勇者、異世界でもお金持ちになる
「あれ?」
長谷川は目を開けた。真っ白な世界。何もない世界。周りを見回しても果てしなく広がる真っ白な空間が広がっているように見える場所。
そんな場所にポツンと立っていた。
「ここは……?」
「目覚めたか、勇者ハセガワ」
どこからか声がする。それは年取った男のような声。くぐもってひどく聞こえにくい。
「ここはどこだ。僕は確かダンプカーの事故に巻き込まれて……」
「そう、お前は死んだ」
「死んだ?」
謎の声でも自分が死んだと聞かされると凹む。
「そう悲しいそうな顔をするな。お前は死んだが、そのまま異世界に転生する。お前はその異世界で勇者ハセガワとして生きるのだ」
「勇者……ファンタジー過ぎる」
「そう言うな。お前はラッキーだ。今の記憶のまま、そして今の年齢のまま、異世界へ転生転移するのだ」
「転生転移?」
「お前も赤ちゃんから転生するのは面倒だろう」
「よくわかりませんが……。そもそも勇者というのがファンタジー過ぎて……ああ、僕、あまりゲームとかしませんので」
「……まあよい。あちらの世界へ行けば分かることだ。通常勇者は人並み外れた能力を与えられる。お前の能力は金運。財力だ。これを与えよう」
ひらひらと落ちてきたのは手首に付けるブレスレットであった。それは財宝を手の中にストックできる魔法のアイテム。莫大な金貨や宝石を手で触れるだけで亜空間に収蔵できる。そして任意で取り出せるのだ。
例えばポケットに手を突っ込めば、任意の金貨を手で握って取り出せるということができるのだ。
(地味に……すごい能力……かも)
いずれにしても長谷川には理解がすぐにはできない。できないが、声の主は理解できるまで待ってはくれなかった。
「な、なんだこりゃ~」
再び気が付いた時には、山のように積まれた金貨と宝石。そこに倒れているのは巨大なドラゴン。そしてそれを倒したであろう人間が倒れている。金属の鎧に身を包んだもの。黒いローブや白いローブを身に付けたもの。そして自分は革鎧を着用している。格好からしてあまり強そうには見えない。
「うっ……」
ハセガワの脳裏にこれまでの記憶が浮かんだ。ハセガワは全滅した冒険者パーティの一員。ダンジョンで罠探しをするスカウトという職業だ。戦闘力はさほどないが、手の器用さで罠はずしをして貢献してきた。
そしてダンジョン奥底にいたドラゴンと対決。戦闘向きでないハセガワは岩陰に隠れていたのだ。戦闘は終わり、岩陰から出てきたというわけだ。
「み、みんな死んでる……人間もドラゴンも……相打ちかよ。そしてこの財宝……」
金貨の量はすさまじい。1億や2億枚どころではないだろう。何しろビル5階まで届くような高さまでうず高く金貨が詰まれているからだ。
「生き残ったのは僕一人……そして目の前の財宝は独り占め」
ハセガワは右手で金貨の山に触れてみた。あっという間に右手に吸い込まれて消えてしまう。
そして同時に自分の視界に変なボタンみたいなものが見えるようになった。試しにそれを右手の人差し指で触れてみる。急に眼の前に数字が広がった。
金貨3898億枚。銀貨2600億枚銅貨390億枚 宝石類20億個(時価総額金貨30000億枚)
(どひゃあああああああっ……まじまじ大金持ちじゃないかああああああっ……)
驚くハセガワ。ハセガワは超超超超超超大金持ちになった。その財力はこの異世界の国を全て買ってもお釣りがくる莫大なものであった。
*
「さてと……」
ドラゴンと戦った最終エリアからは、仲間の持っていた魔法アイテム『帰還の石』の力で町に戻ったハセガワ。今はギルドの酒場で食事を取っている。もちろん、注文したのはここで一番高いスペシャル定食。銀貨6枚のスペシャルなコース料理であるが、そんなのは部屋の隅のちりにも満たない。
冷たく浸した特上のワインをボトルでちびりちびりと飲みながら、ハセガワはこれからこの世界でどう暮らすか思案している。
(う~む。まずはっきりしていること。僕は勇者だが力も魔法力もない。スカウトとしての知識と技能はあるけど、中級冒険者レベル。それは首から下げたストーンの冒険者タグで分かる)
天文学的な大金持ちになったハセガワが、戦闘能力もないのに冒険に出る必要は全くない。一応、勇者なのでこの世界を救うとかいう任務に就こうかと思ったけれど、よく考えれば自分を転生させた声の主は世界を救えとも言っていなかった。
(となると……この莫大な金を使って面白おかしく生きるということでいいかな?)
そう考えるとハセガワは急にやる気が出た。お金が無限にあるというのは本当にいい。ただ、この莫大な財産を狙って自分を害する人間は必ず出てくる。その備えをしないといけないと考えた。
(まずは安全な場所の確保。自分を守るグッズをそろえる。そして腕の立つ護衛を雇う)
「ということで……」




