勇者、屋敷を買う
ハセガワは不動産屋へと足を運んだ。
最初、不動産屋の店員はハセガワをいぶかしげに見た。格好からして冒険者風なので、家を借りたり、買ったりすることはない種類の人間だと思ったのだ。
「いらっしゃいませ。何か御用でしょうか?」
「ああ、ちょっと屋敷を買いたいと思ってね。今あるものを高い順に見せてよ」
高い順に見せてくれという要求する客は、今まで見たことはない。それで最初に出迎えた店員は唖然として立ち尽くした。話を伝え聞いた店長が出てくる。
「お客様、借りるのではなくて、買うのですか?」
「ああ、借りてもいいけど、ちょっと改造したいんだ。その場合は買った方が面倒じゃないだろう」
「それはそうですが、お屋敷と言っても一番高いものだと300万枚はします」
「ふうん。安いじゃないか。そんなもんか?」
「ふぇ?」
ハセガワの反応に店長も凍り付いた。金貨300万枚などと言うのは、王侯貴族でも簡単には支払えない額だ。
「御冗談を……」
「冗談じゃないよ。その300万枚の物件を見せてよ」
「あの、お客様。冷やかし客はお断りしています。どうやって買われるつもりですか?」
少しムッとした様子で店長はハセガワにそう尋ねた。顔にはそんな金お前は持ってないだろうという当然の文字が浮かんでいる。
「現金で買うよ。気に入れば即金でね」
「ふぇ?」
また、店長は変な声を上げてしまった。中年のおっさんには似つかわしくない反応だ。
「ああ、そりゃ信じられないよね。じゃあ、見せてもらうために手付金を見せよう。金貨1万枚くらいでいいかい?」
「い、一万枚?」
ハセガワは驚く店の中の人間に見せつけるように手の平を地面に向けた。そして開放する。手のひらから地面へ金貨が降り注ぐ。
床一面を覆いつくす1万枚の金貨。もう不動産屋の中は狂喜に満ち溢れる。すぐにVIPルームに通されて候補の建物の説明がある。金貨300万枚の物件は、町の中心にある旧王家の別邸。かなりの敷地といざとなった時の防御力を備えた屋敷である。
それが売りに出されていたのだ。町の中心で便利であるし、セキュリティも万全である。別館と言っても本館には20もの個室があり、敷地内には使用人用の建物もある。恐らく、収容人員は300人は下らないだろう。
最初に見せてもらってハセガワは、この物件をすっかり気に入ってしまった。一人で住むには明らかに広いが、これから使用人や自分を守る護衛の人間を多数雇うことを考えれば、これでも狭いかもしれない。
「これで決めますよ。300万枚即金で払います」
「いやいや、ハセガワ様。手前ども、それほどの金貨を運搬する手立てが今はありません。明日までに馬車を用意しますので、明日のお支払いで結構です」
店長はそう答えた。金貨1万枚で店の床が金貨で覆われた。300万枚も出されたら。店が金貨で埋まってしまうだろう。




