勇者、奴隷を買う
もう一人の護衛のエルフは変わっている。ハセガワを見て急にこんなことを聞いてきたのだ。
「お前は勇者か?」
ハセガワは戸惑った。自分には無限ともいえる財力はあるが、魔力も剣の技もない。体力や運動神経もごく平均的な力しかない。
だが、ジゼルと名乗ったエルフの少女はハセガワから、無限の財力があることを聞いて頷いた。
「私はお前の護衛をやりたい」
エルフのジゼルも相当の弓の使い手であろうとハセガワは思った。華奢で可憐な姿ではあるが、長寿のエルフは見た目では侮れないのである。
頼もしい護衛を2人獲得したハセガワは、彼らに離れて護衛すること命じて、町を歩いていたのだ。
「久次郎、ジゼル……奴隷市場というところにいきたいのだが」
ハセガワはそう2人に聞いてみた。この町を根城にしていた2人なら、当然知っていると思ったのだ。
「主。奴隷を買うのでござるか?」
「……勇者なら可哀そうな奴隷を救うのはお約束……」
久次郎は少し戸惑っているようだが、ジゼルは肯定的だ。奴隷を買うと言う行為がどこか背徳感があったから、ハセガワは少し勇気づけられた。
(本当はジゼルに軽蔑されたら嫌だと思っていたけど、意外と理解あるじゃん)
ハセガワはそう思うと、久次郎が案内する奴隷市場へと足を運んだ。
奴隷市場は町の中心から外れた寂しい裏通りの奥にあった。人目をはばかるように置かれた倉庫の檻に奴隷たちは押し込められていた。
一見、粗末に扱われているように見える奴隷であるが、その値段は安いわけではない。労働力としてはかなり制限される年寄りの奴隷でも金貨100枚はする。力仕事で役立つだろうという若い男や娼館で働かせられる美人の若い女などは、金貨1000枚以上はする。とても一般庶民では手が出ない値段だ。
「相変わらず……ここは不愉快……」
ジゼルは本当に不快そうな表情を浮かべて、檻には近づこうとしない。久次郎も同様であまり奴隷とは関わりたくないようであった。
しかし、ハセガワは自分の屋敷で働かせる労働力を欲していた。忠実に働いてくれる奴隷はありがたい。それに奴隷たちにとってもハセガワの屋敷で働けるのなら、幸せと言うものだ。
「旦那、どんな奴隷をお探しですかい?」
両手をニギニギとさせながら、これぞ奴隷商人というズル賢そうな小男が近づいてきた。ハセガワの顔を見てにやりと笑う。ハセガワは変な誤解をしたのではないかと、慌てて視線を変えた。ハセガワが目を釘付けにした檻には、獣人の若い女が3人入っていたのだ。
「この3人はお買い得ですよ。帝国に反乱を起こした獣人族の生き残りです。獣人と言ってもあっちの具合は人間と変わらずで……どうでしょう。3人のうち、1人を選ぶというのは」
ハセガワは3人を見る。頭には猫耳。ワーキャット族の娘だと思われる。どの娘も粗末な服を着せられてはいるが、猫耳と尻尾以外は普通の人間と変わらない。ハセガワにしてみれば、コスプレした女の子が売られているという背徳な状況に良心が痛む。
だが、別にハセガワは邪な気持ちで奴隷を買いに来たわけではない。要は屋敷でどんな仕事ができるのかということだ。
「彼女たちに話しかけていいかい?」
「いいですとも」
ハセガワは奴隷商人の許可を得て、檻に近づく。3人の獣人は肩を寄せ合い、おびえた表情をハセガワに向ける。
「君、名前は?」
ハセガワは3人の中でも他の二人を抱き寄せて、毅然とした表情でハセガワをにらむ娘にそう話しかけた。
「ルキ……」
「ふうん。ルキさんね。年はいくつ?」
「18……」
ワーキャット族はほぼ人間と同じ寿命だ。18ということは、結構若いということになる。
「そっちの子は?」
「……この子はロキ、そしてこの子はリキ……わっちの妹たち」
この3人の獣人娘はどうやら3姉妹らしい。ハセガワに問われて2人の妹は涙を流して震えている。どうやら、買われてバラバラになってしまうことを恐れているようだ。
「君たちは何ができる?」
そうハセガワは優しく聞いた。一番上の姉のルキがか細い声でできることを答える。
「掃除に洗濯……料理の下ごしらえはできます。あと、羊の世話に子守り……よ、夜のお勤めは……その……やったことがありません」
「……」
ハセガワは黙った。そこまでは聞いていない。だが、ハセガワは決めたことがある。この獣人3人娘の運命をだ。
「この子たちを買うよ」
「へ?」
奴隷商人は変な声を上げた。そして自分の聞き間違いかと思って確認する。
「この3人のうちどれを買うのですか?」
「3人ともだよ」
「御冗談を……獣人と言っても若い娘ですぜ。1人金貨5千枚はしますよ。3人も買えるわけがない」
「買えるよ。この子たちは今すぐに連れて帰るよ」
「お客さん、本当ですか?」
「ああ、これでいいかい?」
ハセガワは手の平を下に向ける。大量の金貨がそこからあふれ出てくる。奴隷商人は狂喜した。




