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長いです。そして微エロです。(たぶん

 「…くそっ」


 ペンを投げ、上を向く。

 …だめだ。全然分からない。


 ここに来て三日が経つが、まだ薬は完成していなかった。こんなことは初めてで、私自身どうすべきか分からなくなってきている。あと一歩、あと何かがあれば、恐らくこの薬は完成する。しかし、それが何か、分からない。


 ギリ、と歯を食いしばる。

 疾患者は今もなお増え続けている。早く作り上げないと、色々なところで混乱が起きる。


 どうしようか。


 全て、駄目なのだ。

 少しでも楽になるようにと、痛み止めを新たに作っても、何故か効果がない。病を治す薬も同様。これは絶対におかしい。私の知識、技術を最大限に使っても、全く(・・)効果がないなど、有り得ない。


 新薬とは本来、少しでも症状に変化があった試作品を基準とし、そこから改善に改善を重ね、漸く完成するのだ。しかし、今のこの状況、症状に全く変化がないのでは、流石の私でも打つ手がない。未だ薬作りはスタート地点にも立っていないのである。


 私の勘では、あと一歩なのだ。材料も量も今ので正しい。しかし、あと一つ、何かが足りない。


 恐らく、病を疾患した彼らの中には、私の薬を拒む力を持つウイルスか何かがいるのだろう。だから、それを抹消することのできる何かが必要なのだ。


 だが、それが分からない。


 「…早くしなくては…」


 何が足りないか分かっているのに作ることの出来ない歯痒さ。私はその思いに気が狂いそうだった。イチたちは随分前に調査に向かわせている。この隠し部屋で、私は一人、研究を続けていた。


 「…よう」


 突然降りかかってきた声に、ドアの方を振り返る。何やら心配そうな顔をしたアリスが、そこにいた。私は再び机に直り、ペンを拾いながら答える。


 「アリスか。どうした?」


 ちらりと見た時計の針は、私がまた無意味な日を過ごしてしまったことを示していて、私は自己嫌悪する。


 「…いや、ロドックが夕飯だ、って。集中しているところ悪いが、来いよ」

 「すまんが、私はいらない。気が向いたら何か食べるから」

 「……ナル」


 アリスが咎めるように私の名前を呼ぶが、敢えて聞こえない振りをして、彼が去るのを待つ。結果が出ない以上、私に休息する暇はない。はあ、とアリスがため息をつくのが聞こえた。すまない、と心の中で詫びる。必ず薬を作ってみせるから、もう少し待ってくれ。


 その後移動する気配を感じたので、ロドックらのところに戻るのだろうと思い、机に集中する。次は、何か金属物質でも入れてみようか。


 「全くお前は」

 

 その時、ふわり、と私を何かが包んだ。横に見える黒髪と、声、そして匂いから、アリスだと分かる。退室したものだと思っていたし、集中していたので、彼が近づいてくることに気付かなかった。


 どうしたものか、と思っている間にも、アリスは後ろから私を抱きしめたまま、言葉を続ける。


 「三日もろくに食べず、寝ずで働くなんて、馬鹿か。何もかも一人で抱え込むな。俺を、俺たちを頼れよ。お前はなまじ人以上の能力があるから、何でも一人で解決しようと頑張りすぎなんだよ。もっと力を抜け」

 「…なんだ、珍しく饒舌だな」


 真剣な声色に、彼が本気で言っていることは分かったが、それでもおどける様にして茶化す。全然違う。全然違うんだ、アリス。


 「別に私は無理なんてしていない。私がやりたいからやっているだけだ。それに、力のある者がその力で非力な者を助けるのは当たり前だろう? 私は大丈夫だ。それよりアリスたちの方が毎日歩き回っていて大変じゃないか」


 本当に、私は抱え込んでなんかいない。ただやりたいから――、私の知らないことがあるという事実が我慢ならないだけだから。勿論人々を助けたいという心もあるが、そういう好奇心があるのも事実だ。

 

 後ろのアリスには見えないだろうが、笑顔を浮かべてみる。本当に、大丈夫なのだ。


 「じゃあ、」

 

 ふいに、アリスが声を出す。先程とは一転して、強い口調でなんだか怒っているように聞こえた。


 「じゃあ、お前はあくまで大丈夫だって、言い張るんだな」

 「言い張るも何も、事実だよ」


 そう言った途端、身体が浮く。驚いて抗議しようとした時には、そのまま部屋を横切り、私が仮眠に使っているベットの上にいた。


 ぼす、と音がするくらい乱暴にベットに放り投げられ仰向けになった私の上に、アリスが覆い被さる。起き上がろうとしても、彼が邪魔で動けない。

 

 彼の荒業に、流石にむっ、として睨む。無理矢理眠らせようとしたのかも知れないが、こんなに乱暴に運ばなくても良かったと思う。最も優しく移されても寝はしないが。


 「アリス、邪魔だ、どけ――「嫌だ」」

 

 その言葉に軽く目を見張る。今まで、私が本気で言えばそれに従ったアリスが、初めて、拒否した。どうかしたのだろうか。私が驚いて言葉が出ない間に、彼は言葉を続ける。


 「お前は先程、強者が弱者を助けるのは当たり前、だと言った。つまり、お前は自分が強者だと思っている訳だ。……それが間違いだってこと、教えてやるよ」

 「は…? 何言って――っぁ!?」


 反論する間もなく、がぶり、と首筋に噛み付かれる。久々の吸血に、いつもより擽ったく感じる。

 

 ちぅっ、と耳元で音がする。普段より随分と音が大きい。しかも、彼の舌が首筋を蠢いている。いつもより何倍も擽ったく感じる吸血から逃れようと、無意識に身体を捻ろうとするが、いつの間にか彼の手によって両手が拘束され、身体もぴったりとくっつかれているので動けない。唯一自由に動かせる頭と声で嫌、と伝えようとするが、アリスは一向にやめてくれない。


 こんなにも擽ったくなるのか。朦朧とした意識の中、ぼんやりと思う。だったら、今までは随分と手加減してくれていたのだろう。今更ながら、自分がどれだけ彼に気遣ってもらっていたのかを身を持って知る。


 唐突に、吸血が止む。終わったのか、と僅かに残っている意識で期待を持ち、アリスを見上げる。彼は丹念に噛み跡を舌でなぞってから、私と目を合わせた。そしてふっ、と笑う。


 「…終わった、と思ったか? まだだ。お前はまだ理解してないだろう」

 「…ぁ」


 理解した! と叫ぼうとするが、何故か声が出せなかった。出そうとしても、出るのは掠れた声だけ。意味が分からなくて混乱している私を見て、アリスは笑っている。今の彼は、正体の分からない恐ろしい存在に思えた。


 「忘れたか? お前は吸血された後は十数分は動けないし、喋れないだろう?」

 「ぅ……」


 そうだった。事実、彼が私の両手の拘束を解いても、全く動かすことが出来ない。力が抜けて、ベットに深く身体が沈み込んでいる。


 「思い出したところで、第二ラウンドと行こうか」


 言葉が終わると同時に、彼は私の唇を塞いだ。これは経験がある――キス、だ。しかし、これとあの時のを一緒に括ってしまっていいのだろうか。軽く触れるだけだったあの時とは違い、吸い付くように、何度も角度を変えて彼の唇が襲ってくる。


 「ぁ…んぅ」


 先程と同じように、声が出る。だが……。


 「…どうした? 擽ったいのか?」

 「んぁ…っ」


 擽ったく、ない。

 なんというか、これと吸血は違う。擽ったくない、のだ。自分でもよく分からないが…、何か、変な気分になる。頭の芯が熱くなるような気分で、意識が蕩ける、ような感じ。

  

 混乱しているのが分かったのか、アリスはキスの合間にクク、と笑う。

 

 「…じゃあ、もっとおかしくしてやるよ」


 そう言って、彼はキスをしてきた。何をされるのか、とビクビクしていた私は、先程と同じもので、少しほっとする。それでもよく分からない感覚でおかしくなりそうだったが、未知のものをされるよりはマシだ。

 だから、いきなりアリスの舌が私の口内に入ってきた時には驚いた。


 「…んっ」

 「…お前は俺に任せれば良い」


 アリスはそんなことを言ってくるが、任せるって、どうすればいいのか。というか、これは何なのか。キス、か…? 安心したところに未知のものをされて、より混乱する。その間にも、彼の舌は私の口内を自由に動き回っている。どちらのとも分からない唾液が顎を伝っていく。


 これは、普通奴隷と主がすることではないのではなかろうか。

 今更ながらに、そう思う。しかし、その思考すら変な感情で押しつぶされそうだ。おかしいくらいに身体も熱くなってくる。よく分からないが、嫌悪を抱くような感じではない。


 幾分か経った後、彼はゆっくりと唇を離す。離れた後も、二人の間を銀の糸が繋いでいた。アリスはそれを食むようにする。そして私に視線を向けてきた。


 「どう? 理解したか?」

 「…ぅ、ん…」


 既に私はボロボロで、まともに話せるような状態ではなかった。それでも必死で頷いて、この意味の分からない行為から逃れようとする。

 それを見て、アリスは少しつまらなそうな顔をしたが、それでも分かった、と言う。


 「一人で抱え込むな。お前は強者でも何でもない、ただのナルだ。もっと周りを見ろ。お前を助けたがっている奴は沢山いるんだ」


 乱暴して悪かった、と私の頭を撫でる。それに微かに頷きながら、しかし心の中では未だ混乱していた。

 

 彼がこのようなことをした目的、それは、私に周りを見させるため。確かに私は少し追い詰められていたかもしれない。早く結果を出さなくては、と思う程、冷静さを欠いていたことに、今気付いた。だから、それに気付かせてもらえたことには感謝している。


 分からないのは私の気持ちだ。


 …私は、彼にキスされて、何を考えた? 変な感覚、とは何だった? 何となく、その感情が思い出しやすい今、はっきりさせておいた方が良い気がしたのだが、そもそもその感情の名を、私は知らない。


 …アリスはどんな気持ちだったのだろう。唇へのキスは、愛情を示すものだ。以前もそうだが、彼は何を思って、私などにキスをしたのか。


 分からないことだらけだ。

 普段の私なら、知識欲に従って、気が済むまで分析しているはずだが、しかし今の私は先程の負担で疲れきっている。アリスにも休め、と言われたし、もうこのまま寝よう。


 薄れゆく意識の中で、アリスが頭を撫でる手の感触だけが、鮮明に残っていた。


 




 



難しいですね。いや、伏線というか、吸血後にナルが動けない設定が使えて良かったですけど、うまく活用できた自信がない。てか、書く事自体が恥ずかしいですね(笑) あとはうまーく読者様の脳内で妄想して頂ければ…!(最早人任せ)

 ただアリスは頑固なナルちゃんに分からせたかっただけです、そこに他意はありませんよっと。…いや、少しは…、というか大体は…(汗)

 

 ありがとうございました。

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