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カトーの力の正体

「隊長、大変です。前線が突破されました」

「な、なんだと~。そんな馬鹿なことがあるものか」

 エドガーは酒に酔い、隣の村娘の腰をぐいっと手で押さえつけた。そんな報告は受けたくないと言うオーラが出ている。しかし、事は一刻も猶予がない。ついに柵を突破したゾンビが村を徘徊して村人を襲い始めたからだ。


「ゾンビに我が兵が負けただと……どうすればそんな醜態を晒すのだ」

「わああああっ……」

「きゃああああっ……」

 ゾンビが宴会を開いている中央広場まで侵入してきた。接待をしていた村人たちに襲い掛かる。逃げ惑う村人たち。

「くっ……」

 酒に酔って酩酊状態のエドガー。ブロードソードを振り回し、近くのゾンビを斬り倒すが次から次へと襲ってくるゾンビ。

 幹部たちも同じ状態なので、数に押されてやがてゾンビの攻撃で負傷し始める。そんな混乱の中、カトーは自分のチート力を発揮して、次々と負傷者を治していく。


「おい、早く俺を治せ!」

 エドガーはゾンビに囲まれ、肩や腕を数か所咬まれた。ケガとしては大けがであるがこの程度では死なない。むしろ、傷口からの感染の方が怖い。

「はい、隊長さん」

 カトーは右手をかざす。あっという間に傷口はふさいで全快。痛みもなにも感じない。エドガーはその力に驚いた。だが、このカトーの力がフル稼働しているにも関わらず、このゾンビたちにここまで苦戦している理由が分からない。


(どういうことだ……)

 エドガーは疑問を抱きながら、この状態では逃げるしかないと判断した。まだアンデッドが到達していない東入り口から逃げ出すのだ。

(いや、逃げるのではない……これは戦略的撤退だ)

 酔っていても判断は謝らないエドガー。すぐに副官に叫んで命令する。

 そんなエドガーの目に前で急に力が抜けて倒れ、ゾンビにかじられる騎士がいる。仲間がそれを助ける。カトーが駆けつけて回復魔法を発動しようとしている。


だが、エドガーは無視した。一刻も早く脱出することが大事だと判断した。

「東より、撤退だ。無事な兵は俺に続け」

「しかし、隊長、村人たちは……」

「そ、そんなものは知らん!」

 そう叫んだ瞬間、エドガーは急に力が抜けていくことを感じた。目の前が白くなり、ひざをついてそのまま倒れ込んだ。ゾンビが2,3体、エドガーに襲い掛かる。


「こっち……。兵士たちが東門へ移動している……村人を静かに西の風車小屋へ誘導する」

 ジゼルはレイラにそう告げる。2人は混乱の中、村人たちを助け、避難させている。

戦う兵士たちにゾンビが殺到するので、静かにその反対方向へ移動すれば、なんとか逃げられるのだ。それでも気づいてやってくるゾンビはジゼルの弓とレイラのレイピアで頭部破壊で瞬殺する。

 そこへ兵士を治して奮闘していたカトーが逃れてやって来た。負傷した兵士を治しまくってきたが、治せば治すほど戦況が徐々に悪化していくのだ。


「カトー、お前の力、アンデッド相手には使うな」

「え、どうして、ジゼルちゃん」

「セバスチャン……あなたの力は今は使えないのよ」

「ど、どういうこと……使うなって……」 

ジゼルとレイラの意外な言葉にカトーは言葉を失う。ジゼルは村人たちを風車小屋に集めると追ってくるゾンビを弓で冷静に倒しながら、こう話した。

「カトー、お前のその神級の力……回復魔法でもなんでもない」

「え?」

 シュバッ……。

 矢が風となり、ふらふらやってきたゾンビを紙細工のように倒す。

「その力、生命力を移すことで成立しているのだ。通常はモンスターから生命力を奪い取って味方を回復させる」

「……生命力の移動?」

 頭をかしげたカトーの横でレイラが説明をする。

「つまりね……生命力の移動」

「移動……レイラ、どういうこと?」

「セバスチャン、あなたの魔法はアンデッド相手だと味方の生命力を奪い取ることになるのよ。通常はモンスターから生命力を奪うのだけど、相手はアンデッド。生命力はゼロ。だから、あなたが治せば、味方の生命力から奪うことになる」


「ええええっ……そんなあ~」

「とにかく、お前はその力を使うな。今、私やレイラが倒れれば、村人たちは全滅だ」

 ジゼルとレイラが救出したのは、村の女や子供、老人たち。とてもゾンビやスケルトンと戦えるものではない。

「この風車小屋に立てこもって時間を稼ぐ。大丈夫だ。夜明けまで粘れば、リーダーたちがボスキャラを倒す。そうすればゾンビやスケルトンどもは瓦解する」

 ジゼルはそう言ったが、それはかなり厳しいミッションであることには変わりがなかった。村にいた騎士団の兵士が全滅するとゾンビの群れは人の気配を察して、村人たちが避難した風車小屋へと集まり始めた。

 その群れは50になり、100になり、やがて200ほどのなって風車小屋を取り囲んだ。ジゼルやレイラは風車小屋の上から弓で攻撃したが、矢が尽きてしまえばどうしようもできない。木でできた分厚い扉が唯一の救いで、それを村人たちと必死に抑えてゾンビの侵入を抑える。


 だが、数の圧力は凄まじい。あまりの圧力に木の扉はミシミシと音を立て始め、そして亀裂が徐々に大きくなっていく。

「もう、ダメだ……」

「ゾンビに食われてしまうのか……」

「うううう……」

「怖いよ~、お母さん~」

 扉が壊れていく音で村人たちは恐怖におののく。絶体絶命のピンチ。

(くそ~……俺は勇者だ……神様から与えられた絶対的な力をもつ勇者……絶対回復の力だけど……)

 カトーの心にむくむくと勇気が沸き起こってくる。それは自分が転生前の記憶があると言う事実。そしてそれは選ばれた人間の証明であるということ。

(このピンチを救うのが俺の使命に違いない……だけど、こいつらをなぎ倒す攻撃力は俺にはない。となると、ここは奴らを引き付ける役をするしかない……)


 カトーは転生前に見たゾンビパニック映画のシーンを思い出した。ヒロインを救うために主人公は一人でゾンビに立ち向かい、誘導してピンチを救ったのだ。

「レイラ、ジゼルちゃん、俺、やるよ」

「な、なに言ってるのよ、セバスチャン。早く、ドアを抑えて!」

 止めるレイラの言葉を無視して、カトーは風車小屋の2階へ上る。そこの窓から下を見る。下には干し草が積まれている。周りはゾンビだが干し草の山にはいない。

「俺がゾンビたちを引き付ける」

「ま、待ってセバスチャン!」

「うおおおおおっ……」

 カトーは思い切って飛び降りた。干し草の上に尻もちをついてバウンドするイメージを描いた。そこから体勢を立て直し、近くのゾンビに体当たりして隙間を縫うようにして脱出する、そして大きな音を立ててゾンビを誘導する。それが描いたイメージであった。


 しかし……。イメージは一瞬で挫折する。干し草の中に大きなフォークがあったのだ。それは鋭い刃先でカトーの尻を貫いた。

「うぎゃああああああっ……痛い、痛い!」

 お尻から真っ赤な鮮血。しかし、そのまま倒れ込むわけにはいかない。周りはゾンビだらけなのだ。

「痛い、痛い……ちっくしょう……すぐに回復を……」

 カトーはすぐに自分の力を使おうとしたが、2階から自分を見ているエルフの娘と目が合った。

「ジ、ジゼルちゃん……」

「カトー……」

「くっ……」

 カトーは魔法を使うのを止めた。ここで使えばジゼルの生命力を奪ってしまう。激痛を我慢してカトーは走る。フォークをお尻に突き刺したまま。

「ウゴウゴ……」

「アアアアアガ~」

 カトーを認識してゾンビ共がカトーを追う。不本意ながらカトーの目論見は成功したと言える。なぜなら、風車小屋を取り囲んだゾンビは全てカトーについて行ってしまったのだ。


 やがて太陽が昇った。村に残っていたゾンビやスケルトンはバタバタと倒れて行った。恐らく、ダンジョンを強襲したライオスたち冒険者がボスを倒したのであろう。


 ジゼルとレイラは村人たちを守ることができた。正確には3割の村人たちと騎士団の小隊が全滅と言う尊い犠牲はあったが。

「レイラ……行くのか?」

 冒険者ギルドを出発する聖騎士ジゼルは声をかけた。レイラは正式にライオスたちのパーティのメンバーとして経験を積んだ。ジゼルは理由あって、もうライオスたちのパーティには加わってはいない。

「うん、いくよ……これは私のけじめだからね」

 そうレイラは力強く頷いた。そしてこれから挑む戦いを終えた後は、きっぱりと冒険者を止めるつもりであると心に誓っていた。

 ジゼルはそんなレイラの決心を承知している。黙って頷いて送り出した。

「今回の敵は強いぞ……ゾンビだがエナジードレインをしてくる。ライフスティラーと呼ばれるダンジョンマスターだ。生命力を奪い取る強敵だ」

 そうライオスはパーティメンバーにギルドの討伐要請である今回の依頼を説明する。彼もパーティメンバーも分かっている。分かったからこそ、このミッションを引き受けたのだ。

「彼を眠らせてやろう……」

 メンバーは黙って従う。最後尾を歩いていくレイラはそっと振り返る。

「ジゼルはやっぱり……ついていかないよね」

「……ええ。私は勇者じゃないものへは興味はない……」

「冷たいのね……」

「私は常に第3者でありたいから……じゃないと心が壊れる……」

 最後の言葉は小さくてレイラには聞き取れなかった。しかし、レイラはこのエルフを恨むことはない。これは幼馴染を冒険者に誘った自分の罪の償いなのだ。


 回復魔法の天才、勇者カトーはゾンビに殺されてそのままアンデッドとなってしまった。

姿を消した彼は強大な生命エネルギー移動能力をつかったライフスティーラーという魔物となったのだ。

 尻にフォークを突き刺した異様な姿は多くの冒険者を葬ってきた。だが、今回はきっと永遠の眠りにつくことができるであろう。ジゼルはそう思いながら、次の勇者を捜して旅に出たのであった。


残念な勇者 その3 絶対回復勇者

どんなケガでも一瞬で治す能力をもつ。しかし、それは他の生命エネルギーを奪って移し替える能力。よって、使い方によっては味方殺しにもなる。


勇者ウォッチャー ジゼル・ハートレイヤー




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