19話
「お兄さん……一体何が?」
心音に怒られ、意気消沈する俺を見兼ねた結奈さんが訊ねた。
取り敢えず概要くらいは話しておくか。
「──という訳なんだ」
「成る程」
今の会話を四人に話す。それを聞いた結奈さん達四人は俺に指を差し、ビシッと一言。
「それは100%お兄さんが悪いです!」
「うん、信じらんなーい!」
「私にもお兄さんが悪いと分かりますよ」
「あ……やっぱり……?」
「「うん!」」
「「はい!」」
心音も便乗し、四人が頷いて返す。
そんな事言われても分からない事は分からないんだよな……。一体何が心音の気に触れたんだ。女性って全部が謎だ……保健体育か理科の教科書に男女の気持ちの違いとか書いててくれよ……。
未だに理解出来ない俺に呆れ、結奈さんは言葉を続けた。
「そういう時の女の子はですね、何を思っているか当てて欲しいんですよ!」
「その通り! ここちーのお兄ちゃん女心分かってなさ過ぎ!」
結奈さんに続き、紗枝さんも話す。
何を思っているか当てて欲しいって……俺超能力とか使えないんだけどな。
「それって直接、“○○に悩んでいるから”って教えてくれないのか?」
「そう言う問題じゃないよ! ここちーが可哀想!」
「そうですよ。お兄さん。ここちーの兄ならちゃんとここちーを見てあげないと!」
「そ、そうか……悪かったよ。まだよく分からないけど、俺が原因なのはそうみたいだ」
本当によく分からないが、謎の圧力に押されてしまった。
女心……確かに俺の人生で触れた事の無い事柄だが、それはこうも複雑怪奇なものなのだろうか。
「ほら、ここちーに謝って」
「ああ……って、え? 何でそこに心音が居るって?」
心音の前に差し出される。俺は供物か何かなのだろうか。
しかしそんな事よりも気になったのは、俺の前に心音が居るというのが分かったという事。
結奈さん達は言葉を返した。
「え? だってお兄さん。ここちーの方を中心的に見てるじゃないですか。きみこん程の洞察力じゃなくても分かりますよ!」
「勿論!」
「お兄さん分かりやすいですもんね」
「成る程……」
「なぁんだ……私が見えてた訳じゃないのかぁ」
どうやら俺の視線から推測したらしい。俺は納得し、心音は肩を落とす。
心音的にも見えていて欲しかったみたいだな。当たり前か。
「取り敢えず、ごめんな心音。必ず、心音が居る間に思い出すよ。心音が覚えている程の事なら、俺も絶対覚えている筈だからな」
「……。うん。絶対思い出してよね。それが未練になっちゃったから思い出すまでは成仏出来ないかも!」
「ハハ……それなら本当に思い出さなくちゃな。心音の為に」
俺と心音の、存在したという思い出。
どうやらそれが新たな未練になってしまったようだ。
成仏させる為の旅行で未練を増やすのは本末転倒。しかも元々は消え掛かっていた……夜寝る前にトイレ行ったら逆に目が覚めてしまったみたいな感じだな。少し品の無い例えだったか。
「今の言動……もしかしてお兄さんの言葉が新たに心音ちゃんを縛る未練になっちゃっいましたか?」
「ハハ、流石喜美子さん。話が早い。そうなっちゃったみたいだ」
そしてそれを言うまでもなく、喜美子さんが気付いてくれた。
話が早いのは助かる。後はそこから話を進めるだけだ。
『ギャハハハハハ!』
「取り敢えずテレビは消しとくか」
少し騒がしかったのでテレビを消した。
まあ、話し合いと言っても大した事じゃない。今回は俺が思い出す事なので目的が増えただけで変わらないからな。
話し合いの内容は……明日どこに行くかとかだな。
「それで、明日は何する? ここちーのお兄ちゃん」
「それは俺が決める事じゃないしな……皆で決める事だ。てか、距離感が近いな紗枝さん」
「アハハ! お兄ちゃんならウチらも安心出来るからねぇ」
という理由で、割と近い距離で話す紗枝さん。風呂上がりだから石鹸の匂いが……。
いや、余計な事を考えるのはよそう。
「まあ、それなら皆で話しましょうか」
窓際のテーブルに集まり、購入したお菓子類を広げて話し合いの体勢になる……って、随分と手慣れているな。あまりに自然過ぎて俺はいつの間にか椅子に座ってしまっていた。
「明日どこ行こっか~」
「京都は色々なお寺や神社、仏閣があるから楽しみ」
「アハハ……きみこんって好きな物の前だと人が変わるね……」
「何かこの空間に俺が居るのは場違い感が否めないな……」
「あーあ、私も混ざりたーい。お菓子食べたーい」
細長いプレッツェルにチョコレートをコーティングした菓子……要するにポッ○ーを摘まみ、明日の事を話す。心音は混ざりたがっていた。そして俺は俺自身へ違和感を覚える。
○ッキーにじゃがいもからなる細長いスナック菓子。キノコ型とタケノコ型のチョコレートも戦争など行わず仲良く置いてあり、ポテチにコーラやお茶などの飲み物。その他諸々etc.大体がチョコレート類やスナック菓子。……マジかよ。夕飯から一、二時間くらいしか経ってないのにこんなに食べるのか女性って……。
友達と一緒だと気分が盛り上がるのも分かるけど体重とかは気にしていないのだろうか。
「お兄さんは食べないのですか? あ、潔癖症とか? それならまだ開封していないお菓子もありますよ♪」
「い、いや。そうじゃない。若さって恐ろしいなって考えていたところだ」
「アハハ! 何ソレー。変なの~!」
潔癖症を心配する結奈さんにお菓子を食べて笑う紗枝さん。
喜美子さんは無言で細長いスナック菓子をサクサクと食べている。今の俺の考えは読まれなくて良かったな。かなり失礼な事だったし。
「心音も、お菓子は食べられなくても話くらいには入ったらどうだ?」
「そうだねぇ。じゃあさ!」
そして心音も話に誘い、その通訳? 的な事をする。
四人と一人の話し合い。この様な、何気無い会話も心音が居なくなったら出来なくなるんだろうな。
今は辿々しくも、ガールズトークに上手く合わせる。夜は更けていった。
*****
「ふぁ……」
「あ、おはよー。お兄ちゃん!」
「おはよう心音。いつも朝から元気だな」
「眠れないからねぇ。不眠症とかじゃなくて幽霊だから!」
──翌日、俺は目覚めた。
結奈さん達三人が俺のベッドに入り込むなどのようなお約束展開などもなく、現実的な目覚めである。……いや、心音が居るのは果たして現実的だろうか。まあいいや。
一先ずホテルの着物は着替える。三人はまだグッスリ眠っているけど、心音が居るので一応洗面所に移動して着替え終え、する事もないので窓際に寄って椅子に座り、朝の街並みを眺めた。
「何となく、ホテルからの景色は京都感が無いな。イメージ的には全部和風って感じだったけど、普通にビルとかも建ち並んでいるし。ま、全体的な雰囲気は京都だなって感じだけど」
「そうだねぇ。あ、そうそう。昨日お兄ちゃん達が寝ている間に夜のお寺とかに行ってみたけど、怖かったよ! 幽霊は私なのにやっぱり夜のお寺って怖いんだね!」
「へえ。生前の先入観があるからかもな。ライトアップはされている所もあるんだろうけど、一晩中とかじゃないだろうし。暗いと怖いって言うのは変わらないのかも」
「本当! 幽霊が出るかって思っちゃった!」
「ハハ、幽霊が幽霊を怖がるか。確かにゴーストにゴーストは抜群だ」
「しかし、墓地などは手厚く埋葬された人が殆どなので、幽霊とかが居たとしても危険なものじゃないんですよ」
「「へえ……って、わあ!?」」
俺と心音の会話に、いつの間にか目覚めていた喜美子さんが入ってきた。俺達は同時にビックリして俺の椅子が少しフラつく。
「どうかしました?」
「あ、いや。急に入ってきたからビックリして……あ、別に嫌じゃないからな?」
「あ、はい。それは別に構いませんよ」
寝起きなので眼鏡は掛けておらず、ちょっと寝癖も立っていた。眠気眼なのかキョトンとしたジト目で俺の方を見る。
こうして見ると、喜美子さんも美人だよな。眼鏡の有無関係無く。
「喜美子さんって、美人なのに彼氏とか居ないんだね」
「……。……ぇ……?」
「あ……」
……イカン。マズイ。ヤバイ。口が滑った。
朝っぱらから何チャラ男みたいな事言ってんだ俺は。気、悪くしてないよな……。
「……。えーと……勉強と友達の方を優先してるから……別に付き合いたいとも思ってませんし……生涯独身でも良いかなって思っていて……お兄さんの事も別に……」
「あ、ああ。そうなんだ。アハハハハ……」
俺から視線を逸らし、若干の早口で理由を話す。てかこの感じ……。最悪の事態では無さそうだけど、あまり良い方向にも行ってなさそうだな。
「おっと、お兄ちゃんの彼女選手権はきみこんが一歩リードかな?」
「……っ。心音。そう言うんじゃないだろ……」
「また心音ちゃんが何かを……? しかし、それは推測しない方が良さそうですね……」
「そうだな。ロクな事じゃないし」
一瞬変な空気になったが、心音の言葉をそれに返す俺によってまた元の空気に戻った。
喜美子さん自身、ポーカーフェイスなクール系。それが崩れてからの立ち直りは早いのだろう。
「あ、お兄さん。きみこん。おはよー……」
「んにゃ……? ふぁ~みんなぁおやよみ……クー」
「おはようとお休みが混ざってるぞ」
それから少し後、結奈さんと紗枝さんも目覚めた。が、片方は起き、片方は二度寝した。うん、まあ一先ず目は覚めたらしい。
これで全員起きたな。父さんからの連絡もあるし、向こうも起きたみたいだ。
「よいしょ……」
「うぅ~朝から蒸し暑~い」
「……って! え!?」
そして、改めて起きた結奈さんと紗枝さんは何を思ったのか、この場で着替え始めた。
まだ寝惚けているのか? 着物をベッドの上に脱ぎ捨て、下着が露に……。
「見るな俺!」
思わず顔を逸らし、その光景は見ないようにする。
布擦れる音とちょっとした吐息が聞こえるが、俺は冷静だ。クールだ。悟りを開け。さすれば道は拓かれる……と何の事か自分でも分からない事を考えながらも見ない。寝惚けているのを良い事に着替えの覗きなど言語道断だ。
「あ、私も着替えよ」
「俺の前ではやめてくれ! てか、喜美子さんは割ともう目覚めてるよな!?」
「フフ、バレました?」
ポーカーフェイスを崩し、普段は浮かべない笑顔で返す。
忘れていた。喜美子さんは喜美子さんで、クールなように見えて結奈さん達と一緒にはっちゃける事もあったんだ。だから顔を逸らした俺の前で着替えようと……。
「喜美子さんもそんな行動に出るのは予想外だったよ……」
「えーと、目閉じれば良いんじゃないですか?」
「あ、そうだった」
言われ、思い出して目を閉じる。
ラッキースケベとかあるが、果たして意図的に見せられるのはラッキースケベ足り得るのだろうか。
フッ、悟りを開いたからか冷静に思考が回る。果たしてラッキースケベとは何か。たまたま入ったら教室で女子が着替えているシチュエーションや、倒れた衝撃で胸を揉むなどもあるが、その後主人公は殴られる可能性が高いのを踏まえればラッキーではないんじゃないだろうか。運にも触れ幅があって赤く晴れる程殴られるというのが女性の下着を見たり胸を揉んでしまったりする事への因果なのだろうか。
「お兄さん……何ブツブツ言っているんですか?」
「……!」
「お兄ちゃん、今回は聞こえてなくて良かったね! 私には“ラッキースケベ”の単語だけ聞こえたけど」
「……っ」
目を閉じて物事を考えると集中出来る。しかし集中し過ぎるあまり、また少し声が漏れてしまっていたらしい。
まあ今回は心音に一部の単語しか聞かれなかったし、心音の次に近くに居る喜美子さんは着替えていたのもあって俺が何かを言っているとだけ判断していた。
今回はドジ踏まなかったな。
「あ、お兄さん。着替え終わりましたよ。私達三人」
「お、そうか」
一先ず俺の独り言への追求はされず、着替えが終わった報告を受けた。
俺は目を開け、結奈さん、紗枝さん、喜美子さんの三人を前にした。
「「「わあ! 」」」
「うわっ!? さ、三人とも何やってんだ!?」
「アハハ! ビックリしたね! ここちーのお兄ちゃん!」
「お兄ちゃんの驚き方、もはや芸術だね!」
目を開けた瞬間、映ったのは結構な近距離に居る三人。その三人が同時に迫り、俺は驚いてまた椅子を揺らした。
その主犯は大成功とハイタッチして笑っていた。心音も気付いた上で黙っていたみたいだな……。
「ったく……君達本当に高校生か? 小学生でもしなさそうなイタズラだぞ……」
「小学生ならもっとエグいイタズラを平然とやってのけるよ! 高校生だからこそ本当に少し驚かせる程度で済んだんだよ!」
「なんだその理論……けど、一理あるな……」
小学生ならば、わっ! と驚かせるだけでは済まない。対象が驚いた瞬間に更に押し、椅子を揺らすだけではなく椅子から落とすだろう。
そこから群がり、更なる追撃もあるかもしれない。そう考えれば、確かに結奈さん達は温情である。
「それでもバカやっているのは変わらないだろうけどな。取り敢えず、父さん達と合流して朝食を終わらせるか」
「オッケー。朝だからあまりお腹減ってないけどね!」
「寝起きの割には元気だけどな」
朝の支度を終え、朝食へと向かう。その後また観光で、心音との思い出作り。そして一番重要なのは俺が思い出す“何か”。
まあそれは帰ってからでも思い出せるし、今は今を楽しもう。
二日目が始まった。




