14話 遊園地
「到着ー!」
「何に乗るー?」
「私は別に……絶叫系以外なら……」
「私はジェットコースターが良い! ジェットコースターと競走するんだ!」
変わった観点からのアトラクションの楽しみ方である。
車で数十分……まあ、そんなに長い方じゃない。その時間で俺達四人と一人は遊園地にやって来た。
結奈さん達はともかく、心音の楽しもうという気概は幽霊的視点だな。ジェットコースターに乗れるかどうかの問題もあるが、どのくらい飛行出来るんだろうな。
「心音はジェットコースターと競走したいってさ」
「アハハ……ここちーらしい考えですね。実はここちー、幽霊生活割と満喫していません?」
「まあね~。最近は皆に見て貰えるようになったり、気付かれているから楽しくなってきたの! お兄ちゃんを通して話も出来るもんね!」
「皆と間接的に見たり話せたりとか、そう言った事が楽しいんだと」
「成る程」
この人混みの中。俺が心音と会話しても何ら不思議じゃない。いや、不自然ではあるが、喧騒の中だから聞かれない限りは気にされないのだ。
それもあって心音も楽しそうにしている。無視せざるを得ないにしても、俺達四人だけで話されるのは思うところもあるだろうからな。
「えーと……話進んでますけどジェットコースター乗るんですか……あまり気乗りしないような……それに、いきなりジェットコースターって言うのも……」
「成る程。確かにそうだな。最初から全力で行く訳にもいかないか」
どうやら喜美子さんは絶叫マシン系が苦手らしい。
来た瞬間にそう言っていたからな。だが、場の雰囲気を崩さない為にあくまで先送りという案にしている。なので俺もその案に乗った。
「じゃあ間を取ってお化け屋敷にしよっか!」
「ジェットコースターと何の間にお化け屋敷があるんだよ……別に構わないけど」
紗枝さん的に、ジェットコースターと何かの間にはお化け屋敷があるらしい。
まあ、小手調べ的な感覚なら良いかもな。お化け屋敷はどっちにも取れるから良い塩梅だ。
「メリーゴーランドとかコーヒーカップもあるけど……うん、お化け屋敷良いかも!」
「お化け屋敷ですか……まあ、絶叫系よりは……」
「怖そうだねぇ~」
結奈さんと喜美子さんの二人もお化け屋敷に賛成。そのお化けみたいな存在がお化け屋敷を怖がっているのも中々面白味がある光景だな。
何はともあれ、俺達はまず手始めにお化け屋敷に入る事にした。
*****
──“お化け屋敷”。
「ア゛ア゛ア゛ァァァァ!!」
「「「「キャアアアア!?」」」」
「……!?」
お化け屋敷に入るや否や、お化けに驚かされて結奈さん達が俺に抱き付く。むしろ俺的には四人の悲鳴の方でビックリしたぞ……。
女子高生三人と妹に抱き付かれるのは傍から見たら幸福かもしれないけど、薄暗いお化け屋敷内。正直言って今俺に抱き付いているのが結奈さん達なのかお化けなのか分からない。
「此処は地獄の通り道~……」
「ひぇぇ……」
「うぅ……」
(さっきまでの場所はまだ三途の川だったのかよ……)
案内人らしき特殊メイクをした者が定型文を話す。
三人……というか四人は怯えているけど、俺は何となくお化け屋敷を怖がらなくなってきたな。本物が居るから慣れたのだろうか……けど、急にバンッ! とか、足を掴まれたりとかは別方面でビビるな。子供騙しかと思ったけど、結構本格的だし割と楽しめている。
「ウア゛ア゛ア゛……!!」
「キャア!?」
「アーウ……」
「ひっ……!?」
「アアァ……」
「きゃっ……」
「ヴェアアア……!」
「お兄ちゃーんっ!」
(楽しんでるな……)
お化け屋敷は、何も直接的な恐怖だけじゃない。なので心音も十分に楽しめているようだった。
薄暗いからか心音の姿がはっきり見えるし、道に迷う事は無さそうだな。
「ではそこで魂の写しを……黄泉の国への通行手形になります……」
「写真か」
そしてこのお化け屋敷は、出口付近になると任意でお化け達と写真撮影が出来る。
当然周りに人が居る訳じゃないが、周囲にある鏡などにホログラムで幽霊を射影するのだ。
俺達四人と一人もそれを撮り、そのまま出口へと向かった。
「では、次のお客さ……きゃあ!?」
「どうしました?」
「なんだなんだ?」
「うん……?」
「何が……?」
そして写真の受け渡し。先程撮影した写真を手に取った女性従業員は小さく悲鳴を上げ、その声の大きさが届いたのか周りにも人だかりが出来ていた……って、これってまさか……。
「お客様方の写真に……設備とはまた別の……お、女の子が……!!」
「「「…………!?」」」
「「「…………!?」」」
「「「「あ……」」」」
「だよな……」
結奈さん、紗枝さん、喜美子さん、心音が同時に小さく声を上げ、俺は肩を落とした。
その写真には、割とハッキリと浮かぶ心音の姿が。心音の背後にはホログラムのお化け達が居るが、居るからこそ特筆した存在という事がより鮮明に浮き上がって描かれていた。
あの環境だから心音の姿もちゃんと写ったみたいだな。周りのお客さんも驚愕の表情を浮かべており、急によそよそしくなって距離を置かれた。まあ、憑かれている可能性を考えたら当然の反応だわな。
「お客様……これはお祓いに行った方がよろしいのでは無いでしょうか……」
「あー、多分大丈夫です。ついでにこれ四枚にコピーして下さい」
「え゛……? よろしいので御座いますでしょうなのですか……お客様……?」
「はい。逆に記念になるんで」
驚愕と動揺のあまり従業員の日本語が変な感じになっていた。が、それについては指摘しない。この状況に置かれた方が可哀想だからな。それ程になっても責務を全うするプロ根性に感銘だ。
しかしまあ、せっかく心音の姿も、昨日撮った冷気越しなどよりもハッキリと写っているのでコピーをして貰い、俺達四人で分けた。
「あ、ありがとうございました……」
「ご迷惑お掛けしました」
最後まで丁寧な従業員。凄いな。お化け屋敷の従業員でもあまり経験が無い事だろうに。あの人は幸せになるべき人材だな……と、大袈裟な事を思いながら遊園地を行く。
「偶然にもここちーとの思い出写真撮れちゃったね~」
「従業員さん、驚いていたねぇ~」
「私達も最初に心音ちゃんの事を聞いた時は驚いたもんね」
「「それ!」」
記念の写真を見ながら、先程の感想を話して歩く。
すっかり馴染んだけど、考えてみたらこの三人の信用も凄い高いな。写真はともかく、実際に話したり見たりした訳じゃないのに。本当に良い娘達だ。
「それで、次はどこに行く?」
「ジェットコースター!」
「えーと……それはもうちょっと後にしない? 終わりギリギリとか……」
お化け屋敷を終え、早速次のアトラクションを考える三人。
今は夏休み。どのアトラクションも混んでいるから早いうちに決めておきたいところだな。
「きみこんの言い分にも一理あるね……じゃ、さっきはウチが決めたお化け屋敷にしたし、次はここちーのお兄ちゃん。そしてその次はユナっちかきみこんで……そんな感じで決めて行かない?」
「あ、それなら良いかも!」
「うん……お兄さんなら大丈夫だと思うから……」
流れで俺が決める事になってしまった。
喜美子さんの言う、“お兄さんなら大丈夫”というのはさっき喜美子さんの様子を見て絶叫マシンに反対したからだろうな。その意図に喜美子さんは気付いたらしい。相変わらず鋭い人だ。
「じゃ、メリーゴーランドにでもしておこうか。そんなに速くないし、乗り物に乗る感覚に慣れると思うし」
「オッケー!」
「良いですね。メリーゴーランド!」
「確かに慣らしておけば後々のマシンにも耐えられるかも……」
コーヒーカップやゴーカートも候補だったが、あれは乗り手次第で速度が変化する。フリーフォールやバイキングはもっての他。なので一定の速度であるメリーゴーランドにしておき、喜美子さんの三半規管を慣らしておく事にした。それなら今後必ず来るであろうジェットコースターやその他の絶叫マシンにも耐えうる肉体となるだろう。
当の喜美子さんもその意図にも気付き、賛同する。……遊園地ってこんな心理戦みたいな施設だったか? 何はともあれ、俺達は今度はメリーゴーランドへと向かった。
*****
──メリーゴーランド。
「……平和だねぇ」
「落ち着くねぇ……」
「馬車の中は心地好いね」
「さしずめ俺は御者か」
メリーゴーランドの馬車の中、三人は寛ぎ、俺は馬を運転する……まあ自動なんだけど、感覚的にはそんな感じだな。
言うなれば三人のお姫様を乗せる馬車の運転手。案外悪くはない。
「イエーイ! 私は並走出来るよ~!」
「メリーゴーランドと競うなよ……」
幽霊である心音は、俺以外の誰にも見えない。
心音はそれを利用し、回るメリーゴーランドと並走するように浮かんで競走していた。台に乗ったら一緒に回ってしまうからあくまで浮かんでの移動。なんだその暇潰しは。
一先ずメリーゴーランドは数週回るアトラクション。数分間を終え、俺達は(俺の奢りで)アイスやチュロス、ドーナツなどを片手に歩いていた。
「次はどっちが決める?」
「うーん……けど時間的にもうお昼だし、お昼ご飯食べない?」
「うん、私もそれが良いと思う」
「じゃ、お昼だね!」
「今食ってるのはあくまで間食か」
「いいな~私も食べたい」
「後で仏壇に供えてやるよ」
「そう言えばそれで私も何か食べられるのかな?」
「どうだろうな」
次に何のアトラクションに乗るか、それを話していたところでそろそろ昼という事に気付いた。
心音も食べたがっているが、霊体なので食せない。が、その辺の事情が改めて気になった。
尿意とかの整理現象はもちろんの事、食事なども必要無い。なのに話せて動けている。本当に不思議な存在だな……それと、日本的な生死感だが仏壇に供えたとして心音は果たして食事を摂れるのだろうか。仏壇ってそう言うものだけど……まあ、家に帰ったら確かめてみるか。
「お兄さん。どこで食べますか?」
「飲食店も色々あるよぉ~」
「どうしますか?」
「別に君達が決めても良いんだけどね。近場のレストランにするか?」
「オッケー!」
「オーケーです」
「良いですよ」
遊園地での昼食と言えばもう殆ど決まっているようなもの。なので俺達は園内にある飲食店へと行く事にした。
「それで別れたって訳! 悪いとは思ってるよ。改めて考えるとねぇ」
「アハハ~。確かにそれはサエちんが言い過ぎたかもねぇ」
「向こうも向こうみたいだから気持ちは分かるよ」
「前にもそんな事言ってたよねぇ」
紗枝さんとその彼氏の別れ話を余所に、俺は食事を摂る。
女性は半数以上が別れた後の立ち直りが早いと言う。紗枝さんが別れたのは二、三ヶ月前らしいので今では話の種になっているようだ。
結奈さん、喜美子さん、そして心音も参加しており、俺的にはかなり居辛い空間だ。
「お兄ちゃんはどっちが悪いと思う? ウチと彼氏」
「男の人の意見も欲しいもんねぇ」
「私もお兄さんの言い分が気になります」
「え? いや、急に振られてもな……」
そしてこちらにも飛び火してしまった。
いや、無言で黙々と食べているから気を使ってくれたのかもな。しかしどちら側で答えれば良いのか。
「お兄ちゃんお兄ちゃん。理由は浮気だし、サエちんは被害者だし、それを言えばオーケーだよ!」
「成る程……まあ、紗枝さんに非が無い、相手の浮気みたいだしそれで良いんじゃないか?」
困る俺に向け、付き合い方を知っている心音がアドバイスをくれた。俺はそれを話す。
確かに浮気したのは彼氏が悪いな。日本じゃ一夫多妻制が適応されていないし。しかも彼氏の理由は“紗枝さんの事も好きは好きだけど、他の女性とも付き合ってみたかったから”。本当にただの興味本意での浮気。よくある性格に問題があるとかもなく、紗枝さんには非が無いタイプの理由だ。
けど、それについての悪口を言った事を後悔しているなんて、紗枝さんも優しい人だな。
「成る程……? ここちーのアドバイス貰ったでしょお兄ちゃーん」
「一応自分の意見みたいですけどズルいですね……」
「いや……そう言われてもな……」
心音のアドバイスという事がバレ、責められる。と言っても簡単なじゃれあいみたいなもの。非難されているような責めじゃない。
「もう。……あ、そうだ! ここちーのお兄ちゃん!」
「……?」
すると紗枝さんが何かを思い付き、席を立って俺の隣に来た。
「イエーイ!」
「……? イエーイ……?」
肩を組み、そのまま自撮りする。その写真を俺に見せ、笑顔で話した。
「アイツ自分で浮気しておいてまだウチに未練タラタラだし、この写真元カレに送って脳を破壊しよっと!」
「削除」
「あ! 消さないでよ~!」
えげつない事を考える。これが女性か。
削除される前に紗枝さんはスマホを引っ込め、俺は肩を落として話す。
「それが拡散でもされたら俺が困る。最悪削除はしなくてもいいけど、俺達以外に見せないでくれ……」
「はーい。じゃあさ、せっかくだし皆で写真撮ろうよ!」
「あ、良いね! せっかくの遊園地だし!」
「うん、いいかも」
「私も撮りた~い! 記念写真がお化け屋敷の心霊写真だけだし!」
分かってくれたのかどうか、一先ず元カレさんに送る事はしないでくれるらしい。
そのまま記念写真の撮影を促すが、まあそれくらいはいいか。
「なら、早く食事を終わらせて手頃な場所探すか」
「「はーい!」」
「はい」
「やったー!」
賛成し、結奈さん達も返事をする。心音も喜んでいるし、これも良い思い出か。
夏休みの遊園地。昼食と共に午前が終わり、午後へと差し掛かった。




