チャラ男王子
「勇者様、よくぞいらしてくださいました」
城に到着したシズカたちは、実にスムーズに国王に謁見することができた。しかも、初見のシズカに対してかなりへりくだっている。
「王子が魔神に襲われていると聞いたが?」
シズカはきょろきょろと辺りを見回す。正面には国王。両サイドの護衛の兵士以外はいない。
「これはすまなかった。王子は間もなくやってくるはずだが……」
国王がそう言うと通路から何やら話しながらことらへやってくる2人組がいる。一人は金髪長身のイケメン。白基調のジェストコート。胸には赤いバラを差したいかにも王子だという姿だ。もう一人は小柄な女性。とがった耳に美形で華奢な姿である。
「あの女は人間か……随分と容姿が違うようだが」
シズカのつぶやきに女魔法使いのローリーが答える。
「あれはエルフですよ。珍しいですが、この世界に住んでいる人間の仲間です」
「ふ~ん」
シズカはそう言ってもう一度、王子とエルフとやらを見る。
「ねえ……ジゼルちゃん、いいだろう。デートしようよ。ちょっとだけでいいからさ」
「エドワード様、今はそのなことをしている時ではないと思うのだが」
どうやら王子はこの美形エルフに言い寄っている途中らしい。
(王子とか言っても品のないチャラ男じゃないか……)
シズカがもっとも嫌いなのはこういう軟弱なチャラ男。自分で自分を守れない男と言う時点で嫌いだが、そのくせに女に言い寄るなんて許せない部類の生物扱いである。
「エドワード、お前を守ってくださる勇者様がいらしたぞ」
そう国王は王子に声をかけた。王子が美形エルフからシズカに視線を向ける。
「おお……これは勇者様。美しい女性たちではないですか」
瞬間移動したかのようにエドワード王子はシズカの前に立ち、その手を取った。
(おいおい……どんなけ早いんだ)
驚くシズカの前に跪き、そして手の甲にキスをした。
「ひ、ひえええっ……」
背中に冷たいものが走ってシズカは思わずのけぞった。生まれてこの方、こんなことをされたことはない。
「勇者……今回は女か?」
ジゼルと呼ばれていた女エルフもシズカの前に立った。シズカは気を取り直してこのエルフを見る。
背中にはショートボウ。身動きしやすいクロスアーマーに身を包んだ冒険者風の出で立ちからすると、この女エルフは冒険者だと思われる。
「私はジゼル・ハートレイヤー。レンジャーをしている」
「シズカ……だ。この世界にやってきて3日も経っていない。いろいろ分からないことだらけだ」
「……勇者は異世界からやってくるケースは、珍しくはない」
「そうなのか?」
シズカはジゼルが自分のようにこの世界に転移してきた人物を知っているように思え、興味をもった。もしかしたら、元の世界へ帰る方法を知っているかもしれない。
「あんた、あたいみたいな異世界からやって来た人間を他にも知っているのか?」
「私は勇者ウォッチャーでもある。これまで数多くの勇者様を見て来た」
「じゃあ、その中で元の世界へ帰った奴はいるのか?」
「……私が知っている限り、そういう人はいない」
ジゼルにそう言われてシズカは落胆した。どうやら、元の世界へ帰ることは容易ではないようだ。
「元の世界へ帰った勇者様は知らない。けど、勇者様はこの世界で役割を与えられている。それをこなせば何か起こると思う」
「役割ねえ……」
シズカには分からない。ここへ来るときに何か頼まれたわけでもない。
「シズカちゃんて言うの……いいねえ。この世界にはいないタイプだよね」
考え込んでいるシズカに馴れ馴れしく肩を抱き寄せ、当然のように顔を近づけて話してくる王子。シズカは無言で殴った。
「どひゃああああっ……」
鼻血を飛び散らせて床に転がる王子。国王は尻を浮かせ、護衛の兵士たちは思わず剣に手をかけた。
「鬱陶しい。少し黙れ」
王子に向かって浴びせるシズカの罵声。ただの罵声ではない。シズカに対して敵意をもつ対象の士気を一気に半減させ、攻撃力を下げる効果がある。
「シズカ……いくら鬱陶しくても王子は殴ってはいけない」
ジゼルはそう言ってハンカチを出してエドワード王子を介抱する。シズカに殴られたエドワードはなぜか、介抱するジゼルにではなく殴ったシズカを見つめて目をウルウルとさせている。
「王子、いかがなされたのですか?」
「いい……」
「はあ?」
「いい……僕の理想の嫁様だ」
「はあ……あの……勇者様のことですか?」
ジゼルは耳を疑った。どうやら、エドワード王子はシズカのきつい一発で頭がおかしくなってしまったとしか思えない。
「やっと見つけた。僕の理想の人……僕のシズカ」
王子はシズカの前に跪き、そしてまたもや右手を取る。
「誰が僕のシズカだ!」
右手は鞭のように撓り、王子の左ほおを打つ。三度、体は半回転して王子は地面に転がる。王族に対しての無礼な態度であるが、国王の周りの護衛の兵士はピクリとも動かない。
シズカの実力を知っていることと、王子が女性に対して毎度こんな態度なので、たまにはお仕置きだとでも考えているのだろう。
「勇者様、ご無礼をお許しください。このような不肖の息子ではありますが、これでも私の子供。魔神に命を狙われているのを親としては何としてでも助けたいのです」
そう国王が懇願した。シズカは乗り気にはならなかったが、仮にも王様が自分の頭を下げているのだ。悪い気はしない。
「しゃあねえな。頼まれては断れねえ性格なんだ。その依頼、受けてやるよ」
シズカはそう胸を張った。
仲間になったメンバーは、倒すべき敵が魔神であることで、かなりビビっていたが、シズカのこの恐れを知らぬ態度に何だか安心感が芽生え始めていた。
「シズカ……私もあなたのパーティに加わっていいか?」
そうジゼルはシズカに聞いた。シズカの答えは決まっている。
「来るもの拒まず」
それがシズカ率いる紅堕天使の掟なのだ。




