12話 報告
「じゃあね~。ここちー! お兄さーん!」
「二人ともまた明日ー!」
「それでは」
──その後、映画を見、テキトーに食事などを摂って最後にゲームセンターで〆た俺達は別れた。
時間は午後7時頃。てか、また明日って、明日も遊ぶつもりなのか。俺は暇だけど、果たして受験生の結奈さん達がそんなんでいいのだろうか。
「はあ……久々に疲れる一日だったよ」
「お疲れ様、お兄ちゃん」
結奈さん達と別れた俺は車を走らせる。家まで送った方が良かったか? いやでも家族に俺の事を説明するのもなんだしな。
そして今の状況。心音も普通に車に乗っている。今更だけど、慣性の法則は幽霊にも適応されているんだな。
「てか、幽霊を隣に乗せて車を運転しているって、使い古された怖い話みたいだな」
「女性を乗せたら後部座席が濡れて女性が消えたってやつ? あったよねぇ。そんな話。私は違うけど、水属性の幽霊も居るのかな?」
「属性って……ゲームかよ。……まあ、死に方次第なんじゃないか? ああ言うのは。雨の日に通り魔に殺されたとか、水で溺死したら幽霊になった時水を纏うとか」
「でも事故死した私は特に変わってないよねぇ。まあ、全身を強く打っての死亡だから表面上の傷は殆ど無かったけど。もしももっと酷い感じで死んじゃってたら、顔半分が潰れた状態とか上半身と下半身が切り離された状態とか、身体中が変な方向に曲がった状態でお兄ちゃんの前に現れていたかもね!」
「気味の悪い事言うなよ。いや、まあ幽霊自体がその対象ではあるけど……もしそうなっていたら今みたいな性格でも拒絶していたかもな。単純に気持ち悪いし」
「それなら悲しくて悪霊になっちゃうかも。あ、それか意外と慣れるかもよ?」
「慣れるか」
幽霊ジョークをかまし、車は進む。
最近は減ってきた心霊番組とかによく出ている自称霊能者曰く、幽霊は基本的に救いを求めているらしいけど死に方で見た目が変わったら大変そうだな。
地縛霊とか一定の範囲を移動出来なかったり通りすがる人に縋るのも分かるよ。
……。考えてみたら、幽霊の設定ってますますファンタジーやゲーム、フィクション世界の話だな。近くに本物の幽霊が居ると心霊番組の事を考察したくなる。おそらくそれは俺にしか分からない感覚だろう。
「取り敢えず、今日の成果は心音の心が少し軽くなったのと、その姿を第三者にも見るのが出来るようになった事。結奈さん達との関係はこのままなら問題無さそうだし、次は父さんと母さんだな」
「大丈夫かな? ユナっち達は見ての通りの性格だからすんなりいったけど、お父さんとお母さんは少し難しいかも」
「結奈さん達の場合は既に心音が居る事も教えていたからな……どう転んでも大変な事になりそうだ」
心音の姿を見る事が出来るようになった今、次は両親に心音霊の事を教える頃合いかもしれない。
しかし前提のあった結奈さん達に比べたらかなり厄介そうなのが問題。改めて問題ばかり抱えているな、俺。
証拠の提示は出来るからその辺を上手く活用したいところだな。
「本当に、何で俺にだけ心音が見えるんだろうな。別に嫌って程じゃないけど」
「私は嬉しいな~。本当に、本当に嬉しいよ。お兄ちゃんに見えて」
「幽霊になってから基本的に機嫌は良いよな。心音。最初以外は変なテンションだったりヒステリックになってないし」
「最初の事は言わないで。あの時は本当に寂しかったし……多分悪霊の一歩手前だったんじゃないかな?」
「それを明るく話せるなら大丈夫だ」
相変わらず明るい心音だが、どこか影のある面持ち。まあ、幽霊だから影は無いんだけど。冷気越しに姿を確認出来たけど。影と冷気に移った心音は別なのか、その辺の境界線も曖昧だな。
何にせよ、無理に励ますのも逆効果。心音の言葉に耳は貸しつつ、なるべく軽い態度で返す。
俺は変わらず、自宅までの夜道で車を走らせた。
*****
「ただいま」
「ただいまー!」
「お帰り、優真」
そして数分後、俺達は帰宅した。
父さんも帰って来ているな。今日は仕事が終わるのが早かったらしい。
悪い事じゃない。早く帰って来て身体を休めるのは良い事だ。
しかしながら、いざそうなると色々と思うところもある。心音の事についてな。
心音の事を話すつもりなのは変わらないが、どうやって切り出すか。
「優真。今日夕飯は?」
「うん、食べるよ」
「そ、分かったわ」
訊ねられ、返す。出掛けた時は外で済ませ、家で食べない事も多いから気になるのだろう。
今回は食べざるを得ない。心音の事を明かす訳だからな。一家団欒の機会を狙うのは当然だ。……何か言い方が悪役みたいだな。
とにかく、俺は夕食を摂る為にその場所へと向かった。
「「「…………」」」
そして食事の時間、前よりは精神的な傷も癒えたのか会話は行われるようになったが、比較的静かな食事が始まる。
この重苦しい雰囲気も嫌だから外で済ませる機会が多いのかもなと改めて思った。
まあ、帰宅時間はピンきりだし一家全員で食事をする機会の方が少ないけどな。
「それで、お兄ちゃん。いつ頃話すの~?」
「…………」
「もういっその事私と話しちゃっても良いんじゃなーい? 疑われた所でババーン! って明かしてさ!」
そう言う訳にもいかないだろうに。俺の行動力が無いと言われたらそうなんだけどな。最近みたいに動き回るのは慣れていないや。
夕飯時、心音は基本的に食卓の上をフワフワ浮かびながら話している。
俺が食事時は会話をしないのも理解しているが、やはり寂しさもあって言葉を発したいのだろう。
けどまあ、実際に話さなくちゃ何も始まらない。そろそろ食事も終わるし、そろそろ覚悟を決めるか。そろそろな。そろそろ……。
「……」
「……」
「……」
うん、やっぱ無理。
不仲家族って訳じゃないし、心音が居ないのに両親も多少は慣れたが、それでも続くこの静寂。中々切り出せない。
証拠はある。証明も出来る。しかし勇気が足りない。
結奈さん達と違って毎日会う家族だからまた後日にするか? いや、ただでさえ色々な問題を抱えているんだ。今やれる問題を一つでも解決した方が前進出来る……のだが、やっぱ難しい。結奈さん達に近付く為の勇気は出したし、今はもういいんじゃないか? そもそもまた冷気越しに心音の姿が見える保証も無いし……。けど行動しなくちゃだよな……。…………やるか。
「…………」
「お、ついにやるんだね! お兄ちゃん!」
俺は覚悟を決め、席を立ち、キッチンの方へ向かった。それを見た心音は嬉しそうに話す。
食事中だがこれくらいの行動は割とある。なので特に指摘もされず、冷蔵庫の前へと到着。まずは今も写るかどうかだからな。静かに冷凍庫を開け、ポケットに忍ばせていたスマホを起動。冷気が消えないうちに撮影を開始した。
それを見て意図を察した心音はそこへと向かう。夜だから光の加減も少ないけど上手くいくかどうか。リアルタイムで撮影しなくちゃ信じられないだろうし大変だな。
「こんなもんか」
「撮れた~?」
「まあな」
冷気が出ている時間だけの撮影を終えた。
小さな独り言くらいなら届かない距離だし、心音の言葉にも簡単には返す。
さて、後はどのタイミングで切り出すかだな。撮影した動画を確認し、ちゃんと心音の姿があるのを理解して取り敢えずテーブルに戻る。
「「「…………」」」
そして、相変わらずの無言の食事。
この中で話を切り出すってかなりの拷問だぞ……。
何度も思うように決して不仲じゃない。話くらいは聞いてくれるだろう。
「……ねえ、父さん。母さん。言いたい事があるんだけど……良いかな?」
「「…………?」」
訊ね、両親は食事の手を止めて小首を傾げる。
話し掛けたなら間を置く事は出来ない。そこから更に言葉を続けた。
「さっき撮影したんだけど、この動画……見てくれないかな?」
「一体……?」
「なんだ?」
口で説明するのは難しい。なので俺はスマホを差し出し、両親に直接見せた。当然、さっき撮った事も告げて。
両親は少し乗り出し、俺はその動画を再生した。
「ほら、ここの部分。分かる?」
「……人影……?」
「いや、これは……心音……!?」
結奈さん達が分かったように、心音の顔ははっきりではないにせよ心音である範囲内で見える。
なので心音の顔をよく見ていた両親もその顔を確認する事が出来た。
「これは……優真が作ったのか? 一体何の為に?」
「心音の映像が少ないからとか……? 確かに高校生になってから撮ってないけど……こんなもので心音の……」
「いや、違うんだ」
まあ、こうなるよな。信じて貰える訳が無い。
このままじゃ誤解を生むし、即刻言葉を続けよう。
「実はそれ、本物の心音なんだ。本当にさっき……台所で撮った動画。何なら心音も俺の隣に居る」
「やっほー!」
「「…………!」」
心音が手を振るが、気付く事はない。
唐突に告げられた俺の言葉で驚きを隠せない様子の二人へ更に続けた。
「言っておくけど、別に俺が精神病を患ったりしている訳じゃないよ。冷静だし、精神病かどうかの検査があっても異常無し判定される自信がある」
「あ、ああ。その回りくどい言い回しからしてそうだろうな」
俺の性格は、親が一番理解している。つまり俺は家族の前でもこんな風。無駄に論理的っぽく話しているのだ。
別に何も分かっておらず、基本的に自分自身の保守の為に行っている話し方だが、だからこそ親は慣れている。
と言っても友人達の前ではそんな風に話していない。そんな風に話したら鬱陶しいから距離を置かれるのは分かりきっているからな。
ともかく、俺が正気であるという事は分かってくれたようだ。
「だが、待て。正直言ってお前が何を言っているのかは分からない。心音が居る? 亡くなった筈の心音がか?」
「お母さんもちょっと分からないわ……優真。貴方は何を言っているの?」
正気なのは分かってくれたが、俺が何を言っているのかは分からない様子。
“分からない”と言っても、俺の話している日本語とそれが意味する言葉の意味は理解している。それとはまた別の方向で“分からない”という事だろう。
当たり前と言えば当たり前。心音が見える俺ですら心音が目の前に現れた事が“分からなかった”からな。
「またもう一つの証拠を見せるよ」
「ん? あ、ピース!」
「「……?」」
それだけ言い、隣に居る心音の写真を撮った。
ハッとした心音も笑顔を向け、そのカメラに写る。
「ほら、これ。心霊写真」
「「……!?」」
写真を見、二人は絶句した。
まあ当然だ。ちゃんと背景と分離出来るように少し引き離し、空間を広く使っての撮影。これで靄だとしてもちゃんと心音の存在が確認出来るだろう。
少し間を置き、母親の方が先に言葉を発した。
「それって、そう言うアプリを使っているんじゃないの? 今時そんな事は簡単な事だし……」
「ああ。流石に父さんでもそれくらいは分かるぞ。そもそも心音は既に亡くなっているんだ。居る訳が無い」
これもまた当然の反応。
実際にそれっぽく撮影する事は出来る。両親もそれくらいは分かっている。その部分に対する説明は考えているさ。
「そうじゃないよ。本当に居るんだ。冷気とか……多分水蒸気とか越しでも分かると思う」
「「……」」
何の要因で心音の姿が見えるのかを話すが、信じられる訳が無い様子。
だが、そこは俺の両親。息子の言葉を一つも信じずに攻め立てるような事はしなかった。
「もしそれが本当にそうなら……今も心音に会う事が出来るのか?」
「どうなの? 優真」
信じられない様子だが完全否定はせず、自分達の思い浮かべる希望を話す。
自分の娘だ。亡くなった後にでも会えるならそれで良いのだろう。
「会える……ってのは少し違うかな。姿が分かるだけで話す事は出来ないんだ……俺以外。ちなみに心音の事は心音の友達も三人は知っているよ」
「話す事は出来ないのね」
「そして信じた人が居るのか……」
「私も話したいよ~」
話す事が出来ないのには二人ともショックを受けているが、俺の話を聞いた上で信じた人が三人居る事も理解してくれた。
俺一人が主張しても危ういからな。信じさせる為に結奈さん達の事を教えておく必要もあるだろう。
「……取り敢えず、心音の顔、改めて見てみる? 冷気はさっき使ったばかりだから……今度は実験も兼ねて風呂場の湯気で確かめてみよう」
「そ、そうだな。嘘か本当か、やっぱり精神的な問題なのか、改めて確かめよう」
「そうね……その場で見る事は出来ないみたいだけど……会いたいわ」
夏場だと湯気も立ちにくいけど、換気扇を付けなければ多分大丈夫。今のところは録画後しか姿が分からないけど、それでもリアルタイムで理解して貰うのが重要だ。
一先ず夕食を終え、俺達家族は心音も含めて風呂場へと向かった。
「……よし、録画完了……。見るよ」
「「…………」」
「ドキドキだねぇ。いつもこの瞬間はドキドキする~」
そして撮影を終える。俺の言葉に両親は無言で頷いた。
心音も両親に自分の姿を見て貰える可能性があるのでドキドキしているようだ。
“いつも”というその言葉が示すように、心音はいつも他人に見て貰える機会を祈っているみたいだな。
両親の確認を終え、俺はそのまま保存した動画を開いた。
「──心音……!?」
「笑顔で……手を……振ってるわね……」
「少し動きを付けたのか」
「まあね~。その方が信憑性が増すでしょ?」
「ハハ、そうみたいだな」
その動画に映っていたのは、笑顔を浮かべながら手を振る心音。
言葉が届かないのならば身振り手振りで心情を伝える。確かに正しい行いだな。
「……本当、なんだな。アプリのような物を使っていないのも確認した……動画に手も加えていない……」
「お風呂場の湯気で……確かに優真の隣に人影もあるわね……」
「ああ、そうだよ」
「イエーイ!」
涙は流さないが感極まった様子の父親と、ホロリと涙を流す母親。
亡くなった娘の、動いている姿を見れたんだ。その気持ちも分かる。ホームビデオによる思い出などではなく、現時点の心音。その感覚は計り知れないだろう。
改めて、俺による両親への心音の紹介。結奈さん達に引き続き、それは一先ず成功だな。




