勇者、護衛を雇う
「ふふふ……かかったな……。そもそも、貴様のマジックアイテムについては当に承知さ。俺はお前が買い物していた時にあの店にいたのだからな」
「なるほど……」
ハセガワは自分が巧みにあるエリアに足を踏み込ませられたことに気が付いた。通りの壁にマジックキャンセラーの護符が張られた魔法無効空間に誘い込まれていたのだ。
「マジックキャンセラーの護符は4枚セットで金貨100枚はしたと思うけど」
「貴様に勝てるなら、惜しくはなかったさ。魔法の道具だのみのお前はこれで終わりだぜ。さあ、身ぐるみはいでやるぜ。もっている金貨全部出しな!」
暴漢のリーダーは勝ち誇っていた。最初の3人には事情を話さず、わざと咬ませ犬にした。最近、仲間に加わった軽薄なチンピラであったから、ちょうど使い捨ているによかった。残りの5人は、昔からチームを組んでいる仲間だ。
戦闘力もあるし、自分に対する忠誠心も高い。連携も巧みでハセガワに気が付かれることなく、魔法無効空間へと誘うことができた。
「魔法無効空間の効果は3分ほどだけど。そんな短時間で僕を捕まえられるかな?」
ハセガワはにやりと笑ってた。それはこの事態を予想していたと言わんばかりに態度である。暴漢のリーダーは首を横に振った。
(そんなはずはない。こいつのはったりだ。魔法の効果がなければ、こいつは雑魚に過ぎない……こいつにできることは時間稼ぎしかない)
「うっせいぜ。ものども、やっちまえ!」
そうリーダーが叫んだ。だが、その声が響いた瞬間に襲い掛かった4人は一瞬でどっと倒れた。いつの間にかハセガワの前に2人の人物が立っていたのだ。
「遅かったじゃないか。護衛任務はもう始まっているぞ」
ハセガワが声をかけたのは黒い長髪に奇妙な服装をした剣士。剣士と書いたが、その人物が持っている剣は不思議な形をしていた。それは片刃で細く、一般的な剣士が持っているブロードソードとは違っていた。
いうなれば『刀』である。もう一人の人物は小柄だ。金髪の髪が美しく、華奢な体格から女であることは想像がつく。ただ違うのは耳が長いこと。青い瞳で整った顔立ち。典型的なエルフの女である。
そのエルフは短弓を手にして矢をつがえている。彼女の前には額を貫かれて即死している暴漢2名が屍を晒していた。
「すまぬでござる、主よ」
「遅いと言うが、少し遅れて来いと言ったのはハセガワの方……」
黒髪の男とエルフはハセガワの言葉に相反する反応を示した。男は服従。女は少し反抗的ではあるが。
「ど、どういうことだ」
暴漢のリーダーは剣を両手でもって構える。剣先が小刻みに震えているところをみると、もはや恐怖で冷静さを失っていることが分かる。
「魔法が阻害されることは予想していたさ。だから、当然ながら護衛を雇ったのさ。先ほど、冒険者ギルドにもよってね。腕の立つ冒険者に護衛任務を発注したんだ。なあ、東国の剣士、久次郎とエルフのレンジャー、ジゼルよ」
「御意」
「……一応、はいと答えておく」
2人はそう手短に答えると最後に残った暴漢のリーダーに狙いを定める。どう見てもこの2人はプロフェッショナルである。たぶん、狙いは外さないし、油断もしないであろう。
「始末しろ……」
そうハセガワは命じた。どうせ、暴漢たちはこれまで弱いものから搾取してきた許しがたい犯罪者である。治安当局に引き渡したところで死刑は免れまい。
剣の達人である久次郎は無言で切り捨てた。全く迷いのない太刀筋である。
「うん。護衛ご苦労だった」
そうハセガワは2人を労うと金貨を10枚ほど取り出すと久次郎に手渡した。2人はかなりの高額報酬で雇った護衛であったが、特に久次郎には敵を倒すたびにボーナスを支払う契約になっていたのだ。
ハセガワが2人で出会ったのは、冒険者ギルド。つい2時間ほど前である。ハセガワは冒険者ギルドに自分の護衛の依頼を出したのだ。条件は破格。衣食住は保障。報酬は1か月で金貨100枚。但し、腕は確かな者に限る。
すぐに見つかるとは思っていなかったが、偶然にもその張り紙が出された時に適任者がいた。1人は東国から来たという男。名前は久次郎。年齢は35歳と言う。刀という武器を扱う孤高の戦士だ。戦士の割には軽装であるが、細身ながら鍛えられた肉体は、一目見ただけでかなりの腕であることが想像できた。
報酬は破格とはいえ、1人の人間の護衛といった地味な仕事を引き受けるようにはみえなかったが、彼には事情があった。
5年前に妻に死なれた彼は5歳になる娘を育てていた。その娘は難病で高価な薬が必要であった。娘を置いて冒険に出るわけにもいかず、また凄腕とはいっても冒険に出れば生きて帰れる保証はない。ハセガワの護衛の仕事はうってつけなのである。




