勇者、襲われる
(さて、屋敷は手に入れたと……次は屋敷で働く使用人だよな)
ハセガワはそう考えた。この世界にもハローワークのようなものはある。それは冒険者ギルドと同じ形態で一般人に職を紹介するところだ。『労働者ギルド』と呼ばれるところだ。
大抵は冒険者ギルドと併設している。やっていることがよく似ているからだろう。冒険者の中には短期で労働者ギルドが斡旋する仕事をする者もいるくらいだ。
「そうですね……。使用人の応募なら結構、人気がありますから人は集まりますよ」
そう労働者ギルドの受付嬢は丁寧にハセガワに説明してくれた。仕事内容と職種によって、一般的な賃金の相場と雇用契約について教えてくれる。
「一応、使用人を雇う形態は3種類あります」
「3種類?」
「はい。1つは直接雇用です。この場合はギルドに応募してきた方をお客様が直接面接して雇用します。雇用の紹介料をギルドは受け取りますが、責任はそこまでです」
「なるほど。人の能力まで責任はとれないってわけか」
「はい。2つ目はギルドからの派遣という方法。この場合は働きの悪い方、お客様と合わない方はチェンジすることが容易にできます。但し、この場合はギルドに手数料を毎月払うことになります」
「ふむふむ」
「3つ目は奴隷を買うという方法です」
「奴隷?」
ハセガワは衝撃的な言葉に思わず聞き返してしまった。このファンタジーのような異世界では奴隷という身分がある。奴隷とは借金の代わりや罪のよって自由民の権利をはく奪された者のことである。
奴隷は代価を支払ったものに忠誠を誓うよう、魔法で強制されるのだ。これによって、購入したものはただで使える労働力を手に入れることになるが、衣食住は保障しなかければならず、また、虐待して殺してしまった場合は主人が罪に問われることもある。それなりの財力と高い倫理をもつ人間でないと奴隷は扱えないのである。
だが、ハセガワはとんでもないレベルの金持ちだ。財力の勇者なのである。この点では奴隷を扱うにはふさわしい立場だと言える。
「分かりました。料理長や家令、メイド長などのリーダー格は1の方法で集めます。それ以外はとりあえず2の方法で派遣してください。その中で優秀な人は随時、直接雇用とします。3の方法も考えましょう。そういう身分の人を助けたいという気持ちもありますから」
ハセガワはそう答えた。屋敷にはいろんな職種の人間が必要だ。だが、みんな金で雇われている者。それだけではいけないような気がしていた。
(そう……金ではなく心からの忠誠を誓う人間が欲しいなあ)
そう思いながら、ハセガワは労働者ギルドの事務所を後にした。外に出ると自分に向けられた視線を感じた。視線も感じたが、魔法ショップで買った指輪のおかげで、敵意のある人物を特定できたのだ。
(1,2……3人以上いる……まさかな)
ハセガワの後をついてくる人間。隠れて後を追う人間はロクなものではない。ハセガワはわざと人気のない道に入ると、ろくでもない追跡者たちは正体を現した。
「おい、兄さんよ。ちょっといいか」
「兄さん、貴族か大商人なんだろ。その莫大な財産を少し俺たちに分けてくれよ」
ハセガワの向かう先に5人。そして振り合えると3人の男たち。そのうちの2人は昨日の魔法具店で見たような気がする。
「悪いが、僕は興味がないんでね。通してもらおうか」
「ククク……大人しくした方がいいと思うけどな」
「この辺りじゃ、人を呼んでも助けは来ないぜ」
ひねた悪いを浮かべて、近づいてくる8人。手には剣やら短剣を握っている。場合によっては殺しも辞さない悪党たちである。
「助けなんて呼ばないさ……。ここへ誘い込んだのも昨日の仕入れ品の性能を確かめるためだしね」
「な、なんだと~」
「やっちまえ」
「捕まえて拷問すれば、金貨が無限に出てくる金蔵になるぞ」
悪党どもが牙を剥いた。ハセガワはふっとため息をつく。
(おいおい、人を人間ATMにするなよ)
ハセガワは短剣を抜いた。両手で使う魔法の武器だ。たちまち魔法が発動して、対象に向けて自動モードで迎撃する。
剣を抜いて襲ってきた一人目の暴漢の攻撃を左手の短剣で受け流し、右手で首筋に突き立てる。同時に体を反転させて2人目の胸に左手の短剣を突き刺し、ジャンプする。そして、着地した時には3人目が地面に倒れた。
飛び上がった時に空中から切り裂いたのだ。ここまで3秒の芸当。思わず、残りの暴漢たちは足を止めた。
「おや、どうしたんだい……もう、襲うのはやめる?」
「うっせい、これでも喰らえ!」
突然、光の矢が3本放たれた。マジックミサイルの魔法である。暴漢の中に魔法使いがいたようだ。不意を突かれたハセガワはその攻撃をまともに受けた。しかし……・
「効かないよね……。僕の上着は魔法キャンセラーの特殊能力があるって知らなかった」
「くそ!」
暴漢が突進して強烈な突きをハセガワにかませた。レイピア使いの渾身の一撃だ。それはハセガワの胸を貫くはずであった。
「ははは……。このシャツの魔法効果はすごいね。こんなすごい突きでも、全くダメージを受けない」
ハセガワは腕を大きく広げた。レイピアの切っ先はシャツに触れたところでぐにゃりと曲がていた。魔法のシャツの防御効果である。
「さあ、次はどうする?」
余裕のハセガワであったが、暴漢たちのリーダーの男がずる賢い笑いを口元に示したことに気が付いた。




