ったな」
「おめでとう! お兄ちゃん!」
俺は今回の祭りで失敗しかしていない。だから三人も、俺に負ける事はないだろうと考えていたのかもしれない。
しかしながら勝てて良かった。三人の誰か。もしくは三人へ告白なんて恥ずかしいからな。
「同時負けって事は……私達がお兄さんに告白かぁ」
「ここちーのお兄ちゃんがウチらの誰を選ぶのか知りたかったのに~」
「三人を選んで有耶無耶になる可能性もあったけど、逆に私達三人が告白かぁ」
「……そうなるのか……」
そして勝敗の結果による罰ゲームは、三人による俺への告白。てか、やっぱりこの罰ゲーム俺への負担の方が大きくないか?
「じゃあここは順番に行こうか」
「そうだねぇ。ユナっちが最初で、次がウチ。きみこんが最後かな?」
「トリって緊張する……」
「な、なあ。やっぱりやめにしないか? 誰も幸せにならないし」
「「駄目です」」
「駄目だよ」
即答で返されてしまった。
何でそんなに乗り気なんだ? 三人は俺へ気があるのか!? まあそれは無いとして、確かに女子って罰ゲームとかそう言うのに乗り気だよな。小、中学生の時とかやたら男子に女装させたがる女子も居たし。
「じゃあ私からか。シチュエーションはどうしようかなぁ」
「シチュエーション!?」
「当たり前ですよ。ただ単に好きです。付き合って下さい! じゃ面白味がありませんからね! どんな場所でどんな風に告白するかのシチュエーションは重要事項です!」
「そうなのか……」
よく分からない理論で押され、俺はそれに納得せざるを得なかった。
告白のシチュエーション。凡人な俺は放課後の教室でとか、下駄箱にラブレターとか、在り来たりなものしか思い付かない。
「よし、決めました! 一回敬語やめますね!」
「それじゃよーい、アクション!」
「監督かよ」
紗枝さんがアクション監督のような事を言い、喜美子さんがスマホで撮影する。てか、これ後で保存されるのか。結奈さんだけじゃなくて全員がそうだろうし、何気に結奈さん達も負担が大きかったな。
「──ねぇ、優真。話……あるんだけど……良いかな?」
「(こういう感じね)……ああ、なんだよ。えーと……ゆ、結奈……」
先鋒というのもあり、結奈さんは敢えての在り来たりなシチュエーションで応戦するらしい。
それに俺も合わせる。
「私ね……幼馴染でしょ……それで昔から優真の事気になっていて……良かったらその……付き合わない?」
「え……えーと……」
「何その反応。付き合うって言っても買い物とかに付き合うじゃないからね。男の子と女の子として……優真と付き合いたいの」
「そ、そうか。……う、嬉しいよ。俺も結奈の事が……」
「はい、カーット!」
紗枝さんの言葉が響き、撮影が終わった。
途中で言葉を考えて間が生まれてしまったが、その辺を結奈さんは上手く利用した。それによっての成功か。
「はぁードキドキした。“片想いの幼馴染”って言う在り来たりな感じにしたんだけど、逆に難しいね」
「ハハハ……演技上手いな。結奈さん」
「当然! じゃなくて、私達演劇部ですからね。今回の件、告白のシチュエーションは良い練習になりました!」
「そうだったのか」
「そうだよお兄ちゃん。私達、実は演劇部だったんだ!」
ここに来て結奈さん、もとい心音達の部活が判明した。
演劇部か。確かに心音達って何かとなりきるの上手かったな。それで培った事みたいだ。
「じゃあ次はウチねー! もうウチと言ったらあれしか無いっしょ!」
「わ、分かった」
順番通り、結奈さんの次は紗枝さんが名乗り出た。
俺も心の準備をし、結奈さんが言葉を発する。
「それじゃよーい! アクション!」
そして、二度目の撮影が始まった。
「──やっほー。優真っち。ちょっち話あんだけど良いかな?」
「優真っち……いや、あ、ああ。何、紗枝さん」
話し方から分かった。本人の見た目からしてギャル系で攻めるようだ。
なので俺はそれを考え、ギャルに気圧される弱気な男子生徒を演じた。
「流石ここちーのお兄ちゃん……っと、優真っち。ちょっとツラ貸してくんない?」
「ツラ……? い、いいけど……」
ギャルかと思ったらヤンキーだった。
いや、ギャルはヤンキーみたいなものか? 取り敢えず話を上手く合わせる。
「優真っちってさ、見た感じDTだし、女の子と付き合ったりした経験無いよね」
「な、なんだよ。うるさいな」
因みに今の言葉はリアルな俺にもダメージが及んだ。クリティカルヒットだ。しかし、だからこそ役にのめり込みやすくなる。悲しい役割だ。
「だからさ……その……ウチも彼氏と別れたしさ……前から気になってたんだ……優真っち……ウチじゃ駄目かな?」
「……。……な、なんだよそれ。紗枝さんらしくないじゃないか。いつもみたいに揶揄っているんじゃない?」
「もー、何それ! 優真っちの癖に生意気! 今回は本気だよ! 良いからウチと付き合ってよ!」
「はい……分かりました」
「はいカットー!」
圧力に押され、俺とはまた別の少年が落とされた。
オタクに優しいギャルかと思いきや、気になる男子を圧力で制する肉食系女子だったか。
「あー、ドキドキしたぁ~。ここちーのお兄ちゃんも演技上手いじゃん!」
「ハハ……君達と男女じゃなく、友達? 的な意味で付き合い始めてから大分慣れたかな」
「やっぱりここちーのお兄ちゃんだね。適応力が高いもん!」
そんなこんなで結奈さん、紗枝さんのシチュエーションは終わった。
いよいよトリの喜美子さんだが、
「決めました。これで行きましょう」
どうやら決めたらしい。
撮影者を結奈さんにし、紗枝さんが手でカチンとなるアレの準備をした。
「よーい、アクション!」
パンッ! と手を鳴らし、喜美子さんの演技が始まる……今更だけどこれって一応罰ゲームなんだよな?
「──……あ、優真君。まだ残っていたんだ」
「(シチュエーションは生徒が少なくなった放課後の教室か)……うん。テストが近いからね。折角だしもう少し勉強して帰ろうかなって。……喜美子さんは?」
「私は元々図書委員だよ。図書員が図書室に最後まで残るのは当たり前でしょ?」
「(教室じゃなくて図書室だった……!)……アハハ、そうだったね」
キャラ設定で言えば真面目な委員長。そんな感じ。
なんやかんや、結奈さん達は全員が自分でやり易いキャラを演じているな。
「それで、もう図書室に残っているのは優真君だけなんだけど」
「あ、もうこんな時間か。待っていてくれたんだね。ありがとう」
「か、勘違いしないでよね。図書委員だから残っていただけで……別に優真君の事なんか何とも思っていないんだから!」
ツンデレキャラだったーッ!?
真面目な図書委員かと思いきや想いを寄せるツンデレ委員。俺でもすぐに分かったのは結奈さんだけだ。
「じゃあ、そろそろ帰るよ。喜美子さん。また明日──」
「ま、待って……優真君」
「え……?」
「ごめん……さっきのは嘘……私、優真君の事が好きなの……だからさ……お付き合い……出来ないかな?」
「そんな……喜美子さん……俺……じゃなくて。ぼ、僕も嬉しいよ。喜美子さんが僕に好意を抱いていたなんて……!」
「嬉しい。優真君、これからよろしくね」
「はい、カーット!」
そして、全員分が終わった。
はあ、恥ずかしかった。これって結局俺への罰ゲームにもなっているよな? それに、シチュエーションの重複と言うかなんと言うか、喜美子さんのだけ長かったな。逆に一番短かったのは結奈さんかな。
「アハハ~。あー、面白かった! 誰にも聞かれてないよね?」
「うん、多分大丈夫だと思うよ。こんなところ見られていたら勘違いされちゃいそうだもんね!」
「はぁ、緊張した……やっぱりトリは大変……」
「何だかやっぱり俺への負担の方が大きかったような」
「「そんな事ありませんよ」」
「「そんな事ないよ」」
俺の言葉は心音達四人に消され、有耶無耶にされる。
取り敢えず、罰ゲームは終わった。水入りバケツと花火のゴミをちゃんと片付け、俺達はまた石段に座った。
「あー、本当に楽しかった。今年最後の夏祭り!」
「別の見方からお兄さんを見れて良かったです」
「うん、楽しかった」
「ハハハ……まあ、俺も楽しかったかな。大学の友達は遠いし、中学や高校の友達とはあまり連絡取らないからみんなで祭りに行ったのは久々だ」
「私もお兄ちゃんやユナっち達と一緒に見て回れて良かった~。霊体じゃなきゃもっと良かったのになぁ」
一呼吸吐き、祭りの音に耳を傾け、淡い光をのんびりと眺める。
季節的に蚊に刺されていそうだけど、まあ、それはそれとして置いておこうか。
今はただ、この風景をのんびり四人と一人で眺めるのが一番だな。
「何か良い気分……何だろう……身体が凄く軽いなぁ」
「そうか。……って……え!?」
「……。……あ……私……」
「「「…………!」」」
気分が落ち着いてきた所で心音の言葉を聞き、そちらを見た俺は驚愕した。
遊園地の時のように、心音の身体が消え掛かっているのだ。
すぐに切っ掛けを探す。思い当たるのは今現在行われている祭りくらい。確かに楽しかったけど、成仏する程に楽しかったのか?
その様な事を考えていると、結奈さんが覗き込むように訊ねた。
「お兄さん? その反応……もしかして……」
「ああ……また心音が消え掛かっている……それだけじゃない。今の状態は前と違って止まる気配が無い……!」
「「「…………!」」」
言葉をまとめ、心音が完全に消え去るよりも前に結奈さん達へ概要を説明した。
それを聞いた三人は落ち着いていた身体を動かし、俺の視線の先、心音の方へ向く。
「そんな……何でこんな唐突に……!?」
「ここちー! 消えちゃうの!?」
「何かのタイムリミットが……!?」
突然の事態に飲み込めない様子だが、なるべく落ち着こうと言う気概は見えた。
しかし友人の消滅に対して完全に冷静になる事は出来ず、三人は立ち上がって本人達から見たら何もない虚空を見つめる。
当の心音は笑っていた。
「アハハ~……何か今回はこのまま消えちゃいそうな雰囲気だねぇ。何だか久し振りの感覚で……眠くもなってきたよ……」
「眠く……? 幽霊なのにか?」
「うん……気持ちいい眠気……だけど……まだ完全には消えなさそうな雰囲気……」
「待て心音! どういう事だ!? 何がなんだか……いや、それより……!」
「ごめんね。お兄ちゃん。ユナっち、サエちん。きみこん」
「心音!」
全員の名を心音の呼び方で呼んだ瞬間、光に包まれたその身体は見えなくなった。
そんな俺の反応を見た結奈さん達も何かを察し、俯いて黙り込む。
今年最後の夏祭り。それにより、心音の姿が消え去った。




