呪われた村
その村は呪われていた。
もう50年も前からある残酷な風習を義務付けられていたのだ。
それは生贄の儀式。
1年に1回。収穫祭の前に村の外れにある岩山にある神殿に娘を一人、人身御供に差し出すと言う奇習があるのだ。
娘は棺桶に入れられ、様々な食べ物と一緒に供物として岩山の祠にある神殿に置かれる。翌日行くと、娘は消えている。そして残されたおびただしい血と骨を見れば、娘がどうなったのかは分かる。
おそらく、人食いの怪物の仕業だと思われる。娘を差し出すのを止めると、田畑は一夜で荒らされ、多くの村人が取って食われる、1年に1人だけ犠牲にすればそういうことにならない。
それで村では50年間もこの残酷な風習を続けていたのだ。娘は収穫祭の7日前に選ばれる。それは恐らく生贄を欲する怪物が放ったと思われる一本の矢。家の屋根に白い鳥の羽で作った矢が刺さっていた家の娘である。選ばれた家の娘は嘆き悲しむが拒否はできない。それは村の掟なのだ。
だが、この年は違った。白羽の矢が立ったのは村長の娘であった。村長なのだから、村の掟に最も忠実に従わなければならない。だが、現在の村長のオリバーには、子どもの頃に姉が選ばれて生贄となったという記憶があったのだ。
3つ下のオリバーをとてもかわいがってくれた姉であった。その姉も悲しみながらも気丈に棺桶に入り、あの岩山へと登って帰らぬ人となった。
そんな悲しみを心の奥底に隠し、父の後を継いでオリバーは村長となった。そして、毎年白羽の立った家の娘を岩山へと運んだ。翌日の惨状も見た。明らかに食われたと思われる状況に心が痛んだ。自分の姉も同じ目に合わされたと思うと心が張り裂けそうであった。
そして今年。自分の2人の娘のうち、姉の方が生贄に選ばれてしまった。オリバーの心に姉の記憶が蘇った。そして、彼は掟を破る決心をしたのだ。
オリバーは町に出て冒険者ギルドに助けを求めた。金貨100枚の報酬で冒険者を雇ったのだ。
冒険者ギルドはオリバーから聞いたこのクエストを第1級のクエストに認定した。状況からして、生贄を襲ったものはかなりの強い怪物だと判断したのだ。
「50年も若い娘を喰らってきた奴だろ。普通の化け物じゃないね」
「神様を語っているという話からすると悪魔や魔神の類だろうなあ」
「強力な魔法と魔法の武器による攻撃が不可欠だ」
話を聞いた猛者たちがこのクエストに乗った。オーガを一人で組み伏せて殺したオーガーキラーの異名をもつ重戦士。魔神との魔法合戦に勝ち、地獄へ叩き返したという経験をもつ老練のソーサラー。100体以上ものアンデッドを一瞬のうちに浄化してしまう法力の持ち主である大神官。これまで辺境の地で暴れる強大なモンスターを狩ってきたバーバリアン。竜殺しの異名をもつ騎士。
そして世界を放浪し、様々な経験を積んできたエルフのレンジャー。選ばれし6人がこのクエストを引き受けた。
報酬からするとこの程度のクエストに参加するはずがない面々であったが、村に置ける窮状と切々と語るオリバーの訴えに心を動かされたのだ。
「この戦力なら、どんな怪物でも倒せそうだな」
竜殺しの騎士が手にしたランスを馬に括り付けながら、そう他のメンバーにはなしかえた。バーバリアンは巨大な戦斧を背負い、重戦士の武器は巨大なハルバート。大きな怪物も一刀両断しそうな雰囲気だ。
「油断は禁物だぞ。その化け物、デーモンかもしれない」
そう忠告したのは大神官。人を生贄にするなんて、魔神の類の仕業としか思えないから、この予想はあながち間違ってはいないだろう。
「お願いします……冒険者様」
オリバーはそう言って頭を下げた。冒険者たちは依頼主であるオリバーに安心しろと声をかける。ただ一人。エルフの少女だけは辛辣な言葉を投げかけていた。
「村人は冒険者を雇うことを承知しているの?」
「……正直……これまで生贄を差し出した者は納得していないなと思います」
オリバーはそう言いにくそうに答えた。今回の村長の判断を村人たちは支持していない。それはそうだろう。これまで村長は他の家の娘は生贄に差し出していたのだ。自分の家の娘が生贄になった途端に、化け物を退治することを決意するのは納得がいかない。
「普通はそうだろう……」
「し、しかし……私は小さい頃に姉を失っています。もうこれ以上、犠牲者を出したくないと思ったのです。これまで言い出す勇気がなかった……だが、我が娘が犠牲になると分かって行動しなければと思ったのです……」
「……勝手だな」
ジゼルはそう突き放したように言った。ある意味、村人たちの気持ちを代弁していた。無論、年頃の娘を持っている村人たちは、今回の村長の行動を歓迎している者もいた。来年の犠牲者は自分の娘かもしれないのだ。
「まあ、ジゼル。クライアントをそう責めるな」
そう竜殺しの騎士がジゼルを嗜める。冒険者たちも村に来てからの冷たい村人たちの視線にはあまり良い気持ちはしない。ただ、今回、村を長年苦しめてきたモンスターを退治することができれば、きっと感謝に変わるであろう。
「では、作戦を立てよう。棺桶には村長の娘さんの代わりに俺が入る。みんなは隠れて見張っていてくれ。俺が襲われたら、一斉攻撃で反撃だ」
「分かった」
「そうしよう。最大の魔法攻撃で仕留める」
「うがうが……俺、魔モノ倒ス……」
「わたしは隠れて様子をうかがう……」
冒険者たちは自分の役割を確認する。見届け人として村長のオリバーが一緒に同行する。ジゼルは彼の護衛も引き受ける。




