15話 アトラクション
「それで、写真撮影はいいとして、結局のところ次は結奈さんと喜美子さんのどっちが決めるんだ?」
「うーん、私はジェットコースターが良いですけど、食後すぐにジェットコースターは気持ち悪くなるかもしれませんので一先ず喜美子ちゃんですかね」
「私? 別にいいけど……食後だからのんびりしたのが良いですね……」
俺への敬語と友人への口調が混ざり合ったように二人は話す。
確かにジェットコースターの並ぶ時間を考慮したとしても精々2~3時間。食後すぐなのは変わらないな。
なので結奈さんが引き下がり、喜美子さんが決める事になった。しかしまあ、遊びは二の次みたいな性格の喜美子さんが決めるのは少し荷が重いかもな。
「あ、この不思議な森のアトラクションにしましょう」
「“ファンタジーフォレスト”か。乗り物に乗って不思議な森を行く。確かに食後には丁度良いかもな」
この遊園地のパンフレットを見、喜美子さんが選択したのは不思議な森のアトラクション。
ゆっくりと進む汽車のような乗り物に乗って森の中を探索する物だ。
食後という事も踏まえて、割と適切な乗り物かもな。
「良いね! “ファンタジーフォレスト”!」
「うん、ピッタリ」
「楽しみ~!」
紗枝さんと結奈さん、そして心音も順に話す。
周回を終える時間が数十分だとして、激しい動きなどもないので食後には適正だ。なので次のアトラクションはそれに決まった。
「あ、お兄ちゃん! ほらあそこ!」
「ノームか……今時のノームは動くんだな」
「ノーム? あ、本当ですね。……それと、またここちーと話しているんですか?」
「ああ。心音があれを見つけたんだ。背後と同色だから俺は一瞬分からなかったけどな」
「ふふ、観察眼は相変わらずですね。ここちー」
「当然!」
コミカルな動きをするノームを余所に、結奈さんが笑う。
一台に付き二人。俺は結奈さんと乗り、紗枝さんと喜美子さんが後ろに居る。
「きみこん! あの妖精捕まえよう!」
「あくまでアトラクションの一部だよ。紗枝ちゃん」
「ここは気分だよ気分っ!」
「確かに入り込んだ方が楽しいけど」
「でしょでしょ!」
後ろはかなり盛り上がっているな。
俺の場合は心音もおり、結奈さんと二人きりの緊張などは特に無かった。
二人きりと言っても後ろの二人とも距離は近いし、特別感は無い。結奈さんも結奈さんで心音の存在は知っているし、後ろの二人の声も届くのでそんな感じみたいだ。
「それにしても、お兄さんってお付き合いとかした事が無い割には私と一緒で緊張とかしないんですね?」
「え?」
そんなことを考えていると、本人も気になっていたのか聞いてきた。
お付き合い云々は俺の精神に会心の一撃が入るのでさておき……確かに最初に会った時程結奈さん達が相手でも気にしなくなったな。元々女性と話すのが苦手と言う訳でもない。友人、あくまで友人なら女友達くらいは居るからな。基本的に全員彼氏持ちだから男との話にも慣れている人達だけど。
まあ、妹や姉が居る家庭の人は比較的女性とも話しやすいって言うし、元々俺もそんな感じなんだろうな。
取り敢えず結奈さんの言葉には返すか。
「ああ、心音も居るからな。それに、ずっと緊張している訳じゃないし……そう言う結奈さんも俺と二人で特に何も思わないのか? 他意は無いぞ」
「そうですね……やっぱりここちーのお兄ちゃんって感じですから、他の男の子と接する時とは違う感じになるんですね。私も人を好きになった事があってもお付き合いとか経験無いですけど……うーん……カラオケの時とかも踏まえて、やっぱりお兄ちゃんって感じです」
「へえ」
“異性”としててばなく、友達の兄として、何なら自分の兄“みたいな”立場として考えているので緊張しないらしい。
確かに俺からしても結奈さん、紗枝さん、喜美子さんの三人は妹みたいに思えるかもな。年齢も割と離れているし、元々この三人は年上に甘えてくるタイプの性格なので兄方面の目線で見てしまっていた。
「お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだからね!」
そしてまあ、“それっぽい”だけで実の兄でも義兄でも無いので心音がクルクル空を飛びながら反論した。
「ハハ、ちゃんと心音の兄だよ。俺は」
「あ、きみこんじゃないですけど、ここちーが今何を言ったのか分かりましたよ。ズバリ“私のお兄ちゃん取らないで!”ですね!」
「ハハハ……まあ、似たような感じだな」
「当ったり~!」
「やった。私も少しきみこんに近付けたかも!」
心音の言った事を、近い意味で当てて喜ぶ結奈さん。無邪気だな。本当に女子高生か?
女子高生ってなんかもっとドロドロしたイメージだったけど、こんな人も居るんだな……って、紗枝さんや喜美子さんも基本的には純粋だな。何なら心音も。
「お、リスだ」
「あ、可愛いですね。本物……に近いけどあれも剥製ですか」
「剥製って言い方はどうかと思うぞ……何らかの機械で動いてはいるけど、剥製ではないし」
話にも一区切りが付き、改めて森の中を見回す。話している間にもちゃんと見ていたけどな。
“ファンタジーフォレスト”の名が示すように全体的に妖精やノームなどファンタジーなものが多いが、リスや小鳥などの小動物を模した物もある。
列車はゆったりと進み、心地好い風や時折水飛沫も飛んで来る。悪くない。
ここは食後の休憩にも丁度良いアトラクションだったな。
俺達四人と一人は一通り景観を楽しみ、ファンタジーフォレストを後にした。
*****
「楽しかった~! 本当に不思議な森を探索したみたい!」
「そう言うコンセプトだからな。けど、確かに楽しかったよ」
ファンタジーフォレストを後にし、食事を終えてまだ一、二時間程度だがもう片手に食べ物を持ちながら紗枝さんが言う。
その胃袋は無尽蔵なのか? せめておやつの時間にしても後一時間は欲しいところだぞ。
「良いアトラクションだったね。きみこん」
「うん。結奈ちゃん」
そして結奈さんと、喜美子さんまで食べ物を持っている。
これも一つの醍醐味なのだが、食いしん坊とか別腹などの言葉じゃ形容出来ない感覚だ。
「さて、じゃあいよいよ本番、ジェットコースターだね!」
「……っ。覚悟は出来ているよ……結奈ちゃん。喜美子ちゃん……!」
「よく言った! それでこそきみこん二等兵だ!」
「頑張ろうね! きみこん軍曹!」
「どっちだよ……」
知っている単語をテキトーに繋ぎ合わせたかのような呼び方をされる喜美子さん。いや、ここは俺も二人に則ってきみこん二等兵軍曹とでも呼ぼうか。
取り敢えずジェットコースターは苦手みたいだが、それでも乗る覚悟は決めたらしい。
「いよいよジェットコースターかぁ。私には安全バーが降りないし、やっぱり競走するよ!」
「何でそうなる」
三人は盛り上がり、心音も心音である意味盛り上がる。
何にせよ、俺達はいよいよジェットコースターへと搭乗する。
「長い……」
「遊園地デートはこの待ち時間で別れるカップルが多いってのもよく聞くもんねぇ……」
「私の緊張が切れちゃう……」
──前に、存在する大きな壁。
時間は三、四時間。夏休みの最中である、人気アトラクションのジェットコースターにしては短い方だな。だがその時間待ち続けると言うものは確かに来るものはある。
優待パスとかも持ってないし、持ってたとしても一時間は並ぶ。多くのカップルが軽い気持ちで遊園地に行った暁に別れるのも理解出来る時間だ。
まあ、初デートならなるべく長時間並ぶアトラクションは避けて行けば問題無い……と、異性と付き合った経験の無い俺が偉そうに思う。要するにそれくらい暇なのだ。
「よーし! ここちーも入れてしりとりしよう! お兄さんが代弁すればここちーも参加出来るし!」
「それ以外にも話の内容は色々あるもんね! ここからが正念場だよ!」
「私の知識もみんなの為にフル活用するよ!」
「「「おおーっ!」」」
「良いね! やるやる~!」
「大衆の前で……って今更か。普通に話している人は多いし」
今の時代、スマホがあればネット経由でその場に居ながらも色々出来る。それに加え、日本に古くから伝わる伝統の“しりとり”もある。
三人寄れば文殊の知恵ならば、四人と一人の俺達はもはや全知全能。何とかなるだろう。
あの手この手で俺達は時間を潰した。
「やっと乗れたー!」
「お兄さんとここちー。そして何よりきみこんのお陰だね!」
「ありがとう。力になれたなら嬉しいよ。私も緊張の糸は切れていないし……!」
「ハハ、良かったよ」
「死んだ後も力になれて嬉しいよ! お兄ちゃんに見えるより前は一人で何十時間も過ごしていたからみんなが居ると楽しい!」
──色々あり、俺達はようやくジェットコースターに乗る事が出来た。
しりとりは割と早い段階で飽きが来たし、本当に四人と一人が居て良かったよ。長蛇の列で不仲になる事はあるけど、俺達の結束はより固くなった……かもしれない。
「ドキドキする……」
「ほら、喜美子さん。落ち着いて」
「お兄さん……やっぱりお兄さんって安心しますね」
「そうか? そう思って貰えると俺としても嬉しいよ」
一緒にジェットコースターに乗る二人組みは俺と喜美子さん、結奈さんと紗枝さんになった。
四人で居るともう一組みが離れ離れになる可能性もある。が、今回はそんな感じじゃないので良いだろう。
喜美子さんは相変わらず緊張しているけど大丈夫そうだな。
「それでは」
従業員が言い、その瞬間にジェットコースターは徐々に上昇する。
安全バーはちゃんと降りた。緩くなっていたり、事故の原因になるような事はなさそうだ。……何故そんな事を考えるのか、それはジェットコースターの安全設計などではなく、俺も俺で、喜美子さんを励ました割には滅茶苦茶緊張しているからである。
「き、来ますよ……」
「よ、良し……」
「私も頑張るよ……!」
喜美子さんが緊張を帯びた声で告げ、俺も空返事をする。心音は準備運動をし、ジェットコースターに勝つ気で居た。
時速百キロ以上の乗り物に勝つって、幽霊ならではの競走だけど、よくする気になるな。幽霊になったらやりたい事ランキングがあるとすれば絶対にランク外だろ。一位はやっぱり女湯を覗く事か? そんな下らない事を考えているうちにジェットコースターは頂点へと達し、一時停止、そこから勢いよく降下した。
「「……っ!」」
「「キャー♪」」
「負けないよーッ!」
ジェットコースターの恐怖に駆られた俺と喜美子さんは無言で耐え、後ろから結奈さん達の楽しそうな悲鳴が聞こえた。が、すぐに風で掻き消された。
心音はどうやっているのか分からないけど、まだ割と近くに居るみたいだな。
時間で言えば数十分。おそらく今までのアトラクションの中では一番早いが、早い間隔で味わう恐怖と興奮。充実した気分で俺達はジェットコースターを満喫した。
*****
「良い一日だったですね」
「もう夕方かぁ」
「勉強の息抜きには丁度良かったです」
「ああ、そうだな」
「楽しかった~」
夕刻、遊園地のベンチにて俺達四人と一人は寛いでいた。と言うより休憩にも近いかもな。一日中遊ぶというのは結構疲れるってもんだ。
しかしまあ、結奈さん達はまだまだ余力があるみたいだけど。若さって凄いな。
「さて、そろそろ帰るか?」
「えー? ここちーのお兄ちゃんって遊園地あまり行かないの?」
「え?」
俺が帰宅を提案し、紗枝さんが驚愕したかのような面持ちで話す。
紗枝さんを筆頭に他の三人も顔を見合い、心音も混ざって言葉を続けた。
「「「「パレードがあるよ!」」」」
「お、おう」
パレード。
いや、確かに遊園地にはパレードが付き物だけど……そんなに大きく主張する事か……?
しかしこの様子、それ程楽しみにしているのは事実みたいだな。
「けどまだ時間があるよな……その間何してる?」
「うーん……あ、最後のアトラクションをここちーが決めるのはどう?」
「うん、良いかも!」
「賛成」
「え? 私ー!?」
パレードまでの時間はまだある。なので何するのかを訊ね、紗枝さん達は心音が決める事を望んだ。
当の心音は心底嬉しそうに驚く。
「ハハ、確かに俺達は決めたけど、心音はまだだったな。良いんじゃないか?」
「えへへ~やったー!」
そのままフワフワと飛び回りながら喜ぶ。
姿形が見えなくても通じるものがある。それを改めて実感し、また気持ちが軽くなったみたいだ。
「それじゃ、ここちー。何処にする?」
「ここちーのお兄ちゃん通訳お願いね!」
「頼みます」
「よしきた」
「うーんと……そうだね」
空中で一時的に止まり、指を頬に当てて悩む。
色々と行きたいところもある様子。しかし残り時間的に後一つが関の山。少し考えながら空を飛び、更に上を見て急降下した。
「私、観覧車が良い! 遊園地のシメには観覧車が王道だからね!」
「観覧車? 確かに定番だけど……それってカップルとか家族で乗るもんじゃないのか?」
心音が見ていたのは観覧車。どうやらあれに乗りたいらしい。
しかしまあ、今も言ったように友人と乗るような物か? いや、別に変じゃないし悪くないんだけど。イメージ的な意味で。
「観覧車に乗りたいって言っているんですね? 私は別に構いませんよ。お兄さんと観覧車に乗っても」
「密室空間に二人きりって訳でもないからねぇ。ここちーのお兄ちゃんは安全だから二人きりでも問題無さそうだけど!」
「観覧車なら高所恐怖症とかじゃないから大丈夫かな」
心音の言葉を復唱した俺に向け、結奈さん達は構わないと告げた。
それはいいんだけど……その理由が俺が男らしくないから。まあ、性犯罪に及ぶのが男らしさな訳は無いけど、それは極論越えて暴論。要するに初々しい? のが理由だ。……もっと別の言い方は無いだろうか。
ともかく、俺の性格的に全く警戒されていないのだろう。かえって好都合ではある。
「それじゃ、観覧車にレッツゴー!」
「「おー!」」
「「おー」」
紗枝さんが指揮? を執り、俺達はそれに続く。
俺達四人の、思い出作り。遊園地の大トリは心音の提案の元、観覧車に決まった。




