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16話 観覧車

「わー! 高ーい!」

「グルグル回る~」

「心音は物理的に回ってるな……」


 四人と一人で観覧車に乗り、上昇して遊園地を上から眺める。

 紗枝さんはその高さに興奮し、心音はグルグルと回っていた。たまにハミ出るけど、やっぱり物を自由に通り抜ける事は出来ないみたいだな。割と縦横無尽に飛び回っているのに飛び出さないのがその理由だ。


「それにしても、観覧車なんて久し振りだな。昔の家族旅行以来か? 恋人とかも居ないし、もう一生縁の無い乗り物だと思っていたよ」


「別に友達と一緒でも良いじゃないですか? だって一緒に良い景色を見るだけで楽しいですもん!」


「ハハ、まあな」


 今の理由から観覧車とは一番縁が無いと考えていたが、どうやら思ったよりもあるらしい。それも心音が繋げてくれた縁……的なやつか。

 何にせよ、結奈さん達は本当に俺を異性として見ていないみたいだし、観覧車にも何の抵抗もないか。ホッとした手前、ちょっと悲しい。この悲しさは多分男にしか分からないと思う。


「……けど、観覧車って他に何かするのか? 恋人同士なら色々とあるだろうけど……数分間景色を見るだけなのも飽きるかも」


「そりゃ勿論お話とかですよ。そうですね……ここちーについて、お兄さんしか知らない事とか!」


「あ、じゃあウチらもここちーの秘密をお兄ちゃんにバラしちゃおっか!」


「うん、良いかも」


「え!? ちょっと待って皆!? お兄ちゃん! 止めて!」


 観覧車でパッと思い付くのは頂点に達した時に行われる恋人同士の口付け。だが、他には特に思い付かない。

 それについて訊ねてみるが、普通に会話を楽しむらしい。そしてその内容の候補は心音の秘密暴露会。

 当の心音はかなり否定的。よし、ここは兄としてちゃんとするか。


「それいいな。心音も気乗りしているし、一丁話してみるか!」


「気乗りしてない!」


「ふふ、その悪戯っぽい表情……お兄さん、心音ちゃんは割と否定的みたいですね」


「まあな!」

「お兄ちゃーん!」


 当然、話すし聞く。

 暴露と言ってもちょっと恥ずかしい程度の事だろうし、簡単な話題だ。

 当の本人からしたらそれでも堪ったものじゃないんだろうけど、逆に楽しみだな。


「じゃあ先ずは兄として俺からだな。心音って実はな」


「「「フムフム……!」」」

「お兄ちゃん! みんなー!」


 他愛の無い会話。しかし身内や友人内では結構盛り上がる。

 心音は焦りながらグルグルと回り、聞こえていないにも関わらず大声で掻き消そうとしている。ま、結奈さん達の言葉は掻き消されるし、俺はその秘密を詳しくは知れないかもな。

 遊園地の最終アトラクション、観覧車。それはある意味では一番盛り上がって終了するのだった。



*****



「はぁ……幽霊なのに疲れた……」

「少し窶《やつ》れたか? 幽霊なのに」


「その様子、ここちーには大ダメージだったみたいですね」

「ウチもそれは分かった! ここちーの考えが読めてきたよ!」

「見えてないけど、可愛い心音ちゃんの姿が目に浮かびますね」


「ユナっち達って割とSっ気あったんだ……」


 自分の秘密が明かされればこうもなる。

 秘密と言っても本当に大した事ではなかった。具体的に言えばドロドロしたモノが無いという事。

 学校や遊び先での失敗談に、家族間での失敗談。誰でも経験した事があるような、本当に小さな事。しかし本人は滅茶苦茶気にするようなもの。他人からしたら何という事が無くても心音が可哀想だし、この秘密は俺達だけのモノにしておくか。


「さて、そろそろパレードが始まるよ!」

「もうそんな時間か。それじゃ、向かうか?」


 日も暮れているのでお客さんは少なかった。具体的に言えば殆ど恋人同士くらい。

 なのですぐに乗れたが、観覧車は結構ゆっくりと一周する。なので意図せずに微調整が施され、丁度良い頃合いになったようだ。

 俺はパレードへ向かうつもりだが、結奈さん達に俺は両腕を掴まれた。……何か既視感があるな。まるでさっき体験したような……まあ、さっきは接触は無かったな。


「パレード前に……!」

「記念写真! 撮ろ?」

「撮りますか。お兄さん」

「賛成ー!」


「……。ハハ、良い場所見つかったのか?」


「「「うん(はい)!」」」


 俺の言葉に返し、先程乗っていた観覧車を指差す。

 そこには夜になる事でライトアップされ、幻想的な光景を生み出している観覧車。周りの明かりも程好い光であり、絶好の撮影チャンスだった。


「観覧車をバックに写真撮影か。良いな」


「はい!」

「そして!」

「それだけじゃありません!」

「我らのきみこん先生は!」

「スマホ以外のカメラも用意してます!」


 結奈さんと紗枝さんが交互に話、喜美子さんへ手を差し出して讃えた。バーン! という効果音が似合いそうな光景だな。

 しかし本当に準備万端な喜美子さん。脚立も用意しており、既にカメラのセッティングも終えていた。


「どういう並びにする?」

「やっぱりお兄さんとここちーが中心だよね?」

「じゃあこうしよう」


 三人が話、ポーズを決める。どうやら俺と心音が真ん中付近になるのは決定事項みたいだな。別にいいけど。

 そんなやり取りを見、俺達は横に並んだ。


「じゃあ、」

「せーの、」

「ハイ」


「「「チーズ!」」」

「いえーい」

「やっほー!」


 掛け声に合わせて俺は棒読みでピースを作り、心音は俺の隣で両手を上に挙げて万歳するように飛び出る。

 左右では結奈さんと紗枝さんが手を伸ばしており、俺と心音の前では喜美子さんがしゃがんでピースを作っていた。

 それと同時にフラッシュが放たれ、パシャリという古くから変わらない心地好い音が響いた。


「あ、水蒸気とか越しじゃないのにここちーがちゃんと写ってるよ!」


「本当だ! 夜だからかな? 遊園地だからかな?」


「うん、身体も少し透けているだけで私達とあまり変わらない……」


 結奈さん、紗枝さん、喜美子さんが順に話す。

 写真を確認し、バッチリと写っている心音の姿を捉えた。

 俺も覗いてみるけど、お化け屋敷と言い今と言い、確かにバッチリ撮れているな。その箇所の共通点は“暗い”のと“遊園地内”という事。何か理由があるかもしれないけど……今はみんなと楽しんだ方が良いかもな。


「良かった~! ちゃんと写っているんだね! 私!」


「ああ、そうみたいだな。心音」

「良かったね♪ ここちー!」

「バンザーイ!」

「うん、嬉しい。写真は後で現像してみんなに配るね」


 俺の言葉から心音が喜んでいるのを理解し、三人も心音を祝福する。──そして次の瞬間、心音の身体から光の欠片が舞った。


「……あ……」

「……! 心音……!?」

「「「……?」」」


 俺の声に三人は反応し、心音は自分の身体を見る。いくつかの光が空中へ消え去り、心音の身体は元に戻った。

 ……これって……多分そういう事だよな。

 結奈さん達は小首を傾げ、薄々察しているのか不安そうに訊ねた。


「どうかしたんですか? お兄さん……」

「もしかして……今のでここちーが……?」

「消えちゃったのですか……?」


「……いや、一瞬だけ光の粒子みたいなモノが零れたけどすぐに戻った……けど、そろそろ近いのかもしれないな。心音も満たされて来たって事だ」


「「「……っ」」」


 三人が考えるような事態にはならなかったが、おそらく心音の成仏も近い。

 結奈さん達はハッと息を飲み、俺の視線の先を見る。


「そうなんだ……ここちー……」

「もうすぐなんだね……」

「それが目的だけど……ちょっと悲しい……」


「……うん、そうみたい……。今ね。心と体が凄く軽いの……その気になれば今すぐにも消えられるかも……」


「今の心音は心と体が凄く軽くなっているみたいだな」


「「「…………」」」


 その気になれば消えられるかもしれない。その言葉は伝えず、心音がもうすぐ消える事のみを伝えた。

 けど、親友の三人。うっすらとだが、それには気付いている事だろう。


「──~♪ ~♪」

『ドン! ドン! ドン!』

『パーパラッパ、パッパッパ♪』

『ジャッガジャガジャガ、ジャッジャッジャン♪』

『チャッラ、チャッラ、チャラチャラチャン♪』


 そんな空気の中、ほんの少し離れた場所でパレードが始まった。

 一応近場に陣取っていたからな。……しかし俺達にはその音がかなり遠くに聞こえ、何も言えない感覚に覆い包まれる。

 まるで水の中にでも入ったかのような、そんな感覚。それ程までに、“目的”でもあった再び訪れる“別れ”が堪《こた》えているのだろう。

 俺達四人と一人はそんな空気の中パレードの近くに行き、静かな騒がしいパレードが通り過ぎて行った。



*****



「──という事なんだ。多分、もうすぐ心音が消えるかも」


「……早いわね……それ程までに優真達が頑張ってくれているんだけど……」


「まだ実感が湧き切る前に消えてしまうのか……心音」


「ごめんね。お父さん……お母さん……」


 ──遊園地を終えた俺達はあの空気のまま帰路に着き、俺は自宅にて両親に概要を説明した。

 両親が心音の事を知ったのはつい先日。なのでもう消え掛かっているというのは中々に来るものがあるようだ。

 当たり前だよな。亡くなった筈の娘がそこに居て、もうすぐ消えようとしている。兄の俺もさることながら、両親からすれば当然だ。


「……けど、もうすぐなのね。悲しいけど……これも心音の為……私達は何も出来ないからこそ……優真、頼んだわよ……!」


「ああ。出来れば家族旅行にも行きたいが……娘が成仏しそうと言う理由では会社を休めないからな……お盆休みもすぐだが、父さん達にはやれそうにない」


「父さん、母さん……」


 ──そして、そんな両親は俺を信じてくれた。

 その信じたは“虚言癖”にも近い今の状態や“心音が居る事”に対してではなく、心音を成仏させるという事について。

 大学生と高校生。夏期講習やら部活やらと色々あるが、それでも仕事のある両親には出来ない事をやれる機会も多い。

 その期待には応えなくちゃな。家族として、心音の兄として。


「分かったよ。心音は絶対に、幸せな、悔いの残らない在り方で成仏させる……!」


「ああ……!」

「ええ……!」

「お兄ちゃん……」


 両親に約束し、二人は頷いて返す。

 明日からは結奈さん達にも用があるみたいだし、俺もバイトがある。次に結奈さん達と予定の合う機会はお盆休みと夏休み最終日か。

 お盆休みを使って家族旅行にも行きたいんだろうけど、その役割は俺に任せてくれたんだ。

 やってやるさ。心音を必ず成仏させる。

 俺達家族は互いに頷き、覚悟を決めた。

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