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魔神登場

魔神。

 それは人間の力をはるかに凌駕する存在。

 冒険者が相対するモンスターの中では別格な存在だ。

 ありとあらゆる高度な魔法を使いこなし、物理攻撃の破壊力は、蹴りやパンチで巨大な岩を粉砕すると言われている。


「はははっ……。約束どおり来たぞ。王子はどこじゃ!」

 女魔神が現れた。

 それは身長は130cm。

 小学生低学年のこじんまりとした女の子であった。

 かわいいフリル付きの黒いエプロンドレスに黒いエナメル靴。

 魔神らしく、口元に2つの八重歯が見える。しっぽも生えている。

 手に持っている小さな杖は、魔法少女の玩具のようにも見える。


「お前が魔神か?」

 現れた魔神に勇者シズカを始め、紅の堕天使の仲間や新たに加わったジゼルもあっけにとられている。

 とても凶悪で王子の命を狙っているとは思えない。

「そうじゃ。我こそは、リィ・デカルト・オートゲン・マグノリア・アスモデウスなるぞ。人間どもよ、図が高い!」

 えへんと丸めた両手を腰にあてて、胸を張る女魔神リイ。

 シズカはテクテクと歩みを進め、右手の手刀でリイの脳天にチョップをかました。

「痛、何をするのじゃ!」

「お子様はおとなしく魔界に帰ってママのおっぱいでも飲んでろ!」

 そうシズカは馬鹿らしくなって、そう吐き捨てた。


 納得のいかないのはリイ。一応、魔神の体には自動防御シールドが常時稼働しており、人間の物理攻撃は全く受け付けないはずなのだ。

「この人間ごときが、我を愚弄するか!」

「愚弄も何も、お子様と戦う気にならんぞ。もっと強い、悪逆非道な魔神が出てくると思ったら、幼女とはな。お姉さんはがっかりだ!」

「何を……もう我慢できないのじゃ。出でよ、ケルベロス。魔界の門をくぐりて、この無礼な人間の女を八つ裂きにするのじゃ!」


 女の子魔神リィがそう叫び、右手を差し出すと黒い波動が巻き起こり、巨大な球となってやがて消えた。そして現れたのは3つ首の犬の魔獣であった。

「わああああっ!」

「きゃああああっ!」

 兵士も国王も驚いて腰を抜かす。シズカの仲間もこんな魔獣を見たことがない。立ちすくんで動けない。かろうじてジゼルだけが、弓に矢をつがえて攻撃態勢に入る。


「ぐうあああああああっ……」

 ケルベロスは人間の気力を奪う恐ろしいうなり声を上げた。それは空気を激しく動かし、前面にいるものを吹き飛ばす。

「なんだ、ただの犬じゃないか!」

 そんなすさまじい突風の中を涼しい顔で進むシズカ。ケルベロスの下まで来ると、その巨大な前足をおもいっきり踏みつけた。

「ぎゃううううううっ……」

 あまりの痛さに苦痛の叫びをあげるケルベロス。だが、気を取り直して口を開けてシズカにかみつこうとする。

 だが、シズカはその鼻ずらに向かって裏拳をぶちかます。驚いたことにブルドーザーくらいある巨体が簡単に転がった。

 しかもその一撃で戦意喪失。転がったまま、足をぴくぴくと痙攣させて動かなくなった。


「う、うそじゃ……。魔界の門を守る番犬が人間ごときに。ならば、こいつを召喚する!」

 リィは何かぶつぶつと呪文を唱えると、白い煙があがり、今度は青い体をした巨人が現れた。青銅のゴーレムである。

「さあ、青銅のゴーレムよ。この人間の女を踏みつぶすのじゃ!」

 リィは勝ち誇ったようにそう命令する。だが、それも終わった。

 シズカが兵士から奪った鉄製のメイスで足を薙ぎ払ったのだ。青銅のゴーレムの足が吹き飛んだ。さらに倒れたゴーレムにまるで餅つきのようにシズカがぶったたく。

 3分もしないうちに青銅のスクラップが山のようになった。


「あ、ありえない、ありえないのじゃ!」

「さあ、今度はお前のお仕置きだ!」

 リィに向かってつかつかと歩いて近づくシズカ。もうリィはビビッて、足を震わせ、しかも明らかにちびってしまっている。魔神なのに情けない。

「悪い子はおしり叩きの刑だ!」

 リイを膝にのせて、腹ばいにし、スカートをめくるとバチバチと尻を叩き始めた。

「わああああん……」

 魔神もこの攻撃に抗う術はない。


「どうして、この国の王子を狙う。お前みたいなチンチクリンには、20年早い!」

「ち、違うのじゃ。そもそもあいつが悪いのじゃ、あやつが我の……」

「王子の方が悪い?」

 そこまで聞いてシズカはお尻を叩くのを止めた。よくよく考えれば、王子とこの小さな魔神。比べてみると、女に節操のない王子が全面的に正義とは思えない。例え、相手が魔神でもだ。


「詳しく言ってみ……」

 そうシズカが聞くとリィは涙ながらに話し始めた。

「実は……」

 話は2週間前になる。リィは人間に化けてこの都に入り込んだ。狙いは世界征服ではなく、ただ単に町で評判のお菓子を食べるためにだ。

「お菓子?」

 シズカは聞き返した。悪の権化の魔神からお菓子という言葉が意外だったが、リィはどう見ても小学校低学年児童である。お菓子が食べたい年頃だ。


「都で評判のリンゴ飴なるものを食べようと思ったのじゃ。そうしたら、そこのアホ王子が我に絡んできたのじゃ!」

「絡んできた?」

 ジト~っとシズカは王子を見る。この男は全く見境がない。

「いやいや、ちょっと、待ってよ。シズカちゃん。いくらなんでもそんな小さな女の子は、ターゲット外ですよ。彼女は大人に化けていたのですよ」


 そうエドワード王子が説明する。そして嘘ではないと写真を見せてくれた。どう見ても盗撮したであろう大人バージョンのリィの写真。ナイスバディのパッツン娘がおへそを出した露出高めの衣装で映っていた。

「お前、大人に化けることもできるのか?」

「で、できるのじゃ。我は魔神じゃ。化ける魔法は得意じゃ」

「それで?」

 シズカは話を促す。

「その男がしつこく言い寄ってきて、我はうっとうしくなったのじゃが、お忍びで町に潜入した身。それに目的が目的じゃったから、この男の言いなりになったのじゃ」

「言いなり?」

 また、ジト~っとシズカはエドワードを見る。


「で、デートをしただけですよ!」

 エドワードはそう答える。

「デ、デートとはよく言ったものじゃ。その馬鹿王子、我に突然、キ、キスをして来たのじゃ!」

「それは犯罪だな」

「いきなりやられたから、我は驚いて変身が解けてしまったのじゃ」

正体を現したリィは空を飛んで逃げた。エドワードはいつものとおり、ナンパした娘にやっていることをしただけだ。


ところが、魔神にとってこれは重大なことであった。

魔神には初めてのキスをしてしまった相手は殺すか、自分の伴侶にしなくてはいけないという掟があったからだ。

「我はこのような貧弱な人間の嫁にはなりとうない。よって、その馬鹿王子を殺すのじゃ」

「……分かった。理解した。全部、この馬鹿王子が悪いんじゃないか!」

 シズカは振り向きざまにエドワード王子を殴る。横回転を3回して王子は鼻血を出しながら、床に転げる。

「我に代わって殺してくれたのか?」

「いや、そこまではしていない。これはお仕置きだ。どうだろう、これで手打ちということにはできないか?」

 そうシズカはリィに聞いた。

「できないのじゃ。掟は掟なのじゃ」

「掟は分かるが、そもそも、その掟はだれが作ったのだ。あまりにもばかげているではないか」

「作ったのはお兄様じゃ」

「お兄様?」

「そうじゃ。お兄様は偉大な魔王様なのじゃ」

 そうリィは言うと両手を腰に当てて、偉そうに胸を張った。

「じゃあ、その魔王様とやらに会わせてくれ。あたいが説得する」

「魔王様は魔界の偉大なる王だぞ。貴様のような人間の女に会うはずがなかろう」


 リィはそう言ったが、すぐに撤回することになる。シズカがリィのほっぺたを指でつまみ、持ち上げたからだ。


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