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17話 旅行

 ──“お盆休み”。


「それじゃ、」

「ここちーのお兄ちゃんと、」

「心音ちゃんのご両親、」

「「「よろしくお願いしまーす!」」」


「ああ、俺達に任せてくれ! 心音の友達達! 友達達って変だな……友達ら? 友人様御一行?」

「みんなで旅行だなんて。楽しみね♪」


「ちょっと待て」


 ──あれから数日が経過し、お盆休みとなった現在。ちょっと予定と噛み合わない事や、そもそも全てが噛み合わない事が起こり俺は困惑していた。


 一体全体、何がどうして、何故、“俺達家族”と、“結奈さん、紗枝さん、喜美子さんの三人”が、一緒に(・・・)旅行へ(・・・)行く事に(・・・・)なって(・・・)いるんだ(・・・・)!?


「おかしくね!? 数日前のあの流れ!? いつもみたいに俺達だけで旅行の件も済ませる感じだったよな!?」


「ここちーのお兄さん、そんなに私達とハーレムしたかったんですか?」


「ハッハッハ! 優真は奥手だからな! 内心では君達と行けるのを楽しみだったんだろう!」


「せっかくだし、皆で楽しみましょ♪」


 改めて、俺の両親は俺と心音の親なんだなと理解した。

 心音の揶揄《からか》い成分と俺の言い回しに近い言い回しなど、似てる部分は多い。が、それよりも今は今の問題だ。

 父さんは言葉を続ける。


「心音が消えるかもしれないというのに、親が何もしない訳にはいかないだろう? それに、優真と言えど男。君達も心配だ」


「俺と言えどってどういう事だよ……いや、まあそのままの意味なんだろうけど、多分それは結奈さん達も承知していると思うけどな」


 曰く、心音の事と結奈さん達の事を心配してらしい。

 両親も俺が問題を起こすとは思っていないみたいだけど、やっぱり知らない所で心音が完全に消えるのは思うところがあるのだろう。


「ハッハ、なに、心配するな。旅行先で優真達に付いて行ったりはしない。優真達は好きに散策すると良い。宿泊先くらいでしか一緒に居れないかもしれないが、もう少し心音と居たいだけだ」


「へえ」


 どうやら父さんと母さんは、あくまでそこに行くだけらしい。観光スポットや周囲を行く時は遠くから見守る程度で済ませるようだ。

 大部分は俺達に任せるみたいだな。何も出来なくても子供達を見守りたい。それが親心というやつなのだろう。


「さて、行くとしようか!」


「「「「おー!」」」」


 父さんが言い、結奈さん達と心音が返事をする。

 まあいいか。実際旅行は楽しみだし、人数は多い方が楽しいからな。多分。

 それと、父さんが運転もしてくれるみたいだから単純に俺も楽で良いや。


「──と言うか、六人乗りの車がウチにあったんだな」


「ハッハッハ! 実は父さん、優真か心音が大勢の友達を連れて旅行か何かに行くのが夢だったんだ!」


「初耳だよ。てか、そんな可能性の為に買っていたのか……ちゃんと手入れもされているし」


 車内を見回し、それを確認する。

 現在は運転席に父さん。助手席に母さんが乗っており、後部座席には俺と結奈さん達三人。プラス心音が重なる形で座っていた。

 そして今日は父さんの夢が一つ叶ったらしい。それは良かったが、割と無謀な気もするな。

 たまたま結奈さん達が居たから良かったものの、小、中学生ならともかく親離れが活性化する高校生や大学生じゃ可能性は低いだろうに。


「結構広いですね。サエちん達と話せるし、快適です」


「ねー! 何か良いよね、この感じ! 後部座席から乗り出すように話すのさ!」


「シートベルトはしなきゃ駄目だから乗り出せないよ」


「もー! きみこんは堅いなぁ!」

「私じゃなくて法律の問題」


 俺の隣に居る結奈さんが軽く斜め後ろを見るように後部座席の紗枝さん達に話し掛け、紗枝さんと喜美子さんはそれに返した。

 実際、こんな感じで話せるのは退屈もしないし良いかもな。シートベルトをした状態でも顔を見るだけだったり、会話くらいは出来るし、結構快適なのには異論は無い。……まあ、個人的な意見として女性三人に囲まれた今の俺は少し思うところもあるけど。何についてかは置いておこう。


「そうだ。長旅になるし、近くのコンビニで色々買ってやろう!」


「本当ですか!」

「ありがとうございます! ここちーのお父さん!」

「ありがとうございます」


 心音の友達である結奈さん達を見て嬉しくなったのか、何かを買ってくれるらしい。

 あるあるかもな。親が子供の友人にサービスしたくなるのは。親は親で色々な感情があるのだろう。

 そして俺達は簡単な飲み物とお菓子類を購入し、数時間の長旅を行った。

 目的地は心音の思い出でもある、修学旅行の定番の地、京都。

 どうやら心音の高校は修学旅行には京都に行ったらしい。俺は沖縄だったな。

 異国のような風貌を持ち、マリンスポーツの体験や水族館などを観光する沖縄に対し、京都はThe和風と言った面持ち。主に寺や仏閣巡りや伝統芸能体験等々。両方とも修学旅行の定番なので俺と心音以外の兄妹でも同じような人は多いだろう。

 この旅行は一泊二日。寺の多い京都に幽霊である心音を連れて行っても良いのか気になるが、まあ、実際に幽霊なんて見えていないだろうし、特に気にするような事でもないか。

 俺達と成仏し掛けている心音の、思い出巡りの旅は前の遊園地を境に佳境へと差し掛かっていた。



*****



「到着ー!」


 そして数時間後、俺達は京都へと辿り着いた。

 お盆休みを踏まえて一泊二日にしたので早朝まではいかずとも割と早いうちに発《た》ったが、やっぱり昼過ぎになるな。

 昼食自体は済ましているので、後はテキトーに観光するだけ。観光もだが、修学旅行というのはホテルなどの宿泊施設での友人との思い出も残る。少なくとも俺はそっちの方が強く残っているかもな。

 なので観光は簡単に済ませ、その後の行動が重要かもしれないな。……しかし当然、観光スポットや体験の思い出も大きく残っているので蔑《ないがし》ろには出来ない。出来る訳がない。


 さて、色々考えたけど、京都だと何をするんだろうな。行った事の無い俺のイメージだと寺、神社などの仏閣巡り、女性なら舞妓さんなどの体験。男女問わず古き良き馬車に乗ったりとか……そんなところか?

 そう、大体がネットに乗っている事や、芸能人がテレビで体験している知識しかない。今回は心音の為だけど、改めて京都に行ってみるのも良いかもな。


「お、ここが伏見稲荷大社か……って、せっかくの名所なのに何か安っぽい感想だったな」

「鳥居が沢山あるね~」

「まだまだ序の口だよ。奥の方に行けば写真とかでもよく見る、鳥居がズラッと立ち並んだ千本鳥居があるからね!」

「アハハ……きみこんのテンション高いね」

「はっ、私のクールキャラが……!」

「キャラ作ってたのかよ」

「きみこんは割といつもクールだよ~」


 まずやって来たのは京都と言えば……かもしれない場所、伏見稲荷大社。

 こう言った施設に興味津々のようで、喜美子さんはハイテンションだった。

 現地人じゃないし案内人も居ないから県境から真っ直ぐここに来たのは果たして正解のルートかは分からないが、取り敢えずオーケー。父さんと母さんは予約した宿泊先に行って荷物などを下ろしてくるらしい。……そんな事は無いんだろうけど、何となくそのまま置いてかれたらどうするかとか考えちゃうな。……まあ、財布はあるし駅から帰れるけど。


「けど、マップを見る限り結構歩きそうだな……」


「ネットで調べると分かりますけど、かなり広いですもんね。ここちーのお兄さんのお父さんとお母さんが荷物を置いてくるまでの時間は十分にありそうです」


「ハハ……間違っていないんだけど、父さん達の示し方と言い回しに何となく違和感があるな。……それはいいとして、そうだな。と言うか、ネットでって事は修学旅行では寄らなかったのか」


「別の班は寄っていましたけど、私達は他のスポットに行ってましたね」


 スマホを取り出し、軽く調べたら結構広い事が分かった。

 よく見る写真じゃ鳥居が沢山並んでいるだけだが、それ以外にも色々と見所はあるんだな。


「早速行きましょう! お兄さん!」

「あ、喜美子さん!?」


「私達よりお兄さんの手を引くなんて……」

「何かここちーのお兄ちゃんに負けた気分……」

「待ってよ~! お兄ちゃーん!」


 興奮した喜美子さんが手を引き、やや駆け足で鳥居の立ち並ぶ場所へ向かう。

 確かに何故俺の手を引いたのだろうか。そして、それとは別に気になる事もある。


「鳥居って何となく幽霊とか通さないイメージだけど、心音は問題無く通れるんだな」


「あ、そう言えばそうだね。別に結界的なやつもないよ~!」


 鳥居の並ぶ歩廊を歩きつつ、その気になる事を隣の心音を見て話した。

 何となく結界的な力で幽霊を通さない存在って思っていたけど、心音は問題無さそうだった。

 それを横目に……横耳か? 取り敢えずそれを聞いた喜美子さんが説明してくれた。


「元々鳥居は神様の通り道で、神域に向かう為の入り口のような扱いで幽霊とかは特に関係ありませんよ。嘘か本当かはさておき、この伏見稲荷大社でも幽霊の目撃証言はありますし、もし居るなら害を成す悪霊とかなら入って来れないかもしれませんけど、多分心音ちゃんなら大丈夫だと思います」


「へえ。確かにそれは聞いた事があるな。地域によっては真ん中が神様の通り道だから進んじゃ駄目とか、その逆とか、色々あった筈だ」


「ええ。幽霊を通さない結界という役割を果たしている場所もあるかもしれませんけど、少なくとも一般的な鳥居はそうではありませんね。日本の童謡である“とおりゃんせ”でも神様への道という事は伝わっていますし。まあ、とおりゃんせには“細道”というワードがあっても“鳥居”というワードはありまけんけど」


「そうなんだぁ。流石きみこん!」

「ハハ、色々詳しいんだな」

「はい、好きですから。こう言うの!」

「……っ」


 いつもは無表情な喜美子さんに笑顔を向けられ、俺は少し照れる。

 取り敢えず心音は大丈夫みたいだな。京都の仏閣巡り。喜美子さんの知識も相まって楽しめそうだ……まあ、今日は時間的にも伏見稲荷大社を見て回ったら終わりそうだけど。


「何かきみこんとここちーのお兄ちゃんイイ感じじゃない?」

「うん。馬が合うのかな?」


「こらそこ。聞こえてるぞ」


「テヘヘ、バレちゃったか」

「わざと聞こえる声で言ったんだけどね!」


「結奈ちゃんと紗枝ちゃんも一緒に行こ?」


「オッケー!」

「うん!」


 後ろで二人がニヤニヤと、しかし喜美子さんは特に動揺する素振りなども見せず、二人を誘った。本当にクールだな。いや、俺に恋愛感情とかが無い事の表れか。妥当だけど。

 何にせよ、少し歩いて着いた千本鳥居。後他におもかる石とかあるし、お土産コーナーもあるし見所は多いな。

 俺達四人と一人は伏見稲荷大社を観光した。



*****



「おもかる石上がらなかった~」

「何を願ったの?」

「神様になろうかなって」

「アハハ……そりゃ無理だよ」


 伏見稲荷大社を後にした俺達は、父さん達と合流し、少し見て回った後で車に乗って宿泊先へと向かっていた。

 もう日も暮れ始めている。夏なのでまだ明るいけど、結構いい時間だな。

 今日は観光スポットをそんなに巡れなかったし、後は明日だな……って、本来の目的は心音の思い出巡り。観光は二の次だ……が、やっぱり楽しいので仕方無い。


「この後はお兄さんとホテルですね♪」

「お兄ちゃんとホテルに行くの楽しみ~!」

「お兄さんとホテルですか」


「両親の前で語弊のある言い方は止してくれ三人とも……」


 含みのある言い方で結奈さんと紗枝さん、そして喜美子さんまでが乗ってきた。

 何も間違っていないんだけど、色々とアレだ。

 そんな言葉を聞いた当の両親はと言うと、


「ハッハッ。頑張れよ、優真」

「孫の顔も見てみたいものねぇ」


 ダメだコイツら。

 基本的に家族というものは、下ネタとかになると色々と気まずくなる。が、心音の両親でもある父さんと母さん。逆にノリが良かった。

 まあ、このノリの良さは最近まで見せていなかったし、心音が居る事実が救いになっているのかもな。それはそれとして全開で向かうのはどうかと思うが。


「お、見えてきたぞ」

「わー!」

「良いホテルですね♪」


 父さんが言い、紗枝さんと結奈さんが順に返す。

 確かに結構良いホテル……結奈さん達の前だから奮発したみたいだな。心地好い空間で過ごせるのは良いけど。

 そのまま到着と同時に俺達は車から降り、各々(おのおの)に当てられた複数人の部屋に向かう。

 順当に考えて、父さん、母さん、俺の三人部屋。結奈さん、紗枝さん、喜美子さんの三人部屋。そんなところか。


「それじゃ、ゆっくりね。“四人”とも」

「何かあったらおじさんに言うんだぞ」


「「「はーい!」」」

「ちょっと待て」


 ──そう思っていたのだが、明らかに不自然な割り振りだった。てか、結奈さん達も受け入れるなよ。


「おかしいだろ!? 何で俺も結奈さん達と一緒の部屋なんだ!? そう言うのって受付とかで指摘されないのか!?」


「オイオイ優真。修学旅行じゃないんだから。部屋の男女比はお客が決める事だろう?」


「いや、そうだけど、おかしいだろ!? 何で俺も結奈さん達と一緒の部屋なんだ!?」


「お兄ちゃん同じ事言ってるよ……」


 心音の苦笑混じりのツッコミに反応出来ない程に俺は困惑していた。

 いや、恋人同士とか、家族でならこの男女比もおかしくない。いや、恋人同士では逆に不自然か。ともかく、おかしくない状況もあるが、今の状況は明らかにおかしかった。プロ野球の日本代表にプロサッカー選手が居るような、プロサッカーの日本代表にプロ野球選手が居るような、そんな不自然。

 何度も思うように、結奈さん達も受け入れるなよ。


「てか、結奈さん達は良いのか? 女子の花園に男一人が乱入して!? ガールズトークとかしたいだろうし、俺の存在完全な異物じゃないか? 本当に良いのか?」


「構いませんよ?」

「別に良いよー!」

「逆に何が駄目なのでしょうか?」


 コイツらもどうにかしていた。

 オイ、女子高生。ちょっとは疑問に持て。何で“別に普通じゃない?”みたいな面持ちで返せるんだよ。


「何が駄目ってそりゃあ……なあ?」

「その言い方じゃ分かりませんよ」

「その言葉が出てきた時点で色々理解しているだろ……」

「ふふ、さあ、どうでしょう?」


 完全に理解している結奈さんだが、シラを切っているな。答えを言っているようなものだが、何かクイズみたいな感じになっていた。

 そんな俺の様子を見、紗枝さんが言葉を続けた。


「私達も他の男の子じゃ受け入れないよ。何なら元カレも入れたくない。けど、ここちーのお兄ちゃんなら平気なだけ」


「そうですよ。お兄さんが居ればここちーともいつでも会話が出来ますし、お兄さん自身も何もしないと思いますので」


「お兄さん、奥手ですからね」


「オイオイ……」


 これまたどこかで聞いたような理由、俺だから大丈夫。それは信頼とも言えるが、そんな勇気は無いと思われているらしい。腹が立つが、何も言い返せない自分に更に腹が立つ。まあ、心音の存在も大きく関わっているみたいだけどな。

 けど、これ以上抗議しても意味無いか。そもそも予約の時点でこうだったみたいだしな。つか、絶対父さん達と打合せしたろ。


「それじゃ、夕飯はおじさん達と一緒で、後は各々(おのおの)で楽しむんだぞ」


「はーい!」


 そしてこの場は別れた。

 夕飯は一緒に摂る。それはまあ、オーケー。入浴も別々。まあオッケー。

 そんな事より、結奈さん達と同じ部屋で過ごすのか。内心的には普通に嬉しいけど、何かあったら俺が刑務所行き。何かしたくても何も出来ないだろ……。

 そんなこんなで、心音の思い出巡りの旅行の一日目。それは家から発ち、伏見稲荷大社を探索した後、ホテルに向かって終わりを迎えるのだった……いや、俺の場合はこれから色々始まりそうだな。良い事か悪い事かはその時の俺の判断に委ねるか。

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