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ポチ、撃沈

ジゼルはミランダの町に来ている。そして1か月もの間、『ハヤタロウ』という名前の人間を捜した。それこそしらみつぶしに捜した。

 しかし、手がかりは全くない。そもそも、『ハヤタロウ』というのが人の名前であることも怪しい。『ハヤタロウ』という名前が、この世界の人間にはあまりなじまない名前であったからだ。

 だが、それだからこそ、ジゼルはそれが異世界から来た勇者かもしれないと思っていた。これまでジゼルが出会ってきた勇者は、『カトウ』とか『サイトウ』とか、およそ、この世界には似つかわしくない名前が多かったからだ。


 今日も1日、町中を捜し歩いたジゼルは、最後の立ち入り先に寺院を選んだ。寺院は巡礼で人も多く集まるし、そこにいる神官たちは様々な人間と出会っている。

「ハヤタロウさんですか……はて、聞いたことありませんね」

「そうですね。そんな珍しい名前なら聞いたことがあれば覚えているものですわ」

 女神官たちは美しいエルフにそう答えた。そして、この麗人がなぜそんな奇妙な名前の人物を捜しているのかを尋ねた。

「生贄ですか……」

「恐ろしい……」

 ジゼルから話を聞いた女神官たちは、そう言って身を震わせた。上級冒険者が殺されてしまったくらい強大な怪物なのである。恐ろしいに違いない。


 タナカもこの話を聞いていた。そして驚いた。エルフという人種を見たのも初めてであって、その美形に思わず見とれてしまったが、その美少女が捜している人物が『ハヤタロウ』だというのだ。

(それ俺じゃん……。俺に違いないじゃん)

 タナカは迷った。なぜ、自分がこの異世界に生まれ変わったのかを。それはこの事態を予想した神様が自分をこの世界に転生させたのではないかということである。

(それでなければ、俺が犬に生まれ変わる理由がない)

 だが、その大猿と戦うということだ。それは怖い。だから、迷った。この美しいエルフと一緒にその怪物退治をするかどうかだ。それに生贄にされるという娘のことも気になった。あの自分の幼馴染に似た娘。神が自分に見せてくれたから、今回の村長の娘であろう。


 タナカは目を閉じ、そして決心した。これは自分の存在意義を知らしめる時だと言うこと。自分かこのために犬に身をやつしているということをだ。

「ワンワン!」


 タナカはそうアピールした。エルフの少女はそんなタナカを見る。

「この犬は?」

「この子はフェンリルの子供ですわ」

「フェンリル?」

 ジゼルの目に輝きが宿った。何か動き出す気配を感じた目だ。

「その犬の名は?」

 女神官は声を合わせてこう答えた。


「ポチ」

 がっかりしたようなエルフの表情。

 タナカもがっかりした。そういえば、自分の名前はポチだった。いくらアピールしても自分を連れて行くとは思わないだろう。

「世話になった」

 エルフの少女はそう神官たちに礼を言うと神殿を後にする。

「ち、ちょっと、待てよ。ハヤタロウは俺だって、俺しかその怪物を退治できないって!」

 そうタナカは大声で叫ぶ。しかし、神殿内に響く音は「ワンワン」であった。


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