4 レイチェル、妹の破滅を見届ける
地下牢行きの宣告を受けたメアリーは涙を流しながら取り乱す。
「そんな所には行きたくないです! お姉様は華々しい婚約を手に入れて、私は地下送りなんてあんまりです!」
いや、全然あんまりじゃない。完全に身から出た錆、自業自得だ。数十秒前まで執拗に私を殺そうとしていたことを忘れたか。
ここで、部屋の扉が開いてお父様とお兄様達が中に入ってきた。
「メアリー、私の銃まで持ち出して……。全て部屋の外で聞いていた」
「自分のしていたことが分かっているのか? 正気じゃなかったぞ……」
「これまで色々と頼み事を聞いてきたが、さすがに今回は庇いきれない……」
いつも甘やかしてくれていたお父様達からも見放され、ようやくメアリーは自分がついに詰んだことを理解したようだった。
途端に大人しくなり、セレーナによって連行されていった。
この日の夜のうちにメアリーは地下牢に投獄されたらしい。
私達の王国はそれなりに法整備が進んでいるものの、今回は直接的な証人が何人もいたことから速やかに裁断が下された。
そうして一夜が明けて翌朝、私は一人でメアリーの面会に赴く。
看守の案内で王城の地下へと続く階段を下りていった。
どこにも最低限の明かりしか設置されておらず、廊下は薄暗かった。
中に光源がない牢獄内はなおさらで、囚人の顔もよく見えない。
セレーナが言うには、何年もここに投獄されていると体調を崩すことも多くなり、生きて刑期を全うできない人も結構いるのだとか。
それも当然だろう、衛生環境は最悪で、太陽の光も新鮮な風も浴びれないんだから。牢獄の中にいる囚人達も動かずにじっとしている人がほとんどだった。
昨晩投獄されたメアリーもすでにそのうちの一人になっていた。
彼女は纏っていた煌びやかなドレスを着替えさせられ、他同様の簡素な囚人服姿に。鉄格子の前に立った私に視線を向けてきた。
「まさか最初に会いにきてくれたのがお姉様とは……。不様な私を笑いにきたんですか?」
「姉として普通に様子を見にきたんだよ」
「……すっかり喋り方が変わりましたね。あのセレーナという方から聞きましたよ。お姉様、異世界からの転生者で、時間を巻き戻せるそうじゃないですか」
「もしメアリーが時間を戻せるとしたら、昨日の行動を中止する?」
「中止はしませんが、計画の変更はします。空き部屋に呼び出すなんて面倒なことはせず、お姉様の部屋に行ったその時に拳銃で頭を撃ち抜こうかと」
……駄目だ、この子。一晩牢獄に入ったくらいじゃ全く変わっていない……。
元々何かを期待して面会に来たわけじゃないけど。
ただ私は知りたかった。どうしてメアリーはこれほど私を憎んでいるのか。前から嫌がらせはしてきていたけど、私の婚約を機に一気に噴出した感じだ。
心の奥底にかなり根深い何かがあるはずだった。
「……メアリー、昔は私のことを慕っていたよね? いつから私を嫌いになったの?」
「え……、いつからって……。……思い出しました、一番最初はどんぐりです」
「どんぐり?」
「幼い頃、二人でどんぐり拾いをしていて、私の何倍ものどんぐりを集めたお姉様は一人だけお父様達から大層褒められていました。あの時から常にお姉様に勝ちたいと思うようになったのだと思います」
そんな些細なことが発端になって、私は殺されそうに……?
いや、どんぐりはあくまでもきっかけにすぎないんだろう。年々色々なことが積もっていって承認欲求が肥大化していったに違いない。
でも、今のメアリーが認めてほしい相手はお父様達じゃない気がする。たぶんこの子は、お父様もお兄様達も自分の目的を達成するための道具としか考えていない。
じゃあ、いったい誰?
メアリーが特に固執しているのは……、……まさか、私?
私の物を欲しがったり、いらない物を私に押しつけたり、振り返ってみれば分かりやすく固執されていた気がする……。
そういえば、前世で読んだ漫画にも『ライバルに認められるのが一番嬉しい』と書かれていたね。
もし私が承認欲求を満たしてあげたら、メアリーはどうなるんだろうか?
……試してみる価値はある。
「私はメアリーをすごい妹だと思うよ。えーと……」
……やばい、褒めるべき点が全然見つからない。
ええい、ものは言いようだ!
「目的を成就させるためなら手段を選ばず、平気で人を利用するところとか。あと、窮地を脱するためなら平気で嘘をつくところとか。と、とにかく、絶対に自分の願いを叶えたい! って執念が半端ない。もう私もメアリーを強敵として認めざるをえないよ、ほんとに」
改めて、私の妹はまるでクズみたいだ……。どうにか褒めた感じにはなったか?
と視線を向けると、メアリーは立ち尽くしたまま涙を流していた。
「……どうして、今頃になってそんなことを言うんですか……。……あれ? 私、なんで泣いているんでしょう?」
よく分からないけどめちゃ効いたー!
本人も訳が分からない様子だね……。これはいったいどうしてあげたらいいのかな。
あ、メアリーは昨日、私を殺さないと先には進めないとか口走ってなかった? つまり、本心では今の状態が苦しくて解放されたいと願ってる?
私は微笑みを湛え、両手を大きく広げた。
「……メアリー、もう私と競う必要はないんだよ。これからは誰とも競わなくていい。ただ自分の人生を歩いていけばいいんだ」
これを聞いたメアリーは無表情でしばし棒立ち。ふらっと歩き出したかと思えば、簡素なベッドで横になってそのまま寝入ってしまった。
……いや、どういうこと?
仕方ないのでこの日は私も伯爵家の屋敷に帰宅。
翌日、様子を見にいったお父様によればメアリーは別人になっていたという。なぜか事件のことを全く覚えていなくて、性格も幼い頃のように素直になっていたとか。
さらにその後、日替わりで面会に行ったお兄様達も、やはりメアリーはとてもいい子になっていたと証言した。
うーん、私があの子の呪縛を解いたのかな? いや、牢から出たくて演技している可能性も。
今回の事件の被害者である私が嘆願書を出せば、メアリーは相当早く釈放される。しばらく様子を見て、彼女が本当に人が変わったならそれも検討しようということになった。
まあ、呪縛にしろ演技にしろ、今世の私は厄介な妹を持ってしまったらしい。
さて、時間を戻してメアリーの面会に行ったその日、私は午後からはいつも通りアルバート様に会いに侯爵家を訪れた。
ところが、屋敷に入るなりセレーナが詰め寄ってきて。
「待ってたぞ。さあ、約束通り定食を作ってくれ」
「わざわざそのために? 昨日はお世話になったから別にいいけど……」
と二人で話していると、奥からアルバート様も現れる。
「よかったです。私もレイチェル様の定食をぜひ食べてみたかったので」
「別にいいですけど……」
さらに続けて侯爵様と奥様もやって来た。
「定食なる異世界の素晴らしい料理を作ってくれるそうではないか」
「とても美味しい物なのでしょう? 楽しみです」
……い、いつの間にか定食のハードルがかなり上がってる。
あちらの世界では普通の人が普通に食べる物ですよ? 期待に添えなかったら婚約破棄とか、ないですよね……?
とりあえず妹編は完といった感じです。
明日から定食編に……は入りませんが、この小説がどういう系統の物語なのか示せるといいかなと思っています。
やっぱり時間を戻す力はうまく使いたいですよね。
引き続き、よろしくお願いします。




