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18/24

18話 ホテル

「流石四人部屋! かなり広いね!」

「結構イイ所だから結構イイ所だねぇ!」

「うん。結構良いホテルだから良い部屋だね」

「お兄ちゃんの部屋より飛び回れる~!」

「そうだな……」


 男一人、女性四人という夢に描く人も何人か居そうな空間にて、俺は苦痛にも近いモノを感じていた。

 しかし、妙なのは苦痛もあるが、幸福感もあるという事。やはり俺も男。生物的な意味で生まれ持った性《さが》には逆らえないのだろう。野生動物は一夫多妻のハーレムが普通だし。ハーレムを形成出来る人は人間というより野生動物に近いのかもしれないな。


「それで、夕飯まで少しあるよね? お兄さん何しますか?」

「ここちーのお兄ちゃん何するー?」

「何をしますか?」


「何故俺に訊ねる。何するって言われてもな……」


 何故か俺に何をするか聞く三人。心音もフワフワ浮かんで寛いでいる。

 まあ、やる事があるか無いかで言ったら結構あるな。


「一日目の観光は終わったし、確かに重要なのはこれからだな。夜のホテルでの過ごし方……って言うと語弊が生じるけど、大事なのは夜の、俺達の行動だ」


「ウチらの夜の行動……ここちーのお兄ちゃん結構言うねぇ……」


「私達まだ清楚なのに~」

「エッチ」


「そう思われない為に断りを入れただろ。普通に心音の成仏の件についてだよ」


 思った通り、下ネタを入れてきた。

 しかしまあ、この程度じゃもう動揺はしない。結奈さん達の扱いにも大分慣れてきたな。

 揶揄《からか》いというのは、良い反応をするからこそ行われる行為。淡々と返せば場は丸く収まる。


「もう、ノリが悪いなぁ。ここちーのお兄ちゃん」


「ノリが悪くて悪かったな。それで本題だけど、修学旅行の時って誰か一人でも同じ部屋だったか?」


「まあね。と言うか、一緒の班になりたい人で組んだから必然的に私達の班になって、部屋も一緒にしたよ」


「成る程な」


 本題に入り、俺は近くのベッドに座って訊ねた。

 取り敢えず一緒の班、そして一緒の部屋にはなったみたいだな。そこから心音の思い出を掘り下げるか。


「心音はその時何か印象に残っている事とかあるか?」


「うーん……無いかなぁ。ジャージ姿でゴロゴロしながらお菓子とか食べたり、とても楽しかったけど、私が成仏する切っ掛けになった事はないや」


「小パーティーみたいな感じで、楽しくても成仏の切っ掛けまでは漕ぎ着けないか……」


「ここちーと話してる? けど、確かにそうかもねぇ。ウチもそんな感じ」

「私もかなぁ。楽しかったのは間違いないし、良い思い出にもなったんだけどね」

「以下同文」


 かなり楽しくとも、何というのだろうか。言葉は思い付かないが、成仏するまでの道にはならないらしい。

 心音が見えた時と、存在を知って貰えた時、そして遊園地の写真撮影。心音の心が軽くなった出来事をザッとまとめてみたが、確かに修学旅行とはまた別な感じだな。

 厳密に言えば、“現在進行形”の事しか成仏の切っ掛けにはならないようだ。“過去”じゃなくて“現在《イマ》”に存在しているんだし、当たり前か。


「過去の思い出じゃ駄目か。やっぱり今出来る事で何かの切っ掛けを作りたいな」


「私達に今出来る事かぁ……ここまで来ると結構大きな思い出にならなくちゃ駄目そうだね」


「そうだねー。あ、じゃあここちーと此処で記念写真撮らない? それも思い出の一環だしさ!」


「うん、心音ちゃんと今から思い出を作って行くのは良いかも」


 取り敢えず、また四人と人で写真を撮る事にした。

 写真は明確な“思い出”だしな。しかもちゃんと形に残るタイプの。

 写真が切っ掛けになる可能性は十分にあり得る事柄だった。

 俺を含めて全員で頷き合い、カメラの用意をする。今回はスマホと通常カメラの二刀流。思い出も二倍って訳だな!


「じゃあ撮るよ~。はい、」

「「「チーズ!」」」

「イエーイ!」


 紗枝さんが言い、俺達三人と心音が続ける。同時にシャッター音が響き、今の撮影を終えた。


「お、今回もちゃんと心音が写っているな。やっぱり暗いのが第一条件なのか」


「本当だ。心音ちゃんと暗闇……これを研究出来れば他の幽霊を見つける事も出来るかも……エジソンも霊界との通信機を作ろうとしていたし、大発明が出来るかも……!」


「ちょっと~。私で研究しないで~!」

「ハハ、心音で研究しないでくれってさ」

「むぅ。けど、確かに友達で実験するのは嫌かな……」


 写真には、やはり心音がはっきりと写っていた。

 喜美子さんが言うように、何故こうなるのかを詳しく調べる事が出来れば幽霊を見れる機械も完成するかもな。けど、そんな事はしなさそうだ。何より友人を大事に思っているみたいだし。


「それで、心音。今のところ気持ちに変化は?」

「うーん。楽しいけど、特に心が軽くなったりはないかなぁ。心の底から“そう!”って思える事が必要なのかも」

「成る程……」


「お兄さん、ここちーはなんて?」

「教えてお兄ちゃーん」


「特に変化はないってさ。えーと……何て言えばいいんだろうな。心音の感覚的な問題で……心音的にそんな感じとか違うとかが分かると言うか……」


「「……?」」


 結奈さんと紗枝さんが小首を傾げて互いの顔を見合った。

 駄目だ。説明が難しい。

 心の底からそう思える感覚って一体何なんだよ……本人が曖昧なのに俺が分かるか。


「えーと……要するに心音ちゃんには、本人だけが分かる成仏出来そうな感覚があって、今回はその感覚が無いって事かな?」

「それだ!」

「「あー、なるほどー!」」


 流石の喜美子さんだ。本人もよくは分かっていないようだが、なるべく分かりやすいように要約して結奈さん達へ説明してくれた。

 心音だけが分かる感覚。それの有無。喜美子さんの言葉から少し考えれば短く出来たな。

 すると、俺のスマホへ親から通知が来た。


「……お、そろそろ夕飯だってさ」

「丁度良い頃合いですね」

「ウチもお腹空いたー」

「行きましょうか」


 それは晩御飯……ホテル的に言うならディナーか? ディナーの時間がやって来たらしい。

 ホテルは基本的に夕飯の時間は決まっている。取り敢えずこのホテルは夕飯が提供されるホテルなので俺達は会場へと向かった。


「おー、優真。心音の友達。こっちこっち!」


「父さん……ホテル内であまり大きな声を出さないでくれよ……」


 年甲斐もなく……いや、年齢が年齢だからか? 大きな声で俺達を呼ぶ。今この場に居る周りの客は少ないけど、かなり恥ずかしい。親って割と無神経だよな……。まあ、心音が亡くなってから意気消沈してたし、元気になったのは良いけど。

 会場はそこそこ賑やかだろうけど、なるべく静かに過ごしたいと思う俺だった。



*****



「ふぅ……満腹だ」

「ふふ、お兄さん。食べてすぐ寝ると牛になっちゃいますよ?」

「俺は牛にはならないよ……って、今時の子もその迷信を知っているのか」

「今時って……お兄さんと2~3歳くらいしか離れてませんよ? それと、これはお婆ちゃんが教えてくれたんです。去年亡くなりましたけどね」

「へえ……」


 ──ディナーの後、食事を終えた俺はホテルの宿泊室でベッドの上に寝転がった。そして結奈さんにそれを指摘される。

 食べてすぐ横になると牛になる。結構有名な迷信だけど、結奈さんが知っているのが驚いた。聞けば亡くなった祖母に教えて貰ったらしい。

 それを聞き、俺は相槌を打つくらいしか出来なかった。


「ちなみに、その迷信は牛の生態から派生したものですよ。実際に行儀が悪く、消化にもあまり良くないので教訓になったのです」


「「「へえ!」」」


 ちょっと暗くなってきた所に、喜美子さんが豆知識を披露して和らげた。

 その言葉に結奈さんと紗枝さん、そして心音も返事をする。

 空気の読み方も心得ているな。クールなようでちゃんと結奈さん達の事を想っての行動。仲が良くなれる訳だよ。気遣いも出来る良い子なんだからな。

 心音達四人の中で一番性格が違うが、それでも気が合う理由が分かった。


「じゃ、そろそろお風呂行こっか!」

「賛成ー!」

「食後の入浴もあまり良くないけど……うん、私も良いよ」


 そして、話は入浴へと移転する。

 ここに俺が入る余地は無いな。出会って数週間。本人達の性格的に積極的なコミュニケーションを取ってくるが、それで勘違いする程浅い経験はしていない。まあ、深くは無いし、勘違いしてやらかしたという黒歴史に乗る苦い経験があるから達観出来るんだけどな。


「お兄さんはどうしますか?」

「そうだな……俺も入るか」

「一緒に?」

「な訳無いだろ。てか無理だろ」

「別に無理じゃないと思うけど、確かにまだお兄さんとはそこまで進展していませんね」

「“まだ”って……今後もそれが訪れるかどうかだろうな」

「かもしれませんね♪」


 揶揄《からか》いには乗らない。混浴とかもあるかもしれないが、前述したようにそこまで親しくないからな。

 友人関係くらいにはなっているかもしれないが、それ以上ではない。友達以上恋人未満もない。本当に友人程度の仲である。当然、本人達もそれを理解している。いや、本人達的には兄みたいな立ち位置なんだっけ。

 ラブコメやフィクションの世界なら出会って数日で色々進展するんだろうけど、現実はそうも行かないからな。行く人は居るんだろうけど。

 何はともあれ、俺達は当然別々の大浴場へと向かう。別に俺は自室のシャワー室でも良かったかもな。

 ちなみに、誘ってみたところ父さん達は後で入るらしい。

 俺は長めの渡り廊下を進む。


「……それで、心音はどうするんだ?」

「流石に他の男性の裸体は見たくないからねぇ。ユナっち達の所に行くよ」

「そりゃそうだな」

「あ、お兄ちゃん寂しい?」

「そうでもない。つか、何で嬉しそうなんだよ。……それに、まだ暫くはこの世に居るんだろ?」

「まあねぇ。あ、それでさ!」

「ハハ、何かよく口が回るな……」

「だってお風呂の間はユナっち達に声が届かないし、私が男湯の方に言ったとしても人目があるから話せないもん! 今のうちに話せるだけ話しておかなきゃ!」

「別にすぐ消えるって訳じゃないのに……いや、そんな訳がある可能性が高いのか」

「そう言うこと! 人通りが少ない渡り廊下! 話すには絶好の機会!」

「ハハハ……そうかもな」


 男湯と女湯は、ちょっと離れた場所にある。

 なので結奈さん達と別れてからここまでは心音が着いて来ており、入浴時間……20分くらいの分は話しておきたいようだ。

 っても、学校でも人目がある時は話していなかったけど、その時は耐えられたんだな。それを聞いてみたところ、


「だってお兄ちゃんに見えているのは分かっているからね! たまに目で追ってくれるし、寂しくなかった!」


 との事。まあ、幽霊の寂しさも色々だろう。心音が寂しさのあまり生者を巻き込むような怨霊にならなくて良かった。

 それから人目が出てくるまで会話が続き、浴場へ到着。心音とも別れ、一息吐く。

 頭や身体を洗い、湯船に浸かって衣服類は仕舞い、備え付けの着物を着て俺は自室へと戻った。



*****



「まだ誰も戻ってきていないか」


 一足先に部屋に戻り、電気を付ける。ホラー映画なら後ろからバーン! 的な事だが、それをしそうな幽霊もまだ戻っていないので荷物を置き、ベッドに横になった。

 ……何か物静かだな。テレビも点ける。時間で言えば9時近く。ゴールデンタイムなので色々なバラエティー番組はやっているな。スタジオでは芸人がバカやって笑い声が響いているし、ちょっも静かなこの感覚は抑えられるかもな。


「………………」

『それで言ってやったんですよ!』

『なんて?』

『───って!』

『『『アハハハハハ!!』』』


 ボーッとテレビを見続ける。

 スマホは充電中。暇だな。と言うか、考えてみたらこんなに静かな空間は久々だ。

 心音が亡くなり、幽霊になってからは毎日一緒に居るからな。よく会話の内容が尽きないと熟《つくづく》思う。流石にトイレまでは着いて来ないけど。風呂には普通に入ってくるもんな。


 何にせよ、静かな空間。せっかくだし心音の為に出来る事を考えてみるか。


まずは成仏の切っ掛けになる……切っ掛け。まあ、それは大凡《おおよそ》の検討が付いている。となると根本的な部分や最後のもう一押しが問題点だな。


(一番影響が出たのは遊園地の写真撮影……明確な思い出が出来たからだと思ったけど、夕飯前に部屋で撮った写真は違っていた。それと、心音が結奈さん達と初めて行った高台……考えてみれば初めて心音が見えた時以外で、一番様子がおかしかったのが彼処《あそこ》に行った時だよな……)


 深くは考えていなかったが、思い出の高台。そこで心音は俺に何か言いた気だったな……一体何だ? その時の心音の言葉が思い出せない。流石に記憶が古過ぎる……いや、割と最近なんだけど、色々あったからその記憶が埋もれているな……。少し変な様子だったってのは覚えているんだけどな……その辺りを詳しく考えてやるべきだったか。


「はあ、良いお湯だった♪」

「あ、ここちーのお兄ちゃん帰って来てる」

「男性ってやっぱり上がるの早いですね」

「やっほー! お兄ちゃん!」


「……!」


 そんな事を考えていると、心音達が戻ってきた。

 せっかくだ。改めて心音に聞いてみよう。


「なあ、心音。結奈さん達と最初に行ったって言う高台さ……もしかして俺と何か関係あったりするか?」


「「「…………?」」」

「ぇ……」


 唐突な俺の質問へ、石鹸の香りがする結奈さん達が小首を傾げ、着物風の格好になった心音が小さく反応を示す。

 これは……やっぱり何かあるみたいだな。


「もし良ければ教えてく──」

「自分で考えてよ! それくらい! お兄ちゃんのバカ!」

「……っ!?」

「「「…………??」」」


 ……珍しく、霊体になってから珍しく声を張り上げて俺の言葉を制した。

 質問の途中で止めた俺へ結奈さん達はより疑問符を浮かべ、心音はそっぽを向く。


「本当に信じらんない! オートロックだから外には行けないけど、一旦お兄ちゃんから離れたい気分!」


「俺から離れたいって……そんな悪い事言ったか!?」


「「「…………!?」」」


 俺の言葉へ、結奈さん達は驚愕の表情を浮かべた。

 当然だ。心音が俺に懐いているのは結奈さん達三人もよく知っている。だからこそ、俺から離れたいという言葉は衝撃的だったのだろう。


「だから! 自分で考えてよバカお兄!」

「心音……」


「お兄さん……?」

「何か……気まずい感じ?」

「そうみたい……」


 俺と心音の会話を、俺の返答からしか聞けない三人は困惑するが、少し空気が悪くなった事は俺の声質から薄々感じ取っていた。

 俺達の、心音を成仏させる為の旅行。それはどうやら……ほぼ100%俺の所為で悪い方向へ向かってしまったみたいだ。

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