13話 アルバム
「──てな訳で、何とかして心音を成仏させたいって事だ」
「そう言うこと!」
「成る程……」
「本人が望んでいるんだものね……」
心音の姿が分かった後、俺達一家はちょっとした家族会議を開いていた。
内容は心音の成仏について。両親も心音が消えるのはなるべく避けたいようだが、本人の望みという事もあって否定はしなかった。
「今、心音はなんて?」
「今は特に何も話していないかな。取り敢えずその意見には賛成……ってか、心音からの提案だしな」
心音が居ると分かったが、話が出来るのは俺だけ。なので今みたいに母親はちょくちょく心音の今の様子を訊ねてくる。
まあ、何度も思うように亡くなったと思っていた娘が居た訳だからな。それも当然の反応だ。
「しかし、最近遅かったのは心音の友人達と心音を成仏させる為に行動していたからか……」
「まあね。けど、特に手懸かりは何も……心音がたまに気持ちが軽くなるってだけでそれが関わっているかもしれないって感じだな」
概要は大体説明した。
結奈さん達三人や心音の気持ちについて。それを踏まえた上で両親は言葉を続ける。
「よし、分かった。それなら優真の好きにやるといい。現状、それしか方法も無いみたいだからな」
「そうね。話せるのは優真だけだし、心音から直接頼まれたなら遂行してちょうだい」
「ハハ……別に許可とか要らないんだけどな……割と自由にやっていたし……ああそれで、その為にもそのうち旅行的な事もするつもりなんだ。家を空けるけど、二人は大丈夫?」
大学生なので、やるべき事は自分で決められる。しかし心音を亡くしてからあまり時間が立っていないのは事実。なので家を空ける事もあるとだけ話した。
当然、結奈さん達の事は伏せている。心音の存在があるにしても、女子高生三人と旅行ってのは別方面で心配させるかもしれないしな。
「それくらいは問題無い。それが心音の為ならそれが一番だ」
「結奈ちゃん、紗枝ちゃん、喜美子ちゃんにもよろしくね」
「ハハハ……三人と行くってバレてたか……」
流石にそこまで隠し通す事は出来なかったか。親には敵わないな。
しかし特に心配はしていない様子。俺にそんな度胸もないと理解しているのだろう。
それなら話も早く、サクサク進んで家族会議は終わった。
「さて、取り敢えず結奈さん達に両親にも伝え終えたって連絡しておくか。俺の方は大凡の問題が解決した訳だ」
「そうだねぇ。怖いくらい順調~」
「確かにな……一番の難所は両親に話す事だったし……それが終わったなら後は心音のやりたい事をするだけだ」
諸々の説明が終わり、俺は部屋で寝転がりながらグループに連絡だけした。
しがらみというかなんというか、これで本当に自由な行動が出来る。自由と言っても別方向でのハメは外せないが、行動はしやすくなったのは事実だ。
「お、返信来た……」
「あ、じゃあ今日もみんなとお話ししよー!」
「ハハ……分かったよ」
心音の事を知る存在が増えた事への返信が来、心音が背後からすり抜けて話す。
最近は心音の意思を伝える事も多い。まあ、友人達三人と、ある意味での会話が出来る行為だしな。
何はともあれ、両親に心音の事を伝える夏の日の一日が終わった。
*****
「あ、お兄さーん!」
「こっちこっちー!」
「遅いですよ」
「遅いって……約束の5分前だぞ……」
──翌日、また遊ぶ約束をし、俺は結奈さん、紗枝さん、喜美子さんの三人と会った。
傍から見たら俺もリアルに充実している側に見られるかもしれないけど、奥手の性格が変わらないから意外と心情じゃそんな感じじゃないんだよな。嬉しいし、楽しいは楽しいんだけど。それ以前の問題だ。
俺もやれやれ系主人公みたいな事を考えられる立場になったんだなと染々思う。そう言った存在と違うのは、モテないとか女子と話すのが苦手とか何とか言いながら滅茶苦茶話せるフィクションのキャラと、流暢に話せない俺だな。
「今日はどこ行く~?」
「どこにしますか?」
「それって俺が決める事なのか……? 心音と遊びに行った回数なら君達の方が多いと思うけど」
着くや否や、紗枝さんと結奈さんが順に訊ねた。
何故か俺に訊ねる。今さっき俺が言ったように心音が行きそうな場所なら結奈さん達の方が詳しいと思うんだけどな。
「何言ってんの。ここちーのお兄ちゃんなんだから私達より付き合いは長いでしょー!」
「そうですよ。昨日は私達が決めましたし、今日はお兄さんの番です!」
「意義なし」
「そうだよお兄ちゃん!」
「……っ」
心音本人も加勢し、俺に行く場所を委ねる。
確かに純粋な付き合いなら俺の方が長いのはそうだけど……家族だし。
けど、だからと言って俺が全部決めるのか。
「思い出の場所……意外と無いな……家族旅行で行った遊園地とかか?」
「じゃ、そこに行きましょう!」
「レッツゴー!」
「行きましょうか」
「行こ行こー!」
呟くような声音で話したが、耳が良いのか俺の言葉にそれ程注目……注聴? していたのか大きく反応を示し、俺の腕を引いて進んだ。
傍から見たら俺も十分モテモテなんだろうな……目的はあくまで心音の成仏だけど。
「まあ、遊園地も候補にあったし……別に良いか。どうせ俺の奢りなんだけど……んで、遠いから車で行くか? それとも速いから電車?」
「うーん、電車じゃ静かにしなきゃならないですからね。車の方が皆とお話も出来るますし、車で行きましょうか」
「飲食も自由だもんねぇ」
「私は少し酔いそう……けど車で良い」
「私も車が良い! 車の中ならお兄ちゃんとも話せるからね!」
行き方は満場一致で車。まあ、電車より遅いだけで飲食とか会話とか、やれる事は多い。
運転する側の俺からしたら匂いとかが付くのは思うところもあるけど、今の時代は消臭剤は多いから無問題。
車移動は妥当なところだな。車外まで届くような大声で話されたら通行人とかに迷惑かもしれないけど、高い女性の声は外には出にくい。たまに道行く車から聞こえる重低音がその証拠だ。重低音しか漏れていないからな。
何はともあれ、事は決まった。俺達は車に乗る為、また俺の家に向かう……って今日は家に──
「「お邪魔しまーす!」」
「お邪魔します」
「あら、貴女達が心音の友人ね。今は優真と仲良くしているらしいわね」
「はい! お兄さんにはお世話になってます!」
「まるで私達のお兄ちゃんになったみたいでーす!」
「お世話になってます」
「あらあら♪」
「恥ずかしいからやめてくれよ……」
今日は家に母さんが居た。
父さんは主に土日が休みだが、母さんは決められた日数で月の休みを変えている。まあ仕事にも色々だからな。平日が休みで休日が仕事って事もある訳だ。俺の家族構成は誰も興味ないだろうし、関係無いか。
そんなこんなで母さんは今日は休み。大人には夏休みも何もないが、だからこそ休んで貰わなくちゃな。
そしてまあ、女子三人を連れてきた母親の反応はこの通り。俺に彼女が居ないのは知っているし、心音と同様あわよくば誰かを彼女にとでも考えているかもしれない……やっぱり親子って似るんだな。
「今日は車を取りに来ただけなんだ。話はまた別日に……」
「あ、そうだ。優真と心音のアルバム見てみる?」
「「見たーい!」」
「気になります」
「母さん!?」
「お母さん!?」
事を説明したが、軽くスルーされた。そして今から行われようとしている暴挙に俺のみならず心音もツッコミを入れた。
そりゃまあ、心音も自分の幼い姿を友人に見られるのは嫌だろう。俺も嫌だ。しかも俺の場合は心音と違って三人と話してから一ヶ月も経ってない。色々と過程を端折り過ぎだ。
「流石にそれは恥ずかしいからやめてくれ!」
「私の死後に広めないで!」
「ほら心音もそう言ってる!」
「本当に心音の声が聞けるのね。じゃ、皆で見ましょうか」
「「はーい!」」
「はい」
「「話聞いてた!?」」
俺と心音がハモる。やっぱり俺達も兄妹だな。聞こえている声は俺のだけだろうけど、総意だから問題は無い。
しかしその訴えも虚しく、結奈さん達は母さんの案内の元家に上がり、俺と心音のアルバムが開かれた。
「それでね、これが遊園地に行った時の写真。それでこれが……そしてこれは……」
「わー、全部可愛い!」
「小っちゃいねぇ」
「お兄さんと心音ちゃん……可愛い……」
「「……っ」」
可愛いと褒められているのか揶揄われているのか、複雑な心境だ。基本的に霊体でも明るい心音も「うーむ……」と言った表情。心なしかモヤモヤが頭上に見える。多分心音から見た俺も。
何故あの姿を見られなければならないのか……。割と下らない写真もあるからな……何なら失態的な事をした写真も残っている筈……。子供が失態をしても親にとっては可愛いものなのだろうか……まあ、失態の限度にも寄るんだろうけど。
「お兄ちゃん……四人を止めてぇ~」
「無理だろ……すっかり盛り上がっちゃってるし……」
「うー……」
「けど、これも心音がまだ居る事が分かっているからの行動だ……少しずつ進展しているよ」
「それはそうだけどさぁ……」
俺と心音のアルバム。考えれば母親の精神的事情が安定してきたから見せられるというもの。そうじゃなきゃ思い出がツラいものになるからな。
ツラい思い出を娘の友人には見せないだろう。娘との思い出を明かせるのは良い傾向だ。
「あ、入学式の写真もあったわね……この時はまだ小さくて……」
「けど、ここちーの面影ありますね……」
「アハハ……またここちーのお兄ちゃんと一緒の写真だね……」
「基本的に笑顔ですけど……お兄さんと居ない写真は笑顔が消えてますね……」
だが、心音が亡くなったままなのは変わらない。アルバムを見るという事は、その思い出が流れるという事だからだ。
母さんを含め、四人は少し、しんみりし始めていた。
思い出を振り替えるのは葬式でもやった事。スライドショーのような映像が流れたからな。心音本人が見えていない四人にとって、心音の生前の思い出の写真というのはツラいものもあるだろう。
「ここちー……本当にお兄さんが大好きだったんですね」
「だからなのかな? ここちーのお兄ちゃんだけがここちーを見れるの」
「確かにそれなら分かるかもしれませんね。一番好きな人にだけ見れる……幽霊というのは意思の集合体みたいなものですし、生き霊というものが居たり、特定の人には見れるのかもしれません……」
「なんだよ……」
「お兄ちゃんは大好きだけど……ユナっち達に面と向かって言われると照れるなぁ」
「面と向かっては無いだろ……」
結奈さん達が俺をじっと見、隣で心音が照れる。
俺が†起爆剤†的な立ち位置になったって事か? とは言っても、見えるだけで何も出来ないしな……。
「心音ちゃんは見える理由が何か分かっていますか?」
「どうだろうねぇ。お兄ちゃんが大好きなのはそうだけど、お兄ちゃんに見えた理由は分からないかなぁ」
「多分分かっていないみたいだ」
「成る程……」
「ちょっとー! ちゃんと大好きって事も教えてよー!」
「……それと、俺の事は確かに嫌いじゃないみたいだな」
「その様子……嫌いじゃないどころじゃなく、お兄さんが本当に好きだったみたいですね」
「……。ノーコメント」
「流っ石きみこん! 分かってるぅ!」
相変わらず感性が鋭い喜美子さん。俺の言動から心音が言った言葉をかなり近い位置で言い当てた。
けどまあ、真偽は俺が言わない限り不明。なので置いておこう。
何にせよ、また少し心音の秘密に近付いたかもな。
「これでおしまい。アナタ達はまた出掛けるんでしょ?」
「はい! 今のアルバムにも写っていた遊園地に!」
「ここちーの為だからね!」
「そんなところです」
「ふふ、あらあら。気を付けてね」
そして数十分後、アルバムを見終わる。
結果的にあまり時間は取らなかったな。集まったのが午前9時頃だし、待ち合わせ場所の移動を含めても一時間くらいしか経っていない。まだまだ遊ぶ時間はある。あくまで近場の遊園地だからそんなに時間も掛からないしな。
俺達四人と心音は車に乗り込み、結奈さん達が手を伸ばした。
「じゃ、遊園地にゴー!」
「レッツゴー!」
「ゴー」
「しゅっぱーつ!」
「毎回掛け声を上げるのか?」
母さんが手を振り、車が発車した。
思い出巡りの一歩。俺達は遊園地へと向かった。




