仲間を集めよう
静香は冒険者ギルドに来ている。
魔王を倒すためには、冒険者にならないといけないらしいと聞いて、やってきたのだ。一応、装備は武器屋で整えている。金属の鎧は重いので、動きやすい革製の胸当てだけを元の特攻服に着けている。武器は鉄でできたこん棒。メイスと言うらしい。先端は丸く金属のとげがあるので、殴られたら絶対に死ぬ危ない武器だ。
「で、あたいは何をすればいいんだ?」
受付でそうシズカは聞いた。混んでいる冒険者ギルドではあったが、終始、丁寧に扱わているのでシズカは不機嫌にはならなかった。
ギルドも能力を測る鏡で破格の数値を出した異世界からの勇者に、細心のおもてなしをしていたのだ。
「はい。まずは仲間を集めて、パーティを作ります。そしてギルドが紹介するクエストに臨んでもらいます」
そう受付嬢がシズカに説明する。
(仲間か……)
ここへ来る前も気の合った仲間とつるんで活動していた。でも、改めて考えるとどうやって仲間を集めたのかよく分からない。
何となく仲間が集まり、何となくチームになった。まるで呼吸をするかのようにだ。
「やめてください」
不意に女性の声がした。シズカが顔をそちらへ向けると、ローブに身を包んだ若い女性が男たちに囲まれている。
「そんなこと言うなよ、嬢ちゃん」
「俺たちがパーティに入れてやろうと言ってるんだ」
「初心者はベテランパーティで修業をするのが一番だ。君も最初から死にたくはないだろう」
「俺たちが何から何まで手ほどきしてやるよ……」
言葉だけ聞くと何だか親切そうだが、囲んでいる男たちの表情からは親切というものは感じられず、どう見ても女の子を連れ去って売り飛ばしそうな悪人顔だ。
「おい、やめろよ!」
シズカはいつもの調子で割って入った。こういう場面は元の世界でも何度も見て来たから、ごく自然な介入だ。
「何だよ、姉ちゃんも入りたいのか」
「姉ちゃんもよく見たら、可愛いじゃないか。喜んで入れてやるよ」
男たちはシズカの介入に驚いたが、シズカの容姿を見て顔が崩れた。その顔を見てシズカの背中に冷たいものが流れて行く。
「入らないよ。汗臭い奴らと行動するなんてまっぴらだ」
シズカはタンカを切った。その生意気な様子に男の冒険者たちはプライドを傷つけられたようで、シズカに向かって怒鳴り始めた。
「おい、表へ出ろ!」
「俺たちを馬鹿にするとどうなるか、思い知らせてやる!」
「いいだろう。お前たちこそ、女を馬鹿にするとどうなるか教えてやる!」
売り言葉に買い言葉である。ギルド内での争いはご法度なので、外に出る。
「おい、姉ちゃん。今、謝れば許してやらなくはないぞ」
「そうだな。服を脱いで裸踊りでもすれば許してやるぜ」
男たちは全部で4人。全員が屈強な体をもつ戦士だ。対するシズカは一人。助けた女の子は心配そうにシズカの後ろで震えている。
「お前らこそ、裸になって土下座すれば許してやる」
シズカのビビらない生意気さに男たちはキレた。それでも4人で一斉に飛び掛かるのはさすがに卑怯だと感じたのか、まずは4人の中では一番立場が下と思われる男が前に出た。
シズカは笑みを浮かべて右手を差し出し、手のひらを上に向けて5本の指をクイクイと動かした。挑発行為である。人間の動きはどんな世界でも同じイメージをもつもので、この行動がひどく争う相手の心理を逆なですることになった。
「うりゃああああっ!」
男が殴りかかる。シズカは冷静にそれを受け流す。受け流すと同時に左ひざを男の腹に突き刺す。男はその場で崩れ落ちる。
「貴様!」
「よくもやったな!」
一人が無様に一撃でやられて、男たちは激高した。冒険者は強さで自分の価値を位置付けている。女一人にやられたという噂になったら、これから受ける仕事に影響が出る。
「ふん。女一人に3人がかりか……クズだな!」
シズカは慌てない。さすがに男3人を相手にするのは無謀な行為である。しかし、今のシズカは負ける気がしない。
「吹き飛べ!」
そう叫んで右こぶしを前方へ突き出した。
なぜ、そんなセリフを叫んだのかも分からない。しかし、右こぶしは3人の男たちに触れることなく、そこから生み出した圧だけで3人の男を10mも突き飛ばした。
転がった男たちは、ショックと全身打撲で意識朦朧となる。この争いを見ていた人々は、この圧倒的な力にみんな拍手喝さいである。
「すごい」
「無敵じゃないか!」
「拳が当たらなくても男たちを飛ばしたぞ」
シズカはみんなに賞賛されて、うれしくなった。右手を軽く上げて、その声援に答える。
「いやあ……大したことじゃない」
「す、すばらしいです。お姉さま!」
「お、お姉さま?」
先ほど、シズカが助けた女の子が両手を握ってシズカの前に駆け寄った。
「助けてくださってありがとうございます」
「まあ、気にするな」
「私はローリーと言います。魔法使いです。まだ初心者なんです。今日は魔法学院を卒業して、就職活動に来たのですが、冒険者は仲間を集めるものだと聞いて、どうやって集めればよいのか途方にくれていたところをあの人たちに絡まれて……あの、どうか、私をお姉さまのパーティに入れてください」
「あたいのパーティ?」
シズカは驚いた。ローリーはこれまで自分の周りにいなかったタイプの女の子だ。年は15歳と言う。年の割には幼く見える。
(こいつ、これで冒険者とやらになれるのか?)
そうシズカは思ったが、彼女自身、仲間を探していたから、自分の仲間になりたいというのなら大歓迎である。
「いいだろう。我がチーム、紅の堕天使に入れてやるよ」
そうシズカは許可した。『紅の堕天使』とは、シズカがかつて組織していた女ばかりの走り屋チームと同じ名前だ。
「わ、わたくしもシズカ様のパーティに入れてくださいませ」
「アカリも入れてください」
「わたしもお願いします」
けんかの様子を見ていた女冒険者が、シズカの強さに魅せられてそう申し出て来た。女戦士のラルウ、女僧侶のミロク、女盗賊のアカリ。そして女魔法使いのローリーである。
「いいぜ。みんなあたいの仲間にしてやるよ!」
そうシズカは申し出を受けた。どうやって仲間を集めるか悩んでいたが、心配することはなかった。10分もしないうちに4人も集まってしまった。
「さて、これからどうしようか」
仲間が集まったら、クエストというギルドが斡旋する仕事ができる。どんな仕事があるか、仲間たちと掲示板を眺めていると、先ほどの受付嬢が恐る恐るシズカに話しかけて来た。
「あの……シズカ様」
「な、何だ。さっきの親切な人」
「ギルド長がシズカ様に特別なクエストをご紹介するようにと呼んでいまして」
「特別なクエスト?」
「はい。特別な依頼なので一般の冒険者には紹介していません。それだけに人を選びます。内容は難しいですが、報酬は相当なものです」
「聞こうか?」
特別と言われてちょっと嬉しくなってしまったシズカ。仲間たちを引きつれて、ギルド長のところへ行く。
「クエストは大変難しいものだ。王宮に3日後に現れる魔神退治だ」
そうギルド長はシズカにそう告げた。それを聞いたシズカの仲間たちは恐怖で顔を引きつらせた。『魔神』とはスーパーS級のモンスターである。
人間をはるかに超える力をもち、魔法も使って来る強敵である。当然ながら、それを退治するには人間もスーパーS級でないと無理だ。
魔神は王宮に突如現れ、王子を要求しているという。
「王子?」
「現れたのは女魔神で、どうやら美系の王子を自分のペットにしたいらしい」
「男をペット……悪趣味な魔神だな」
シズカはそう吐き捨てた。どうやら、その女魔神というのはシズカの勘に触る存在らしい。
「いいぜ。その美形王子とやらを助けようじゃないか」
シズカはそう仕事を受けることにした。最初は魔神退治と聞いて恐れ慄いていた仲間たちも、シズカのその事も無げな態度と国中の女性の憧れの美形王子に会えるとあってシズカについて行くことにしたのであった。




