ポチ、好き放題の時間を過ごす
犬である。
完全な犬である。
どこをどう見ても「犬」である。
かつて自分が飼っていた甲斐犬ハナコと同じ容姿がそこにあった。
それはタナカそのものであった。
町で神官たちに捕まってしまったタナカは、運命を受け入れると決めた時から、3日間で自分の置かれた状況を冷静に分析した。
どうやら、自分は人間から犬になってしまったらしい。
但し、姿は犬だがタナカには人間としての記憶があった。かつて日本でシイタケ栽培をしておた記憶だ。29歳の田中早太郎としての記憶だ。
そしてここは異世界。どうやら、かつてタナカが暮らしていた世界とはまったく違う世界のようであった。
タナカが連れて行かれたのは、ミランダという町。ここはミランダ教の神殿の門前町で、人口は5000人を擁する大きな町であった。
「まさか、この俺が犬に生まれ変わるなんて!」
つい女神官たちとじゃれあって犬でもいいかと思ってしまったが、冷静に考えるとやはり、戸惑いは隠せない。それでも2日、3日と暮らしてみると、やっぱりこの犬の生活も悪くないと思い始めた。
人間であった頃のタナカは、仕事にも成功し、経済的には何不自由ない生活を送っていた。だが、人間は物質的なものが満たされてもなんとなく虚しくなるものだ。人間だった頃のタナカには触れ合いと言うものがなかった。特に女性との触れ合い。
シイタケのパック詰め工場に近所のおばちゃんたちがパートでやって来たのだが、彼女と話すことが唯一の触れ合い。若い女性とは29年間、学校以外で話したことはない。
(いや、コンビニで若い女の子の店員に話してもらったことはある)
『いらっしゃいませ』
『ありがとうございました』
笑顔であったから、少しはタナカに好意があると思っていたが、それは幻想であった。彼女は誰にでもそうやって接するからだ。
(勘違いしてしまうやろー)
しかし、神殿での暮らしは違う。
タナカが尻尾を振って近づけば、おっぱいたゆゆんの女神官も神殿にやってきた若い娘もみんなタナカに寄ってくる。
「きゃああ~かわいいわ~」
「この子、お腹をなでなでさせてくれるのよ」
「わあ、白い毛がモコモコ~」
みんなタナカを触ってくる。そうなるとタナカはもいう大興奮状態である。犬になったからだと思うが、嗅覚が発達している。女の子のいい匂いがタナカを興奮させ、暴走させる。
「ああん……いや、この子、おっぱいに顔をうずめて来るよ~」
「いやあ……股間の臭いかいじゃいや~」
暴走するタナカ。セクハラまがいのことをしても、所詮は犬。罰せられることはない。それにタナカがこの神殿に連れてこられたのは、どうやらタナカが普通の犬ではないということ。
神殿を取り仕切る大司教によると、タナカはフェンリルという魔獣の子供らしい。成長すると巨大な犬の化け物になるとのことだが、タナカにはそんな自覚はない。今はどこをどう見ても可愛い子犬の姿でしかないにだから。
この神殿はミランダという戦いの神を祀る神殿。そしてその戦いの神ミランダが従えるのがフェンリルらしい。
今のタナカは神の使いなのだ。神獣様は何をしても許される。毎日、お供え物の美味しい食事をし、可愛い女の子限定でセクハラを楽しむ。まさにやりたい放題の生活を楽しんでいた。
タナカは神殿では『ポチ』と呼ばれていた。神獣フェンリルの子供なのに情けない名前である。




