事故勃発
裕福な家に生まれ育ったカトーは、なに不自由ない生活を送ることができた。学校へ行ったり、習い事をしたりとそれなりに大変であったが、日本で大人として暮らしてきたアドバンテージを生かし、カトーは要領よく成長してきた。
だが、要領よくというだけで、なにが得意と言うこともない。剣の技も人並みであるし、魔力もそれほどないから魔法も使えない。運動神経も抜群というわけでなかったし、格別に勉強ができるわけでもなかった。すべてが平均。
両親はそんなカトーを自慢に思っていたが、平均で自慢されることにいたく自尊心を傷つけられる。
(俺はどうやら転生だが、特別な能力はないようだ……くそ、ありえないだろう!)
生まれ変わる前の記憶をもっているということ自体で特殊なのであるが、こういう場合はさらに人知を超える能力を授かっているのがライトノベルやコミックでのストーリー展開なはずだ。
だが、カトーにはそんな能力は全くないようだ。残念と言うしかない。
そんなカトーは毎日通っている魔法学院の中庭ベンチに座っている。今は昼休みの時間。学院の生徒は思い思いの場所で昼ご飯を食べている。
「セバスチャン、そんなに落ち込まないでよ。あなたにもきっと隠された才能があるに違いないわ」
そうやって慰めてくれるのは幼馴染の少女レイラ。彼女の父親とカトーの父親が友人同士だったこともあり、幼少時から一緒に遊んだ仲だ。
レイラは活発な少女で貴族の娘らしくなく、美しい銀髪をショートカットにしている。これは剣を振るときに邪魔だと言う理由。彼女は聖騎士を目指しているのだ。
今は貴族の子弟が通う魔法学院に在籍しつつ、剣の腕を磨くために剣術の道場にも通っている才媛だ。
「はい、お弁当よ。今日は私が作った卵サンドよ。紅茶もちょっと奢っちゃった」
カトーの反応がないので、レイラは今日の昼食に話題を変えたようだ。幼馴染のレイラはいつもカトーのためにお弁当を作ってくれているのだ。正確に言うと貴族の家柄であるために作っているのは彼女の家のメイドだろうが、たまに彼女自身が作ることもあるのだ。同級生の中でも目立つ存在のレイラとそういう関係にあるカトーは、男友達からよく羨ましがられるが、レイラは彼女でもない。
レイラも昔から遊んでいるカトーを手のかかる弟ぐらいにしか思っていないようだ。カトーにしても、この可愛い幼馴染があまりにも近すぎて家族みたいに思っているので、恋愛感情と言うものではないと思っている。
「はい、あ~ん」
レイラが作ってきたサンドウィッチを食べさせてくれる。それをごく当たり前のように受け入れ、口に入れてもらって咀嚼するカトー。学院の男子生徒が見たら羨ましがる光景だ。
もぐもぐと噛んで飲み込んだカトー。心は別のところにある。
「俺の才能なんて何でも平均的という能力だよ、きっと」
そう投げやり的になるカトー。人から見れば贅沢な悩みかもしれない。それでも昔からカトーのことを構うことに慣れているレイラはよしよしとカトーの頭を撫でる。
「セバスチャン、大丈夫だよ。何でもそれなりにできるというのは才能だよ。私なんか魔法と剣術は得意だけど、語学や歴史の勉強は嫌いだからねえ」
そうレイラは言うが慰めにもなっていない。正確に言うと魔法や剣術はトップレベルであるが、語学や歴史などの学問はベスト10に入るレベル。苦手と言う科目でも平均キープのカトーよりはるかに優秀だ。
(ちぇっ……レイラの奴、嫌味かよ!)
たぶん、この点に関しては天然だと思われるレイラに悪気はないことは、長年の付き合いで分かっているのだが、カトーの心にブスブスと突き刺さる言葉だ。
「あ~ん……それにしても午後の授業は楽しみだよね」
「……白魔法体系Ⅱの授業?」
カトーはそう言って嫌な顔をした。なぜなら、白魔法系の授業は何となく性に合っていない気がしたからだ。一応、白魔法体系Ⅰの授業は昨年受けて、試験にも合格して単位は取っている。今年から習うⅡは実習を伴うのだ。
「そうよ。白魔法系は地味だけど味方を守る点では知的な魔法じゃない。それに解毒や麻痺の解除、傷の直接の治療ができるなんて素敵じゃない」
「ふ~ん。レイラは将来、聖騎士になりたいんだものね」
カトーはこの可愛い幼馴染の将来の夢を知っている。これまで事あるごとにその職業名を聞いてきたからだ。
「聖騎士は剣術と白魔法が使える特別な職業よ。憧れてるわ~」
(はいはい……)
カトーはそう心の中で適当に返事をした。聖騎士は選ばれた人間しかなれないレアな職業だ。確かに幼馴染のレイラは優秀だが聖騎士になれるとは思えなかった。
(レイラはどっちかと言うと魔法使いだろう……攻撃魔法が得意そうだから)
剣術もそれなりのできるから、魔法戦士という道もあるが剣も魔法もそれに特化しないとその道では生きていけない。これもよほどの才能がないと無理な話だ。
例外は『勇者』と呼ばれる人間。生まれながらにしてもった能力で魔法も剣術も身に付けた人間なら可能だ。
勇者は『転生』や『転移』で現れるとされる。カトーには転生前の記憶があるが、残念ながらそれが勇者につながる才能をもってと言うわけではなかったようだ。
カトーは「平均」が才能であったから。
「あれ、あの方、ローリングス大司教様じゃないかしら?」
レイラがそう視線を送った先には、白いマントに複雑な紋章をでかでかと描き、頭にはかなりの位と思わせるゴージャスな神官帽をお召しになった男がいた。
この国の大司教はその神聖魔法の能力によって、10人が任命されている。それを10大大司教と呼ぶが、その中に名を連ねる男だ。
大司教と言っても彼はまだ若い。実年齢は30歳という。若い頃から才能に恵まれ、回復を中心とする神聖魔法の使い手として、冒険者として経験を積んだらしい。
この魔法学院に来たのは、午後に特別授業の講師として呼ばれたか何かであろう。学院の教師が恭しく出迎えをしている。
(おや……)
カトーは何だか胸騒ぎがした。地面の振動を微妙に感じたのだ。レイラを見たが彼女は感じていないらしい。
「地震だ!」
カトーはとっさにレイラの頭を押さえて姿勢を低くさせる。何事かと驚くレイラだったが、すぐに反応する。結構な揺れを感じたのだ。




