11話 夏休みの予定
「さて、これで心音の姿が見れた訳だけど……どうする?」
「どうするって言われましても……」
心音の姿を確認した俺達は、今一度クーラーの効いたリビングにて各々の飲み物を飲みながら話していた。
心音の姿を他の三人も確認する事が出来た。それはかなりの快挙である。
しかし、それとは別に根本的な解決について悩んでいるのだ。
「後は当初の目的通り心音と思い出巡りの旅になるけど……心当たりってどれくらいあるんだ?」
「うーん……学校は思い出の場所ではありますけど、お兄さんが入ったら通報案件ですもんね」
「文化祭とかならまだしも、今は特にイベントも無いからねぇ。夏期講習か部活くらい」
「事後報告的な感じで後から伝える……くらいしかありませんね」
まず候補に上がったのは心音達の通う学校だが、部外者の俺が入れる機会は限られている訳で、最低でもあと1~2ヶ月後じゃなければ捕まってしまう。
今の段階で行ける範囲が良さそうだな。
「考えられる線はよく行っていたショッピングモールとか、前にも行ったカラオケ店とか飲食店とか?」
「ウチらの金銭的事情もあるからねぇ」
「そう考えると、私達の移動範囲って結構狭いね」
パッと思い付くのはよくあるお店。
実際、全員が何の予定も無い長期休暇や卒業旅行とかでもなければ遠出する機会はそうそう無いだろう。
それならそこに行けば良いかもしれないが、言ってしまえば特別なものではない。それが少し問題かもしれないと言うのが俺の持論。
今までの心音の心が軽くなった傾向は、結奈さん達三人に気付いて貰えた時や丘にある思い出の場所に行った時なので、ある程度の“特別感”は必要になる事だろう。
だからこそ普通の場所じゃ駄目な気もする。逆に普通が良い可能性もあるが、そうなるとどうなのか。
「県外に行ったのが修学旅行くらいだから仕方無い事だよねぇ」
「じゃあ、やっぱりショッピングモールとかその辺から切り込んでいく?」
「うーん……今までの心音ちゃんの事を考えると、普通の場所じゃ駄目な気がするんだよね……」
「あ、やっぱり喜美子さんもそう考えているのか」
「お兄さんもですか? そうなんですよ。どうにもしっくり来なくて」
どうやら俺達の中で一番考察力が高い喜美子さんも同じ事を考えていたようだ。
それならやっぱりそうかもしれないな。俺の持論だけじゃ心許なかったけど、喜美子さんがそう思うなら当たっている可能性は高い。
「お兄さんときみこんが言うなら本当にそうかもしれませんね……」
「けどそうなるとやっぱり学校くらいしか……あ、何ならウチらの夏休み使って新しい思い出作ってみる? 大人の人ならここちーのお兄ちゃんが居るし!」
「あ、それいいかも!」
「遠出は中々出来ないけど、それなら行けるかな?」
「いや、ちょっと待てよ……」
考え抜いた提案は、俺が三人を引き連れて遠出するという事。
確かに大学の夏休みは結構長いし、俺も割と余裕がある。
しかし問題はそれ以前の事だ。女子高生三人と男子大学生一人……男子って年齢か? まあ、女性は女子大生って言うし良いか。……ともかく、その絵面は色々とヤバイだろう。犯罪臭がプンプンする。
「そうなると君達の両親に話さなきゃならないし、そもそも絵面がだな……」
「その辺は友達の家に数日間泊まるとかで乗り切れるよ!」
「中学までと違って、高校辺りからの友達は両親も把握していないからねぇ。私とサエちんの親は割と緩いし」
「私の所はそこそこ厳しいですけど、勉強合宿と告げて定期的に連絡アプリで勉強風景を送れば誤魔化せると思います」
成人男性一人に女子高生三人という絵面になる事には言及せず、親に秘密で出掛ける方法はあるとの事。
この調子だとまたナアナアで済まされて行くハメになってしまう。
心音が亡くなってから何週間かは過ぎたからある程度落ち着いているし、出掛けるくらいの余裕は出ているだろう。
しかし、俺が問題だ。前述したように、いや、もはや何度も前述しよう。年齢と性別がかなりとても大きく問題なのである。
「いや、だから君達と俺の年の差を考えてくれ……年齢自体はそんなに離れていないけど、日本の法律的にアウトな事が多いんだよ」
「えー? その辺は本当に付き合わなかったり、不純行為に及ばなければ大丈夫なんじゃないの?」
「そうかもしれないが、俺の心情を理解してくれ」
ぶっちゃけて言うと、日本の法律は世間一般レベルにしか知らない。なのでどこまでがアウトでどこまでがセーフなのかは正直曖昧だ。
だが、ここは感情論を優先したい。俺の気持ちの問題だ。
「臆病者ー! ここちーはもっと大胆に行動するよー!」
「それはそうだけど……てか、心音にも似たような事言われたな……」
紗枝さんに言われ、肩を竦ませる。女子高生に言われる大学生って……。
実際、心音も俺にそんなこと言っていたし、傍から見たらウジウジした情けない奴って感じなんだろうな。
そんな俺を見、結奈さんが思い付いたように話した。
「あ、もし警察の人に目を付けられたら──“私達、付き合っているんじゃなくて、このお兄さんがお金を払ってくれるから一緒に居るんです”とか言えば良いんじゃないですか?」
「それってもっと大きな問題になってるぞ!?」
完全に援助的なアレである。
流石にそれを言うのはやめて欲しい。現状的に事実だとしても、捕まりたくない。特に何もしていないし、本当に奢っているだけだからな……それも問題か。
「ユナっち達と旅行かぁ~。良いなぁ。私も行きたい! それを考えただけで気持ちが少しフワフワしているかも!」
「え、マジか……心音。そう言ってもな……俺の事情もあるし……」
少しばかり浮き足が立っている様子の心音。浮き足自体は文字通り立っているが、それもまた成仏候補の可能性になりうるようだ。
思い出はあるが、思い出の場所は少ない。それならば思い出を新たに作る。理には適っているな。幽霊自体が理から外れた存在な気もするけど。
そんな俺の独り言にも等しい呟きを聞き、結奈さん、紗枝さん、喜美子さんの三人がグイッと顔を近寄せた。
「ここちーが何か言ったんですか?」
「ここちーのお兄ちゃん?」
「その反応……さしずめ心音ちゃんも旅行に行きたがったってところですか?」
「いや、ちょ……」
女子高生三人が至近距離に居る。この状況にも緊張するが、今は何よりその圧が凄かった。
俺は一旦両手を上げ、言葉を続ける。
「確かにそう言っているんだけど……」
「じゃあ行きましょうよ!」
「ここで行かなきゃここちーのお兄ちゃんじゃないよ!」
「心音ちゃんの為です!」
「……っ」
更に迫り、三人の感触が服の上から訪れる。
その状況に酔いしれている暇はなく、俺は押し倒されるような形でカーペットに転げ落ちた。
心音の為。確かにそれはそうだ。けど、踏ん切りが付かない。
「「「「お兄さん!」」」」
「わ、分かった! 行く行く! 旅行に行くよ! と言うか、連れて行く感じだけど……」
「「「「流石お兄さん」」」」
心音も加わった四人に気圧され、覚悟を決めた。
ただ旅行に行くだけ。ただそれだけ。何も変な事はない。そもそも俺に間違いを犯すつもりはない。
三人が陰謀を企てて俺をハメようとしている可能性もあるかもしれないと脳裏を過ったが、それは無さそうだと、前とさっきの涙を思い出して掻き消す。
何はともあれ、今年の夏休みは生まれてこの方、最大級のイベントになりそうだ。
*****
「あ、これ可愛い」
「これ欲しかったんだー!」
「参考書……」
──それから俺達は改めて車を出し、都内ではあるが少し遠出をした。
今居るのはそれなりの大きさを誇るショッピングモール。まあ、よくある建物だ。
女子高生三人。品を物色する結奈さんに欲しかった物を手に入れる紗枝さん。そして受験生らしく参考書を購入する喜美子さん。
改めて、喜美子さんだけ他の二人と違う感じがするな。けど気は合っていて何かと二人が喜美子さんに訊ねている光景も窺えられた。
当然二人同士の仲も良く、三人全員が楽しそうにしている。俺は店近くのベンチに座って缶コーヒーを片手に寛いでいるけど、不思議な感覚だな。
「いいなー。私も参加したかったよ」
「仕方無いさ。心音は触れないし聞こえないからな」
「あ、お兄ちゃん今度は返してくれた」
「場所が場所だからな。駅前と違って、賑やかではあるけど道行く人から見て目立ったり、休憩スペースに居る人は結構静か。今みたいに近くに誰も居ない時じゃなきゃ話せないよ」
「だから暇に拍車が掛かっているんだよねぇ」
ショッピングモールは、意外と独り言が目立つ。理由は述べた通り。
結構静かな人達も多いからな。友達や恋人、家族と一緒じゃなきゃ当たり前だ。むしろ独り言を話していた方が恐怖対象だ。
多くはスルーされるにしても、悪い印象を与えるのはあまり良くない。
「お兄さん。これどうですか?」
「これ良くない?」
「お兄さん、大学生ならそのうち勉強教えて下さい」
「いいよ。似合ってる。やっぱり勉強にはそのアクセサリーが合うな」
「話が混合してますよ」
「テキトーに流さないで~!」
「ボーッとしていますね。心音ちゃんと話していましたか?」
購入した物を俺に見せてくれる。心音と話していたのもあって途中聞いていなかったが、バレたか。
けど、こんな風に女子と買い物に行く機会なんてな。数日前までの俺からは想像も付かない事だったよ。
ぶっちゃけこの三人との接点なんて友人の兄という事くらい。滅茶苦茶拒否されると思っていたからな。貴重な体験だよ。本当に。
「悪いな。喜美子さんの言うように心音と話していた。けど心音のせいじゃない。俺の不注意が原因だ」
「そう言えば、此処に来てからここちーと話していませんでしたもんね。やっぱり見えるなら見えるで結構気を使うんですか?」
「そんなところだな。今みたいに結奈さん達と話すならいいけど、人通りがある場所で心音と独り言みたいに話すのは周りの目があるからな」
「ここちーのお兄ちゃんって結構周りの目気にしているもんね。ウチらとあまり行動したがらないのはそれが理由だし」
「ハハハ……返す言葉もない」
確かに少し人目を気にし過ぎているかもな。
俺が自意識過剰なのかどうか。考えてみたら街中で女子に囲まれた男を見ても別に何とも思わないしな。羨ましいとかは思うかもしれないけど。
「次は映画見よう!」
「良いね。お兄さんも行きましょう!」
「どうですか? お兄さん」
「別に構わないけど……何見るんだ?」
「それは行ってから考えるよ!」
「紗枝さんも大概テキトーだな……」
買い物の次は映画。何だこの充実した一日は。俺は本当に今日が命日になるのか?
水着イベントは数時間前の俺を見た本人達の意向もあって体験出来なかったが、本当にこんな事しても良いのだろうか。
「お兄ちゃんモテモテだねぇ~」
「揶揄うなよ。心音」
「またここちーと話してるね。揶揄うって事は……」
「どうですか? きみこん先生」
「今の状況から推測して、私達三人と一緒に行動する事に対しての意見が出たんだろうね」
「成る程! 確かに傍から見たお兄さんはハーレムですもんね!」
「大声で言うなよ……それに、ハーレムって言うのは全員が好意を抱いてなきゃ成り立たないし……てか、女子高生とこんな会話してる時点で色々誤解を生みそうだな……」
三人は割と大胆。発言などが。
実際、女子会とかも割と下ネタが飛び交うって言うし、付き合っていない男女が下ネタで話すのも仲良しならあり得る。
女子三人で無敵! って感じだから結構大胆な行動をしているんだろうな。
ナニとは言わないけど、クラスメイトがアイツと勢いで~とか、電車内で男女の間で行われる行為の略称を話している人も居た。何て乱れているんだ、この世の中は。
「取り敢えずさっさと映画に行くか……映画館なら暗いからあまり目立たずに済みそうだし」
「暗いからってエッチなイタズラとかしないでよね、ここちーのお兄ちゃん♪」
「そんな度胸があったら今頃俺と君達の関係は崩れていたよ」
「お兄さんなら安心出来ますもんね。どこまでも奥手ですし」
「ハハハ……」
返す言葉もない。part2。
危険な人物じゃないって思われているのは良いんだけど、あまり嬉しい評価ではない。俺とは本当に仲良し兄妹みたいな感覚で過ごしているんだろうな、この三人。
何にせよ、心音を成仏させる行動。本番はこれからだな。




