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また遅れました。ごめんなさい><
夜中であったが、すぐさま出かける用意をする。
冬の間は戻ってこれないだろうから、日用品を揃える。研究できる器具も持っていかなければならない。それだけ考えると、二人では持ちきれなさそうな量だが、問題ない。魔術とは便利なものである。どんなものでも異空間に収納できる。
手当たり次第に物を収納しながら、今後の予定を立てる。まず第一の難関として――この空間からの脱出がある。
冬の間は、魔力を持たぬ者は当然、魔力のある私でさえ、ここから外に出るのは容易ではない。イチは精なので例外なのだ。
これまで一度もこのような事態がなかったので、考えたことも試したこともなかったが、恐らく、新しく”扉”を創らなくてはならない気がする。
冬、外に出られないのには理由があって、一つは吹雪が行く手を阻むこと。ここではなぜか、冬ごもりの期間はずっと吹雪いている。それでも雪崩などの災害が起きないのは、魔力の満ちた空間だからなのか。庭へ出ることくらいは可能だが、基本、家の中に篭るのが普通である。
もう一つに、外へと繋がる扉が認識できない。確認したことは無いが、冬になると扉の気配が分からなくなるのだ。単に消えたのか、それとも森が隠しているのか、それは不明だ。
今の扉を探すという行為は、時間的にも体力的にも、最終手段だ。そもそも扉が存在しているかも分からない。
だから、新しい扉を創る。それが最善だと思う。それなら、今すぐに出来る。デメリットとして、魔力の消費が激しいということがあるが、それは仕方がないだろう。
扉を創るのは、空間を曲げて道を無理矢理創る、ということだ。出来れば今後のために魔力は温存しておきたかったが、まあ、それ相応の負担があって当然だろう。
そうと決まれば、早速試してみよう。
私はアリスのところに向かった。
◇
「では、始める」
「ああ」
二人共出発の用意をして、庭へと出る。まだ出来ると決まったわけではなかったが、逸る気持ちが抑えきれなかった。
私は一つ、軽く深呼吸をして、手を前に翳す。久しく使っていない魔術だが、スラスラと頭に文句が浮かんでくる。
「神の御心のままにこの世を繋ぐ道を創り給う 我は世界を渡る者なり ――創造」
精一杯、魔術を司ると言われる神へと祈る。どうか扉を創れますように。
魔術を唱え終わっても目を開かずにいた私の耳に、アリスの驚く声が聞こえる。
「…成功したようだぞ」
バッ、と目を開き、確認する。…本当だ。成功している。目を開けた先には、普段使っている扉と同じような古びた扉が、夜の暗闇の中でも存在を主張するように、不思議に輝いていた。
「…良かった…」
無意識に安堵の声が出る。これが失敗したら、他の方法を考えなくてはならなかった。本当に良かった。成功した嬉しさから気が緩んでいた私に、アリスの叱咤する声が聞こえてくる。
「急ぐんだろ。早くここから出るぞ」
「ああ。すまん」
気を引き締め、扉を開ける。目的地はロドックの店の隠し部屋にした。直接行けるからいいだろう。開いた扉に、先にアリスが飛び込む。淡く光り、彼の姿が消えたのを見て、私も急ぐ。向こうでイチが待っているからというのもそうだが、冬の森の効果がこの扉にいつ効くのか分からないからでもある。
扉の縁に手をかけて、一瞬背後の家を振り返る。人の気配が消えた家は、どこか物寂しく感じた。
「…すぐに帰ってくるからな。――いってきます」
そう声をかけ、思い切り地面を蹴る。愛する家のためにも、この件は早くカタを付ける。
◇
「にしても、そんなに慌てることなの?」
「…は?」
「…師匠」
「この馬鹿が」
「鋼の精神をお持ちなのですね」
ロドックの店。隠し部屋。
ここには今、四人と一体の精が集まっていた。私とアリス、フィーとロドック、そしてイチだ。フィーたちに集まってもらったのは、調査を手伝ってもらうためだ。私たちはそこそこ古い付き合いで、困ったときは互いに協力、という子供じみた、しかし意外に役に立つ協約を結んでいる。…単に、危険だから私の目の届く場所にいてもらいたい、というのもあるが。
フィーは今ひとつ状況を掴めていないようだったので、先程イチが新たに報告してくれたものも、もう一度説明する。
「…症状は右目が痛む病。最初に疾患したのはゲラウス街の男。彼のことはここでイチに隔離してもらっていたが、新たに今の時点で八人の疾患が確認されている。彼らは全員最初の男との面識がある。全て保護完了。――ここまではいいか?」
「ええ」
「この状況から導き出されること。それは、この病は感染する、ということだ」
「ふーん…。…って、感染!?」
やっと理解したようだったフィー。今度は一人で慌て出している。
そう、イチが新たに報告してくれたことの中には、新たな疾患者が出た、しかも全員最初の男と知り合い、というものがあった。本来、痛みなどというものは、同時期に狭い範囲で何件も出るはずがない。また、それが右目に限られている、というのは最早有り得ないのだ。
しかし、もしもこれが病であったなら、筋が通る。これが何かしらの菌や物質によって起こされた病であることは、間違い無いと言って良いのだ。
更に…。
「また、彼らを先程イチの身体を借りて診察したところ、共通点が見つかった。全員、右目の虹彩の色が、黒く染まっていた。恐らくこれが病に罹った証拠だ」
私の言葉にイチが頷く。私は、彼女たち使役精の意識や身体を借りることができる。彼女たちは精なので病に罹らない。唯一薬を作れる私が感染したら元も子もないので、使わせてもらった。
「黒…か」
黒色、という言葉にロドックが唸った。分かりにくいが、アリスも微かに眉をひそめている。私も手を挙げて答える。
「ああ。黒、といえば魔族の色だ。しかし、今の段階では、彼らが関わっているのかは判断できない。――そこで皆には調査をしてもらいたい」
使えるものは親でも使う。正直、今は人手が足りないのだ。私とイチたち使役精は薬の開発を急ぐ。新たに感染した者を見つけたり、他にも色々とやるべきことは山ほどある。
「情報が欲しいんだ。頼めるか」
その私の言葉に、彼らはすぐさま頷いてくれる。ロドックは豪快に笑い、フィーは微笑む。アリスは無表情でも、雰囲気は柔らかい。
「分かった!俺もこの街がどうにかなったら商売ができないからな!」
「珍しいナルのおねだりだもの。引き受けるわ」
「了解」
胸がじんわりするのを感じながら、ありがとう、と言う。彼らも、いつ自分が感染するか、という危険性に気付いているはずだ。それでも笑って頷いてくれるのは、私を信頼してくれているからかもしれない。
「…くれぐれも、気を付けて」
そこで皆とは別れ、私はイチたちと、薬の開発にかかった。
――皆が無事でいるように、と願いながら。
右目がぁぁぁ!!←病といっても、あの病気なのではないか。
はい。思うように進みません。というかもう十九話か。意外に長いです(汗)中編くらいには収めたい。アリスとナルは互いに雰囲気や些細なことで感情がわかるようになっていたりします。微妙にね。
こうやってあとがきで補足しないとやってけない作者でした。
ありがとうございました。




