ジゼル、ミランダへ
当然ながら、村に逃げ帰ったオリバーは、村人たちから猛烈に責められる。大猿の魔物は田畑を荒らし、収穫物を全てダメにしてしまった。そして、来年は二人の生贄を要求したのだ。
「オリバーは村長の資格はない」
「村長は解任だ」
「来年の生贄は村長のところの姉妹を差し出すべし!」
オリバーの屋敷に押し掛けた村人は、そう要求を突き付けた。オリバーには今回生贄になるはずであった16歳の娘ナル-シャと10歳の妹のサーシャがいたのだ。
「ああ……どうすればいいのだ」
オリバーは頭を抱えた。今回のことで姉のナルーシャは命を長らえたものの、来年の生贄になるから1年後には死ぬしかない。そしてまだ幼い妹までもが生贄にされるのだ。
それを認めなければ、この場で焼き討ちをしかねない気負いであったため、その要求を呑むしかなかった。
「村長……あの魔物は強い。正直、今回のメンバーで倒せなかったのなら、もう無理かもしれない……だが……」
ジゼルはそう言葉を止めた。ここからは憶測になる。だが、それはかすかな希望でもあった。
「あの魔物は結界で守られていた。結界さえなければ、冒険者の勝ちだった。あの結界をなんとかしなくてはいけない」
「ど、どうすればよいのですか?」
藁にもすがる思いのオリバーは、ジゼルの言葉に希望を見出そうとしていた。ジゼルは昨晩の戦闘を思い出す。魔物たちは棺を前に奇妙な踊りを踊っていた。
「あの時、奴らは『贄の肉を喰らう時、ミランダのハヤタロウには知られるな』と歌っていた」
「……た、確かにそんなことが聞こえてきた」
「ミランダは大陸の北にある宗教都市。ここから移動して3か月はかかる場所……」
「3か月……往復で半年。次の贄の儀式までまだ1年ある」
「私はミランダの町でハヤタロウという人物を捜す。少なくとも奴らが恐れている理由が分かると言うもの」
「お、お願いします……ジゼル様」
オリバーはそう懇願した。一応、今回の顛末を冒険者ギルドにも報告し、ギルドの情報網も活用するつもりだ。
ジゼルは1年以内に戻ってくることを約束し、ミランダ町へと旅立った。仲間の敵討ちと、この忌まわしい風習を止めさせること。2人の娘の命を救うことだ。
(ハヤタロウ……新しい勇者と出会えるかもしれない)
勇者ウォッチャーを自任しているジゼルには何か予感らしきものを感じていた。




