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魔剣勇者よ、永遠なれ

隣で倒れていた老勇者の手がぴくりと動き、そして無意識のうちにタナカの体を障った。そしてばっくりと開いたタナカの腹から見えたものに触った。

(うっ……)

 タナカの意識が別のところへ飛んだ。頭のもやがはれてくると視界に血まみれの白い子犬が倒れている。


(おお……俺……人間になっているって……おい、ボケじいさんになっているじゃないか?)

 タナカはいつの間にか老勇者になっていた。手には見覚えのある短刀を持っている。その短刀には銘が刻まれていた。

『早太郎』

 老勇者は立ち上がった。短刀を手にした途端、ケガは回復し体力も元に戻った。なにより、背筋が伸びて若々しくなっている。


「マサカ……ハヤタロウニシラレタ……」

「ハヤタロウ……」

「ハヤタロウガキター!」

 3匹の怪物はそんなタナカを見て驚愕しているのか、一歩も動けないでいる。短刀に備わるスペシャルパワーなのであろう。魔力結界は吹き飛び、怪物たちは魔法攻撃が一切できない。

「うおおおおおおおおっ……」


 タナカは怪物たちに襲い掛かった。

 ジゼルは見た。あの老勇者が3匹の怪物たちを一方的に殺したことを。短剣の効果は異常であった。かすっただけで肉は千切れ、体は吹き飛ぶ。突き刺せば爆発と共に体を損傷させる。短剣をもった老勇者の動きはあまりのも早く、反撃する隙すらない。


 やがて日が昇った。

 村人たちが見たのは巨大な3匹の大猿の怪物。そして、冷たくなった犬と老人の遺体。そして助けられた娘2人とエルフの少女の姿であった。


 ジゼルは3匹の怪物を倒した後、崩れるようにして倒れた老勇者に駆け寄った。老勇者はジゼルに微笑んだ。

「こ……これで……40年前の仇を取ることができた……ありが……とう……」

 右手から短刀がぽとりと落ちた。ジゼルはそれに触れようとしたが、思いとどまった。

(これは……魔剣の類……)

 長い人生の中で、触れると精神を支配されてしまうという魔剣があるという。あの怪物が恐れていたのはこの魔剣『早太郎』であったのだ。


 一方、老勇者の手から落ちて自分を取り戻したタナカ。やっと自分の正体がわかった。自分は魔剣になったのだ。触れたものの精神を支配し、触れている時だけその者になることが

できるという魔剣だ。


(おい、神、なんで俺が魔剣なんだよ。動けないじゃないか)

 そう悪態をつく。考えようによっては触れたものになれるというのは悪くないのだが、触れている間と言う縛りがある。

(まあ、いいや。とりあえず、このきれいなエルフの体を乗っ取ってと……)

 タナカはジゼルに触れられるのを待ったが、賢明なジゼルは触れなかった。カバンから精神防御ができる鑑定用の手袋を取り出すとタナカを布でぐるぐる巻きにした。

(おいおい、エルフの姉ちゃん……俺をどうするんだよ)

 何も見えなくなったタナカはジゼルの背負い袋へ入れられた。

 怪物は退治されて生贄の娘たちの命は救われた。村もこのおぞましいしきたりから解放されて平和が戻った。あの老勇者は英雄として祀られた。この老人の身元は40年前に娘が生贄にされて、悲しみのあまりに村から失踪した男であったことが判明した。


娘の仇を取るために冒険者になり、あの怪物を倒すための手がかりを40年以上も探していたのだ。自分の名前を『ハヤタ・ロー』と変えたのも、あの怪物が恐れる名前だと知ってのことだったようだ。

 ジゼルはこの事件の本当の功労者は魔剣であることを理解している。だが、老勇者の行動は賞賛に値するし、人々から勇者と称えられる資格はあると思っている。


「さて、お前の処分だけど……」

 ジゼルは背負い袋からタナカを取り出した。久々に明るい光にさらされたタナカ。少々、気分は不機嫌である。


(おいおい、エルフの姉ちゃん。怪物退治の真の功労者、勇者タナカ様に対して失礼だろうが。ずっと袋に入れっぱなしで。それに魔力なる手袋で俺の意識の介入を遮断するし)

そう愚痴をたれるのだが、タナカの声はジゼルには届かない。


(なんでもいいから、その美しい体を支配させてくれよ。手袋取って一触り。それでその体は俺のもの……あれ?)

 タナカは自分がカウンターに置かれていることに気が付いた。カウンターをはさんで中年の男がタナカのことをじっくりと見ている。


「これは所有者の精神を奪う呪いの武器の類ですが、精神防御できるアイテムと一緒に使えば、防ぐことができます。そのようなハンディはありますが、ビースト系のモンスターには効果が絶大です」


(ちょっと、なんの話だよ)

「なるほど……確かにこの魔力はすごい。まさにビーストバスターですな」

(お、俺がビーストマスター……いやいや、俺は勇者だって!)


 武器屋の親父は買うかどうか思案している。超レアな武器だが扱いは要注意である。売るとなるとかなりの高値が付くことは予想ができた。

「私は剣は使わない。だから、高値で売るつもりはない」

(おーい、ジゼルちゃん、それはないよ)


 そうジゼルは話した。お金には固執してない。この魔剣がちゃんとした取り扱いをされることを願って武器屋へ持ち込んだのだ。


「そういうことなら、5000Gでどうでしょうか。売ればその3倍は付くでしょうが、誰にでも売るわけにはいかないですからね」

(うあああ、せめて高く買ってくれ~)

「そこのところはよろしく。親父さんを信用しているので」


 どうやら交渉は成立したようだ。タナカは5000Gで武器屋の売られてしまった。後にタナカを買ったのは、各国を放浪する自由騎士の男。無論、武器屋から精神を支配されると聞いていたため、防護なしに不用意に触れることはなかったので、タナカはずっと魔剣のままであった。


残念な勇者 魔剣勇者 精神が剣に宿った勇者。触れた者の体を乗っ取ることができる。その力は絶大だが精神防御されると、ただの武器となる。 


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